
トランジションタウンとは
トランジションタウンは、パーマカルチャーの理論をもとに、持続可能な環境を目指して作られる町のことだ。ちなみにトランジションとは、「移行」という意味の英語(Transition)である。
トランジションタウンの目的は、自然と人間の生活が共存しながら、持続可能な社会を作ることだ。近年切迫する気候変動や石油危機などの問題に対し、地域の中で適切な量のエネルギーを使ったり、周囲の人との繋がりを大切にしたりしながら、現在の社会構造の脆弱な部分から移行していこうとする考え方がベースになっている。
一人では立ち向かえない大きな課題に対し、地域のみんなで取り組もうとするトランジションタウンは、言い換えれば「地域住民たちで協力し、地球が抱える課題に対して適切な解決策を考える市民運動」ともいえるだろう。
エコビレッジとの違い
トランジションタウンと似たものに、エコビレッジがある。自然も人も持続可能な社会をつくる、という点でトランジションとエコビレッジはほとんど同義で扱われており、同じ取り組みとして活動している場所も存在する。
強いて言えば、エコビレッジは何もない場所から新しく作り上げるのに対し、トランジションタウンは「移行」と示す通り、現在の地域での生活をベースにしながら、徐々に置き換えていく環境づくりを行っている点で異なる。
トランジションタウンの歴史
トランジションタウンは、2005年秋にイギリスで誕生した。パーマカルチャーの講師であるロブ・ポプキンスが、石油の供給量がピークを超えて減少するピークオイルや気候変動問題への対応として、トットネスという小さな町で活動を開始。映画の上映会や技術取得講座、自然エネルギープロジェクトを企画していく中で、徐々にその取り組みに賛同する人が増え始める。
また、地域通貨を発行するなど、地域を巻き込む活動を行政や企業、関連団体と連携しながら行ううちに、やがてイギリス全土に広がっていったという。トランジションタウンの取り組みは今では世界に広がり、およそ50ヵ国で1,000ヵ所以上も存在しているとされる。
トランジションタウンが注目される背景

トランジションタウンへの取り組みが注目されている理由は、現代社会が抱える様々な問題にある。
近代以降の大量生産・大量消費社会は、商品やサービスの生産のため、石油や石炭などの化石燃料を大量に使用することから、相次ぐ気候変動問題を生んでいる。
また、使われなくなったプロダクトが大量廃棄されることで起こる「ゴミ問題」も世界中で深刻な事態に陥っている。また、森林面積の減少による二酸化炭素吸収量の低下も、地球温暖化に関与していることは周知の事実だ。
社会的にも、IT技術の発展によって、現代では人々が気軽に繋がることができる一方、リアルな繋がりは減っている。その結果、隣人の顔も知らないという人もいるほど、人間関係が希薄になってしまっているのだ。
技術の革新や進歩によって、私たちの生活は一変し、便利で豊かな生活を送ることができるようになった。しかし、現在蔓延る環境や社会問題の原因は、人間が理想的な生活を求めすぎたことにあるといえるだろう。
この状況から脱するためには今の生活を捨てることが一番効果的だが、現実的に考えて、そうした対策は不可能だ。そこで、今の生活から徐々に移行し、自然環境も人間関係も持続可能で適切な解決策を生み出そうとするトランジションタウンが注目されるようになったのである。
トランジションタウンの特徴

トランジションタウンは「市民運動」とも言われる通り、地域の住人が自発的に取り組む草の根活動だ。コミュニティの中で様々な人の意見を取り入れながら実践し、活動を共有していく。このような地域でコツコツと行う小さな取り組みが、やがて大きな変化を生むという流れが、一般的なトランジションタウンの成長過程だ。
内容も多岐にわたり、これまで前例がなかった様々な取り組みが行われている。地球全体で考えるべきエネルギー問題や環境問題はもちろん、その地域にある問題を解決するために教育や芸術面から活動を考えることもあり、自由度が非常に高い。
このことからトランジションタウンの特徴は、住民が当事者意識で地域が抱える問題に向き合い、従来の形にとらわれない解決策を考えるという点にあるだろう。
トランジションタウンの取り組み事例
トランジションタウンの取り組みは、実際どのような事例があるのだろうか。ここでは、日本で活動するトランジションタウンと、海外の活動内容について紹介する。
日本
トランジション藤野(神奈川県相模原市)
2008年に藤野へ移住した榎本英剛さんが中心となってスタートしたトランジション藤野は、賛同した地域の人々によって瞬く間に広がったトランジションタウンだ。バー、八百屋、地域通貨などのプロジェクトが行われ、現在では様々な分野のグループが存在している。その取り組みは「社会実験」と称され、無理のない範囲でとりあえずやってみようという意識を大切にしながら活動している。
トランジション川西(兵庫県)
2018年11月に立ち上げられたトランジション川西は、里山地区での食と農の交流会や「食べられる庭づくり」などのプロジェクトを開催している。また、住民同士の信頼関係を築くことを目的に、「してもらったこと」「してあげたこと」を記入する通帳式の地域通貨を試験的に導入。普段から互助精神を養うことで、災害時にも助け合える「ケアの地域自立」を図っている。
海外
トランジション・タウン・トットネス(イギリス)
トットネスにあるトランジションタウンの取り組みは独創的だ。例えば、6~7世帯でエネルギーや食料、輸送、資源について話し合う場を設けたり、レジリエンス(回復力)を高めるためのフォーラムの開催、各地のグループのサポートや活動、イベントを行いやすくなるような場所を提供するなど、発祥地ならではともいえる取り組みを行っている。トットネスのトランジションタウンを体験できるツアーも人気だ。
ウンガースハイム(フランス)
ウンガースハイムは、エネルギーの移行や変革など社会モデルの実験室となることを目指している地方自治体で、村長自身が主導しているトランジションタウンだ。ゼロカーボンやエネルギー自立に関する教育に取り組むほか、教育用のマーケットガーデンや食料主権に特化したワークショップなどを開催している。このウンガースハイムの活動は、2016年にマリー=モニク・ロバン監督によるドキュメンタリー映画『Qu’est-ce qu’on attend?』で一躍有名になった。
トランジションタウンの未来

地球が抱える問題は、大きなものから小さなものまで数え切れないほど存在する。2015年にSDGsが採択されてから、およそ10年が経つ。私たち人類は、今の生活が持続可能なものではないと頭では理解していながら、この便利で豊かな生活を捨てることは到底出来ないだろう。
トランジションタウンは、そうしたジレンマから少しずつ抜け出すための重要な概念となるものだ。一人ひとりの力は小さなものかもしれないが、住民同士で手を取り合い、出来ることを出来る人から行っていく。それも、地球規模の壮大な話ではなく、地域の中という自分たちの手が届く範囲の話だ。
「環境問題や社会問題の解決」というように、大きな課題と捉えると尻込みしてしまうものである。しかし、「より良い未来のために今出来る範囲で移行していく」というトランジションタウンの考え方は、多くの人にとって参加しやすいもので、持続可能な世界をつくるための第一歩として、ますます注目されていくだろう。
まとめ
2005年、イギリスの小さな町で生まれたトランジションタウン。持続可能な社会をつくるための重要な概念として今や世界中に広がっている。
近年、気候変動問題や貧富の格差など、環境面でも社会面でも解決すべき問題が山積みになっている。トランジションタウンは、こうした問題に対し、自分が暮らす地域の中で適切なエネルギーを使い、住民が協力しながら地域を豊かにする生活を提案している。
様々なエコ活動や社会活動がある中、トランジションタウンは「移行する」という点で、どんな人でも取り組みやすいというのも特徴だ。「何からしていいか分からない」という人も、トランジションタウンの取り組みを知ることで、何か見えてくるものがあるかもしれない。
Edited by k.fukuda
参考サイト
トランジション藤野
トランジションタウン川西のホームページ
Transition Town Totnes
トランジション ―フランス・ウンガーサイム村のエコまちづくり|岩淵泰、酒井健地
トランジション・タウンの概要 | Transition Japan
世界各地に広がる市民運動「トランジション・タウン」って? 地域の暮らしを考え、変えていく「藤野トランジションの学校」開校! | greenz.jp グリーンズ






















秋吉 紗花
大学では日本文学を専攻し、常々「人が善く生きるとは何か」について考えている。哲学、歴史を学ぶことが好き。食べることも大好きで、一次産業や食品ロス問題にも関心を持つ。さまざまな事例から、現代を生きるヒントを見出せるような記事を執筆していきたい。( この人が書いた記事の一覧 )