トーンポリシングとは
トーンポリシングとは、ある人が表現した内容そのものではなく、その表現方法が怒りっぽいまたは感情的であることなどを批判する行為を指す。つまり、議論の論理や事実よりも、どう話しているかといった口調に焦点が当てられている。
トーンポリシングの目的は、議論を停滞させることにある。まず、議論の内容に関することは無視して、口調や言葉遣いに関して批判する。そして、相手がその口調や言葉遣いを改めるまで会話は元に戻せないのだ。
トーンポリシングの例は以下のようなものだ。
「冷静になりなさい。冷静に話せなければ、議論にならない。」
「怒りを抑えなければ、話し合うことはできない。」
よく聞かれる発言であるが、これらは話す内容は無視し、相手の感情的な部分のみに焦点を当てて批判している。
トーンポリシングが持つ3つの側面
トーンポリシングは、おもに以下の3つの側面に分けられる。
1.会話
これは、トーンポリシングを行う人が、会話がどのように進行すべきかといった、会話のルールを決める権利は自分にあると考える態度のことだ。議論の内容から焦点をそらし「そんな言い方はよくない」「もっと冷静に話すべきだ」などと言って批判するのだ。そして、自分自身の基準を「受け入れられるべきコミュニケーション」として相手に押し付けることで、話し手の意見や感情を無視する。この側面では、会話の内容よりも自分自身の快適さを優先させるのだ。
2.認知
この側面では、話し手の感情を否定し「感情的な意見は信頼できない」と判断することを指す。話し手の感情的な表現を不適切または非合理的とみなすことで、話し手の信頼性を損なおうとするのだ。たとえば、不公平や差別を受けた話し手が、怒りを込めて感情的に経験を語った際、トーンポリシングを行う人は「感情的すぎるから信用できない」と考え、話し手の意見や訴えを無視してしまう。こうすることで、本当に伝えたいことが議論できず、真実や問題が明らかにならないリスクがある。トーンポリシングにより、話し手の感情表現や口調などが否定されるだけでなく、話し手の信頼性までも低減させてしまう。
3.感情
この側面は、トーンポリシングを行う人が、話し手の感情よりも「自分の感情的な快適さが最も重要」と考えることだ。議論されている問題を無視し、話し方などを指摘するのがトーンポリシングであるが、この場合、話し手の経験や感情を懸念するよりも、トーンポリシングを行う人の感情的な部分が何より重要であると考えてしまうのだ。そのため「この話し合いは不快だ」「もっと穏やかに話してくれ」といった、トーンポリシングを行う人の主観的な感情が正当なものだと見なされてしまう。
トーンポリシングの問題点

トーンポリシングは、議論の停滞や打ち切りを引き起こすなど、いくつかの問題点が挙げられる。
会話を無意味なものにさせる
トーンポリシングは、会話そのものを無効としてしまう可能性がある。相手の話し方や態度を批判してしまうことで、議論すべきだった部分が後回しにされるかもしれないのだ。たとえば、社会問題について話し合う場合において、活動家が訴える様子を「攻撃的だ」と非難したとする。すると、本来話し合うべきだった問題の深刻さや具体的な対策例など、その議論における本質的な部分が置き去りとなる可能性がある。
このように、トーンポリシングを行うことで、実現するべきだった会話が成立せず、会話を無意味にさせ、本当に話し合うべきことが話されないことが起こりうる。
ガスライティングを引き起こす要因となる
トーンポリシングは、ガスライティングという問題を引き起こす要因となりうる。まず、ガスライティングとは「ウソの情報を信じ込ませて個人に自分を責めさせること」を指す。例として「あなたはおかしい」「普通でない」といったささいな嫌がらせを繰り返したり、事実をねじ曲げたり否定したりすることなどが挙げられる。被害者を破滅させることが目的であり、上下関係のある場(職場や親子など)で行われることが多い。
トーンポリシングでは、話し手に対して自身の記憶、認識、判断を疑わせるように操作することがある。すると、話し手は自分の感情や意見が間違っているかのように感じてしまい、自己嫌悪に陥る可能性がある。これは、ガスライティングにおける「自分を責めさせる」という行為につながるかもしれないのだ。
トーンポリシングの事例
ここでは、トーンポリシングをより理解するために事例を2つ紹介する。
「日本死ね!」と題されたブログ
2016年に公開された「保育園落ちた日本死ね!!!」というタイトルのブログ。保育園に子どもを預けられなかった母親が「ふざけんな日本」「私活躍出来ねーじゃねーか」といった言葉を並べて強い怒りと憤りを表現した。すると、全国の同じように悩む人から多くの共感が寄せられた。一方、この投稿には批判もあり「言葉遣いが悪い」「このような言動をしてるから(保育所に)落とされた」などの反応が寄せられた。これは、話の内容ではなく、感情や表現方法に焦点を当てるトーンポリシングの典型的な例である。「保育園に空きがないため、仕事ができない」という内容であったにもかかわらず「言葉が良くない」ということが議論の中心となってしまったのだ。
環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの演説
2019年9月に行われた国連気候行動サミットにて、環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんが、環境問題の危機的状況や対策の必要性を演説で訴えた。目に涙を浮かべたり、眉間にしわを寄せたりしながら強く訴えかける姿に、世界中の多くの人が賛同した。一方で「子どものくせに大人に向かって何言っているんだ」「攻撃的な話し方だ」など、彼女の口調や伝え方に対して批判する声が多く上がった。これは、彼女より権力があり立場の人たちが、その立場を維持するためにトーンポリシングを行ったといえる。ひとつ前に紹介した事例と同じように、本質である「環境問題の深刻さや対策」に焦点を当てるべきはずが、彼女のスピーチの仕方に注目が集まってしまった。
トーンポリシングを避けるために
最後にこれまで説明してきたトーンポリシングを避ける方法を説明する。
存在を認識する
トーンポリシングが何なのか知らない人も多いため、まずは存在を認識することが必要である。そして、自分が行っていないかを観察することも大切だ。以下のポイントに注意してみてみると、自分がトーンポリシングをしているか判断するヒントとなる。
- 相手が話しているときに眉を上げたり腕を組んだり身を引いたりする
- 「そんな口調で話さないで」など相手の口調に関する発言をする
このような言動をしている場合、相手の話し方に対して不満を抱いていることが分かるため、普段の自身の態度を見つめなおしてみるのが良いだろう。
また、多くの人が存在を知らないことから、トーンポリシングが起こりやすい上下関係がある職場では、この問題に関する研修を行うこともおすすめだ。それぞれが意識することで、トーンポリシングが減る可能性がある。
感情を否定しない
相手の感情を否定しないことも大切だ。話し手より権力のある立場の人の場合、口調を厳しく批判するケースが多くある。しかし、特に政治的な話題や賛否が生まれるような話題の場合、意見を言う時に感情が伴うことが多いのだ。そのため、話し手の内容に同意するかは一旦おいておき、相手の感情は正当なものであると理解しながら聞く必要がある。
相手の感情を否定せずに受け入れる方法としては、以下のようなものがある。
- さまざまな方言や口調で話す人の話を積極的に聞く
- 自分が不快に感じる口調があれば、なぜそう感じるのか分析する
- 特定の口調に対する自分の反応を観察する
このようにさまざまな人の話を聞き、自分の反応を観察することで、人にはさまざまな感情や話し方があることを理解できるようになるため、トーンポリシングを避けることにつながる。
まとめ
トーンポリシングとは、話し手の内容を無視して、口調や言葉遣いなどを批判する行為である。この行為は、上下関係のある場で行われることが多く、自分がトーンポリシングをしてしまったことには気づかないことが大半だ。また「冷静にならないと話せない」といった発言は、相手を攻撃するものではなく、助言のようなもので発するかもしれないが、結果的にトーンポリシングだと受け止められてしまう。トーンポリシングは、話の本質を見失うリスクもある。そのため、身近に起こっており、自分も行っている可能性があることを認識し、できるだけ避けていかなければならない。そうすることで、より話の内容にフォーカスした議論が実現できるだろう。
参考記事
Tone-Policing and the Assertion of Authority|Blog of APA
What Is Tone Policing? The Problem with Gatekeeping Emotions|INHERSIGHT
How Tone-policing is Harming Your Employees of Color|Linkedin
「日本死ね!」とつぶやいた女性が現在の心境を明かす 「正直、反応の大きさに驚いている」ととまどいも…|産経新聞
Does Greta Thunberg make you feel uncomfortable?|Irish Examiner
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