新しい資本主義とは
新しい資本主義とは、日本の経済再生を促すことを目的として、岸田政権で掲げられた政策のことである。岸田政権における4つの主力な経済政策の一つで、成長と分配を好循環させて両立することを目指しており、アフターコロナにおける新しい社会の開拓も同時に確立させようとするものだ。
これまでの資本主義が生んだ様々な弊害の原因を分析し、一つずつ乗り越え、経済も持続可能なものにしていこうという動きが、歴史の転換点ともいえるスケールで行われていくという。
新しい資本主義のベースとなるのは「官民連携」だ。つまり、国家がある程度しか関わらなかった自由市場ではなく、官と民の協同で「成長戦略」と「分配戦略」の両面における仕組みづくりを行い、資本主義が生み出す利益を最大化させることで、国民一人ひとりの豊かな暮らしを守ることを目指す。
特に「デジタル」「気候変動」「経済安全保障」「科学技術・イノベーション」という、日本がこれまで苦手としていた分野への投資を行い、成長のためのエンジンへと転換を図るという。
これまでの資本主義

現在の世界経済の中心である「資本主義」という考え方と仕組みについて、一旦振り返っておこう。
資本主義は、18世紀後半のイギリスで起きた産業革命を発端とした概念である。近代社会の土台ともなっている産業革命は、技術の向上によって工場制手工業が確立したことで起こった。そして産業革命の中で、生産技術を所有する資本家が労働者を雇うことで利潤を追求するという「資本主義」の経済体制も同時に確立していったのである。
このように資本主義の根本には利潤追求があるが、この考えは経済学者アダム・スミスの著書『国富論』において、自由放任主義による自由競争が経済成長を促すという提唱によって広まっていった。自由放任主義とは、国家が経済に介入しないことで市場が安定し、需要と供給のバランスを取ることができるという考え方である。この提唱どおり、自由競争によって世界経済は右肩上がりに成長することとなった。
しかし、行き過ぎた利潤追求や市場競争は、やがて貧富の格差や自然破壊など、様々な社会および環境問題などの弊害を生んでしまった。1930年代には世界恐慌が起こり、失業者が急増したり大規模な戦争が相次いで勃発する。これを受け、各国で社会保障を重視することを目的に、政府が経済に介入する政策を打ち出すようになった。
一方で、政府の過度な介入により経済成長が止まるという新たな問題も起こり、1980年代には再び自由競争に戻そうとする「新自由主義」という考え方が生まれる。これ以降、日本でも電話や鉄道、郵便などの社会インフラ事業が民営化されはじめた。
こうして資本主義は、一進一退を繰り返しながら現在まで続く社会構造のベースとなっているのである。
新しい資本主義が生まれた背景
資本主義が生み出した問題に対する政策は、これまでも様々なものが掲げられてきたが、世界では今でもそれを乗り越えたとは到底いえず、新しい経済構造を生み出すことが喫緊の課題とされている。
繰り返し述べている資本主義の弊害とは、例えば以下のようなものがある。
・自由競争による貧富の格差
・不況による失業者の増加
・過労による心身の健康被害
・資本の過剰消費がもたらす気候変動
・大量生産、大量消費、大量廃棄による環境問題
・中長期的な投資不足
・新しい分野の未開拓
特に、2020年からの新型コロナウイルス感染症の拡大によるパンデミックの発生、2022年のロシアによるウクライナ侵攻により、これまで当たり前とされていたことが当たり前ではなかったという意識が人々の中に生まれた。潜在的であった世界におけるサプライチェーンの脆弱性や地政学的リスク、そして日本での貧困や経済格差の問題も顕在化し、世界経済が何度も立ち止まらざるを得なくなったことは記憶に新しい。
こうした状況を脱却するため、第101代内閣総理大臣の岸田文雄は主要政策の一つとして「新しい資本主義」を掲げた。これまでの様々な政策で何度も考慮されてきた「国家が介入するか否か」ではなく、官民そして市民が一体となって新しい資本主義の全体像を共有し、経済社会変革を起こそうとするものである。
新しい資本主義の指針と具体的な取り組み

新しい資本主義では、基本的な理念となる3つの柱によって方向性が構築されている。これらを複合的に組み合わせ、長期的な取り組みを行うことで経済成長構造の創造を図っている。
構造的賃上げの実現による、分厚い中間層の形成
まずは、高水準な賃上げを持続的かつ構造的にするために行われる「人への投資」である。
業務上の必要スキルの獲得を意味する「リスキング」による人材能力向上の支援、新NISA導入など資産所得を倍増させるプランの推進などがその例だ。また、成長分野への労働移動を円滑化するため、自主退職による失業保険給付条件も見直すなどの動きも見られている。
さらに多様な働き方を支援することで、どんな人でも働きやすい環境を作り出し、生産性を向上させることも組み込まれている。
国内投資の活性化
日本はバブル崩壊以降、約30年にわたってデフレ経済が続き、企業はコストカットを最重要視するなど、なるべくお金を使わない方針をとりつづけていた。しかし、それでは成長分野の開拓や新事業による企業成長の機会が妨げられてしまう。
こうした状況を脱却させ、特に市場だけでは過少投資となってしまう分野をターゲットに、公的支援を行う政策を行うとしている。それにより、民間投資も拡大させていくことが狙いだ。
例えば再生可能エネルギーやイノベーション、インバウンドなど、日本が苦手とする分野への投資を拡大させ、スタートアップ事業の育成や公益活動の推進なども図っている。
デジタル社会への移行
日本で遅れている分野といえば、デジタル化を挙げる人も少なくないだろう。現在、政府では行政をはじめ、様々な分野でデジタル社会への移行を推進している。
例えば私たちの身近なところでは、マイナンバー制度の利活用がある。新しい資本主義においてマイナンバーはデジタル社会の基盤であるとし、一人ひとりが自分に合ったサービスを自由かつスピーディーに選べるようになると考えている。
また、地方や過疎集落の活性化のためにデジタルを活用したり、デジタルとリアルを融合させた「デジタル田園都市国家構想」の実現も目指している。
新しい資本主義の課題点

ここ最近の日本では物価が上昇しており、デフレからインフレへ移行する気配を見せている。しかし実際に起きているのは賃金の上がらない物価高騰のみで、国民の生活が困窮を極めつつあることは、多くの人が肌で感じているだろう。
こうした状況を脱却できるかどうか、物価と賃金がともに上昇し、国民が快く「消費」を行えるようになるかが、新しい資本主義に課された大きな問題だ。
また、少子高齢化が進む社会でどのようにデジタル化を進めていくかもポイントとなる。現実問題としてデジタル化についていけない高齢者は多い上、デジタルネイティブである若者においてもリテラシーが身につく前にデジタルに触れる機会が与えられるため、利活用が正しく行われないなど、教育や法が追いついていない面も懸念点の一つだ。
まとめ
産業革命以降、これまで世界経済の根幹となっていた資本主義。経済を急成長させた一方で、過剰な利潤追求によって大量生産・大量消費社会を作り上げ、その結果として貧富の格差や気候変動など、様々な社会問題および環境問題が生じてしまっている。こうした状況を受け、100年以上にわたって様々な国で政策が掲げられてきたものの、未だ世界はその弊害を脱却できないでいるのである。
そんな中で、日本の岸田内閣が掲げた「新しい資本主義」は、国家・市場・市民が一体となって経済を成長させ、公平な分配を行おうとする政策だ。
新しい資本主義では、再生可能エネルギーやイノベーションなど日本では弱い分野への投資、新NISAなど資産所得増加へ繋がる政策の推進、多様な働き方の支援をはじめ、市場と一般家庭に対し、公的な立場からの様々なアプローチを掲げている。
経済政策は一朝一夕に効果が現れるものではなく、長期的な視点で政策を行うことが大切とされる。新しい資本主義によって、人々の暮らしの豊かさと持続可能な社会の両立を実現することができるのか。私たち一人ひとりも、今の状況に落胆するだけではなく、これからの未来に対して国がどのような政策を行おうとしているのか、今一度知っておかなければならないだろう。
参考サイト
新しい資本主義の実現に向けて | 政府広報オンライン
新しい資本主義|岸田内閣主要政策|首相官邸ホームページ
資本主義と社会主義の違いは?|地歴公民|苦手解決Q&A|進研ゼミ高校講座
新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議|内閣官房ホームページ
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