多自然主義とは?地球上のあらゆる存在が共存する社会の捉え方

多自然主義とは

多自然主義とは、社会や文化をつくるのは、人間だけではなく動物や昆虫など地球上のすべての存在であり、共にひとつのコミュニティを形成しているという考え方である。

従来西洋で考えられてきた「自然主義」では、創造力や行動力を持つのは人間で、ほかの存在は受動的であるとし、人間と自然は区別して考えられてきた。一方、多自然主義では、人間も動物も共通の感覚を持っており、違うのはものの見方だと考える。

多自然主義と異なる視点をもつ考え方が「多文化主義」である。多文化主義とは、異なる文化を尊重し、共存を図っていこうとする考え方である。多文化主義では、文化的背景や習慣、価値観の違いを尊重することに焦点を当てています。

多自然主義の考え方

多自然主義の考え方

多自然主義は、ブラジルの人類学者であるヴィヴェイロス・デ・カストロによって提唱された。ここでは、カストロの研究に基づいた多自然主義のとらえ方を見ていく。

カストロの研究の中心には、アマゾン先住民の世界観がある。先住民たちは、動物や精霊が人間と同じような精神や魂を持っていると信じており、異なっている部分は身体の違いだけだと考えている。つまり、精神や魂が文化であり、異なる身体が自然を意味している。また、文化は生物間において一つであり、多数あるのは身体、つまり自然だと考える。

先住民の有名な話として、大航海時代に開拓で訪れた西洋人を溺死させ、同じ身体を持つかどうかを確かめるために、死体の腐敗を観察したという歴史がある。先住民たちは開拓者らも死ぬとふつうに死体となって腐敗する身体を持つのか、それとも悪い精霊に変わってしてしまうのかどうかを見極めようとした。つまり、白人たちも自分たちと同じ精神や魂を持っているのは当然のこととして認識していたが、同じ身体を持っているのかどうかは確認する必要があったのだ。

また彼らの考えでは、人間が「血」だと見ているものは、ジャガーにとっては「ビール」である。また、腐った肉にわく虫は、ハゲワシにとっては「焼き魚」となる。つまり、これは異なる観点が共存している状態にある。カストロは、このような多様な観点から成る考えを「観点主義」と呼んでいる。これは、人間や動物が同じ世界にある異なるものを持っているのではなく、それぞれの存在が自身の視点から見た独自の世界を持っているとされる。つまり、動物と人間が同じ現象を見ているわけではなく、それぞれが独自の現実を経験しているということだ。

そして、ジャガーの例における血がジャガーにとってビールであるように、異なる身体による多様な解釈が存在する世界観を、カストロは「多自然主義」として提唱した。これは、異なる存在がそれぞれの視点から独自の現実を経験し、その結果として多様な自然が存在するという考え方である。

多文化主義と多自然主義

多自然主義とは、異なる視点から世界を捉えるのが多文化主義である。これは「異なる文化を持つ人間同士が共存し、一つの世界を築く」という考え方である。現代に生きる多くの人々が馴染みを持っているが、人間以外の存在を外部化した人間中心的な思想ともいえる。

たとえば、森林伐採問題をはじめとした環境問題は、人間が自分たちの快適さを優先し、ほかの存在を顧みずに自然を変えてきた結果ともいえる。人間が自然を操れると見なしてきたために数々の自然破壊が生じてきたのだ。

多文化主義において自然は、変わらない「一つのもの」として存在する。たとえば「太陽は東から昇り西に沈む」「水は0度で凍る」といった変わらない自然のもとで自然科学は発展してきた。一方で文化は多数存在し、人間がそれぞれの環境で適応する中で、異なるものが生まれるとしている。この考えでは自然現象は地球全体で普遍的に起きる一方で、アメリカとアジアでは文化が異なる。

一方、多自然主義では、人間、動物、植物、精霊すべてが同じ精神や文化を持ち、一つの共同体を形成していると考えられている。つまり、人間と他の存在は異なる視点をもちながらも共存していくというアイディアをもつのだ。

多自然主義的視点を持つ部族の例

多自然主義をより理解するため、ここでは主義を実現しているとされている部族を紹介する。

ブラジルのシング川沿いに住むカワイウェテ族は、人間と動物は区別されていないと信じている。部族のシャーマン(部族の癒し手であり、部族のメンバーの精神的および身体的健康をケアする存在)は、人間と動物が元々一体だったと考えており、先祖の一部が今でも自然界に存在すると確信している。また、先祖の存在は動物の守護者として機能し、不当に殺された動物の復讐者となるとされている。さらに、彼らは生まれていない魂、病気の魂、死者の魂の守護者でもあると考える。

カワイウェテ族の視点では、自然界のあらゆる要素が潜在的に人間のような存在に変化する可能性があると信じている。つまり、これは人間だけではないすべての存在がひとつのコミュニティを形成する多自然主義視点を持っているといえる。

多自然主義の実現がもたらすこと

多自然主義の実現がもたらすこと

最後に、多自然主義の実現がもたらすメリットを説明する。

生態系の保護につながる

多自然主義では、自然と人間が共生する環境を実現することで、多様な生態系が維持されやすくなる。たとえば、先住民族は長い歴史と経験にもとづいて土地の管理を行っているため、自然のバランスを崩さずに資源を利用できるとされている。このように人間以外のすべての存在との共生を実現できれば、生態系の保護が促進され、自然災害のリスクも軽減されるといわれている。

経済発展と環境保護が両立できる

多自然主義は、経済発展と環境保護を両立させる可能性がある。先住民族のコミュニティが、長年つちかった持続可能な方法で自然資源を利用し、経済的な利益を得られる事例も存在する。たとえば、カナダのいくつかの先住民族の地域では、エコツーリズムと持続可能な森林管理を行っており、経済と環境保護が両立している。多自然主義にてこのようなアプローチが促進されれば、他の地域やコミュニティにも応用可能となる。

まとめ

多自然主義は、これまでの人間が社会や文化をコントロールする、といった考えを覆す考え方である。現在地球には、海洋プラスチックの増加や動物虐待、生物多様性の喪失など人間が引き起こしたとされるさまざまな問題が生じている。多自然主義にて動物や昆虫、植物などと共生するという考え方は、今後持続可能な地球を作っていくうえで自然と人間の関係を見つめ直すカギとなるだろう。

【参考記事】
「僕たちは多文化主義から多自然主義へと向かわなければならない」奥野克巳に訊く“人類学の静かなる革命”|Dozine
「多自然主義」を手掛かりに自然と人間の共生を考える|立教大学
ビールを飲むジャガーの人類学的生息地|民博通信
COSMOLOGICAL PERSPECTIVISM IN AMAZONIA AND ELSEWHERE |Cambridge University
Multinaturalism and the ever-present potential for transformation|Temenos+Agility

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