ソーシャルリセッションとは
ソーシャルリセッション(social recession)とは、不景気(recession)から派生した言葉で、社会的なつながりや、親密なコミュニケーションが希薄になっている現象を指す。
新型コロナウイルスによるリモートワークの増加や、不要普及の外出を控えることなどによって、物理的な距離をとらなければならないシーンが増えた結果、人とのコミュニケーションの希薄さが加速したことも影響し、この現象は現代、大きな社会問題になっている。
コロナが落ち着いた今もなお、十分なコミュニケーションを取ることができていない人は多く、社会的に孤立したり、幸福感が低下したり、心身が不安定になる等さまざまな問題が発生している。
ソーシャルリセッションの問題点

世の中には孤独を好む人もいる。ひとりの時間を大切にしていて、親密なコミュニケーションを望まない人にとって、孤独は問題ではない。しかし、人間は社会的な生き物であるため、大半の人は、親密なコミュニケーションが希薄化することで、孤独や不安を感じがちだ。
国連開発計画(UNDP)の2021年の調査によると、世界の成人のうち、33%が親密なコミュニケーションを取れておらず、孤独を感じているという。また、世界保健機関(WHO)は、高齢者の社会的孤立が、健康や生活の質に悪影響を及ぼすと警告している。
さらには、アメリカではソーシャルリセッションにより、地域の活動への参加が減少し、親密さが失われた結果、社会に対し不信感を抱く人も増えているという。また、中国の研究では、孤独は健康に影響を与えており、喫煙以上に老化を加速することが示唆されている。
つまり、社会的なつながりを求めている人にとって、ソーシャルリセッションは、メンタルヘルス、健康、生活の質、ウェルビーイング、全てを悪化させる原因になり得ると言えるだろう。
ソーシャルリセッションが社会に及ぼす影響
ソーシャルリセッションは個人の心身に大きなダメージを与え、幸福度を低下させる原因になる。また、個人のメンタルヘルスや健康、心の状況が悪化した結果、社会にも大きな影響を与える。
ソーシャルリセッションにより、社会との結びつきが失われれば、必然的に、地域イベントへの参加率が低下し、ボランティア活動への参加も難しくなる。そうなれば、地域の安全性や、助け合いの精神が失われ、治安が悪化する原因にもなるだろう。
また、社会的孤立が進むと、経済的なデメリットも発生する。ときに仕事を見つけるのが難しくなり、引きこもる原因になることもある。その結果、本人が貧困に陥るのと同時に、働き手が減少することは社会全体にとっても経済的にダメージを負うことになる。
「経済的な貧しさ」と「社会的な孤立」が同時に発生してしまうような状況が望ましくないのは確かだろう。このように、ソーシャルリセッションは、個人だけではなく、社会にも悪影響を及ぼすのだ。
なぜソーシャルリセッションは生まれるのか

次に、なぜソーシャルリセッションが発生してしまうのか、について確認しておこう。
都市化・ひとり暮らしの増加
大家族で一緒にひとつの家に住んでいる場合、物理的に孤立しようがない。しかし、近年、高齢化などの影響で、お年寄りのひとり暮らしが増加している。また、地方都市と中央都市の教育格差や収入格差が広がった結果、若者が街に出て仕事を探すことになり、結果、若年層のひとり暮らしも増えている。
都市部では、ご近所づきあいなどもないことが多いため、社会的に孤立してしまう人も少なくない。
ネットを介するコミュニケーションの増加
近年、ネットによるコミュニケーションは増加している。現在結婚しているカップルの4組にひと組はマッチングアプリなどのネット経由という統計もある。ネットを介して出会ったふたりが親密なコミュニケーションをとることはあり得る。
しかし、多くの人は、ネットで人と会話ができるため、それだけである程度コミュニケーション欲が満たせてしまい、親密な対面でのコミュニケーションをとる意欲が削がれがちだ。
そういった人は、ネットで多くの人と表面的なやり取りはするけれど、精神的には孤独で、セーフティーネットとなるようなコミュニティに所属することもできない、という事態に陥る傾向がある。手軽なコミュニケーションツールの発展が、親密なコミュニケーションを阻害してしまっている、と言えるだろう。
コロナによるソーシャルディスタンス促進
新型コロナウイルスの流行は、リモートワーク促進に寄与した。これにより、長距離の通勤などを行わずに済み、生活の質が向上した人は多いだろう。
一方、会社での交流が主な人との交流の場所になっていたひとり暮らしの人にとっては、リモートワークは孤独感を生み出す一因にもなった。また、大学でオンライン授業ばかりだったため、友達ができないまま卒業してしまった人もいる。
コロナウイルスの流行が、職場や学校で偶然に出会って気軽に話をするというコミュニケーションの機会を減少させ、ソーシャルリセッションを促進する一因となったことは確かだろう。
ソーシャルリセッションを克服するためにできること
最後に、ソーシャルリセッションを克服するためにできることについて見ていこう。
個人でできること
地域の活動や、ボランティア活動、趣味の活動を通じて、新しいコミュニティに参加してみるのも一案だろう。大人になってから新しいコミュニティに飛び込んだり、新しい友達を作ったりすることは勇気がいることだ。しかし、勇気を出して一歩足を踏み出して見れば、気があう人と出会える可能性がある。
また、希薄になっていた関係を見直す、という方法もある。疎遠になっている家族や友達に自分から声をかけてみるのもいいだろう。
地域の自治体でできること
コミュニティセンターやイベントを通じて、地域住民同士のつながりを強化することで、ソーシャルリセッション克服の一助となるだろう。
その際は、高齢者や障がいがある方、日本語が母語でない方も参加できるようなインクルーシブな視点を用いることが大切だ。誰でも気軽に参加できる場所を作ることで、地域社会で孤立する人を減らすことができるはずだ。
国ができること
ソーシャルリセッションにより、精神的な悪化が起こり得ることを周知し、誰もがアクセス可能な相談窓口を設けるなど、メンタルヘルスの問題に取り組む必要があるだろう。
日本では、まだまだ精神科に通うことにスティグマがある。また、カウンセリングを受けることも一般的ではない。偏見があることに加えて、自費でのカウンセリングは高額になりがちなため、庶民は気軽に通い続けることが難しいのが現状だ。
社会的に孤立している人のメンタルが悪化した際、医療機関でどのようにサポートしていくのか、も国レベルで検討する必要があるだろう。
さいごに。ソーシャルリセッションは社会問題
ソーシャルリセッションは、現代社会における大きな社会問題だ。この問題を解決していくためには、個人、地域、社会全体がそれぞれの立場からできることをする必要がある。
多面的なアプローチにより、孤立感や疎外感を減らし、社会的結束を取り戻すことができたなら、個人の健康やメンタルヘルスが改善するだけではなく、幸福度も上がっていき、さらには経済的にも上向きになることが期待できるだろう。
参考サイト
WHY AREN’T WE TALKING ABOUT A SOCIAL RECESSION?|UNDP
関連記事
まだ表示できる投稿がありません。
新着記事









