アグリフッドとは
アグリフッドとは“Agricultual(農業) neighborhoods(隣人)”の略称で、近隣住民と共同の農地を持ち、農業体験を行うことを基盤とした住宅コミュニティを指す造語だ。農園に関わる施設と住宅が併設されている住宅街であり、現在アメリカで健康志向を持つ若い家族を中心に広まっている。
アグリフッドは、都市圏からそう遠くないところに存在している場合が多く、人々は都市での暮らしをつづけながら農業体験も行う暮らしを実現できるのである。広々とした共同農園では、専門家の指導のもとで野菜や果物などが育てられており、そこで暮らす住民は、共有キッチンで開催される収穫物を使った料理教室やワークショップを楽しむこともできる。
アグリフッドの取り組みは、新たに農地を手に入れることが困難な新規就農者にも歓迎されているという。自然と調和した田舎暮らしを送りつつ、コーヒーショップやクラブハウスなども整備されているため、都会的で利便性の高い暮らしも実現できることが人気の秘訣だ。コミュニティによっては、住民に最低限の労働時間を義務付けていたり、自治会費に農場の維持費を組み込んでいる場所もある。
アグリフッドが注目される理由

アグリフッドが注目されるようになったきっかけに、アメリカ人の健康意識の向上が挙げられる。アメリカは、ハンバーガーやフライドポテトといったジャンキーな食事をとるイメージが強いが、近年になり新鮮で安全な野菜や果物を摂取するなど健康的な食事への関心が年々高まっている。
また、消費者として産地からの流通状況が適正かどうかに関心を寄せる人も増加している。この考えは、「Farm to table(農場から食卓へ)」として2010年代頃から流行している。これはまさしく、アグリフッドの取り組みに関するキーワードであるといえよう。つまり、自分で作ったものを自分の手で収穫し、自分で調理して食べること以上に安全なものはないと考える人が増えているのだ。
こうした意識はミレニアル世代(2000年代以降に成人する1980~1990年代半ば生まれの人々)を中心に高まっており、野菜作りや土いじりが行える田舎暮らしと、普段の都市部での暮らしが容易に両立できるものとして、アグリフッドが注目されている。
このことから、かつてはショッピングモールが建設されていたような地でも、アグリフッドの建設が推進されることもあるという。
アグリフッドのメリット
アグリフッドは、そこに住む人々と自然環境の双方にメリットがあるといえる。アグリフッドの住人たちは、自然と調和した暮らしを望んでいるため、必然的に環境にやさしい暮らしがベースとなるからだ。車をなるべく使わないよう道路が歩きやすく設計されていたり、ソーラーパネルやコンポストが設置されているなど、都市部で課題となっている二酸化炭素の排出抑制や再生可能エネルギーの利用などにも一役買っている。
さらに、同じ目的や志を持つ人々が居住する空間であるため、コミュニティの親密性が強固になりやすい傾向にあることもメリットだ。住民同士は、農業体験をはじめアグリフッド内で行われる様々なイベントやプロジェクトによって交流を図っており、子どもたちが家族以外の大人の知り合いを作る場としても喜ばれているという。
農業を通して自然の状態を知ること、一から作物を育て収穫する苦労と喜び、体を動かすことで得られる充足感、脳疲労からの解放など、デジタル社会から離れたスローライフを送ることができるとして人気が高まっているようだ。
アグリフッドの取り組み事例

アグリフッドの発祥であるアメリカでは多くのアグリフッドが誕生しているが、実際にどのような取り組みが行われているのだろうか。
Serenbe
Serenbe(セレンべ)は、ジョージア州アトランタから車でおよそ40分の郊外に位置している、広大な森林と牧草地に囲まれたアグリフッドだ。300種類以上の野菜や果物、ハーブや花が栽培され、旬の野菜を使った料理ワークショップなどのイベントが多数開催されている。
また、セレンべの大きな特徴は、季節ごとのフェス、アーティストのパフォーマンス、アートギャラリーなど文化的な活動も行っていることだ。音楽や映画、アート、演劇など、芸術を中心としたコミュニティも存在し、活気に満ちているという。
Esencia / Sendero
カリフォルニア州オレンジカウンティには、ランチョ・ミッション・ビエホという宅地開発会社が建設した、Esencia(エセンシア)とSendero(センデロ)という二つのエリアに分かれたアグリフッドがある。ここでは、若い世代からリタイア世代まで多くの世帯が暮らしている。
農場以外にも小売店やレストランなど商業施設も備わっている。また、運動場やテニスコート、プールなどの運動施設があり、自然と共存するとともに心身の健康づくりを促進できるような環境が整っている。
Rancho Mission Viejo | Ranch, Nature Reserve & New Home Community O.C.
日本での取り組み
日本ではアグリフッドのような農業都市はまだ登場していない。農林水産省が「都市農業振興基本計画」を進めているが、その取り組みは小規模なものに留まっている。
ただし、実際に畑付きの住宅やシェア畑、農園付きのシェアハウス、レンタル農園など、農業に興味を持つ人が気兼ねなく始められるようなサービスが増加しており、街として成立するようになるにはまだまだ時間はかかるものの、農業を中心とした住宅コミュニティが徐々に注目されている段階にあるといえよう。
アグリフッドの課題点
そもそも、農業をはじめとした一次産業が衰退している理由は、その厳しさや難しさにある。仕事内容が過酷なうえ、収穫量は気候によって左右される。それに比べ、大規模農園で機械的に栽培された作物の方は安く簡単かつ安定的に手に入れられることから、人々は農業に従事しなくなったと考えられている。
こうした農業のデメリットをもメリットに変えられるような魅力を生み出すことが、持続可能なアグリフッドの形成に求められている。つまり、こうしたライフスタイルを一時の流行とさせないことが重要になるのだ。
また、これはどんなコミュニティにも言えることだが、住民の「食」と「農」に関する考え方に統制を図ったり、均衡的な組織づくりを心掛けなければならない。「サステナビリティに配慮した都市」というと魅力的に聞こえるが、人員不足や土壌不良、コミュニティ内やデベロッパーとの人間関係など、クリアしなければならない問題は少なからず存在している。
まとめ

新しい都市型農業の形として注目されるアグリフッド。人の暮らしと農業の距離を近づけるこの在り方自体は、決して新しいものではない。むしろ、古来行われてきた人間の基本的な営みであり、原点回帰のような動きとも考えられる。
近年では、サステナビリティや健康志向を重視した暮らしに関心を寄せ、食事をはじめとした生活の在り方を考え直す人々が増加している。同じ目的を持つ人々で構成されるアグリフッドに仲間入りすることで、ひいては地球にやさしい取り組みの実践へと繋がっていくだろう。
日本でのアグリフッドの建設はまだ見られないものの、そこへ繋がる取り組みは各地で見られている。こうした生活に興味はあれど、何から始めるべきか悩んでいる人にとっては「どこに住むか」を考えてみることが、大きな一歩となることだろう。
参考サイト
What is Agrihood?|Kinsland
A Farm to Table Lifestyle!|Agrihood Living
What Does the Farmer Say about Agrihoods?|Urban Land Magazine
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