サイレントクライシスとは
サイレントクライシスとは、社会で広く知られることなく進行する人道危機を指す言葉である。日本語では「静かなる危機」と訳され、主に報道されないことで多くの人々にその存在を知られない危機のことを意味するが、その内容は多岐にわたる。
例えば、報道されない難民問題、認知されにくい精神的危機、またはパンデミックの影響下で進行する金融危機などがある。これらの危機は、人々の生活や社会に深刻な影響を与えるにもかかわらず、適切な対策が取られないことが多い。
特に南半球の国々では、こうした人道的な危機が頻繁に発生し、国際社会の支援が求められている。しかし、メディアの関心が薄いため、実際の状況が報じられる機会が少なくなってしまい、支援が届かないことで、多くの人々が困難な状況に置かれているという。
サイレントクライシスが発生しやすい地域と具体例

特に報道される機会が少ない地域では、飢餓や内戦、経済危機などが原因で人々が深刻な困難を抱えているとされる。以下では、サイレントクライシスが発生しやすい代表的な地域とその具体例について解説する。
「アフリカの角」
「アフリカの角」と呼ばれるエチオピア・ケニア・ソマリアでは、気候変動や内戦が原因で深刻な人道危機が発生している。国連世界食糧計画(WFP)によると、この地域では2022年2月時点で1,300万人以上が飢餓に直面している。
特に3年連続で雨季に雨が降らない干ばつが続いたことで、作物が壊滅的な打撃を受け、家畜の大量死が報告されている。難民の流入も多く、社会的に不安定な状況は深刻さを増しているが、これらの問題は十分に報道されておらず、適切な支援が届かないことが多い。そのため、多くの人々が見過ごされている。
中東
中東地域のイエメンでは、現在1,740万人が食料支援を必要としており、緊急レベルの飢餓に苦しむ人々の数が増加し続けている。その根本原因は紛争で、経済危機と通貨の下落が食料価格の高騰につながっているのだ。特に子どもたちが危険にさらされており、220万人が急性栄養不良に陥っているという。
イラクやシリアでも長年続く紛争によって、多くの人々が避難を余儀なくされ、生活基盤を失っている。これらの国々では、紛争と貧困が相まって、深刻な人道的危機が発生しているが、大きく報道されることが少ないため、支援が届かないことが多い。
南アジア
スリランカでは、長年の経済不安による食糧危機が問題となっており、国民の3割が支援を必要としている状況だ。2022年にはデフォルト(債務不履行)に陥り、国民の多くが貧困に苦しんでいる。
また、アフガニスタンでは、2024年5月と7月に大規模な洪水が発生し、多くの死傷者が出るなど甚大な被害をもたらした。バグラン州などでは、学校や橋、電力ダムが破壊され、家畜も失われた。それに加えて地震や干ばつなどの自然災害も頻発しており、多くの人々が厳しい状況に置かれている。
中南米
中南米に位置するハイチでは、武装集団による治安の悪化が続き、5万人以上が避難を余儀なくされている。また、540万人が急性の飢餓に直面しており、世界でも食料不安の割合が高水準にある。
また、ベネズエラでは、政治的混乱とハイパーインフレーションが続き、多くの国民が生活に窮している状態だ。2024年5月時点で、約770万人が国外へ避難しており、避難先で必要な支援を受けられないことが多い。
認知されにくい社会問題
サイレントクライシス以外にも、さまざまな要因によって認知されにくい社会問題が存在する。ここでは、その代表的な種類について解説する。
フォーゴットン・クライシス (Forgotten Crises)
フォーゴットン・クライシスとは、国際社会やメディアの関心が薄れ、忘れ去られた社会問題を指す。人々が慢性的な貧困や栄養不良に苦しんでいるにもかかわらず、支援が行き届かないことが多い。
国際機関やNGOは、こうした問題を解決するために努力しているが、十分な資金や支援が集まっていないのが現状だ。例えば、コンゴ民主共和国では長年続く紛争により、深刻な人道危機が発生している。このような状況は、報道されずに忘れ去られることで、解決が遅れる傾向にある。
クワイエット・エピデミック (Quiet Epidemic)
クワイエット・エピデミックとは、ゆっくりと広がる健康問題や社会問題を指す。これには、精神的な健康問題や薬物依存、家庭内暴力などが含まれる。
例えば、うつ病や不安障害を有する人々は増加傾向にあるが、社会的な偏見や認識不足から十分な支援が得られないことが多い。また、薬物依存も深刻な問題であり、特に若年層や低所得者層に多く見られる。しかし、日常生活において見過ごされがちであり、適切な支援が届かないことが多い。
スロー・バーニング・クライシス (Slow-Burning Crises)
スロー・バーニング・クライシスとは、時間をかけて徐々に悪化する社会問題を指す。これには、環境問題や経済格差、教育の質の低下などが含まれる。
例えば、気候変動による環境破壊は、長期間にわたって影響を及ぼし、人類の生活にも大きく関わってくる。また、経済格差の拡大も、貧困層を増加させる要因であり、社会的な不平等が広がることで問題が深刻化している。教育の質の低下も、将来的な社会の発展に大きな影響を与える問題であり、早期の対策が求められている。
サイレントクライシスが認知されない要因
サイレントクライシスは、さまざまな要因が絡み合うことで発生していると考えられるここでは、その主な要因について解説する。
メディアの関心の偏り
メディアはしばしば報道内容を選択する際に、視聴率や読者数を優先する傾向がある。そのため、注目を集めやすい事件や災害、政治的な出来事に焦点を当てているのだ。例えば、核兵器を保有する大国間の紛争や、著名な国際イベントなどは他国のことであっても関心を引きやすい。
一方で、アフリカやアジアの一部地域で発生する人道危機は、視聴者の関心を集めにくいとされる。これにより、報道される情報に偏りが生じ、認知されるべき問題が見過ごされることがある。
自国の国益や政治的関心
各国のメディアは、しばしば自国の国益や政治的関心に基づいて報道内容を決定する。例えば、ロシア・ウクライナ紛争やイスラエル・パレスチナ紛争は、日本やアメリカにとって重要な関心事であり、多くの報道が行われる。
しかし、自国に直接関係のない地域で発生する人道危機には関心が向けられにくい。その結果、必要な支援が届かず、問題が深刻化することがある。
地理的・文化的な距離
地理的な距離や文化的な違いも、サイレントクライシスが認識されにくい要因の一つである。遠く離れた国や地域で発生する問題は、物理的な距離だけでなく、文化や言語の違いによっても関心が薄れがちである。
例えば、日本のメディアでは欧米に比べアフリカや中南米の問題が報道されにくく、異なる文化圏で発生する問題に対する理解や関心が不足し、結果として一般的に認知されないという傾向がある。
支援組織の限界
支援組織も限られたリソースで活動しているため、すべてのサイレントクライシスに対処することは難しい。特に、メディアの関心が低い地域では、資金や人員が十分に確保されないことが多い。そのため、国際機関やNGOは広範な活動を行いながらも、支援の優先順位をつけざるを得ない状況にある。
例えば、アフリカの一部地域では長期的な紛争や飢餓が続いているが、十分な支援が行き届かないことも少なくない。こうした状況を改善するためには、支援組織のリソースを増やし、効果的な支援を行うための体制を整えることが求められている。
サイレントクライシスへの対策
サイレントクライシスの問題を解決するためには、まず報道機関が世界各地の人道危機を公正に報道し、人々に広く認知させることが重要である。多くの国々では、自国に直接関係のない問題が報道されにくい傾向にあり、特に日本の国際報道の量は十分とは言い難い。そのため、報道のあり方を見直し、地理的・文化的な偏見を排除し、幅広い地域の出来事を伝える必要がある。
さらに、個人としてもサイレントクライシスの存在を認識し、必要な支援を届けるための情報にアクセスすることが重要である。特に、南半球の国々における政治や経済の状況に関心を持ち、現地での人道危機に対する意識を高めることが求められる。また、国際機関やNGOの活動を支援し、社会全体でサイレントクライシスへの対策を進めることが必要だ。
まとめ
サイレントクライシスは、報道されず認識されにくいだけで、実際に起きている人道危機である。これらの危機は、主にメディアの関心の偏りや政治的関心などの要因により、注目を集めることが難しい。
これらの問題を解決するためには、公正な報道と個々の関心が不可欠である。報道機関はもちろん、一般の人々もサイレントクライシスの存在を認識し、必要な支援を届けるための情報を積極的に得ることが重要である。私たち一人ひとりが関心を持ち、行動することで、サイレントクライシスに対する効果的な対策が可能となる。
参考記事
アフリカの角を襲う干ばつで、1300万人が深刻な飢餓に直面|WFP国連世界食糧計画
イエメン 史上最悪の飢餓、飢きんレベル5倍増か ユニセフ・FAO・WFP共同声明|unicef
経済危機のスリランカで妊婦を支援する国連WFP|WFP国連世界食糧計画
アフガニスタン洪水 人道支援が急務|unicef
ハイチで食料支援を拡大 急速に増大するニーズに対応|WFP国連世界食糧計画
南米ベネズエラ難民危機 故郷を追われる人、770万人|unicef
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