リジェネラティブ・アーバニズムとは
リジェネラティブ・アーバニズムとは、気候変動によって起こる地震・台風・津波などの自然災害の脅威に対応するための都市計画やデザインの考え方である。「再生する」を意味する”Regenerative”と、「都市化」を意味する”Urbanism”を組み合わせた言葉であり、直訳すると「再生都市論」となる。
リジェネラティブ・アーバニズムは、レジリエンス(回復力)を大切に、災害に強い街づくりを目指す。現状の維持を重点的に考える従来の防御的な対策とは異なり、被災後も迅速に対応できるシステムづくりを目的とする。
リジェネラティブ・アーバニズムは、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」とも関連している。目標11-5では「災害による被害を減らし、災害がもたらす経済的損害も減らす」と記載されており、被害を抑え、安心して暮らせる街にするために、災害に強い街づくりが求められているのだ。
そもそも、リジェネラティブとは?

そもそも、「再生する」と訳されるリジェネラティブは、「あるステージで決められた役割を果たしたものが、新たなステージで再び何らかの役に立つ」という意味合いも持っている。
リジェネラティブという用語は、特に環境分野で使われるケースが多い。環境負荷を抑制するだけでなく、問題の根本を解決した上で環境を回復していく取り組みとして用いられる。リジェネラティブが注目された背景には、気候変動や地球温暖化といった環境問題が関係している。問題による被害を受けた生態系や水質の汚染を再生させるために、リジェネラティブが重視されているのだ。
つまり、リジェネラティブは、破壊された環境を復活させるだけでなく、現状よりも良い状態に再生させる考え方ともいえる。
サステナブルとの違い
リジェネラティブに似た言葉として「サステナブル」がある。サステナブルは「持続可能である」を意味しており、環境への悪影響を最小限に抑え、人・社会・経済が持続し続けられる状態を指す。
リジェネラティブとサステナブルは、どちらも環境と社会に配慮するアプローチだが、その目的に違いがある。
サステナブルは「問題の悪化を防ぐこと」に焦点をあて、資源の消費を抑えて現在機能しているシステムの効率的な運用を重視している。
一方、リジェネラティブは、問題の悪化を防いで現状を維持するだけでなく、その先の再生も目的としている。自然のレジリエンスを活用し、環境と社会に対してポジティブな影響を生み出すことを重視している。
リジェネラティブ・アーバニズムが注目されたきっかけ
リジェネラティブ・アーバニズムが注目されたきっかけは、2015年に宮城県仙台市で開催された、国際的な防災戦略の策定を目的とした「第3回国連防災世界会議」である。会議の後、東日本大震災の教訓を活かし、災害に強い都市づくりに活かす試みが始動した。
なかでも、2019年に組織されたカリフォルニア大学ロサンゼルス校と東北大学が中心となり、環太平洋の11大学か参加するプラットフォーム「Architecture and Urban Design for Disaster Risk Reduction and Resilience(通称:ArcDR3)」を中心に、議論が進められてきた。
そして、2022年4月には、ArcDR3が災害に強い新しい都市デザインを提案する展覧会「リジェネラティブ・アーバニズム展」を東京・日本橋で開催し、さらに社会の認知度を高めることとなった。
リジェネラティブ・アーバニズム展:災害のシナリオ別の都市7つの例

リジェネラティブ・アーバニズム展では、災害のシナリオ別に7つの革新的な架空の都市デザインが紹介された。ここでは、それぞれの都市デザインの概要を紹介し、災害の脅威に対してどのようなデザインによって対応するのかを見ていく。
- 水成都市
水成都市は、洪水や干ばつといった水害と共存する都市である。水の循環をテーマに都市を構築することで、水と人間の居住地の共存を可能にしている。
水成都市では、堤防の周辺に貯水池を設けて河川からの浸水を防止したり、雨水をろ過して活用したりと、洪水や豪雨といった水害が起こった際の水のはけ口を設けている。また、一階を店舗、二階以上を住居兼一時的な避難場所にする施設を建設し、浸水時の逃げ場を作っている。 - 共生都市
共生都市は、人間と動植物が共同で作り上げる都市を目指している。人間の生活圏と生物圏の間の隔たりを解消することで、災害リスクを低減するのが目的だ。
共生都市では、動物たちを森林火災から守るため、動物たちを受け入れるシェルターが作られている。また、農作物の栽培・住宅・レジャー施設が集まるプランテーションタワーを設け、太陽光から集めたエネルギーでタワーの電力を担うことで、自給自足の食糧供給システムを生み出す - 遊牧都市
遊牧都市は、海抜が低く、高潮や暴風雨による浸水リスクが高い地域の都市デザインである。水の循環を街づくりに取り入れ、自然現象に柔軟に対応する都市を作り出している。
大きな特徴は、 陸上の交通と運河を連動させている点だ。運河の上空にさまざまな高さで橋が架けられており、豪雨や洪水によって街の浸水リスクが高まると、橋が人の避難や滞留に対応できる災害モードに切り替わる仕組みになっている。 - 群島都市
群島都市は、小さな自治体が群島のようにつながることで、都市の一極集中リスクを回避し、災害に強い都市を作り出している。各自治体が独自の防災策を講じながら、全体としてのつながりを強化している。
海岸近くに建つ高層タワーは強力な杭で支えられている。そのため、地震・台風・高潮に耐えることが可能で、備え付けられた風力発電システムにより暴風を電力に変換する。また、換えられた電気は、タワーで使用されるだけでなく、他の自治体へ供給されたり、災害時の予備電源として機能したりする。 - 火成都市
火成都市は、森林火災が発生しやすい状況下で、火災を防止しながら自然と共生する都市である。
森林火災が多発しそうな場所の住宅は地下に建てられ、土から作られている。また、住宅街の周辺には貯水池が配備され、普段は灌漑農業の場として、山火事が起こった際には貯められた水を使って消火活動に充てる。 - 時制都市
時制都市は、時間をテーマにした都市であり、未来に起こるかもしれない気候変動や自然災害に対応するための街づくりを目的としている。
時制都市の住宅はすべて、海面上昇による潮位の変化や洪水に柔軟に対応する居住ユニットになっている。基本は土地に固定されているが、水位が変動すると浮動式に変えられる特性も持っている。
また「保湿堤防」と呼ばれる、街を浸水から守る役割を果たしながらも、余分な水を蓄える特別な堤防が設けられている。乾季には、その水を農地に分配することが可能なため、干ばつを防止できる。 - 対話都市
対話都市は、干ばつと水不足問題を抱える都市において、住民と行政が一体となり作り出す都市デザインである。
対話都市では、行政と住民が対等な立場となり街づくりを推進していく。住民の意見を反映させることで、地域のニーズに応じた適切な対応が可能になるため、取り残される人がいなくなり、格差の是正にもつながっている。
リジェネラティブ・アーバニズムに関連する取り組み事例

全国においても、災害に強い街・建物づくりに取り組んでいる事例がある。
災害に強いまちづくり宮城モデル |宮城県
2011年3月に発生した東日本大震災にて、沿岸部を中心に壊滅的な被害を受けた宮城県では、震災の教訓を生かして「災害に強いまちづくり宮城モデル」を設定。震災前の状態に戻す復旧・復興にとどめるのではなく、地域の再生と未来の発展に向けた取り組みを推進している。
宮城モデルでは、以下の3点を重視してリジェネラティブ・アーバニズムに沿った、災害に強い街づくりを目指している。
- 多重防御:防潮堤の内陸側に、地面を高くした道路・鉄道・防災緑地(盛土をしてクロマツや広葉樹を植えた土地)の施設を建設する。それにより、居住地を多重に防御し、津波が来た際の減災につなげる。
- 高台移転:津波の被害が予測される三陸沿岸では、住居を高台に移し、津波の影響を受けにくい環境を整備している。また、産業施設と住宅地のあるエリアを分け、災害時のリスク分散を目指している。
- 早期復興:住宅に被害を受けた住民が、仮設住宅から恒久住宅へ早期に移行できるよう、自治体と民間企業との協力による住宅整備を目指している。
サツキPROJECT |岡山県倉敷市真備町
サツキPROJECTとは、2018年7月に発生した豪雨で大きな浸水被害を受けた岡山県倉敷市真備町にて、防災拠点づくりを実現させた取り組みである。
豪雨で犠牲になった人の9割が65歳以上であったことから、災害時の高齢者支援対策が重要だと判明。高齢者介護事業を展開する会社が中心となり、建築家・行政・近隣住民らの協力を経て、このプロジェクトが実現した。
サツキPROJECTを通して、災害時には避難場所として利用可能な共同住宅が建設された。共同住宅には、1階にコミュニティルーム、2階以上に居室を置き、地上から屋上にかけては、車椅子でも直接アクセス可能なスロープを設置。コミュニティルームで住民同士が日々顔を合わせることで、互いに気にかけあった暮らしを送れるようになる。
このように、災害時に集まれる場所を設けることで、高齢者の孤立を防ぐ取り組みを行っている。
まとめ
国内では、地震・洪水・台風を中心に年間を通してさまざまな災害が起こり続けている。また、今後もその脅威がいつ襲ってくるかは分からない。
現状は、災害が起きた際の復興に力を入れているが、それだけではなく、その後も見据えていく必要がある。リジェネラティブ・アーバニズムが目指す”災害に強い街づくり”は、これからの日本でより重要な考え方として広まっていくだろう。
参考文献
リジェネラティブ・アーバニズム展
リジェネラティブ・アーバニズムを求めて|阿部 仁史
災害に強いまちづくり 宮城モデルの構築|宮城県土木部
令和2年度防災まちづくり大賞|消防庁
サツキプロジェクト|岡山県倉敷市ぶどうの家
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