気候正義とは?気候変動が引き起こす不平等と向き合うために

気候正義とは

気候正義(climate justice)とは、気候変動の原因を生み出している主体よりも、それ以外の人々に深刻な悪影響が及んでいるという不平等を正していこうとする行動や考え方を指す。 justice は「正義」と訳され、公平・公正・正当・妥当という意味をもっている。つまり気候正義とは、気候変動による被害が不均衡にもたらされることを認識し、弱者に配慮し、責任を公平に分担すべきという考えである。

産業革命以降、主として先進国が化石燃料を大量消費してきたことにより、大気中の温室効果ガスが増加し、現在の地球温暖化と気候変動(climate change)が引き起こされてきた。

気候変動の問題は、原因となっている側と影響を受ける側が必ずしも一致しておらず、国や地域、世代間での不平等・不公正を生む構造となっている。異常気象などの悪影響を最も受けているのは、化石燃料をほとんど使ってこなかった途上国である。1つの国の中でも、ジェンダーや人種差別、世代間、経済力の差によって、より立場の弱い人々に負担が集中してしまう。また、未来の世代は、過去の世代が排出した温室効果ガスが原因で一層深刻な悪影響を受けることになる。

環境正義と気候正義

気候正義とは

環境正義とは、1980年代に多民族国家である米国の社会的背景をもとに生まれた概念で、環境保全と社会的正義を同時に追及すべきだとする考え方である。

富裕層に属する人は質のよい環境の中で生活できるが、マイノリティーや貧困層など社会的弱者は、環境破壊の被害者となりやすいことを指摘したものだ。アフリカ系黒人が多い地域における有害廃棄物の処理施設の集中、プランテーション労働者の農薬被害、途上国における貧困と環境破壊の悪循環などが例としてあげられる。

環境正義運動の高まりを受け、米国では1992年に米国連邦環境保護庁に環境正義局が開設された。

一方、気候正義という言葉は比較的新しく、2019年の気候変動枠組み条約COP25において、アイルランド元大統領のメアリー・ロビンソン氏が訴えたものである。同氏は、気候変動の影響を大きく受ける途上国と、資源を使い続ける先進国との不均衡を解消し気候正義を追求するには、公平に責任を負担し恩恵を分かち合う必要があると述べた。

気候正義の考え方は、気候変動問題に対応するための国際的な枠組みであるパリ協定の条文の前文にも盛り込まれている。

締約国が、気候変動に対処するための行動をとる際に、人権、健康についての権利、先住民、地域社会、移民、児童、障害者及び影響を受けやすい状況にある人々の権利並びに開発の権利に関するそれぞれの締約国の義務の履行並びに男女間の平等、女子の自律的な力の育成及び世代間の衡平を尊重し、促進し、及び考慮すべき

引用元: パリ協定 前文

このように環境問題と弱者の人権を関連付け、不公正を正そうとする環境正義は1980年代に生まれた言葉で、気候正義は特に近年の気候変動問題に関する概念である。

気候変動に関する不平等の具体例

気候変動に関する不平等の具体例

英国NGO・OXFAMの2015年の報告によると、世界人口のうち最も裕福な10%によって、世界の温室効果ガスの約50%が排出されている。

一方、世界の人口の約50%を占める貧困層の排出量は、世界の総排出量のわずか10%であり、貧困層の多くが居住しているのは気候変動の影響を最も受けやすい国々である。

世界の富裕層が排出する温室効果ガスによって地球温暖化は進行し、その被害をより大きく受けているのは、ほとんど排出していない人々である。気候変動が貧困層に及ぼしている被害の例について説明する。

食糧難と飢餓

深刻さと頻度が増している異常気象は、世界中の穀物生産に大きな被害を与えており、その悪影響を被っているのは低所得国である。

国連世界食糧計画(WFP)によると、世界中で飢餓に苦しむ人々の8割が、自然災害や異常気象の影響を受けやすい地域で生活している。低所得国では農業や漁業等で生計を立て生活する人が多く、自然災害や異常気象の悪影響を直接受けやすい。長引く干ばつや大雨は農業・漁業に壊滅的な影響を与え、継続できないほどの被害を受けて居住地を離れざるを得ない例もある。

2023年に発生したサイクロン「フレディ」は、史上最も長く続いた熱帯低気圧となり、マラウイ・モザンビーク・マダガスカルに大被害をもたらした。農作物や道路、橋が破壊され、1,500人近くが命を落とした。また同年、すでに壊滅的な干ばつに苦しんでいたハイチでも致命的な洪水が発生し、リビアではハリケーン「ダニエル」によりダムが決壊し、多くの人命と日常生活が失われた。

2023年の一年間だけでも、5,700万人近くが気候の影響により飢餓状態に追い込まれたとされる。

海面上昇

フィジー、バヌアツ、ソロモン諸島といった海抜の低い小さな島々が集まる太平洋諸国は、最も深刻な脅威に直面しており、人々はすでに移転を迫られている。また、バングラデシュ、中国、インド、オランダ、パキスタンなど、人口密度の高い国の沿岸地域の居住者も高潮や洪水の被害に見舞われるリスクが高い。

海面上昇による塩水の流入は農地や住居に被害をもたらすほか、淡水の供給を困難にし生活基盤を破壊する可能性がある。

IPCCの第6次評価報告書では、地球温暖化のいくつかのシナリオごとに、今世紀末までの海面上昇について予測している。世界全体の温室効果ガス排出が非常に低いシナリオの場合、海面上昇は約50cm、非常に高いシナリオでは最悪1m上昇する。

さらに、南極の氷床が不安定化して崩壊が始まると、1.5m以上海面が上昇することもあり得るとしている。

熱波・猛暑

熱波や猛暑の影響を強く受けるのは、高齢者や子ども、持病のある人、障がい者などの弱者と冷房設備のある環境を確保できない人である。

米国環境NGO・Climate Centralの報告によると、2023年5月からの1年間で、世界人口の78%に相当する63億人が、極端な熱波を少なくとも31日間経験し健康が危険にさらされた。

日本国内の熱中症による死亡者数は、2001-2005年では1年間で平均335人だったが、2016-2020年では3倍以上である1,117.8人に増加し、その8割以上が65歳以上の高齢者であった。

一人暮らしの高齢者が増えているため、重症化しても誰にも気づかれないまま死亡したという例もある。高齢者のほか、子ども、持病のある人、肥満の人、障がい者なども熱中症になるリスクが高い。厚生労働省は2018年から、一定の条件を満たす生活保護世帯に対しエアコン購入費の支給を認めているが、自治体によっては判断がぶれることもある。

2015年にインドを襲った熱波による死者は、1週間足らずの間に千人を超えた。同国の電力普及率は低いうえ酷暑で供給が不安定になったことが、被害を深刻化させ、犠牲者の多くは貧困層の路上生活者や、炎天下の建設作業員であったとのことである。

気候正義のムーブメント

気候変動が多くの不平等の原因となっていることを受け、気候正義の動きが国内外で生まれている。2019年オランダ最高裁判所は、気候危機が生命に対する権利を脅かすとし、オランダ政府に対して温室効果ガスの削減目標を引き上げるよう命じる判決を下した。

この判決は、気候変動の影響を差し迫った人権侵害として捉えた初めての最高裁判所判決であるとされている。その後、アイルランドやドイツでもこの考え方が引き継がれている。

日本では特に、気候変動に危機感をもつ若い世代のアクションが注目を集めている。ここでは、2つの例をご紹介する。

Fridays For Future

「Climate justice」は、Friday for Future (未来のための金曜日)によるグローバル気候マーチにおいて、思いを届けるコールとして使われる言葉でもある。

Friday for Futureは、2018年にスウェーデンで当時15歳のグレタ・トゥーンベリさんが国会前に座り込み、国の気候変動対策に抗議したことをきっかけに始まった運動だ。その後わずか1年で、世界中で760万人が参加する世界的なムーブメントとなった。

2019年2月には日本でも東京からFriday for Futureの運動が始まり、その後全国各地に広がっている。彼らが目指すものは、気候正義を追求し連携して行動することで、社会構造に大変革を起こすことだ。また、企業や政党から独立し、気候危機の当事者である一人ひとりが個性を活かせるムーブメントであり続けることを大切にしている。

Friday for Futureは、一人ひとりがお互いに尊重しあい、気候変動によって脆弱な立場に置かれる命に心を寄せるアクションの一つである。

民事訴訟

2024年8月、日本各地から集まった若者が、日本のCO2排出量の約3割を占める主要な火力発電事業者10社に対し民事訴訟を起こした。

訴えを起こしたのは、気候変動の問題に関心をもつ中学生から29歳までの16人である。原告側は、若者は生涯にわたってより深刻な気候変動の影響を受けるとし、2035年には二酸化炭素排出量を2019年比で65%削減することなどを事業者に求めている。

一方、被告側は訴えを退けるよう求めている。判決は未だ出ていないが、気候正義に基づく訴えに対して日本の司法がどう判断するのか、今後に注目したい。

まとめ

気候変動の問題に向き合う時、最も弱い立場におかれた人たちの人権を尊重し、自分にできることは何かを考えることが求められる。

特定非営利活動法人気候ネットワークが作成した気候アクションガイドには、気候変動を止めるための具体的な取り組みが紹介されている。再生可能エネルギーを重視する電力会社へのパワーシフトや、交通手段、食べものを意識して選ぶといった行動は、日常生活に気軽に取り入れられるだろう。

また、気候変動対策に積極的な議員を応援したり、パブリックコメントで政策案に意見を提出したりすることにより、自分の意志を政治や行政につなげることも可能だ。

気候変動への危機感は私たちを不安にさせるが、地球温暖化を食い止めるための技術や社会システムは日々進化しているのも事実である。希望をもって、身近なところから小さな行動を継続することを大切にしたい。

参考記事
地球環境豆知識 [34] 気候正義(climate justice) | 地球環境研究センターニュース
気候正義(climate justice)|日本女性学習財団
第11回殿堂入り者|京都地球環境の殿堂運営協議会
パリ協定|外務省
COP28:気候変動の中、飢餓を食い止めるための闘いは続く | 国連世界食糧計画
Climate change: Surging seas are coming for us all, warns UN chief
海面上昇とは何か? 私たちの未来にどう影響するのか? | 国連広報センター
熱波の死者1100人超、貧困層を直撃 インド – CNN.co.jp
【判決紹介】オランダ最高裁「危険な気候変動被害は人権侵害」 科学が要請する削減を政府に命じる(2020年2月)|特定非営利活動法人気候ネットワーク
若者が気候変動の危険訴えた裁判 事業者側は退けるよう求める|NHK
Fridays For Future 未来のための金曜日とは|Fridays For Future Japan

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