リカレント教育とは?
リカレント教育とは、学校での教育を終えて就職した社会人が、教育を受けて必要な知識やスキルを身につけていくこと。リカレント(recurrent)は「周期的に起こる」「繰り返す」などを表す言葉で、教育を含む他の活動と仕事を繰り返すという意味合いだ。
リカレント教育の重要性が高まっているのは、終身雇用制度が当たり前ではなくなった労働事情が背景にある。また、平均寿命が伸びている上にワークライフバランスの考え方に変化が起き、結婚・出産後の女性や中高年層が再就職を目指すのに役立つという側面もある。一方、企業側は業務効率化や離職率の低下、人材確保などにつながるといったメリットもある。
なお、「リカレント教育」という言葉は、経済協力開発機構(OECD)が1970年に公式に採用。1973年に「リカレント教育-生涯学習のための戦略-」という報告書を発表したことで世界的に広まった。
リカレント教育の重要性が高まっている背景

リカレント教育の重要性が高まっている背景には、労働者側と企業側それぞれで事情がある。
労働者側の事情
労働者側が抱える事情として代表的な3つについて解説する。
終身雇用制度の崩壊
日本では特有の終身雇用制度により、入社後は一生安泰とされていた。しかし、競争力を強化するために、成果主義型人事やジョブ型雇用を導入する企業が増え、実力のある若手人材の積極採用などで終身雇用制度は崩れはじめている。このように労働環境が変化する中で、必要とされる人材となるためにはブラッシュアップし続けることが求められるようになった。
技術革新の急速な進化
インターネットやIT技術の進化によって、業務におけるIT化やDX化が急速に進んでいる。学生時代に学んだ知識や技術はとうに古くなり、更新しないままでは進化に取り残されてしまう。こうした状況の中で、最新の知識と技術を身につけて対応することが求められている。
長寿化による人生設計の変化
日本人の平均寿命は80歳を超え、人生100年時代とも言われる超高齢化社会に突入している。60歳で定年を迎えた場合、その後の20年以上をどう過ごすのかは人生設計において非常に重要となる。
こうした中、常にキャリアアップやキャリアチェンジをし、社会に貢献する人材として活躍を続けていくという考え方が浸透するようになった。また学び直しによって、人生の充実度を高めたいという意向を持つ人も増えている。
企業側の事情
一方、企業側にもリカレント教育を重要視する事情がある。代表的な3つについて解説する。
生産性の向上につながる
従業員が新しい知識や技能を身につけることで、業務における専門性が磨かれる。そのため労働人口が減少する中でも業務効率化が実現し、生産性の向上につながる。また、最適な人材配置が可能になったり、新しいアイデアの創出につながることにも期待が持てる。
なお、文部科学省の資料「リカレント教育の推進に関する文部科学省の取組について」では、成人学習の参加率が高い国ほど労働生産性が高い傾向にあるという調査結果を報告している。

競争力が向上する
リカレント教育によって従業員がさらにスキルアップすることで、企業全体のレベルが底上げされる。それによってサービスや製品の品質向上につながり、企業の競争力も向上する。
優秀な人材の確保につながる
リカレント教育を整備している企業は、自身を成長させたいという前向きな求職者からの応募が集まりやすい。そのため、優秀な人材を確保しやすいと考えられる。また、そのような人材は学習に意欲的で積極的に自身を成長させるため、企業の成長に貢献することにも期待ができる。
日本におけるリカレント教育の現状
文部科学省の資料「リカレント教育の推進に関する文部科学省の取組について」によると、従業員に学ぶ機会を与えている国内企業は少なく、従業員側も学ぼうという意欲が低いと報告している。
下記のグラフは、国内企業のOJT以外の人材投資(GDP比)を世界各国と比較したものだ。

日本は世界各国と比較して数値が低い上、「1995年-1999年」の0.41%から「2010年-2014年」は0.1%となっており低下傾向にあることもわかる。
一方、下記のグラフは、社外学習や自己啓発に取り組んでいない従業員の割合を表したものだ。

国内企業の従業員は半数近くが社外学習あるいは自己啓発を行っておらず、各国の企業とは大きな開きがあることがわかる。
リカレント教育に関する国内の政策

世界と比較して国内企業ではリカレント教育に関する整備が進んでいないが、日本政府ではリカレント教育の普及に向けてさまざまな取り組みを行っている。
ポータルサイト「マナパス」の運営
文部科学省が運営するポータルサイト「マナパス」は、社会人の大学などでの学びを応援するサイト。「学びのパスポート」を略したもので、「いつでも・どこでも・誰でも」学べるための情報を発信している。
2023年10月時点で、大学・専門学校の社会人向けプログラムを中心に約5,000講座を紹介。検索機能を活用することで、自分が学びたい講座を見つけられるようになっている。
なお、厚生労働省の職業情報提供サイト(日本版O-NET)「jobtag」や経済産業省のデジタル人材育成プラットフォームポータルサイト「マナビDX(デラックス)」とも連携している。
リカレント教育プラットフォームの構築支援
文部科学省では、リカレント教育プログラムの普及を図るために、大学コンソーシアムや自治体が運営する以下に代表されるプラットフォームの構築を支援している。
- 国立大学法人北海道国立機構
- 岩手県
- 国立大学法人山形大学
- 京都府
- 神戸市
- 国立大学法人九州大学
- 国立大学法人大分大学、など
それぞれのプラットフォームでは業界のニーズを踏まえながら、地域で分散している人材ニーズを調査して把握し、教育コンテンツとのマッチングなどを行っている。
給付金交付などによる就労支援
社会人の学びを支援するためにさまざまな制度を設けている。代表的なのは厚生労働省を窓口とする「教育訓練給付制度」や「高等職業訓練促進給付金」などだ。また、職業スキルや知識などを無料で習得できる「公的職業訓練(ハロートレーニング)」も実施している。
一方、文部科学省では、大学などが行う実践的かつ専門的な社会人向けプログラムである「職業実践力育成プログラム(BP)」の認定制度を2015年から開始。2024年12月時点で、462課程が認定されている。
リカレント教育の国内企業の事例
リカレント教育に関して、国内企業3社の導入事例を紹介する。
味の素
「食と健康の課題解決企業」を目指す味の素株式会社では、デジタルリテラシーを高めることを目的に「ビジネスDX人財」育成を2020年度に開始。費用は会社が負担する仕組みで、社内資格「ビジネス人財(初級・中級・上級)」の認定を行っている。
2020年度から2023年度までの4年間で従業員の80%以上が受講し、約2,200人が認定を取得している。
富士通
富士通株式会社では、受託型から共創型事業に転換する中でDX人材の重要性が高まるとして、従業員の学びに対する支援を実施。各部門に散在していた学びの機会やコンテンツを一つに集約して、社内プラットフォーム「FLX(Fujitsu Learning Experience)」を整備した。
レコメンド機能やトップからのメッセージ、優れた社員のトークといった機能を導入しており、社員の利用状況は約85%に達している。
SCSK
IT技術を軸にコンサルティングを提供するSCSK株式会社では「コツコツと自己研鑽を重ねることが、勝つ・克つためのコツ」という考えのもと、従業員の自己研鑽を推進・支援する「コツ活」を実施している。全社員に月額5,000円の学び手当を支給するほか、図書カードの配布や学びコンテンツの提供といった「学びインセンティブ」も支給しており、自己研鑽活動の習慣化も支援している。
また、継続的な学びと成長の機会を提供する人材育成体系として「SCSK i-University」を設定。自律的なキャリア開発を支援するために「若手キャリア開発プログラム」や「社内FA制度(キャリア・チャレンジ制度)」なども導入している。
まとめ
企業に就職した時点で生涯の安定が約束された時代は、今は昔。国内企業特有の終身雇用制度が崩壊し始める一方、IT化やDX化などの技術革新が急速に発展する中で、労働者も常にブラッシュアップすることが求められるようになっている。
そこで注目度が高まっているのがリカレント教育だ。リカレント教育により、社会に貢献する一人の人材としてキャリアアップ・キャリアチェンジしていくことができる。
一方、社員一人ひとりがキャリアアップすることによって生産性の向上や競争力の強化が図れるため、積極的に環境を整備している企業も増えている。社員のキャリアアップに前向きなこのような企業を選択することも、人生の充実度につながると考えられる。
参考記事
平成30年度年次経済財政報告第2章人生100年時代の人材と働き方第2節|内閣府
リカレント教育の推進に関する 文部科学省の取組について|文部科学省
リカレント教育|厚生労働省
イノベーション創出のためのリカレント教育事例集(企業編)|経済産業省
関連記事
新着記事















