カーボンニュートラルとは?定義や注目される背景、世界各国の動き・企業の取り組みを解説

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすること。つまり、まずは温室効果ガスの排出量を大幅に削減した上で、それでもなお排出してしまう分は、植林・森林管理などによって吸収または除去することで、差し引きゼロの状態にする。カーボンニュートラルは、脱炭素社会達成に向けた重要な目標として位置づけられており、世界各国で取り組みが進められている。

カーボンオフセットとの違い

カーボンオフセットとは、自社内で排出されたCO2の埋め合わせとして、CO2の吸収に関する取り組みなどに投資すること。CO2の排出と吸収を自社事業内で完結させるカーボンニュートラルに対して、カーボンオフセットは外部の取り組みに対して投資をすることで、CO2の排出量をプラスマイナスゼロとする。

ネットゼロとの違い

ネットゼロとは、大気中に排出される温室効果ガスを正味(=ネット)ゼロにすること。カーボンニュートラルとほぼ同義語であるが、パリ協定の目標にも位置づけられていることから「ネットゼロ」は世界中の共通認識として広く受け入れられている。

カーボンニュートラルが重要視される背景

カーボンニュートラルの達成が重要視される背景としては、深刻な地球温暖化の進行がある。2020年時点での世界の平均気温は、工業化以前と比較してすでに1.1℃上昇しており、このまま何も対策を講じない場合、地球の平均気温は2100年までに4℃も上昇する(2020年比)と試算されている。一方で、2050年までに世界規模でカーボンニュートラルが達成された場合、平均気温の上昇は1.5℃まで抑えることができる。

このように地球温暖化が進行していく中で、世界各国は以下のような流れで「脱炭素」「カーボンニュートラル」など共通のゴールを掲げるに至った。

京都議定書

1997年に京都で開催された地球温暖化防止京都会議(COP3)にて、先進国における2008年から2012年の温室効果ガス排出量を、1990年比で約5%削減することが定められた。この京都議定書は、先進国の排出削減について法的拘束力のある数値目標を定めた国際条約である。一方で、京都議定書では途上国に対しての削減義務は定められていない。

パリ協定

2015年にパリで開かれた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)にて、京都議定書の後継となるパリ協定が合意に至った。パリ協定の中では、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力をすること、そのためにできるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガス排出量と吸収量のバランスをとることを定めている。先進国だけでなく、途上国を含む全ての参加国に対して排出削減の努力を求める枠組みである。

カーボンニュートラルに関する世界各国の動き

このような流れの中、パリ協定以降世界中で共通目標となったカーボンニュートラル達成に向けて、世界各国では以下のような動きをそれぞれ見せている。

アメリカ

バイデン政権では、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを掲げている。達成に向けて、インフラ、自動車産業、輸送、電力セクター、建築、住宅、イノベーション等クリーンエネルギー分野に、2021年からの4年間で2兆ドルの投資を行うことを宣言した。

中国

習近平国家主席は、2030年にCO2排出のピークを達成させ、2060年までにカーボンニュートラルを目指すことを表明した。世界最大の温室効果ガス排出国である中国が、このような目標を掲げたことは世界から注目を集めている。目標達成に向けて、電気自動車への積極的な投資や化石燃料の規制強化などの動きを見せている。

イギリス

イギリスでは、2021年10月に「ネット・ゼロ戦略」を発表し、CO2排出量を2035年までに1990年比で78%に削減し、2050年までにネット・ゼロにすることを宣言した。そのための施策として、2024年までに石炭火力発電を廃止し、2030年までにガソリン車・ディーゼル車の新車販売を禁止するとしている。

フランス

フランスでは、2019年11月に「エネルギー・気候法」が施行され、2050年にカーボンニュートラルを達成することを目指している。電気自動車の購入支援の強化や建築物の省エネ改築支援を行うなどの動きを見せている。

カーボンニュートラルに関する日本の動き

日本においても、カーボンニュートラルに向けて次のような動きを見せている。

2020年10月の臨時国会で、当時の菅総理が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを表明した。

さらに、2020年12月には「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、国が認定した洋上風力、水素、自動車、蓄電池など、14の重要分野に対して、企業の脱炭素化への取り組みを促進するとした。

2021年6月には、「地域脱炭素ロードマップ〜地方からはじまる、次の時代への移行戦略〜」を決定し、地方創生の要素として「脱炭素」を含めることを示した。

カーボンニュートラルに関する企業の取り組み

世界中の国で、カーボンニュートラル達成への対策を積極的に講じている中、企業においても「脱炭素」「カーボンニュートラル」というキーワードが、業種を問わず重要視されてきている。以下、そのうちの一例を見てみよう。

パタゴニア

アウトドアメーカーとして有名なパタゴニアでは、2020年末までに同社内で使用する電力の100%を再生可能エネルギーから調達することを計画している。そのために、太陽電池の設置や社外の住宅用ソーラープロジェクトなどへの投資を実施している。また、サプライチェーンにおいてもカーボンニュートラル達成に向けての動きを求めており、その結果、パタゴニア製品に使用される全原料の69%がリサイクル原料となるなど、大きな成果をあげている。

トヨタ自動車

世界的な自動車メーカーであるTOYOTAでは、2015年10月『トヨタ環境チャレンジ2050』を策定し、持続可能な社会の実現を目指すことを発表した。その中で、以下のような目標を掲げている。

新車CO2ゼロチャレンジ

2050年グローバル新車平均走行時CO2排出量を90%削減(2010年比)を目標に、ハイブリッド技術を用いるなどして、省エネルギー車の普及を加速させる。

ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ

走行時のCO2排出量をゼロにするだけでなく、材料・部品・モノづくりを含むクルマのライフスタイル全体においてCO2排出量の削減に取り組む。

工場CO2ゼロチャレンジ

2050年には、工場におけるCO2の排出をゼロにすることを目指して、再生可能エネルギーと水素の活用を促進する。


他にも、多くの企業が自社内のカーボンニュートラルを目指して取り組みを進めている。中には、マイクロソフトやGoogleのように、すでにカーボンニュートラルを達成している企業もあり、そのあとを追う企業が続々と現れることが予想される。

カーボンニュートラルのためにわたしたちができること

企業や自治体の取り組みに限らず、以下の例のようにわたしたち個人ができる取り組みも多くある。

  • 再エネ電気へ切り替える
  • マイバッグやマイボトルを持ち歩く
  • 食品ロスをなくす
  • 地元の食材を購入する
  • 公共交通機関や自転車を使う
  • 中古品を購入する
  • シェアリングサービスを利用する
  • 修理・補修をして長く使う
  • コンポストで生ごみを減らす
  • ごみを分別する

わたしたちひとりひとりが、日常のささいな意識や習慣を変えるだけで、カーボンニュートラル達成への貢献になる。その影響は微々たるものではあるが、個人の取り組みは不可欠な要素とも言えるだろう。

今後の流れ

世界的に気候危機への関心が高まる中、カーボンニュートラル達成は重要な要素としての認識が強まっている。そうした潮流の中、カーボンニュートラルを宣言する都市や企業も増えている。業種などによっては、温室効果ガスの排出を抑えづらいこともあるが、カーボンオフセットによって埋め合わせをするなど、各方面での努力が続いており、中には、IKEAやユニリーバのようにカーボンポジティブを目指す企業も現れ始めた。このように、国全体、世界全体でカーボンニュートラルを達成するための動きは、今後も加速するだろう。

参考記事

環境省「カーボンニュートラルとは」
パタゴニア 「2025年までにカーボンニュートラルになる」
トヨタ自動車「カーボンニュートラルへの道」
トヨタ自動車「トヨタ環境チャレンジ2050」
英国のネット・ゼロ戦略とその関連状況
中国2060年ネットゼロ表明の背景と今後の見通し
2050年カーボンニュートラルに向けた我が国の課題と取組
地域脱炭素ロードマップ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~

関連記事

ABOUT US
k.fukuda
大学で国際コミュニケーション学を専攻。これまで世界60か国をバックパッカーとして旅してきた。多様な価値観や考え方に触れ、固定概念を持たないように心がけている。関心のあるテーマは、ウェルビーイング、地方創生、多様性、食。趣味は、旅、サッカー観戦、読書、ウクレレ。