ダイベストメントとは?世界中に運動が拡大した背景や日本の動きを解説

ダイベストメントとは?

「ダイベストメント(divestment)」とは、環境問題や人権を重視しない企業の株や債券、投資信託を手放すこと、あるいは投融資している資金を引き揚げることを表す。日本語では「融資撤退」や「投資撤退」と訳される。元々は「売却」や「処分」という意味の言葉で、「投資」を意味する「インベストメント(investment)」とは正反対の意味として使われる。

また、「ダイベストメント運動」を指す場合もある。ダイベストメント運動とは、大学や学生、機関投資家、NGOなどが主導し、環境問題や人権を重視しない企業からの投融資の撤退を求める運動のこと。2010年頃からアメリカで見られるようになり、現在では日本を含む世界中に拡大している。

ダイベストメント運動のはじまり

ダイベストメントが注目されているのはここ数年のことだが、そのはじまりは1980年代とされる。当時、ダイベストメントの対象となったのは、アパルトヘイト政策を行っていた南アフリカ共和国や、オゾン層破壊物質などに関連する企業だ。

1980年代の南アフリカ共和国では、人種によって社会階級が決まるアパルトヘイト(人種隔離政策)を行っていた。これに対して、アメリカ国内の大学や都市が南アフリカ共和国と取引を行っている企業から融資していた資金を引き揚げた例がある。これがアパルトヘイトの廃止につながったとも言われる。

1990年代には、フロンなどの物質がオゾン層を破壊することが問題となっていた。こうした背景の中、アメリカの投資会社がオゾン層破壊物質で事業活動をしていた企業から資金を引き揚げた例などが知られている。

また、2010年代にダイベストメント運動が拡大した発端は、スワスモア大学(アメリカ・ペンシルベニア州)の学生たちの運動とされる。大学への寄付金が石炭採掘事業に投資されていたことを知った大学生が、大学に対して投資撤退を求めたのだ。

このダイベストメント運動は、教育機関から慈善団体、宗教組織に加えて、地方自治体や金融機関などにも拡大した。2013年にニューヨークで開催された国連気候サミットにおいて、アメリカのオバマ大統領(当時)がダイベストメント運動への支持を表明したことも知られている。

ダイベストメントの目的

ダイベストメントは、投融資する企業や金融機関、機関投資家が、環境問題や人権侵害を軽視する企業を支援しないことの意思表示になる。資金の引き揚げを行うことで事業活動に影響を与えるため、資金提供先の企業がESGに対する姿勢を改める機会にもなりうる。

投融資を受けている企業は、投資対象から外されたり、融資を引き揚げられる可能性もあるため、金融機関や機関投資家などがダイベストメントの姿勢を表明することで、企業への圧力をかけることができ、結果的に地球環境や人権問題の視点を社会全体でもつことへの貢献となる。

ダイベストメントが広がっている背景

ダイベストメントが広がっている背景

気候変動リスクの高まりや、それに伴うESG投資の拡大がダイベストメントの広がりを後押ししている。

気候変動リスクの高まり

気候変動リスクとは、気候のパターンに変化が起きることで生じるリスクのこと。自然のバランスが崩れて「干ばつの増加」「海面の上昇」「食糧不足」「強制移住」などが起き、人間を含む地球上のすべての生命体が危機に直面するリスクを指す。

こうした地球環境問題に対して、2015年のパリ協定をきっかけに世界は脱炭素社会の実現を目指している。「地球環境に影響を及ぼす企業は責任ある対応をするべき」という考えのもと、ダイベストメントに向けた動きが活発化していると考えられる。

ESG投資の拡大

ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮しながら事業活動をしている企業に対して行う投資を指す。国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)によると、2022年のESG投資額は30.3兆ドルにのぼり、2016年の20.8兆ドルと比較して、約10兆ドル(約1,500兆円)の増加になっている。

このようにESGに配慮した企業への投資を優先する機運が高まっており、その潮流の中で、ダイベストメントにつながっていると考えられる。

座礁資産化リスクへの懸念

座礁資産とは社会環境の変化により市場での価値が失われる資産のこと。気候変動対策の重要性が高まる中、エネルギー源が、石油や石炭などの化石燃料から再生可能エネルギーに急速に移行していることで、化石燃料関連企業の収益または資産は座礁資産化するリスクが高まっている。

こうした状況下において、化石燃料関連会社に投融資する金融機関や機関投資家としては、早めに資金を引き揚げた方が安全という判断になり、これがダイベストメントの動きにつながっている。る。これがダイベストメントの動きにつながっている。

ダイベストメントの対象となる事業活動

ダイベストメントは、主に化石燃料関連企業や地球破壊につながる事業活動を行う企業、またはそれらの企業に投融資する金融機関や機関投資家などが対象になる。具体的にどのような企業が「投資に値しない」と判断され、ダイベストメントの対象になるのだろうか。

環境破壊につながる企業

気候変動リスクの高まりから、ダイベストメントの対象になっているのが、地球環境破壊につながる事業活動を行っている企業だ。中でも代表的なのは化石燃料に関連する業界だ。

世界で初めて化石燃料業界から公的資金を引き揚げる法案を制定したのがアイルランド。2018年7月に「化石燃料ダイベストメント法案2016」を可決し、2019年にアイルランド戦略投資基金「ISIF」が化石燃料関連銘柄のダイベストメントを行った。

こうした動きは急速に拡大し、2021年時点で世界の1485機関が化石燃料関連企業からのダイベストメントを実施した結果、これまで39.2兆ドルの資金が引き揚げられたと報告されている。

人権侵害や健康被害を引き起こしている企業

人権侵害を行っている企業も、ダイベストメントの対象になっている。1980年代に南アフリカ共和国のアパルトヘイトの撤廃を求めて、アメリカを中心にダイベストメント運動が巻き起こったが、これはダイベストメント運動の成功事例の一つだ。

2021年に発生したミャンマーのクーデターでは、軍政により市民弾圧が続き、人権が侵害されていると見なされていた。こうした中、日本にはミャンマーの軍政と関係の深い企業や事業に投融資している金融機関が多く、国際環境金融NGO「バンクトラック」からダイベストメントを求める声が上がった。2023年には、ノルウェーの公的年金基金「GPFG」がこの問題を注視し、日本企業2社をダイベストメントの観察対象に指定したと発表している。

また、健康被害につながるアルコールやタバコ、ギャンブル関連の企業などもダイベストメントの対象になる傾向がある。

戦争など非人道的な行為に加担している企業

武器や兵器を製造する企業も、人道的な立場から許容できないとしてダイベストメントの対象になる事例が多い。保険世界大手仏アクサの運用子会社が、2016年にイスラエルの軍需会社エルビット・システムズからのダイベストメントを決定したことなどが知られている。

また、NGO団体・WORLD BEYOND WARは、ダイベストメントを一つの戦略として、武器製造業者、軍事請負業者、および戦時利得者から公的・私的資産を失くすことを目的に活動している。

世界におけるダイベストメントの事例

世界におけるダイベストメントの事例

世界各国でダイベストメントが行われているが、代表的な事例を紹介する。

アメリカ「ロックフェラー財団」

ダイベストメント運動の初期にあたる2014年に、化石燃料に対する投資の撤退を宣言したのが「ロックフェラー兄弟財団」だ。石油ビジネスで巨万の富を築いたジョン・D・ロックフェラーが組織した慈善事業団体「ロックフェラー財団」の姉妹財団だっただけに、大きな話題となった。

その後、ロックフェラー財団も、2020年12月に化石燃料に対する投資からの完全撤退を表明。同時に、自然エネルギー経済に移行するために積極的に投資することも発表した。ロックフェラー財団は世界最大規模の慈善事業団体とされる。

ノルウェー議会

世界最大の政府系ファンドを有しているノルウェーでは、2015年6月にダイベストメントを議会で決定。中央銀行投資管理部門「NBIM」が運営する政府年金基金グローバルの運用方針として、石炭資産を30%以上有している企業からの投資の引き揚げを財務省が指示した。投資を引き揚げた59社の中には日本企業も入っていたとされる。

その後も社会情勢に合わせて、サステナビリティリスクに基づくダイベストメントを実施。2021年には、合計約300社を投資対象外としたことも発表している。

オランダ公務員年金基金「ABP」

オランダの公務員年金基金である「ABP」は、2018年に人間の心身にとって有害であるとして、タバコと核兵器の生産者に対するダイベストメント方針を発表した。

また2020年には、2050年までに炭素排出量を実質ゼロにする方針を発表。達成に向けて石炭採掘関連企業への投資を段階的に減らし、2030年までに発電用の石炭への投資を中止するとしている。

日本におけるダイベストメントの動き

日本は資源小国で、石油・石炭などに頼らざるを得ないエネルギー事情がある。そのため、グローバルな視点で見ると、ダイベストメントに関連する動きは遅れている。

例えば、2017年〜2019年9月の石炭産業に対する融資総額の世界トップ3は、日本のメガバンクである「みずほフィナンシャルグループ」「三菱UFJフィナンシャル・グループ」「三井住友フィナンシャルグループ」が独占している

ただし、以下の例のように、ダイベストメントに向けた動きも出はじめている。

  • 三井住友信託銀行
    2018年に、新規の石炭火力発電プロジェクトには原則として取り組まない方針を発表
  • 第一生命保険
    2018年に、海外での石炭火力発電建設事業へのプロジェクトファイナンスを禁止
  • 日本生命保険
    2018年に、国内外の石炭火力発電プロジェクトに対する新規投融資を禁止。2023年には、石油とガスの採掘プロジェクトも投融資の対象外にした
  • 明治安田生命保険
    2018年に、石炭火力発電向けの新規の投融資を原則取りやめ。石炭火力の整備を目的とした企業への投融資も停止
  • みずほフィナンシャルグループ
    2020年に、石炭火力発電所の新規建設を資金使途とする投融資を禁止
  • 三井住友銀行
    2020年に、超々臨界(USC)あるいはそれ以上の高効率の案件に限定

また、三菱UFJフィナンシャル・グループでは火力発電事業への融資基準の厳格化(2021年)、「三井住友トラスト・ホールディングス」では環境負荷の大きい事業への原則融資停止(2020年)といった方針も発表している。

ダイベストメント運動の意義

ダイベストメント運動の当初の目標は「化石燃料企業の政界への影響力をなくす」というものだったが、世界中で化石燃料の消費を止める動きが拡大した。その中で表面化したのが「化石燃料と関わるリスク」だ。

国際環境NGO・350によると、2014年以降、投資撤退が公式に発表された資産総額は75,000%以上増加したという。前述した以外にも、ハーバード大学やカナダの年金基金「CDPQ」、フランス郵便局が運営する銀行「ラ・バンク・ポスタル」、フォード財団などダイベストメントを表明した機関が増え、件数の増加率は720%となっている。

化石燃料関連資産の座礁資産化も顕著になっている。2020年には、ダウ平均株価の構成銘柄から石油大手企業のエクソン・モービルが除外された。1928年から採用されてきた最古株だっただけに大きな話題となった。

このようにダイベストメントまたはダイベストメント運動が、社会構造の転換に大きな影響力を持つようになっている。

地球にやさしい取り組みを行うCOOL BANK

企業は、金融機関との取引を見直すことで、間接的にはなるが気候変動リスクに貢献することができる。

例えば、国際環境NGOの・350が紹介しているのが地球にやさしい「COOL BANK」だ。350は化石燃料社会から再生可能エネルギー社会への移行を目標に掲げる団体で、気候変動に効果的なアクションなどの最新情報を提供している。

このうち、原子力発電所関連や気候変動に影響を及ぼす企業に投融資をしていない金融機関合計59行を「COOL BANK」として紹介している。このようなアプローチで、地球環境問題に取り組むこともできるのだ。

まとめ

環境問題や人権問題の解決に向けて、ESG投資など金融分野からアプローチしていく動きが活発になっている。ダイベストメントも資金提供において、金融機関から企業に対しての圧力や意思を伝達する手段になるが、投融資を「撤退する」というより強いメッセージになる手法でもある。

現在の世界中の社会課題の元凶を資本主義とする見方も強まっているが、資金の流れをコントロールすることで、資本主義という原理の中で豊かさを追及することができるのだろうか。ダイベストメントなどの実践によって、その実験が始まっている。

参考記事
これまでの御指摘事項について|環境省
ダイベスト・インベスト運動とは?|350ACTIONJP
COOL BANK|350ACTIONJP

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