バーチャルウォーターとは
バーチャルウォーターとは、ある食料を輸入する際に、生産する過程でどれほどの水が使用されるかを示す概念である。つまり、他国との貿易で取引される「目に見えない水の量」を指す。1990年代初頭に、ロンドン大学のアンソニー・アラン氏が唱えたもので、「仮想水」とも呼ばれる。
私たちが食べたり使用したりするものには、見えない形で膨大な水が使われている。農作物は水を吸って生長し、家畜はそれを食べて大きくなるように、食料が私たちの食卓に並ぶまでには、実は多くの水が使われている。目に見えない水を意識することで、私たちは自分たちが世界の水問題にどれだけ関与しているかを理解できる。
世界で使われる水のうち、農業に使われる割合は約70%を占め、工業用水が約20%、生活用水が約10%である。日本人が一日に消費するバーチャルウォーターの量は約2,500ℓとされ、これは一日に利用している生活用水の約300ℓを大きく上回る。私たちが、いかに「無意識のうちに大量の水を消費しているか」が分かるだろう。
食料自給率との関係
国内で直接使用される水以外に、輸入品を通じて他国の水資源も消費している。農業に多くの水を必要とするため、自給率が低い国は他国の水に依存しているといえる。この依存は、輸入先国の水不足を加速させる可能性があるため、国際的な協力と持続可能な水管理が求められている。
日本の食料自給率は低く、約37%である。残りの63%は輸入に頼っている状況であり、その生産過程で使われた水も含め、間接的に大量の水を消費している。食料自給率を向上させることで、輸入先国の水資源への負担を軽減することにつながる。
降水量との関係
降水量が多い地域では、農業や工業に必要な水資源が豊富で、バーチャルウォーターの輸出も盛んになる。一方、降水量が少ない地域では、水の確保が難しく、輸入に依存することが多い。
特に、農業用水の確保が難しい乾燥地域では、他国からの食料輸入が重要な役割を果たす。では、日本の降水量はどうだろうか。国土交通省によると、2023年の世界各国の降水量は、以下のグラフに示される。
日本は年間降水量が約1,668mmと豊富で、これは世界平均の約1.4倍にあたる。しかし、人口密度が高いため、1人当たり年間で使える水量は約5,000m3と、世界平均の4分の1に過ぎない。日本は水が豊富でありながらも、人口密度が高いため、1人当たりの利用可能な水量は限られている。
身近な食べものに使われている水の量

バーチャルウォーターという概念は目に見えないため、どの食料にどの程度の水が使用されているのか把握しにくい。また、食料の種類によっても必要な水の量に差がある。ここでは、身近な食品を例に、具体的な量に注目してみる。()内は、500㎖ペットボトルに換算した場合の本数だ。
ハンバーガーと牛丼
「ハンバーガー」と「牛丼」には、どちらも牛肉が使われている。しかし、バーチャルウォーターの量で比較してみると、牛丼の方が約2倍の水が必要とされることが分かる。それぞれの内訳は以下の通りだ。
ハンバーガー:999ℓ(2,000本)
●牛肉45g:927ℓ(1,854本)
●パン45g:72ℓ(144本)
牛丼:1,889ℓ(3,780本)
●牛肉70g:1,442ℓ(2,884本)
●たまねぎ20g:3.16ℓ(6本)
●ごはん120g:444ℓ(888本)
コーヒーと日本茶
コーヒーと日本茶はどちらも飲み物であるが、それぞれの食材に使用される水の量は実に10倍以上である。
コーヒー:210ℓ(420本)
●コーヒー10g:210ℓ(420本)
●水90cc:0.09ℓ
日本茶:19ℓ(40本)
●日本茶3g:19.06ℓ(38本)
●水90cc:0.09ℓ
各食材のバーチャルウォーター量を知りたい場合は、環境省のウェブサイトにある「仮想水計算機」を使うと便利だ。この計算機に食材の重量を入力すると、自動的に計算される。
地球上にある水の量
地球は水の惑星と呼ばれ、表面の約70%が海洋で覆われている。地球上の水の総量は約14億立方キロメートルと推定されており、そのうち97.47%が海水などの塩水で、淡水はわずか2.53%にすぎない。この淡水のほとんどは南極や北極の氷や氷河、地下水として存在する。そのため、人が容易に利用できる河川や湖沼の淡水は、地球上の水全体のわずか0.008%である。
水は海や河川に留まらず、太陽のエネルギーによって蒸発する。雲となって雨や雪となり再び地表に降るという循環を繰り返しているのだ。この水循環によって海水が淡水化され、私たちが利用できる水が作り出されている。このため、一時的に河川や湖沼に存在する淡水の量ではなく、絶えず循環する水の一部として利用可能な水が重要である。
先進国における現状

水資源が豊富な国が輸出し、水不足に悩まされている国が輸入すれば、地球上の水の需給バランスが取れるかもしれない。しかし、実際はそうなっていない。特にアメリカ・日本・ドイツなどは、主要な輸入国として知られている。自国の水資源が潤沢である一方で、高い消費量を賄うため、輸入品を通じて他国の水を大量に必要としているのだ。
一方で、インドやパキスタンなどは、国内での水不足が深刻化する問題が生じているにもかかわらず、農産物を通じて多くの「見えない水」を他国に輸出している。例えば、インドは世界第3位の地下水輸出国であるが、多くの地域で日常生活に必要な水が不足している。
もちろん、バーチャルウォーターを多く輸入していること自体が悪い訳ではない。地球上では、地理的な影響により、雨が降りやすい地域もあればそうでない地域もある。例えば、水不足が深刻な中東では、輸入により自国の水を節約している国もある。どの国でも一様に同じような農作物が育てば良いかもしれないが、そういう訳にもいかない。そのため、自国内でカバーできない分は他国からの輸入に頼る必要がある。
日本の現状
水が豊かで水問題とは無縁だと思われがちな日本だが、食料の多くを国外からの輸入に頼っているため、各国で起こっている水不足問題と無関係ではない。食料を通して大量の水を他国から間接的に輸入しているのである。その理由の一つは、農畜産物を生産するために必要な平地が少ないことだ。
日本は山が多く、農地の確保が難しいため、国外からの輸入が多い。その結果、食料生産に必要な水も国外に依存せざるを得ない状況にある。国内で生産するための土地や水資源が限られているため、主要な穀物や畜産物は国外から調達し、その際に目に見えない大量の水が輸入される。
また、日本の食生活は近年大きく変化し、米の消費量が減少する一方で、肉やバターなどの欧米型の食品が増加している。特に、中国北部やアメリカ中西部など、日本に農作物を輸出する地域では、農業用水が多く使用され、水不足の危機に直面している。カリフォルニア州では干ばつが原因で農業用水の確保が難しくなり、農家の失業が相次いでいる。これらの状況は、日本の食生活が他国の水資源に大きく依存していることを示している。
世界で深刻化する水不足問題

世界では深刻な水不足問題が広がっている。特に発展途上国や乾燥地帯では、住民が安全な水を得ることが難しい。衛生設備の不足も相まって、不衛生な水を飲むことで病にかかり命を落とす人々も少なくない。世界では22億人が安全に管理された水を使用できず、7億8,500万人は基本的な水サービスを受けられない現状だ。これらの地域では、生活排水がそのまま河川に流されることで水質汚染が進行し、飲み水が確保できない状況が続いている。
さらに、地球温暖化も水不足の一因だ。温暖化によって河川や湖沼の水温が上昇し、水質悪化を引き起こすことが懸念される。また、世界的な人口増加や農業用水の使用増加も水不足を悪化させている。特に農業用水は世界全体の約70%を占めており、農業の発展に伴い水資源の消費が増加している。
こうした状況を踏まえ、国際社会は水の効率的な利用と持続可能な管理が求められている。水不足問題は単なる地域の問題ではなく、グローバルに取り組むべき課題としての認識が強まっている。
バーチャルウォーターを減らすために
バーチャルウォーターの輸入が多い国は、水資源の豊富な国から少ない国へと水を貿易している場合もあれば、その逆もある。これは、水が豊富な国の資源を有効活用しているケースもあると考えられるが、持続可能性の観点から問題が生じる可能性もある。
バーチャルウォーターを減らすためには、私たち一人ひとりができることから取り組むことが必要である。まず、食料自給率を上げることが挙げられる。日本が自国で食料を生産することで、他国の水資源に依存せず、持続可能な食料供給が可能となる。
さらに、日常生活での節水を心がけることも大切だ。「水道の水はこまめに止める」「お風呂の残り湯を再利用する」など、身近なところから始められる。また、地産地消を推進することで、輸送にかかるコストや環境負荷を減らし、食料自給率の向上にもつながる。
食品ロスを減らすことも重要だ。食品を無駄にせず、計画的に購入・消費することで、バーチャルウォーターの浪費を防げる。ヴィーガン食など、環境に配慮した食生活を取り入れることも効果的だ。家畜の飼育にかかる水の使用量を減らし、環境への負荷を軽減できる。
まとめ
バーチャルウォーターは、私たちが日常的に消費する食料や製品の生産過程で使用された「見えない水」を指す。日本のように食料を輸入に依存することで、世界の水不足問題と直接的に結びついていることが可視化される概念ともいえる。
グローバルな食料貿易の中で、各国がどのように水資源を管理し、持続可能な方法で利用していくかが問われている。私たち一人ひとりがバーチャルウォーターの概念を理解し、日常生活での選択を見直すことが、未来の水資源保護につながるだろう。バーチャルウォーターを持つことで、地球規模の水不足解消と持続可能な社会の実現につながるはずである。私たち一人ひとりにも、取り組めることがあるはずだ。
参考記事
Virtual water 世界の水が私たちの生活を支えています|環境省
水循環について|内閣官房
世界の水問題の原因とは | 世界の現状や具体的な取り組みを解説|World Vision
関連記事
まだ表示できる投稿がありません。
新着記事










