つながらない権利
「つながらない権利」(Right to Disconnect)とは、勤務時間外に上司や同僚、後輩、クライアントからの連絡に応じるなど、業務に関する電話、メール、メッセージに対応する義務がないことを主張する権利のことだ。
「つながらない権利」が近年注目されている背景には、リモートワークやデジタルデバイスの普及が関係している。いつでもどこでも働けるようになったことで、自由になるどころか、プライベートに仕事が侵食してきていると感じる人も少なくないようだ。このような状況において、ワークライフバランスを保つことが難しくなり、人々のウェルビーイングの低下を引き起こしている可能性もある。
つながり続けることが常態化している今、「つながらない権利」の重要性も増していると言えるだろう。
「つながりすぎる」働き方の弊害が、「つながらない権利」を生んだ

「つながらない権利」が主張されるようになったのは、「つながりすぎる」弊害が明らかになってきたからだ。
スマートフォンやパソコン、タブレットなどが普及し、会社に行かなくても家やカフェで効率的に仕事ができるようになったことは、当初、喜ばしいことだと思われていた。しかし、働き方が自由になるに従って、会社を退勤したら仕事は終わり、というこれまでのメリハリが失われていくという弊害も現れた。業務時間外にも業務連絡が届いたり、サービス残業をしたりすることも増えた結果、実質的な業務時間が長引き、過重労働になってしまうケースもある。四六時中仕事とつながった結果、うつ病や、燃え尽き症候群になってしまう人も現れている。
「つながらない権利」は、労働者のワークライフバランスを整え、心身の健康を保ちながら働くことを目指すために生まれた言葉だと言えるだろう。
欧州の対応|法的に認められた「つながらない権利」
日本では「つながらない権利」は法律では保障されていない。しかし、ヨーロッパに目を向ければ、法整備が始まっている国もある。
フランス|「つながらない権利」が法律に明記されている
2016年、フランスでは改正労働法に「つながらない権利」を盛り込んだ。これにより、労働者は業務用の携帯やタブレットの持ち運びが義務付けられている場合であっても、業務外であれば電話に出たり、メールを返信したりすることを拒否する権利が法的に保障されることになった。
また、50人以上の従業員がいる場合、「業務時間以外の連絡をどのように取るか」について、会社と従業員は取り決めを行い、書面で残さなければならない、とも定められた。こういった法的縛りは、連絡手段を明確にし、限定することで、「いつでも、どこでも仕事の連絡ができる」という状態をなくすことができ、「つながらない権利」の保障に役立っている。
ドイツ|労働組合が「30日間のつながらない権利」を勝ち取った
ドイツでは「つながらない権利」に明言した法規制は存在しない。
しかし、民間レベルでは「つながらない権利」を労働者に保障している企業は多い。ドイツでは、1963年に施行された連邦休暇法によって、一年間の有給休暇は最低でも24日以上必要だと定められている。しかし実際には、多くの企業が、労働者に毎年約30日の有給休暇を与えている。
そのため、従来は会社と従業員の間で、「法律で定められた24日の有給休暇の間は、労働者は会社から連絡に応じる必要はない。しかし、残りの6日に関しては、緊急の場合は応対する必要がある」という取り決めが交わされていることが多かった。
2018年、こういった現状を受け、ドイツ最大の労働組合で組合員数約220万人を誇る「IGメタル」は団体交渉を行い、組合員の「つながらない権利」を30日間に延長することに成功した。
ドイツは労働組合の力が強く、会社と労働者の間で「つながらない権利」について話し合い、権利を獲得してきた歴史がある。「労働時間外は対応する必要はない。つながらないことが労働者の権利だ」という意識があるため、メリハリをつけた働き方ができるのだろう。
日本の「つながらない権利」の現状

日本の多くの企業では、労働者が「いつでもつながっている状態」が当たり前とされているケースが少なくない。上司や同僚からの連絡に素早く「即レス」する姿勢が評価されやすい傾向もある。そのため、長時間労働や過重労働が常態化しやすい。
現在、法律では「つながらない権利」は保障させていない。しかし、企業レベルでは「つながらない権利」を保障するための取り組みを行なっているところもある。ここでは、日本での「つながらない権利」の現在地を概観していく。
勤務時間外の連絡。6割の労働者が「ストレス」
2023年9月、日本労働組合連合会は、18歳から59歳の労働者約1000人を対象に、「つながらない権利」に関する調査を行なった。
本調査によると、「勤務時間外に上司や部下、同僚から業務上の連絡がくる」にイエスと答えた割合は、建設業で最も高く82.7%。最も低いのは公務員だがそれでも51.3%と半数以上の人が業務外に業務の連絡が来ると回答している。全体の平均は72.4%と高い。
注目すべきは、正規雇用者(72.4)と非正規雇用者(74.8)では、ほとんど差がないという点だろう。どんな働き方をしていようとも、業務時間外の連絡は発生するようだ。また、「勤務時間外に職場から連絡」を受けた場合、ストレスを感じるという回答は62.6%で、半数以上の人が業務時間外の連絡にストレスを感じていることがわかった。
「勤務時間外の職場からの連絡」を拒否できるのであれば、そうしたいか、という問いには、72.6%がイエスと答えた。しかし、62.4%の労働者は拒否するのは難しい、と考えていることがわかった。
民間企業の取り組み。「つながらない権利」を守るアプリを開発&導入
日本では「つながらない権利」が保障されているとは言い難い現状がある。しかし、民間企業の中には、独自の取り組みをしている企業も出てきている。
たとえば、レッドフォックス株式会社は、独自に開発したアプリ「cyzen(サイゼン)」に、業務時間外に社員への業務連絡を禁止できる機能を2021年に追加した。このアプリを使えば、登録された勤怠情報に基づき、退勤後の社員に対する連絡を遮断することができる。これにより、社員の「つながらない権利」を守ることができるのだ。
このほかにも民間レベルではさまざまな取り組みが行われている。
さいごに。「つながらない権利」の重要性を理解している企業は増えている
日本では法的義務化はされていないものの、一部の企業が「つながらない権利」を支援する施策を取り入れている。たとえば、「勤務時間外の連絡を制限する」「勤務後に社内システムにアクセスできないよう設定する」といった具体的な対策をしている企業もある。
少しずつ「つながらない権利」の重要性が認識されつつあると言えるだろう。
2022年、欧州議会は「つながらない権利に関する欧州委員会への勧告に係る決議」を採決した。これにより、最終的には欧州連合に加盟する全ての国々で法制化が進んでいくだろう。日本ではまだ、法制化が実現していないため、実現を望む声もある。一方、フランスでも法律では労使協議を定めているだけなので、日本でも法律で一律に縛ることは現実的ではなく、国は権利を後押しするガイドラインを示すべきだ、という考え方もある。
リモートワークが一般的な働き方となった今、労働者の「つながらない権利」をどのように守っていくべきか、個人、企業、国、それぞれのレベルで考えていく必要があるだろう。
参考記事
休めてる?勤務時間外に会社と「つながらない権利」欧州で浸透 疲弊せずに働くには|朝日新聞 Globe+
「つながらない権利」あなたの会社は認めてる? 欧州を中心に法制化進が、なぜ日本は反応が鈍いのか|東京新聞
勤務時間外の業務連絡を遮断! 社員のストレス軽減のために「つながらない権利」について考えてみよう|東京都産業労働局
国内でも「つながらない権利」 企業は風土作りを|日経Biz Gate
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