
エコの象徴とされた紙ストロー。けれど実際には使いにくく、品質や環境面にも疑問が残る。これは本当に“エコ”だったのか──いま、問い直したい。
2025年2月、アメリカのドナルド・トランプ大統領が、プラスチックストローを紙ストローに置き換える政府の取り組みを終了させる大統領令に署名した。「ああいう紙ストローは機能しない。何度も使ったことがあるが、時々壊れたり、破裂したりする」との発言は、アメリカ国内で多くの支持を集めた。
一方で日本では、飲食店で提供されるストローが近年、環境への配慮からプラスチック製から紙製へと移行する動きが続いている。しかし紙ストローの導入後、使いにくさや品質・環境面でのデメリットを指摘する声も相次いだ。
紙ストローは本当に“エコ”な物だったのか──トランプ大統領の発言を機に、いま改めて問い直したい。
紙ストローへの違和感はなぜ生まれたのか?

紙ストローに関してよく言われるのが、使い勝手の悪さだ。2024年にアイコニット・リサーチがおこなった調査によると、紙ストローを使ったことがある人のうち、65%が「飲みにくい」と回答していた。(*1)
もう少し具体的に掘り下げるために、ハンバーガーチェーン最大手・マクドナルドの事例を見てみよう。マクドナルドは2022年から、日本国内の店舗で紙ストローの提供を開始した。しかしSNS上では、「こんなに飲み物がまずく感じるのか」「最後まで飲み終わる前にふにゃふにゃでめちゃくちゃ飲みにくい」など、批判の声が相次いだ。
また、ストローは紙製にしたのにカップの蓋はプラスチック製のまま、という点に矛盾を感じる消費者もいたようだ。
ほかにも、紙ストローを使用した人が、「唇に引っかかる感じ」「口への(ドリンクの)流入量の違いも味の感じ方に変化を生じさせる」といった感想を挙げている。
以上のことをふまえると、紙ストローをめぐる違和感の原因は、それまでの快適な飲食体験が変化したことに加えて、その変化に見合う環境効果への疑問があったといえるだろう。
企業が紙ストローを導入した背景とは?

近年、世界各国の企業が相次いでプラスチックストローを紙ストローへ切り替えている。この現象の背景には、深刻な環境問題がある。
海洋プラスチック汚染は国際的な危機となっている。毎年約800万トンのプラスチックが海洋に流入し、海洋生物の誤飲や生態系破壊を引き起こしている。ストローは軽量で回収が困難なため、特に問題視されてきた。
こうした状況を受け、各国が対策に乗り出している。イギリスは2020年、イングランドで使い捨てプラスチック製のストロー、マドラー、綿棒の供給を禁止した。カナダも2022年、レジ袋、ストローなどにおける使い捨てプラスチックの使用を禁止している。
企業にとっても、環境問題への取り組みは重要な経営課題となった。消費者の環境意識の高まりを受け、環境への配慮を示すことが企業評価に直結するようになっている。実際に、前述のマクドナルドのほか、大手カフェチェーン・スターバックスも2020年から紙ストローの提供を開始している。
そして紙ストローは代替手段として導入しやすい、という実用面もある。ストローの原料としては、竹や金属など、洗って再利用できるものもある。しかし使い捨てが基本のファストフード店やカフェにおいて、洗浄しなければならないストローの導入は現実的ではない。そう考えると、使い捨てしやすい紙ストローが選択されるのはごく自然な流れなのである。
“紙”の裏側──本当に環境負荷は低減されたのか?

紙ストローが明確に環境負荷低減効果があれば、使い勝手にはある程度目をつぶってもらえる部分もあったのかもしれない。しかし残念ながら、環境面でも複雑な課題が浮上しているのが現実だ。
日本国内のストローメーカーからは、紙ストローに使われている接着剤の安全性に疑問を呈する声が上がった。紙ストローは、紙を何層にも巻き重ねて製造されており、その過程で接着剤が使用されている。その接着剤が人体に有害である可能性は否定できない、というものだ。
また、ベルギー・アントワープ大学の研究チームが2023年に発表した調査によると、紙ストローの90%からPFAS(有機フッ素化合物)が検出されている。(*2)PFASは「永久化学物質」とも呼ばれており、時間をかけて人体や環境に蓄積される可能性があるため、この調査結果とはしっかりと向き合わなければならないだろう。
リサイクルの面でも課題はある。マクドナルドが導入した紙ストローは、当初「100%リサイクル可能」と謳われていた。しかし実際は紙が厚すぎるためにリサイクルされず、焼却処分されていたことが明らかになった。従来のプラスチックストローはリサイクル可能だったにもかかわらず、環境に配慮した紙ストローではそれがなされていない。そんな矛盾した状態が浮き彫りになったのである。
一方で、紙ストロー導入の効果を評価する声もある。海洋プラスチック削減という本来の目的については、分解しやすい紙製品への切り替えは一定の効果を示している。また、企業や消費者の環境意識向上のきっかけとしての役割も否定できない。
しかし、使い勝手に加え、環境面でも予想外の問題があるとわかったとき、消費者の間で「本当に意味があるのか?」「誰のための環境配慮?」という疑念が出てくるのは当然といえるだろう。
トランプ発言が浮き彫りにした環境政策の課題

冒頭で紹介したトランプ大統領の発言について、改めて考えてみたい。
署名にあたってトランプ大統領は、「ああいう紙ストローは機能しない。何度も使ったことがあるが、時々壊れたり、破裂したりする。熱いものを入れると数分、時には数秒で持たなくなる。ばかげた状況だ」と述べている。
この発言はアメリカ国内で多くの支持を得た。アメリカのSNSでは、「米国を再び偉大に」のキャッチフレーズをもじった「ストローを再び偉大に」という言葉が飛び交い、日本国内のSNSでも賛同の声が多く上がった。
トランプ大統領の発言は、表面的には環境政策への反対に聞こえるかもしれない。しかし、消費者の実感と乖離した環境施策の問題点を浮き彫りにする側面があったように思える。
2025年、株式会社パイプラインがおこなった調査によると、企業のサステナビリティへの取り組みについて、「本当に効果があるのか」疑問に感じたことのある人は61.2%に達している。また、「重視してほしい点」では、1位と2位に「実効性があるかどうか(47.0%)」「利用者の利便性を配慮すること(41.3%)」がランクインした。(*3)
この調査結果やアメリカの一件から、次のようなことがうかがえる。消費者は「環境によさそう」というだけでなく、実効性・利便性をきちんと兼ね備えた施策を求めているということだ。そして、環境政策が持続可能であるためには、科学的根拠に基づく効果の検証と、利用者の受容性の両方が不可欠なのではないだろうか。
スタバ・マック、企業が再び動き始めた2025年

紙ストローにはさまざまなデメリットがあることがわかってきた。これをうけて各企業は、より効果的な施策への転換を図っている。
スターバックス コーヒー ジャパンは、2025年1月から沖縄県内の店舗で、3月から全国の店舗で、紙ストローから生分解性のバイオマス度99%のストローへと、順次変更することを発表した。このストローは、紙ストローの課題であった「時間が経つとふやけてしまう」という問題を解決し、ドリンクを最後まで快適に飲める使いやすさを実現している。また、これまでの紙ストローと比べて重さが半分ほどになるため、輸送、廃棄、焼却などに必要なエネルギー量も抑えられるそうだ。
ただし、この新素材についても長期的な環境影響や生産過程での環境負荷については、継続的な検証が必要だろう。
一方、日本マクドナルドは2024年7月、埼玉県内の一部店舗から、ドリンクをストローなしで飲める蓋「ストローレスリッド」を導入している。これはマクドナルドが掲げた「2025年末までに、お客様提供用容器包装類を、再生可能な素材、リサイクル素材または認証された素材に変更します」という目標に沿った取り組みだ。
これらの動きから、企業のアプローチが「とりあえず紙に変更」から「環境配慮と顧客体験の両立」という、より慎重で多角的なフェーズへ移行していることが読みとれる。これは消費者にとっても、「環境配慮=我慢を伴うもの」はない新たな可能性を示すものといえるだろう。
持続可能な環境配慮とは何か

環境のために導入された紙ストロー。しかし使い勝手が悪く、環境面でも予想外の課題があると明らかになった。
しかし紙ストローの経験で気づけたことがある。これからの時代の環境政策は、科学的根拠に基づく効果の検証、利用者の受容性、代替案の継続的な改善──こうした要素をバランスよく組み合わせることで、真に持続可能なものになるということだ。
「環境に良い」という理由だけで導入された施策が、実際には期待された効果を上げられず、利用者の支持も得られない。そんな状況は、環境問題解決にとってマイナスでしかない。
それがいったい何なのか、企業も消費者も、今一度いっしょに考えてみるのはどうだろうか。
Edited by c.lin
注解・参考サイト
注解
(*1)【2024年6月実施】【回答者数24,509名】「紙ストロー」に関するアンケート調査結果 | 株式会社メディアシーク
(*2)紙ストローは、本当に環境に優しい?「永久化学物質」の割合が「プラ以上」というショッキングな研究結果が
(*3)【紙ストローが不便さ1位】約6割が「このサステナビリティに効果あるの?」と疑問視の経験あり!消費者の“本音”に見る支持・不支持の分かれ目とは? | 株式会社パイプラインのプレスリリース
参考サイト
プラスチック対策 | マクドナルド公式
味が不味く…マクドナルド・紙ストローに不評続出、「カップ蓋はプラスチック」に疑問 | ビジネスジャーナル
使い捨てプラスチック製ストローなどイングランドで禁止に(英国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
カナダ、使い捨てプラスチック禁止規制が施行(カナダ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
サステナブルな未来につながるFSC® 認証紙ストローでの提供を開始2020年1月より段階的にスタート、同年3月に全店約1500店舗に導入し年間約2億本分のプラスチックストロー削減へ | スターバックス コーヒー ジャパン
日本人の9割が知らない”紙ストローの闇”。大不評だった「紙」はなぜ導入されたのか?(週プレNEWS) | Yahoo!ニュース
マクドナルドの紙製ストローはリサイクルできず廃棄されていた | Newsweek日本版
「再びプラスチックに」 トランプ氏「脱・紙ストロー」推進 保守・リベラル対立の火種に | 産経ニューストランプ氏、プラスチック製ストローへの回帰を指示 大統領令に署名 | BBCニュース
【トランプ氏“廃止宣言”】「役立たず」…脱“紙ストロー”日本でも? 「そこだけは賛成」「おいしくない」 スタバやセブンはバイオマスに | 日テレNEWS
スターバックスの緑のストローが帰ってきた。飲み心地が良く、地球にもポジティブに。 | Starbucks Stories Japan
「ついにストロー自体やめちゃった」 マクドナルドに真意を聞いた | withnews



























早瀬川 シュウ
フリーライターとして活動中。「日々の生活に『喜び』を」がモットー。特に、「快適さ」や「居心地のよさ」へのこだわりが強い。子どもの頃から海や森林公園を訪れていることもあって、自然環境や景観への興味関心も持っている。せせらぎの音や木漏れ日、お茶をじっくり味わう時間を好んでいる。
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