認知バイアスとは?
認知バイアスとは、私たちが何かを考えたり判断を下したりする際に陥りやすい「思考の癖」のことだ。
脳には毎日膨大な情報が入ってくるが、それらを一から順番に処理するのは非効率であり、現実的ではない。そのために、脳内では情報処理をショートカットする機能が備わっており、過去の経験などを元に判断する傾向がある。この機能は、知らないうちに私たちの思考や意見に大きな影響を及ぼすが、本人には自覚しにくいものだ。
認知バイアスは、私たちが情報をどのように理解し、解釈するかに深く関係している。例えば、新しい情報に直面したとき、それが自分の考えと一致していればすぐに受け入れるが、反対の場合は疑いを持ちやすい。認知バイアスには情報処理の効率を高めたり、危険を察知したりする役割がある一方で、偏った見方を助長する面もある。
また、感情や社会的な影響によって、認知バイアスの影響をより強く受けることもある。自分の判断が歪められないためには、認知バイアスの存在を認識することが重要だ。「今、自分は認知バイアスに影響を受けているかもしれない」と疑うことで、バイアスの影響を最小限に抑えることができる。
ステレオタイプとの違い
認知バイアスと似ている概念に「ステレオタイプ」があるが、両者はそれぞれ異なる側面を持つ。
認知バイアスは、情報処理の過程で生じる思考の偏りであり、無意識に発生することが多い。一方、ステレオタイプは、特定の集団や個人に対する固定観念や一般化されたイメージである。
どちらも、思考の効率化を図るために脳が利用する点が共通している。しかし、認知バイアスは個々の状況に応じた判断に影響し、ステレオタイプは社会的な影響を受けやすい。
認知バイアスの種類と身近な例

認知バイアスには数多くの種類があり、正確な数を定義するのは難しいが、心理学の研究で知られているバイアスだけでも100種類以上はある。ここでは、身近な10の認知バイアスの種類を挙げ、その具体例を紹介する。
正常性バイアス
正常性バイアスとは、有事の際に状況を過小評価し、通常の状態だと思い込む傾向である。例えば、大規模な自然災害が起こっても「自分は大丈夫だ」と思い込み、避難を遅らせてしまうことがある。
確証バイアス
確証バイアスは、自分の信念を裏付ける情報だけを重視し、反対する情報を無視する傾向である。例えば、ある政治的意見を持っている人が、自分の意見に賛成する記事ばかりを読む場合が典型的だ。
楽観バイアス
楽観バイアスは、未来の出来事に対して過度に楽観的になる性質を指す。つまり、自分には良いことが起こる確率が高く、悪いことは起こらないだろうと考える傾向がある。例えば、喫煙者が「自分は癌にならない」と楽観的に考え、健康リスクを過小評価することが挙げられる。
投影バイアス
投影バイアスは、他人も自分と同じように考えたり感じたりしていると思い込む傾向である。例えば、自分は「結婚したら一緒に暮らすのが当たり前だ」と思うと、他の人も当然そうだと思い込むことがある。
アンコンシャスバイアス
アンコンシャスバイアスは、自らの行動や判断に影響を与える無意識の偏見である。例えば、採用面接において、ある学校の出身者に対して無意識に否定的な印象を持ってしまうことがある。気づかぬうちに職場や人間関係での決定に影響を与える。
自己奉仕バイアス
自己奉仕バイアスは、成功を自分の努力や能力の結果とし、失敗を外部の要因だと考える傾向である。例えば、テストで良い成績を取った時は「自分の勉強の成果」と考え、悪い成績を取った時は「試験が難しかったからだ」と言い訳することがある。
ハロー効果
ハロー効果は、個人の一部の良い特徴がその人全体の評価に影響を与える現象だ。例えば、見た目が良い人を、知的で親しみやすいと感じることが典型的だ。
バックファイア効果
バックファイア効果は、他者から反論されたり指摘を受けたりしたときに、かえってその考えを強める現象である。例えば、「実は〇〇という食べ物は健康に悪い」と信じている人に科学的な反証を示しても、逆にその信念を強化してしまうことがある。
バンドワゴン効果
バンドワゴン効果は、多くの人に支持されている考えや行動に、つい同調してしまう人が増える現象である。例えば、「全国の書店員が絶賛」と書かれた帯のついた小説を見て、その本が良いものであると感じて購入することがある。
フレーミング効果
フレーミング効果は、情報の見え方によって判断が影響を受ける現象である。例えば、「10%脂肪含む」と表示されている商品よりも、「90%脂肪なし」と表示されている同じ商品を選ぶ傾向がある。
認知バイアスの仕組み
人間の脳は、膨大な情報を処理するためにさまざまな工夫をしている。その工夫の一つが認知バイアスだ。認知バイアスは、情報を素早く、効率的に処理するために、私たちの脳が作り上げたものである。
脳は日々膨大な情報を受け取っているが、そのすべてを正確に分析することは不可能。脳内では、過去の経験や既存の知識を活用し、ショートカットを用いて情報を処理している。これが認知バイアスのもとである。
認知バイアスは、無意識のうちに、自動的に行われることが多い。例えば、何か新しい情報に出会ったとき、自分の考えや期待と一致していれば、すんなりと受け入れやすい。一方、矛盾する情報については、無視したり軽視したりする傾向がある。
さらに、認知バイアスは感情や状況にも影響を受ける。例えば、ストレスや疲労が溜まっていると、脳のエネルギーが不足し、より効率的に情報を処理しようとバイアスに頼る傾向が強まる。また、社会的なプレッシャーや他者の意見も、認知バイアスを助長する要因となり得る。
認知バイアスの問題点

認知バイアスは、日常生活や社会全体にさまざまな問題を引き起こす。以下では、具体的にどのような問題が生じるのかを見ていく。
評価や判断を誤る
認知バイアスが意思決定に与える影響は大きい。自分の期待や考えに合った情報を優先的に受け入れるため、全体像を見誤ることが多い。その結果、重要な情報を見落としたり、正確な評価や判断ができなくなったりする可能性がある。
例えば、プロジェクトの方向性を決める場面で、過去の成功体験から同じ方法を選んだり、今までしてこなかった挑戦を避けることがある。こうしたバイアスがはたらくと、評価や意思決定の質が低下するため、広い視野を持ち、バイアスの影響を意識することが重要である。
偏見や差別を助長する
認知バイアスによって、無意識のうちに偏見や差別を助長することがある。
例えば、特定のグループに対する固定観念やステレオタイプに影響され、それぞれの個性や特徴を見落とすことがある。この結果、個人や集団に対する不公平な扱いや差別が生まれる可能性があるのだ。
変化を避ける
現状維持を好むことも、認知バイアスの傾向である。新しい情報や変化に懐疑的になり、これまでの考えや予測を重視するため、変化を避けることが多い。変化を避けることには良い面もある。前例を踏襲することで失敗を防げることも多く、これまでの成功経験や確立された手法は参考になるだろう。
しかし、変化を拒むことで組織や個人の成長が妨げられるリスクもある。発展には挑戦が不可欠であり、成長にはさまざまな経験や失敗が役立つことも多い。そのため、安定性を重視するバイアスの良い面も理解し、バランスの取れた柔軟な思考を持つことが大切だ。
災害時の対応が遅れる
災害時には、迅速かつ的確な対応が求められるが、認知バイアス、特に正常性バイアスが働くことで対応が遅れることがある。例えば、災害時に過去の経験から「今回も避難しなくて良い」と考える人は少なくない。しかし、今まで大きな被害が出ていない地域であったとしても、次の災害で深刻な被害が出ないとは限らない。
災害時の判断には、認知バイアスに捉われずに、冷静かつ客観的な判断を心掛けることが重要である。また、複数の情報から信用できるものを選び、偏った情報に影響されないよう努めることも大切だ。
認知バイアスを強める要因
認知バイアスは、私たちの日常の判断や意思決定に無意識に影響を与える。これを強める要因にはさまざまなものがあり、特に現代社会では一層重要な問題となっている。以下に、認知バイアスを強める主要な要因を詳しく説明する。
ソーシャルメディア
ソーシャルメディアでは、性別・年齢・趣味・過去の閲覧履歴などから情報を選別し、私たちに提示する。この結果、私たちが接する情報は、すでに持っている考えや好みに一致するものが多くなり、異なる視点や意見に触れる機会が減少する。
この現象は「フィルターバブル」と呼ばれ、ソーシャルメディア上で触れるものが自分の信念や意見に合致するものばかりとなるため、認知バイアスが強まる。多様な情報に触れる機会が減り、私たちの判断力に大きな影響を与えるのだ。
また、「エコーチェンバー現象」もソーシャルメディアでよく見られる。同じ意見を持つ人々が集まり、お互いの意見を確認し合う環境である。ソーシャルメディア上では、フォロワーや友人との情報交換が頻繁に行われるが、これがエコーチェンバーの形成を助長する。エコーチェンバー内では、異なる意見や視点に触れる機会が少なくなり、自分の意見や信念がさらに強化される。この結果、認知バイアスが一層強まり、偏った判断が行われやすくなる。
強い感情
強い感情は、認知バイアスを増幅させる力を持つ。特に、恐怖や怒りといった感情が高ぶると、冷静な判断が難しくなり、情報を偏った視点で解釈しやすくなる。
例えば、災害時に恐怖やパニックに陥ると、情報を正確に理解できず、誤った行動を取ることが多い。感情の影響を受けることで、認知バイアスが一層強まり、理性的な思考が妨げられることがあるのだ。また、感情的な出来事は記憶に強く残るため、将来的な判断にも影響を及ぼすことがある。反対に、感情のコントロールや自己認識を高めることで、バイアスの影響を軽減することが可能だ。
周りの意見
他人と同じ意見だと「自分は間違っていない」と感じられる効果があるため、ついつい他人に同調したり、グループの意見に従ってしまうことがある。例えば、職場や学校では周りの人となるべく意見を合わせようとする場合がある。しかし、このような状況では、個々の判断が偏りやすくなり、認知バイアスが強まる。
また、個人の自信や自己効力感にも影響を与えるため、独自の意見を主張するのが難しくなることがある。周囲との対立を避けながらも、独自の視点を保つためには、自分の価値観や信念をしっかり持ち、多様な意見に耳を傾ける姿勢が重要である。
文化的背景
幼少期からの教育や文化的背景は、認知バイアスに大きな影響を与える要因である。特定の価値観や信念に基づいて考えることで、異なる文化や価値観に対して偏見をもちやすくなるのだ。
例えば、ある国や地域の文化に対する固定観念が、その地域の人々に対する偏見を生むことがある。このような文化的背景によるバイアスは、無意識のうちに判断や行動に影響を与える。
多様な文化や価値観を尊重し、柔軟な思考を持つことで、認知バイアスの影響を軽減することにつながる。また、異なる文化や背景を持つ人々との交流を通じて偏見を減らし、広い視野を持つことも大切だ。
偏った経験
過去の経験や成功体験は、認知バイアスを強めることが多い。私たちは過去の経験に基づいて判断を下すことが多く、これが認知バイアスを助長する。
例えば、過去に成功した方法に固執し、新しい情報や方法を受け入れにくくなることがある。このような経験の偏りは、状況の変化に適応する能力を低下させ、新たな挑戦を避ける原因となる。
また、過去の失敗経験がトラウマとなり、リスクを避ける傾向を強めることもある。これにより、状況の変化に適応する能力が低下し、バイアスの影響を受けやすくなる。経験の偏りを認識し、新しい視点や方法を積極的に取り入れる姿勢が重要だ。
認知バイアスに判断を歪められないためには

認知バイアスは私たちの判断を無意識のうちに歪めることがあるが、その影響を軽減するための対策がある。以下に、認知バイアスに判断を歪められないための具体的な方法を紹介する。
バイアスの存在を認識する
認知バイアスに判断を歪められないためには、まずその存在を認識することが重要だ。私たちは日常生活の中で無意識にバイアスに影響されることが多いが、その存在を意識することで、冷静な判断がしやすくなる。
例えば、判断を下す前に「今、自分はどのようなバイアスに影響されているのか」を自問することが有効だ。バイアスを意識することで、自分の思考や行動が偏っていないかを見直すきっかけとなる。
情報の信頼性を確認する
情報の信頼性を確認する習慣をもつことも重要だ。特に、ソーシャルメディアやインターネット上の情報は、偏ったものが多いため、複数の情報源を参照し、情報の正確性を確認する必要がある。
また、情報の出所や信頼性についても注意を払わなければいけない。例えば、情報を提供しているサイトや著者の背景を確認することで、その情報がどの程度信頼できるかを判断できる。信頼性の高い情報に基づいて判断を行うことで、認知バイアスの影響を軽減することにつながる。
新しい知識や視点を積極的に取り入れる
新しい知識や視点を積極的に取り入れることも、認知バイアスの影響を軽減する一つの方法だ。自分と異なる意見や視点に触れることで、バイアスの影響を軽減し、より客観的な判断が可能となる。
例えば、異なる分野の書籍や記事を読む、異なる背景を持つ人々と交流するなど、多様な情報源から学ぶことが有効である。新しい知識や視点を取り入れることで、認知バイアスの影響を最小限に抑え、より正確で公平な判断ができるようになるだろう。
まとめ
認知バイアスは私たちの日常生活や意思決定に大きな影響を与えるが、まずその存在を知り、うまく付き合っていくことが重要である。
例えば、災害時には「もうみんな避難してますよ」と伝えることで、避難行動を促す効果が期待されている。これは、認知バイアスを逆手に取った一例である。
認知バイアスを完全に排除するのではなく、その存在を認識し、自分の本当の意思に向き合うことが大切だ。また、自分の意見や好みと相反するものであっても積極的に触れる機会を持つことで、柔軟でバランスの取れた思考を持ち、複雑な状況にも適切に対応できるようになるだろう。
参考記事
正常性バイアスとは 災害時はマイナスに働く事もある|神戸市
ネットの特性と人の行動心理に注目|総務省
インターネットとの向き合い方|総務省
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