ヒューマニウムとは?
ヒューマニウム(Humanium)とは、溶かした違法銃器からつくられる人工金属のこと。社会問題解決に取り組むスウェーデンのNPO法人「IM Swedish Development Partner(以下、IM)」が立ち上げたプロジェクト「Humanium Metal Initiative(ヒューマニウム・メタル・イニシアティブ)」による取り組みから生まれたもので、その目的は、世界中で起きている紛争や犯罪の引き金となる違法銃器の撲滅。人を傷つけるための銃器を破壊し、世界平和に役立てようとする代表的な活動の一つだ。
ヒューマニウムは2016年11月に、中南米のエルサルバドル共和国で初めて生産。IMは「回収した約5,000丁の銃器から3トンのヒューマニウムを製造した」と2018年に発表している。
ヒューマニウムは金属の一つとして「ヒューマニウム・メタル」ともいわれ、廃棄された携帯電話や家電、パソコンなどから採取した金属をリサイクルする「リサイクルメタル」や「リファインメタル」の一つでもある。自然界に存在するものではないため、元素記号のない金属だ。
また金属としての名称以外にも、違法銃器を世界から排除するための活動という意味合いもある。国連が推奨するSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みに同調するプログラムの一つにもなっている。
ヒューマニウムが生まれた背景
「ヒューマニウム・メタル・イニシアティブ」を主導するIMは1938年に設立。違法銃器を含む武器による暴力行為が蔓延する国々で、平和を構築するための活動を展開してきた。
日本では銃に触れる機会は少なく、違法銃器が存在することを知らない人も多いが、世界にはおよそ9億丁に及ぶ大量の違法銃器が出回っていると推定される。違法銃器とは、法律に反して製造または取り引きされた銃やピストル、機関銃などのことで、密造された銃器や所持・使用の登録がされていない銃器なども含む。紛争地域を中心に犯罪やテロ、内戦などに用いられており、子ども兵士(Child Soldiers)の手に渡るなど人権問題にも関わっている。
しかし違法銃器が回収できたとしても、管理が難しいことに加えて安全に処分するにもコストがかかる。そこで回収した違法銃器を金属の塊にして、世界平和のために役立てる道が考えられた。それが ヒューマニウム・メタル・イニシアティブだ。
ヒューマニウム・メタル・イニシアティブの仕組み
ヒューマニウム・メタル・イニシアティブは、回収した違法銃器を溶かし、不純物を取り除いてインゴットやワイヤー、またはペレットに変える仕組みだ。違法銃器は回収された後IMの拠点があるスウェーデン国内に送られ、金属加工に適するように鉄粉に加工コラボ商品を生み出すためにメーカーなどへ提供される。そしてコラボ商品を販売した際の収益はレベニューシェア(複数の企業が共同事業を行い、その収益を分配すること)され、再び違法銃器を回収する費用に充てられる。
この取り組みは、スウェーデンでは政府の認可のほか、数多くの支援を獲得しており、国際原子力機関(IAEA)のハンス・ブリックス元事務局長、ノーベル平和賞受賞者である神学者・故デズモンド・ツツなども支持を表明している。
またコラボ商品の製造には、不動産デベロッパーの「Oscar Properties Holding AB(オスカー・プロパティーズ・ホールディング)」、自転車メーカーの「BIKEID」、小物・雑貨ブランドの「SKULTUNA(スクルツナ)」といったスウェーデンのトップブランドも参画している。
ヒューマニウムが注目されたきっかけ
ヒューマニウムが世界中から注目されたのは、2017年に行われた世界最大の広告賞といわれる「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」だ。その目的と革新的な生産方法が評価され、テクノロジーやイノベーションに特化した「ライオンズイノベーション」のグランプリを受賞した。
ライオンズイノベーションはイノベーション部門とクリエイティブデータ部門で構成されており、金属であるヒューマニウムがグランプリを受賞したことに驚きが広がった。特に評価されたのは、銃から取り出した鉄を賛同したメーカーなどに卸売りし、日用品のサプライチェーンに組み込んで商品化している点だ。
また、コラボ商品の販売によって違法銃器に関わる問題を広く伝え、同時に収益は違法銃器の犠牲者を救済したり、銃をさらに回収する資金に充てたりしている。こうした持続可能性の高さも賞賛された。
ヒューマニウムの広がり
ヒューマニウムが最初に製造されたエルサルバドル共和国では、1980年から内戦が勃発。大量に出回っていた違法銃器が内戦をさらに深刻化させ、12年続いた内戦が終結した後も治安の悪化や貧困といった問題が顕著化していた。
そんな中、2016年に実施されたヒューマニウム・メタル・イニシアティブではIMと地元当局が連携し、回収した違法銃器から1トンのヒューマニウムを製造。2017年11月に実施されたプログラムでも、1,825丁の違法銃器が溶かされヒューマニウムへと生まれ変わった。
この後、ヒューマニウム・メタル・イニシアティブはグアテマラで行われ、2018年にはホンジュラスとコロンビアにも拡大した。さらに、ベネズエラ、スワジランド、フィリピン、南アフリカ、メキシコ、ジャマイカ、ブラジル、パナマなどの中南米、アフリカ、東南アジアの国々に広がっている。
ヒューマニウムによって生まれた製品
製造されたヒューマニウムは、主にスウェーデン国内の企業やメーカー、ブランド、デザイナーとのコラボレーションによって商品化されている。ここでは、代表的な取り組み事例を紹介する。
YEVO Labsのワイヤレスイヤホン
「YEVO Labs(イェボ ラボ)」は、スウェーデンのストックホルムに本社を構える音響機器メーカーだ。ヒューマニウムをイヤホンと充電器の部品に使用した世界初のワイヤレスイヤホンを、2018年に発表している。
TRIWAの時計
「TRIWA(トリワ)」は、2007年に設立されたスウェーデンの時計ブランドだ。同社ではいち早くプロジェクトへの賛同を表明し、ヒューマニウムを採用した世界初の腕時計を2019年1月に発表した。商品には、銃犯罪の撲滅や世界平和への願いが込められている。
商品の売上の一部は、紛争によって被害を受けた地域の復興や、武器によって負傷した被害者を救うために寄付されている。2021年時点で、エルサルバドルとザンビアで回収された1万2,000丁の銃を使用して時計を製作し、その売上の15%を寄付している。寄付総額は15万ドルを超えているという。
a good companyのペン
「a good company(ア グッド カンパニー)」は、スウェーデンのスタートアップ企業。ヒューマニウムを用いたペン「A Good Humanium Metal Pen」を製造・販売しており、売上の25%はエルサルバドルでの銃犯罪撲滅に関するプロジェクトに寄付されている。
アート作品
上記の製品のほか、2019年にはスウェーデンの芸術家カール・フレデリック・ロイテルスワルトが発表した「発射不能の銃」(1985年)という彫刻作品のミニチュアレプリカを、ノン・バイオレンス・プロジェクト財団と提携しヒューマニウムを使用して製作した。またスコットランドの芸術家フランク・トーは、ヒューマニウムと塗料を混ぜて描いた絵画を2020年に発表している。
ヒューマニウムのために私たちができること
日本で暮らしていると銃との距離は遠く感じるが、世界各地では銃による犯罪やテロが頻発している。銃器によって負傷している人は1日に約2,000人、1年間に約20万人が殺害されているという。また銃犯罪は、特に発展途上国で重大な経済的損失や社会的影響を及ぼすとされる。。
こうした現状の中で誕生したヒューマニウムは、平和への願いが込められた世界平和の象徴という側面もある。得られた収益によって犠牲者を救い、新たな違法銃器の回収が行われるからだ。
つまり、ヒューマニウム採用のコラボ商品を購入し身につけることは、ヒューマニウム・メタル・イニシアティブへの支援であり、銃社会に対する反対を表明することでもある。
まとめ
ヒューマニウムとは、違法銃器から生産される人工金属の一つ。しかし金属として存在しているだけではなく、違法銃器を世界平和に役立てるための活動としても広く知られている。
プロジェクトを主導するNPO法人の活動拠点であるスウェーデンでは、トップ企業やメーカーが活動を支援しており、数々のコラボ商品が生み出されている。
日本では銃社会を身近に感じることはほとんどないが、日本から銃犯罪の撲滅につながる活動ができることを覚えておきたい。
参考サイト
Humanium Metal
銃から作られた時計を身につけたいか?|HODINKEE
銃からできた金属「ヒューマニウム」がカンヌでイノベーションライオンズ受賞|GIZM
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