[特集]PATCH THE TOWN—自治体が紡ぐまちづくりの現場
少子高齢化対策、多様性やウェルビーイングの推進、経済の活性化、自然環境の保護...
より豊かな社会を築くために現代の私たちが求めることは多岐にわたる。社会には問題が山積みで、ひとつ解決されれば、また新たな問題が浮かび上がってくる。
だから私たちは、忘れてしまう。まちが少し豊かになったことを。
もしかしたら私たちは、小さな前進に目を向ける余裕すらないのかもしれない。
本特集では、「豊かなまちづくり」に向けた自治体の取り組みにフォーカスし、まちの豊かさの裏側を探る。まちを豊かにするために奮闘する自治体の方のはたらきを知ると同時に、少しずつでも私たちが暮らす世界がよくなっていることを実感できる機会となれば幸いだ。
日本において、ごみ問題は待ったなしの状況となっている。
環境省の報告書によると、令和4年度末時点で最終処分場の残余年数は、前年からわずかに数値を落とし、全国平均23. 4年となっている。直近数年間わずかに改善傾向にはあるが、依然として猶予が迫っている状況には変わりない。今年生まれた子が、大学を卒業するころには、全国的にごみの行き場を失うことになるのだから、ごみ問題は喫緊の課題といえる。(※1)
さらに、ごみ焼却施設も年々減少しており、この報告書の作成時点では前年から1.1%減少の1,016施設であった。日本全国のごみの総排出量4,034万トン、1人1日あたり880グラムのごみを出している中で、処理施設が毎年減少していく状況は心もとない。
こうした状況を受けて、ごみ問題が社会全体のマテリアリティとして認識され始めている。廃棄物の削減に向けて、国や自治体が率先してサーキュラーエコノミーを推進したり、企業が主導する取り組みも活発になっており、様々なセクターによる対策が次々と進められているが、市民ひとりひとりの意識の変化やごみ問題に向き合う姿勢をもつことも不可欠だ。
そんな中、埼玉県本庄市では環境推進課と市内の高校生が手を組み、子どもも、大人も、誰もが、ごみ問題に当事者意識をもてるような施策が進められている。同課の取り組みを牽引する山田さんに、市内のごみ減量を目指す本庄市の取り組みや今後の展望についてお話を伺った。

「歴史と教育のまち・本庄」が悩むごみ問題。県内ワースト1位からの脱却を目指す
東京から約80km。埼玉県の北西に位置する本庄市は、江戸時代には中山道最大の宿場町として栄えた歴史のあるまちだ。また、広大な川や500メートル級の山々などの豊かな自然にも囲まれ、肥沃な農地では野菜や果樹の栽培がさかんに行われている。歴史や文化財、豊かな自然を魅力として発展を続けている同市だが、近年ごみの多さに頭を悩ませているという。
「本庄はごみが多いんです。令和4年度の統計では、1人1日あたりのごみ排出量が埼玉県内ワースト1位でした。県北部の他の自治体と同様に、せんてい枝が多いことに加えて、自宅で庭を所有している家庭の割合が比較的高いことも理由として考えられます。また、人口に対する飲食店の割合が高く、食べ残しなどが多いことにも起因している可能性もあります」(※2)
本庄市のごみの多さは以前からデータでは出ていたものの、これまで市民に大々的に公表をしてこなかったそうだ。だが、今年2月に市の広報誌「広報ほんじょう」にもごみ排出量が県内ワースト1位であることを掲載。地域の課題を住民と共有することで、いまでは行政と市民が足並みを揃えてごみの減量に挑んでいる。
埼玉県の市町村別ごみ排出状況(1/2) 出典:環境省
埼玉県の市町村別ごみ排出状況(2/2) 出典:環境省
ただ、ごみ問題において具体的なごみの減量効果を測るのは難しく、どの取り組みが効果的だったのかを正確に評価するのは至難だと山田さんは言う。また、自然災害や社会の変化などにも左右されるため、ごみの減量施策が全体の数値としての成果に直結しない場合もあるそうだ。
その中で、ごみの総量のおよそ3分の1を占め、”最も身近なごみ”でもある「生ごみ」に注目した。
「生ごみは臭いがきついことに加えて、水分が多いため重量もあり、さらには焼却効率も悪い。またごみ収集所がカラスやネコに荒らされてしまって掃除が大変なこともあります。そこで、ごみの中でも特に生ごみにフォーカスして減量を目指すことになりました。平成28年度からごみを削減する取り組みを市で本格的に開始して、当初は、生ごみの水切りを推進していたんです。民間企業と協働で開発した水切り袋を活用して、水切りをしっかり行うことを呼びかけました。これにより、1回あたりペットボトルのキャップ1杯程度の水分が減り、それが積み重なることで一定の効果を見込むことはできました」
「生ごみ出しません袋」の誕生。市内の高校生との連携で、まちの課題を解決
その後も、ダンボールコンポスト講習会の開催や生ごみ処理容器等の設置に補助金を出すなど、継続的に生ごみの削減に関する取り組みを進めている。そして、今年2月には「生ごみ出しません袋」の交付を開始した。
「このごみ袋は、生ごみを堆肥化するなどして自家処理し、ごみの減量に取り組むことを宣言した世帯を対象に、15リットルのごみ袋をひと月当たり10枚交付しています。当然、生ごみを中に入れることはできません。枝木など袋に入らないごみについては、例外として通常の認定袋を使用できますが、原則として「生ごみ出しません袋」を使い切るまでは、従来の認定袋を使用しないというルールになっています」
同様の取り組みは他の自治体でも行われているが、同市のユニークな点は、高校生と連携してごみ袋を開発したことだ。
「本庄では、市内にあるすべての高校の生徒が、地域と連携する取組、本庄市高校生プロジェクト「七高祭」を実施しています。その中で、昨年は高校生が地域の課題を解決する企画が行われたんです。地元野菜のPRやまちの活性化などと並んで、「生ごみ出しません袋」に関するプロジェクトも、この取り組みの一環で始まりました」

「デザインも彼らが主体となって進めました。ごみ袋が透明なのは、中がわかるようにするためです。生ごみを捨てない、というルールのもとで交付するものなので、規定外のものが入っていないか、外からも判断できるようにしています。また、イラストと文字にピンクを使用しているのは、収集所などで目立たせるためです。「これ何だろう?」と市民の方に興味をもっていただくことで、この取り組みを知ってもらったり、その方自身のライフスタイルを見直すきっかけづくりになることを期待しています。イラストも高校生がデザインし、重さや親しみやすさの象徴としてくまが採用されました」
デザインやメッセージに趣向を凝らし、ごみ袋自体がメディア化することで、これまでごみ問題や環境活動に関心のなかった方など、より多くの層に周知できる可能性を秘めている。実際に、受付開始から半年ほど経過した8月時点で、53世帯に合計6,710枚を配布する成果をあげている。だが、認定袋だと認知されていなかったり、興味がない方にはなかなか情報が届きにくいなど課題もあるという。では、取り組みの初期にあたる現在の利用者はどのような層が多いのだろうか。
「特に早く動いたのは、もともとコンポストを利用していた方々でした。内訳としては、ご夫婦ふたり暮らしでごみがあまり出ない世帯の申請が比較的多いです。ペットを飼っている家庭やファミリー世帯、また世帯人数が多い場合は、なかなか難しいという声もあります。ただ、チャレンジしたいという方も出てきているので、今後もより多くの人に利用してもらえたら嬉しいです」
大切なのは、ごみ問題を「自分ごと化する」こと
生ごみ出しません袋の取り組みは、多くの市民にとってごみ問題について考えるきっかけとして機能している。だが、ごみを削減するためには、一部の意識が高い人たちだけでなく、市民1人1人が当事者意識をもつことも求められる。
「”ごみがごみを呼ぶ”という言葉があるように、禁止されている場所に1個や2個だけでもごみが出ていると他の人も出してしまうんですよね」
いくらきれいに保とうとしても、少しでもごみが出ているとごみがごみを呼び、管理する人たちの努力は台無しになる。そうならないためにも、1人1人が当事者としての意識をもつことが非常に大切だ。生ごみ出しません袋は、多くの人にとってごみを身近な存在に変え、ごみ問題を自分ごと化するための仕掛けもしているという。

「家庭内でごみ出しを担当するのは、大人の方が多く、高校生は、家のごみ箱に捨てて終わり、ということが大半だと思うんです。なので、開発した高校生たちは、若い人にもごみ問題について考えてもらおうと、「そのごみ重くね?」という彼ら自身の日常会話で出てくるようなフレーズを用いました」
このように、大人だけでなく、子どもたちにも、ごみについて考える機会をもってもらおうと積極的に試みている。市内の小学校の出張授業では、3R講座などを開催して積極的に環境教育も行っているというが、その狙いを、山田さんはこう話す。
「正解はないですが考えてもらうことが大切だと思っています。ごみを減らすためには、という問いに対して、「なにも食べない」など突飛な意見がでることもあるんですが、楽しみながら考えて、何かを捨てる時にふと思い出してもらえればいいですね。また、子どもの意識の変化が大人に波及することもあります。授業は本人たちのためでもあるんですが、子どもの行動から親が気付かされることも案外多いです」
継続するためには。陰で働く人たちを想い、目一杯たのしむ
さいごに、ごみ問題と継続的に向き合うためのエッセンスとは何だろうか。ひとつは、陰で汗水流す人たちの存在を知ることだ。
「ごみって、ルールを守って捨てて、気付けばなくなっていますよね。だけど、その裏には収集する人がいて、違反ごみがあれば分別する地域の人や職員がいるんです」

たしかに、ごみは決まった曜日に収集所へ持っていけば、それ以上のことを考える人は少ないのかもしれない。だが、山田さんが強調するように、裏では、多くの人が働いている。ごみは収集所に捨てて終わりではないのだ。本庄市は悪質な不法投棄は少ないというが、それでもごみ袋の展開検査や事業所への立ち入り検査、ごみの外回りパトロールを定期的に行う職員の方たちがいる。特に夏場は生ごみが悪臭を放つため、ごみ袋の開封は想像するだけでも厳しい作業だ。こういった裏で汗水流している人たちの存在を知ると、ごみ出しや分別に対する意識も多少変わるのではないか。
ただ、義務感だけで動いてしまうと、ごみを持続的に減らすことにはなかなかつながらない。楽しさやユーモアも欠かせない。
「ごみの減量に関しては、楽しさを感じながらやってもらうことを意識しています。環境への配慮が叫ばれるいまの時代、ごみ出しに手間がかかることは仕方のないことだと思うんです。ただ、その中でも少しでも楽しくやってもらうことを考えています。例えば、ダンボールコンポストであれば、子どもに絵を書いてもらうことで、親子でたのしみながら一緒に取り組むことができますよね。そうやって各家庭で楽しみながら本庄市全体でごみを削減していけたらいいな、と思います」
取材後記
インタビューの後もごみ談義が続いた。
「TOP10は抜け出したいです。きっとこの順位は他の部署に異動することになっても気になってしまうと思います」
そう語る山田さんの言葉を聞いて、山田さんをはじめ、環境推進課の方々がどれほどごみ問題に日々真剣に取り組んでいるのかを、改めて強く感じた。
「ごみ」は、汚いもの。臭いもの。だから、早く捨ててしまいたいもの。大半の人にとって、ごみとはそういう存在だろう。しかし、ごみは私たちの生活から出てくるもので、生活とは密接に関わっているものでもある。単に減らすことだけを考えると、生活に義務感がつきまとうようにも感じるかもしれないが、ごみ問題を考えることは、同時に私たち自身の生活をいま一度見つめ直す機会でもあるはずだ。
そして、その裏では人目がなくとも、日々きれいに整えてくれている人たちがいる。ごみについて本気で考えるとき、私たちはそのような方々の働きを知ることにもなる。少しでもごみを減らして、まちを豊かにしようとしてる人たちのことを。ごみとの向き合い方を見直すことで、生活を陰で支えているそういった人たちの存在にも気付くことができる。
ごみは手放して終わるものではない。自らの手を放れれば、なくなるものでは決してない。適当に葬れば、それは社会の中で「ごみ」として居座り続け、やがて私たち自身の生活をむしばむ存在となってしまう。だから、「そのごみ重くね?」と自身に問いかけ、ごみ問題に対して1人1人が当事者意識をもつことが求められる。その問いが、地域を、社会を、そしてわたしたち自身の日常や、子どもたちの未来をよりよくしていくために欠かせないピースになるだろう。
※1「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和4年度)について」|環境省
※2「一般廃棄物処理事業の概況(令和4年度実績)」|埼玉県環境部資源循環推進課
参考サイト
生ごみ出しません袋を交付します!|本庄市
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