
ナイトタイムエコノミーとは?
ナイトタイムエコノミーとは、夜間に行われる経済活動のこと。日本語では「夜間経済」「夜間消費」などと言われ、略して「NTE」と表記されることもある。
具体的には、「ライトアップイベント」や「ナイトツアー」といった夜間特有の魅力を創出するイベントなどで、これまで十分に活用してこなかった夜間における観光資源を活用すること。主に国内外からの観光客による消費活動の拡大を目指して、自治体や企業などが取り組みを進めている。
一般的には日没から夜明けまでの時間帯とされるが、観光庁が2019年に公表した「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」(*1)では、「18時から翌日朝6時までの活動」と定義している。
ナイトタイムエコノミーを推進する動きは、訪日観光客の増加を目指して、2015年頃に日本国内で活発化したのち、新型コロナウイルス感染症拡大によって一時的に減速した。だが、2024年は1月〜10月の推計値で訪日外客数が3,000万人を突破し、過去最高を更新する勢いで海外から観光客が訪れるなど、インバウンド客が戻ってきたことで再び注目されている。
ナイトタイムエコノミーが日本で注目される背景

日本では、主に夜間は休息の時間にあてられ、積極的に活動する人は一部に限られている。しかし海外からの観光客が増加しているのに伴い、「日本の夜はつまらない」「夜間に楽しめるエンタメが不足している」「夜間の移動が難しい」といった声が聞かれるようになった。
そこで未活用だった夜間の時間帯を活用することで、訪日観光客の満足度を上げ、さらに新しい市場を開拓できると考えられた。夜間に外出することが一般的な欧米ではナイトタイムエコノミーが定着し、経済効果を生んでいることもあり、日本においても積極的に導入しようという動きが活発化した。
またナイトタイムエコノミーは、地方にある文化的あるいは歴史的な魅力にスポットライトを当てられるのも特徴だ。都市部だけではなく、地域経済の活性化にとってもナイトタイムエコノミーが重要なテーマになっている。
ナイトタイムエコノミー推進の動き
日本国内では、2015年頃からナイトタイムエコノミーを推進する動きが活発になっている。それまでは、ダンスクラブなどのエンタメ系の施設は夜12時以降の営業が規制されていたが、風営法改正により営業が可能になった。
その翌年の2016年には「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(IR推進法)」が成立し、複合観光集客施設内におけるカジノが解禁された。また2017年には、経済産業省や国土交通省、観光庁、文化庁、内閣府の担当者が集結し、「時間市場創出推進議員連盟」(通称ナイトタイムエコノミー議員連盟)が発足している。
政府によるナイトタイムエコノミー振興策も数々実施されており、2015年には内閣府が「ゆう活」キャンペーンを実施したほか、経済産業省が「プレミアムフライデー」を導入した。2018年には「夜間の観光資源活性化に関する協議会」を観光庁が開催。その後も、夜間観光のモデル事業や推進事業などを積極的に実施している。
自治体レベルでもナイトタイムエコノミーの推進を行っており、東京都と公益財団法人東京観光財団では夜間や早朝に行われるイベントの実施や情報発信に対して「ナイトタイム等(夜間・早朝)における観光促進助成金」として補助金の交付を行っている。同様に、東京都港区や栃木県宇都宮市でも「ナイトタイムエコノミー補助金」を実施している。
ナイトタイムエコノミーのメリット

ナイトタイムエコノミーに取り組むことで、経済効果を生むなどのメリットがある。
経済効果が見込める
日中に比べると、夜間は消費活動や経済活動が落ち着く傾向にあるが、ナイトタイムエコノミーを推進することで、これまで活用されなかった夜間の消費機会が増え、消費が拡大される。
例えば、通常17時に閉まる動物園や美術館などが18時以降にナイトツアーを行う場合、追加収入を得ることができる。また移動のために交通機関を使ったり、飲食や宿泊するなどで経済効果はさらに大きくなると想定できる。
なお、「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」(*1)によると、海外におけるナイトタイムエコノミーの経済規模は、ロンドンが約3.7兆円、ニューヨークが約2.1兆円としている。
雇用が創出される
施設や店舗などが営業時間を早朝まで延長したり、夜間に特別営業するといった場合、それに伴い労働力が必要になる。そのため、新たな雇用が創出されることになる。
前述した国土交通省の「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」(*1)によると、ナイトタイムエコノミーによる雇用者数はロンドンで約72万人、ニューヨークで約19万人としている。
歴史や文化などの魅力が活かされる
ナイトタイムエコノミーでは、幅広いコンテンツの開発が必要となる。例えば、神社仏閣やお城などをライトアップするイベントでは、歴史的な建造物に新たな魅力が加わることになる。つまり、ナイトタイムエコノミーの推進は、地域に眠る観光資源が再び脚光を集めるきっかけにもなる。
オーバーツーリズムが解消される
ナイトタイムエコノミーは、一つの場所に多くの観光客が訪れることで発生するオーバーツーリズムの解消にも貢献する。日中だけではなく、夜間や早朝などでもコンテンツが楽しめるため、観光客が観光地を訪れるタイミングが分散されるからだ。
ナイトタイムエコノミーの代表的な例
ナイトタイムエコノミーにつながるイベントとしては、これまでも実施されているものもある。例えば、ライブやコンサート、クラブイベントなどだ。
また、スポーツイベントは日中に行われることもあるが、プロ野球はナイターで行われるケースが多い。平日の夜に競馬を開催する例も増えており、ナイトタイムエコノミーに貢献する代表的な例と言っていい。
一方、地域の観光資源を活用したライトアップイベントやプロジェクションマッピングイベントは、非日常の体験を提供。動物園や美術館、博物館などの夜間営業も、夜間というシチュエーションによって新たな魅力を創出される。
このほか、フリーマーケットを夜に開催するナイトマーケットといったイベントなども、ナイトタイムエコノミーの代表的な例と言える。
ナイトタイムエコノミーの事例

ナイトタイムエコノミー推進の動きは各地で見られるが、代表的な例として以下の3つを紹介する。
ライトアップイルミネーション|長崎県長崎市
「世界新三大夜景」の一つ長崎県長崎市では、世界一の夜景都市を目指して「環長崎港夜間景観向上基本計画」を2017年に策定。国土交通省が実施した「景観まちづくり刷新支援事業」を活用するなどし、観光施設などのライトアップやそれらをめぐる周遊ルートの整備などで「中・近景の夜間景観づくり」を実施している。
また「夜間景観整備事業」として、ライトアップをする観光名所を順次拡大。浦上天主堂や眼鏡橋、出島ワーフ、長崎県美術館、長崎中華街などのほか、2024年6月にはどんどん坂とオランダ坂のライトアップも開始している。
山花火と棚田ライトアップ|新潟県長岡市
「雪の恵みを活かした稲作・養鯉システム」が日本農業遺産に認定されている新潟県長岡市の山古志地域。特有の棚田と棚池を生かした山花火と棚田ライトアップを組み合わせて、観光コンテンツを開発している。
この取り組みは「日本農業遺産山古志の棚田・棚池ライトアップと山花火〜山古志のおもてなし」として、「令和2年度 夜間・早朝の活用による新たな時間市場の創出事業」に採択された。
また、ライトアップされた棚田・棚池をウォーキングできる「やまあかり」も開催。開催期間中に、国指定重要無形民俗文化財でもある「牛の角突き」のイベントを日中に行い、夜間に楽しめる「やまあかり」と組み合わせる試みもしている。
平安神宮コンサート「月音夜」|京都府京都市
平安遷都1100年を記念して1895年に創建された平安神宮(京都府京都市)。平安時代に優雅なたしなみとして京都から広がった月見文化を現代風に再現し、「月音夜」としてコンサートも行っている。
この「平安神宮コンサート月音夜」は、インバウンド消費の拡大を目指して観光庁が実施する「特別な体験 の提供等によるインバウンド消費の拡大・質向上推進事業」に採択された。2024年10月12日〜14日には、特別ライトアップされた平安神社を舞台に豪華アーティストによるスペシャルライブが開催され、鑑賞チケット付きのツアーなども実施している。
ナイトタイムエコノミーで懸念されること
ナイトライフを楽しむ文化をもつ欧米人とは違い、日本人には夜間に積極的に活動するという習慣は馴染みがない。仕事で疲れた心身を癒し、翌日に備えるために「夜は静かに過ごす」ことを優先する文化があるからだ。こうした国民性を背景に、ナイトタイムエコノミーが定着するのかは不透明という指摘がある。
また、夜間の外出には飲酒が伴うケースも多く、治安の悪化が懸念されている。実際に、いわゆる「路上飲み」が常態化し、治安が悪化したり、ゴミ放置などのトラブルが頻発したことで、2024年10月1日から、渋谷駅周辺の路上や公園などで飲酒が禁止された。〝眠らない街〟と言われる新宿区でも、ハロウィンなどの期間に限って路上飲酒を禁止する条例が制定された。こうした動きが今後、ナイトタイムエコノミーの推進にどのように影響するかも注目されている。
このほか、一人で静かに楽しみたいという旅行者に敬遠される可能性があるという指摘もある。
まとめ
夜間も積極的に活動するインバウンド客が増加したことで、日本でもナイトタイムエコノミーが注目されるようになった。政府がモデル事業などを採択して、ナイトタイムエコノミーへの取り組みを推進するなか、ビジネスチャンスにつながるとしてナイトツアーやライトアップなどに取り組む企業や自治体も多い。
治安の悪化が懸念されているが、経済効果も大きく、新しい体験の創出が人生の豊かさや地域活性化につながるといった期待もある。地域で、夜間のイベントが開催される事例も報告されており、これまでとは違った夜間の過ごし方、あるいは休日の過ごし方の参考になるのではないだろうか。
Edited by k.fukuda
注解・参考サイト
注解
*1 ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集による。
参考サイト
ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集|国土交通省観光庁
With/Afterコロナにおけるナイトタイムエコノミーとは|JRIレビュー
ナイトタイムエコノミーの振興について|日本総研






















倉岡 広之明
雑誌記者として活動した後、フリーライターとして独立。さまざまなジャンルの記事を執筆しているが、北海道で生まれ育ったこともあり、自然環境や気候変動、SDGs、エネルギー問題への関心が深い。現在は、住宅やまちづくり、社会問題、教育、近代史など、多岐にわたるテーマを手がけている。
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