本連載では、生産者を訪ねる旅と、そこから広がる食卓の物語を交互にお届けしている。今回は「取材後記」として、平飼い卵の永光農園で教わった「ねぎ玉丼」から、横松家で親しまれている「納豆チーズオムレツ」へとつながる食卓の物語を紹介する。
ー編集部よりー

ケーキを焼いているとき、ふと思ったのだ。
「この材料はたいてい北海道で揃うのでは?」
身近なところで、小麦粉や卵や乳製品が生産されていることに、なんだかワクワクしてきたのだった。
そこで、いちごのショートケーキができるまでの旅をすることにした。材料の生産者を訪ねてみよう。どんな人が、どうやって生産しているのか。全員の顔を思い浮かべながら、集めた材料で、最後にとびっきりのケーキを焼くつもりでいる。
さあ、一緒に出かけましょう。
永光農園に取材に行って、思い出したことがあった。私は養鶏が好きだったのだ。
前回の冒頭でも少し触れたが、大学生のとき、永光さんのご両親が経営している野菜直売所と畑に通って、農業経営についてのお話をうかがったり、お客さんにアンケート調査をさせてもらったりしていた。それだけではなく、とれたての野菜をたっぷり使った晩ごはんまで、何度もごちそうになっていた。
こうして書いた卒業論文に、私は次のような文章を書き添えた。
私がひそかに「ねぎ玉丼ショック」と呼んでいるのは、次のようなことです。
直売所で永光さんのお母さんとお客さんが「ねぎ玉丼は美味しい」という話をしていました。聞くと、ねぎをいためてしょうゆで味をつけただけのものを、ご飯の上にのせて食べるというものです。いや、私は酒を入れる、と言う人もいましたが、ようは、ただのねぎの卵とじです。
私には、ねぎがメインディッシュになりうるということがどうしても理解できませんでした。しかし、その日はあまりにその話ばかり聞かされたので、食べたくなり、ねぎを買って帰りました。そして言われたとおりの「ねぎ玉丼」を作って食べました。
ねぎ料理をうまいと思ったのは初めてのことでした。そして、その事実にショックを受けました。ねぎがこんなにうまいだなんて!
次の日、永光さんに「ねぎ玉丼が美味しかった」と伝えると、「そうでしょう」とあたりまえのように言われたのです。
30年ぶりに読み返してみると、他愛のない文章ではあるが、本当に直売所のねぎは素晴らしかった。
当時の私は、将来、農業をやりたいと考えており、その思いを永光さんのご両親に語っていた。するとお父さんは私にアドバイスをくれた。
「これから農業を始めるんだったら養鶏がいいですよ。野菜とは違って北海道の冬でも収入があるし、収入の目算もつくし、自分で販売もしやすいから」
なるほどと思って、すすめられた『自然卵養鶏法』という本を読んだ。後にわかったのだが、永光さんも同じ本を読んで、そして実際に生業として養鶏に取り組む決意を固められたのだった。
結局、私は就農することはなく、ライターとして生きていくことになるのだが、その後も鶏との関わりはあった。仁木町という小さな町に数年間住んでいたときに飼育していたのだ。
烏骨鶏とチャボをくれるという方がいたので、喜んでもらい受け、自作の鶏小屋でペットとして飼っていた。その後、札幌に引っ越すことになり、たまたま借りることになった家の玄関横に、大型犬を飼っていたと思われる、金網で囲われた小屋を見つけた。しめたと思い、都会の住宅街の真ん中ではあったが、しばらく鶏もそこで飼っていた。
数か月間だけではあるが、平飼いの養鶏場で働いていたこともある。人力作業の多い平飼い養鶏の仕事は、実際に携わってみると、決して楽なものではない。けれど、確かに鶏たちは、畑の作物のようには天候に左右されず、毎日、卵を産みつづけてくれる。稲作なら収穫は年に1回だが、毎日が収穫日なのだから、確かに経営としては心強いものだと、合点がいった。
それにそもそも鶏は美しい。愛おしい。

エサを運んでくると集まってくる。子どもは動物にエサを与えたがるが、大人になっても面白いのかもしれない。もっとも、オスはキックしてくることがあり、そんなときには憎らしく思ったりもする。
もしかしたら、別の生き方があったかもしれないなと、永光さんの鶏たちに囲まれたときに、ふと思った。この原稿を書いているうちに、また鶏が飼いたくなってしまったようだ。
さて、卵の話もしておきたいのだが、ひとつ、前置きとして伝えておきたいのは、料理をするという行為のことだ。
わがやでは長年、私が料理を担当している。かつては、男性が家族のご飯を作っていると、よく「なぜですか」と問いかけられた。つまり、女性が作らず男性が作るからには、何らかの理由があるのだろうと考えている人が多かったのだ。
そして私自身も、他人に納得してもらえる理由を提示しなければならないように感じていた。だから、「妻は育児で手一杯なので私が作ったほうが合理的なんです」とか「私は家で仕事をしているので」とか、それらしい理由をひねり出していた。それらは嘘ではないのだが、真実でもないような気がしてならなかった。
ところが、次第に時代は動いていく。
「どうして男性が料理をしているのか?」とたずねられることが、なくなってきたのだ。同時に私のほうでも「別に理由なんかないし、無理に答える必要もないや」と思えるようになってきた。それで、ずいぶん楽になってきた。
だから、家族の誕生日のたびに、私がケーキを焼いていることも、今から紹介しようとしているわがやの卵料理も、ごくごく日常的な生活の中のできごとなのだ。
パティシエでも料理研究家でもないので、スペシャルなケーキが作れるわけでもない。料理が得意だから、家族のご飯を作っているわけでもない。ただ、料理を担当している。それだけのことなのだ。このように言える時代がやってきて嬉しい。
前置きが長くなった。いよいよわがやで一番人気の卵料理を紹介しよう。
実は長い間、普通に作ってきたため、子どもたちに好まれているということに気づいていなかった。就職や進学で巣立っていった子どもたちから、帰省のたびに作ってとリクエストされたり、「納豆チーズオムレツのレシピを教えて」とメッセージが届いたりすることが続いて、みんなの人気料理なのだと気づいたのである。レシピは以下の通りだ。
納豆チーズオムレツの作り方(6〜8人分)

材料
・卵 8個
・納豆 5パック
・シュレッドチーズ 150g
・ご飯 3合
・トマトケチャップ
1. ボウルに納豆をといて、しょうゆかタレで味をつける
2. 別のボウルに卵をとく
3. 炊きたてのご飯を、1に入れて混ぜる
4. 2を3に入れて、ご飯をしゃもじで切るように軽く混ぜる
5. 油を引いて熱したフライパンに4を入れる
6. 弱めの中火で加熱しながら、生地の上にシュレッドチーズを振りかけて、菜箸でぐるぐるっと軽く混ぜる(生地の中にチーズが半分くらい埋まるイメージ)
7. フライパンのふたを閉め、しばらく加熱する
8. 生地の下面がパリッとして軽く焼き目がついたら裏返す
9. 数分加熱して、そのまま皿に盛りつける
10. トマトケチャップで顔を描く
11. 皿の上でケーキのように切り分けて、各自の皿に盛りつける
この料理を「納豆チーズオムレツ」と呼んでいる。ご飯入りなのでオムライスのような気もするが、とにかく一皿でご飯もおかずもといった、腹いっぱいメニューなのだ。野菜が入っていないので、サラダなどを添えるといい。
子どもたちに人気なのは、8と10の作業だ。空中に放り投げてひっくり返すのに成功すると歓声をもらえる。ときに失敗もする。
10は、われもわれもと喜んでやってくれる。定番はアンパンマンの顔だが、いつも同じだと飽きるらしく、うろ覚えのネズミ男だとか、家族の似顔絵だとか、バリエーションも出てくる。
この料理のポイントは、ご飯と他の具材の比率だと思う。卵やチーズが足りないけど作っちゃえ、というときには、たいてい味気ないものになってしまうのだ。
こうして今日も、家族がお腹いっぱいになって、眠りにつく。このあたりまえの暮らしのかけがえのなさを、オムレツに描かれた笑顔が見守ってくれている。
いちごのショートケーキができるまで
〜生産者をめぐる旅〜
文・写真 横松心平
ケーキを焼いているとき、ふと思ったのだ。
「この材料はたいてい北海道で揃うのでは?」
身近なところで、
小麦粉や卵や乳製品が生産されていることに、
なんだかワクワクしてきたのだった。



























横松 心平
1972年東京都生まれ。札幌市在住。北海道大学入学後、北海道大学ヒグマ研究グループの一員になる。北海道大学大学院農学研究科修士課程修了。同博士課程中退後、農業団体や福祉施設の職員を経てライターに。農業、環境、子育て、ジェンダー、文学に関心があります。現在6冊目の著書の刊行準備中。
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