エスニック・ツーリズムとは?少数民族の文化や伝統を体験する観光スタイルを解説

エスニック・ツーリズムとは

エスニック・ツーリズム(別名:少数民族観光)とは、さまざまな地域に住む少数民族の伝統や文化、生活にフォーカスした観光スタイルである。独自の生活様式や伝統を知り、地元の人々と交流することで、民族や文化への理解を深めるのが目的である。

エスニック・ツーリズムという言葉は、アメリカの人類学者のヴァレン・L・スミスが出版した著書『ホスト・アンド・ゲスト:観光の人類学』で初めて使用された用語である。スミスは用語を「先住民族や異国的な人々の伝統的な生活様式や風習を体験する観光」として定義した。

また、この観光スタイルは、従来の有名なスポットを見て楽しむ観光「マスツーリズム」とは異なり、体験やエリアに住む人との交流を重視する「ニューツーリズム」の一つとして、観光業界で注目されている。観光の内容は、訪れる場所によって異なる。一般的に以下の3点などが挙げられる。

  • 伝統的なスタイルで建てられた家や集落への訪問・宿泊
  • 民族舞踊・儀式の見学
  • 住民が手作りした製品の購入

このように、エスニック・ツーリズムは単に民族が住むエリアを訪れる観光ではなく、体験・交流を通して、観光客と住民の相互理解を進める観光として位置づけられている。は単に民族が住むエリアを訪れる観光ではなく、体験・交流を通して、観光客と住民の相互理解を進める観光として位置づけられている。

エスニック・ツーリズムと似ているツーリズム

エスニック・ツーリズムと関係するツーリズム

ここでは、エスニック・ツーリズムと似たスタイルを持つツーリズムについて紹介する。

インディジネス・ツーリズム

インディジネス・ツーリズム(別名:先住民ツーリズム)は、先住民族の伝統や文化に焦点をあてた観光スタイルである。少数民族が暮らすエリアに焦点をあてるエスニック・ツーリズムとは、目的地が異なると理解すればよいだろう。

インディジネス・ツーリズムは、先住民の生活様式を学んだり体験したりすることで、先住民文化の保護やエリアの活性化を目的としている。例として、北海道に住むアイヌ民族の生活体験や、オーストラリアに住むアボリジニの文化体験ツアーが挙げられる。

インディジネス・ツーリズムは、訪れる側と受け入れる側の相互理解が進むのはもちろん、若い世代へ文化を継承する機会としての役割も果たしている。

カルチャー・ツーリズム

カルチャー・ツーリズムは、文化の理解を深める観光スタイルである。日本語に訳され「文化観光」と呼ばれる場合も多い。

文化を学ぶという観点では、エスニック・ツーリズムと共通している。しかし、住民との直接的な交流は重視せず、学習することに重きを置いている。カルチャー・ツーリズムは広い概念であり、エスニック・ツーリズムやひとつ前に紹介したインディジネス・ツーリズムは、カルチャーツーリズムに含まれる観光スタイルである。

カルチャー・ツーリズムの例として、伝統的な祭りやグルメツアーの参加、歴史的建造物の見学などがある。ただ、見るだけでは従来のツーリズムと大きな違いがない。そのため、例えば神社を訪問する場合には、建造物をただ観賞するのではなく、建立された由来や歴史における位置づけなど視覚だけでは得られない情報まで触れられれば、カルチャー・ツーリズムだといえる。

エスニック・ツーリズムのメリット

エスニック・ツーリズムのメリット

エスニック・ツーリズムの実践は、観光客と受け入れる住民の両方に対してさまざまなメリットがある。

文化・生活様式への理解を深められる

まず、観光客は実際に現地を訪れることで、文化やそのエリアに対する理解を深められる。

観光を通して、日常生活では巡り合えない異文化を体験できるため、観光客は新たな価値観に触れられる。すると、自分の文化での当たり前が見直され、異文化を認められるようになる。また、実際に体験すると、テレビやSNSからの情報だけでは得られない深い理解が可能となる。

グローバル化が進み、国際的な感覚が求められる世の中において、エスニック・ツーリズムは教育面においても重要な役割を果たしている。

観光客と住民の相互交流ができる

観光客と住民の相互交流ができる点もメリットとして挙げられる。

エスニック・ツーリズムでは、住民の暮らす場所を見る観光ではなく、実際に生活している場所で交流ができる。すると、言語や文化の違いを超えて、観光客と住民のつながりが生まれる。

実際、エリアによっては現地の家庭でのホームステイや工芸品を作るプログラムなどが設けられており、積極的に交流できるような環境が整えられている。

また、相互交流を通じて、お互いが持っていた偏見や誤解が解消されることもあるため、多文化共生の推進にもつながる。

少数民族の文化の保護につながる

エスニック・ツーリズムは、伝統や文化を守る役割も持つ。

時代が変わっていくにつれて、世界中の多くの伝統や文化が消滅の危機にあるといわれている。しかし、観光客が訪れて文化に触れると、住民は自分たちの文化の価値を誇りに思い、伝統を継承する意識が高まるとされているのだ。観光によって得た収益を文化を守る活動に活用できるため、エスニック・ツーリズムがあることで保護活動ができるようになっていくともいえる。

エリアによっては、観光客に向けて工芸品を作るワークショップを開催したり伝統的な儀式を行ったりしている。観光は、民族の伝統が守られ続けている理由の一つになっているのだ。

地域経済の発展につながる

エスニックツーリズムは、経済を活性化させるきっかけにもなる。

観光客が訪れると、宿泊施設や飲食店、お土産屋のニーズが高まる。すると、住民の雇用が促進されるため、住民自身の収入が上がることはもちろん、地域経済の活性化にもつながるのだ。

世界で観光客を受け入れている場所では、ホームステイ体験や村の女性たちが作る手作り品の販売など、訪れる人に向けたビジネスが展開されている。

観光業による経済発展は、結果的にエリア全体の生活水準を向上させられる。観光客と受け入れる住民の両者がメリットを得られる観光スタイルなのだ。

世界のエスニック・ツーリズムの事例

ここからは、実際に観光が盛んに行われているエリアの事例を紹介していく。

タイ

タイは、北部に多くの少数民族が暮らしており、エスニック・ツーリズムが盛んに行われている。タイ国政府観光庁日本事務所のWebサイトでは、エスニック・ツーリズムを行っている場所を紹介している。その一例がランプーン県の山間にある「バーン・プラバット・フアイトム」という村である。

バーン・プラバット・フアイトムでは、パカ・カヨー族が伝統を守りながら生活を営んでいる。農業・ナイフの鍛造・銀細工・機織りなどの製造業で生計を立てており、村ではホームステイやナイフ鍛造体験、周辺寺院のサイクリングをはじめとしたさまざまな体験ができる。

台湾

台湾の人口構成は、16世紀以降に移住してきた漢民族が98%を占め、残りの2%がもともと台湾に住んでいた少数民族である。現在台湾政府が認定しているのは全部で16民族であり、そのほとんどは国の中央にある高山地帯から東側にかけて暮らしている。

台湾では、少数民族の文化を学べる有名な屋外施設「台湾原住民族文化園区」が、エスニック・ツーリズムの訪問先として人気である。台湾原住民族文化園区では、エリアごとにさまざまな伝統的な建造物が建てられており、各地の文化や生活様式を学べる。また、屋外舞台でのパフォーマンスや人形が使われた生活展示館、手工芸品教室などもあるので、見るだけでなく、体験できる。

文化の演出に対する懸念

文化の演出に対する懸念

観光客と住民の相互理解や経済発展などのメリットがあるが、少数民族の文化がまるでパフォーマンスのように演出されているという指摘もある。

民族の独特の文化や暮らしを体験できるのがエスニック・ツーリズムの特徴であるため、エリアを観光地化する必要はない。むしろ、ありのままが良いと捉える人も多い。しかし、観光客を呼び寄せるには、魅力を持ち続けなければならない。

たとえば、エスニック・ツーリズムをする人の多くは、民族衣装や生活様式、伝統芸能など
少数民族ならではの文化が見られると期待して訪れる。そのため、一部では観光客のニーズを満たせるように、伝統舞踊がアレンジされたり、昔からの儀式を観光向けに演出したり、規模を大きくしたりするなどのケースが報告されている。

このように、観光客の期待に応えるあまり、文化が作られたものになっていると指摘されているのだ。一方、文化はさまざまな影響を受けながら変化していくため、 観光による文化の変化は受け入れるべきとの声もある。

まとめ

エスニック・ツーリズムとは、少数民族の住むエリアを訪れて伝統や文化、生活様式を体験することで、理解を深める観光スタイルである。

体験・交流型のツーリズムが注目されている世の中で、さらに認知度が高まっていくと予想される。世界中で暮らしている数多くの少数民族は、その独特な文化により多数派民族とは分けて考えられ、偏見や差別の標的となりやすいといわれている。

エスニック・ツーリズムを通して相互理解が深まれば、偏見や差別はなくなるのではないかと期待される。さまざまな民族が共存する世界において平和に貢献する観光スタイルになるかもしれない。

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