脱成長とは?再注目される背景や事例を紹介

脱成長とは

脱成長(デグロース)は、近年「経済成長を追求し続ける消費社会の価値規範を問い直し、資源・エネルギー使用量などの計画的な削減を目指す政治的・社会的イデオロギー」という意味で認識されている。1960年代後半から1970年代初頭にかけて、社会で知られるようになった考え方だ。脱成長の議論は、リヨンの環境社会的組織を中心にフランスでいち早く活発化した後、学術分野やイタリア・スペインなどに広がったと言われている。

1980年代から1990年代にかけてネオリベラリズムが台頭したことで、脱成長の議論は一度衰退へと向かう。しかし、21世紀初頭から再び脱成長に注目が集まっており、フランスやスペインが中心的な存在として議論を先導している。

例えば、2024年3月には、バルセロナ自治大学がGrowth vs Climaite Conference(経済成長と気候を考える会議)を主催。科学者、政策立案者、ジャーナリストなどが集結し、「脱成長」や「非成長」といった経済代替モデルについての議論・検討が行われた。生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)も、2022年7月の報告書において、代替的な経済モデルの1つに脱成長を追加している。

近年再注目される背景

21世紀に入り、脱成長論が再び注目されるようになった背景には、「気候変動対策をめぐる問題意識」があると考えられる。世界の国々の多くは、デカップリングを前提に気候変動対策を進めてきた。デカップリングとは、エネルギー消費などの環境負荷と経済成長を切り離す考え方を指す。

20世紀の急激な経済成長は、エネルギー資源の大量消費や環境負荷の上に成り立っていた。しかし、気候変動・環境問題が深刻化する近年においては、「一定の経済成長を維持しつつ環境負荷を大幅に減らしていくこと」が各国のトレンドとなっている。

2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で合意されたパリ協定では、気候変動に関する世界共通の目標として「2℃目標と1.5℃目標」が掲げられた。これは「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃以内に抑える努力をする」というものだ。

目標を達成するには、2030年までに温室効果ガス排出量を42%削減する必要がある。だが、国連環境計画(UNEP)によると「2022年の世界の温室効果ガス排出量」は二酸化炭素換算で57.4ギガトンであり、過去最高の排出量を記録。現在の政策では、世界は3°Cの気温上昇に向かっているといわれている。世界では、上記のような「気候変動対策目標の達成見込みが低いこと」への問題意識が広がりつつある。こうした現状を受けて、脱成長は、各国が着実に環境負荷を削減する策の1つとして注目されている。

脱成長論を代表する主張

脱成長論は、さまざまな分野で普及・発展しているため、全体を捉えることは簡単ではない。ここでは、代表的な研究者として有名なフランスのセルジュ・ラトゥーシュ(Serge Latouche)の主張を紹介する。

ラトゥーシュが唱える「脱成長論」は、地球環境の回復を重視している点が特徴的だ。2002年にユネスコ本部で開催された「開発の解体、世界の再生」という国際会議では、先進国の「脱成長」を提案。脱成長を「開発やグローバル化が引き起こす文化の多様性破壊と環境破壊を解決していく道」と捉える考え方を示した。ラトゥーシュによると、先進諸国に代表される経済成長社会は、次の3つの無制限の上に成り立つ。

再生可能または再生不可能な自然資源の際限のない搾取・人工的で表面的なニーズの際限のない創出・廃棄物と大気・水・大地汚染の際限のない生産

上記の社会体制の背景には、「節度という感覚の喪失」や「限度の無さ」があるとも指摘している。その上で脱成長論は、人間の消費を自然の再生産速度以下に抑え、地球環境の回復や人類の延命を目指す。

ラトゥーシュは、脱成長論の再生プログラムに基づき、簡素な生活が「好循環」する社会を理想としている。彼が提唱する「8つの再生プログラム」は、以下の通りだ。

①再評価自然と人間の調和を目指し、今日では十分に支持されていない価値観を再評価する。
②再概念化大量生産・大量消費から脱却し、自然の回復速度以下程度の消費に抑えることが望ましいとする認識へと転換させる。
③再構築化新たな社会の価値に基づき、生産装置や社会関係を調整する。
④再分配社会関係の再構築化を通して再分配を行う。階級間・世代間・個人間といった各社会の内部に限らず、富や自然資源へのアクセスの分配も含まれる。
⑤再ローカル化個別地域のガバナンス能力を高め、政治・経済・文化的な決断が地域単位で実行できる状態を目指す。商品や資本の移動が最小限に制限されることで、資源の消費を抑制し、地域が潤うことを前提とする。
⑥削減資源の浪費に加え、保健衛生上のリスク削減、消費社会からの脱却による労働時間の削減なども目的として含まれる。
⑦再利用周期的で際限のない破棄をやめて、人材や資源を再利用する。
⑧リサイクルそのままの状態では再利用できない廃棄物をリサイクルする。

8つのプログラムは、それぞれが有機的につながっており、すべてが連動する必要があるとされている。さらに、脱成長は「節度ある豊かさ」という価値観のもと、地域ごとに異なる多様な形で実践されるのが望ましい、というのがラトゥーシュの主張だ。

上記のような経済成長を目指さない脱成長論について、定義や表現の曖昧さ、政策の不確実性などを指摘する論評も見られる。「資本主義を否定することなく、気候変動や格差・分断に対応していけるのではないか」という意見も少なくない。

一方で、ラトゥーシュ自身も、脱成長という言葉の曖昧さを認識する必要性について言及している。彼は、経済成長を「際限のない進歩への信仰」と捉えた上で、「脱成長はこの信仰を冒涜する言葉でしかない」とも表現している。この主張に見られるように、「脱成長は経済を縮小・衰退させること自体が目的ではない」という点にも留意が必要だろう。

脱成長を取り入れた事例

脱成長論の考え方は、地産地消の推進やコミュニティ経済など、さまざまな分野に広がっている。ここでは、節度ある豊かさの実現に向けて、脱成長を取り入れるコミュニティや企業を紹介する。

ランサローテ島|スペイン

ランサローテ島は、スペイン・カナリア諸島の一部だ。昔から、住民たちの結束力のもと、経済成長よりも住民のウェルビーイングを重視する施策が実施されてきた。美しいビーチがあり、1年を通して比較的温かいランサローテ島は、オーバーツーリズムの問題に悩まされた経験がある。

オーバーツーリズムの問題に対応するため、島では自分たちのアイデンティティを振り返るワークショップを開催。多くの住民から、経済成長ではなく、地域コミュニティの中で生きる豊かさを重視する声が上がった。現在は脱成長へと方向転換し、島民の生活を守りながら、塩やワインの生産を活用した「スロー」な観光が行われている。

ファッションブランドLOOM|フランス

出典:LOOM

LOOMは、脱成長の議論がスタートした、フランス・パリにあるファッションブランドだ。商品の製造・販売・廃棄の過程では、しばしば環境汚染が問題となる。そこで、LOOMは繊維産業が抱える問題に目を向け、ファッション消費のあり方に注目した。

具体的には、過剰消費を引き起こす「消費の押し付け」を回避する目的で、積極的で不要な広告を行っていない。人々が衣類を購入する量を抑えられるよう、高品質で長持ちするファッションアイテムの製造を自らのミッションとしている。

公式サイト:Moins mais mieux – LOOM

まとめ

脱成長は、近年「経済成長を追求し続ける消費社会の価値規範を問い直し、資源・エネルギー使用量などの計画的な削減を目指すイデオロギー」という意味で広く知られている。この考え方には、経済成長の追求で軽視されてきた、人や自然との関係性を再構築する役割も期待されている。

世界的には、脱成長の曖昧さや定義の氾濫を指摘する声も少なくない。だが、脱成長に基づく「節度ある豊かさ」という視点は、経済成長のあり方に潜む課題を振り返る機会を与えてくれている。地球環境や生態系・生物多様性の持続可能性が危ぶまれ、格差や分断が拡大する現代において、私たちは経済活動の先にどのようなリスクがあるのか、長期的な視点で捉える必要があるだろう。

参考文献
脱成長|セルジュラトゥーシュ著 中野佳裕訳

参考記事
アングル:「脱成長」理論に脚光、気候変動加速でタブー見直し|ロイター
デカップリングとは何か?-始めよう!”グリーンエネルギーの社会”|内閣官房
循環・廃棄物の豆知識デカップリング:〇〇と●●を切り離す|資源循環・廃棄物研究センター
国内外の最近の動向について(報告)|環境省
SDG Indicators SDG Goal13 Climate action|United Nations
セルジュ・ラトゥーシュの「脱成長」理論について|土内俊介 萩原八郎
Moins mais mieux – LOOM|LOOM

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