ゼロカーボンとは?達成に向けたアクションや地球温暖化の現状、各国や企業の取り組み事例をご紹介

ゼロカーボンとは・意味

ゼロカーボンとは、地球温暖化の原因となる温室効果ガス(GHG)の排出量を実質的にゼロにすることを目指す概念を指す。海外では「ネットゼロ」と呼ばれることも多く、環境問題に取り組むうえで注目されている。

具体的には、私たちが生活やビジネス活動によって排出する二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)などの温室効果ガスの量を、森林などの自然環境に吸収される量とバランスを取ることで、排出量と吸収量を合わせてゼロにすることを目指す。これにより、地球温暖化の進行を抑えられると期待されているのだ。

ゼロカーボンの実現には、再生可能エネルギーの活用やエネルギー効率の向上など、新たな技術や取り組みが必要だ。さらに、私たち一人ひとりの意識と行動も重要である。省エネや再利用、公共交通機関の利用など、身近なところから取り組むことが求められているのだ。

カーボンニュートラルとの違い

カーボンゼロとカーボンニュートラルは、環境問題に取り組む上でよく耳にするが、それぞれ異なる意味を持つ。

カーボンゼロとは、温室効果ガスの排出量と吸収量が相殺される状態を指す。一方、カーボンニュートラルは、二酸化炭素の排出量をゼロにすることを目指す概念だ。つまり、カーボンゼロはすべての温室効果ガスを対象とし、カーボンニュートラルは二酸化炭素に限定される。両者は似ているが、対象の範囲に違いがあるのである。

カーボンオフセットとの違い

カーボンゼロは、企業や国が排出する温室効果ガスの量を、自然吸収または技術的手段によって実質的にゼロにすることを目指す概念だ。一方、カーボンオフセットは、自分たちの排出を削減できない場合に、他のプロジェクトや活動を通じて排出量を相殺する方法である。

つまり、カーボンゼロは排出と吸収のバランスをゼロにするという大きな目標に対し、カーボンオフセットはその過程での一つの手段に過ぎないのである。

地球温暖化の現状

地球温暖化の現状

地球温暖化の現状は、数値を見るだけでもその深刻さが理解できる。気象庁によると、2023年の世界の平均気温偏差は+0.54℃と、1891年の統計開始以来最も高い値を記録した。また、ナショナルジオグラフィックの調査では、海面水位は1880年以降23cm以上高くなっていることが分かった。そのうち約8cmは直近25年間に上昇しており、現在も毎年0.32cmずつ水位を上げているのだ。

これらの変化は、自然界や人間社会に多大な影響を及ぼしている。例えば、気候変動による猛暑などの極端な気象は、食料供給の不安定化や集団移住の加速など、人々の生活に直接的な脅威となっている。また、沿岸部の浸水や島嶼部の消失なども問題となっており、海洋生態系にも大きな影響を与え、生物多様性の喪失や漁業への悪影響が懸念されている。

このような状況を鑑みると、温室効果ガスの排出量を削減し、気候変動の進行を抑制するためには、ゼロカーボン社会の実現が急務である。再生可能エネルギーへの移行やエネルギー効率の向上など、持続可能な社会を築くための取り組みが求められているのである。

注目されている背景

ゼロカーボンが注目されている背景には、温室効果ガスの削減が急務とされる現代社会の課題がある。この課題に対する国際的な取り組みとして、パリ協定が重要な役割を果たしている。

パリ協定は、2015年に採択された国際的な気候変動枠組みである。その目的は、地球の平均気温上昇を2℃未満に抑え、可能な限り1.5℃に近づけること。この目標を達成するためには、温室効果ガスの排出量を急速に削減する必要がある。

特に注目されるのは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表した「1.5℃特別報告書」である。この報告書では、1.5℃の上昇を超えると、地球規模での深刻な影響が生じる可能性があることが示されている。例えば、海面上昇や極端な気象現象の増加などが挙げられる。

ゼロカーボンへの意識の高まりは、このような国際的な合意に基づくものである。気候変動によるリスクを減少させ、将来世代に持続可能な環境を残すためには、ゼロカーボン社会の実現が不可欠であるのだ。

ゼロカーボンの実現には、エネルギーの効率化や再生可能エネルギーの活用など、さまざまな取り組みが必要だ。また、企業や国家レベルでの政策の策定や実施も重要で、各国が温室効果ガスの排出削減に努めることが求められている。

どうすればゼロカーボンを達成できるのか

ゼロカーボンを目指すためには

温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにするためには、どのような取り組みが重要になってくるのだろうか。以下の4つの視点から、ゼロカーボン達成への道筋を探っていく。

エネルギー効率の向上

ゼロカーボンを達成するためには、まずエネルギー効率の向上が重要である。エネルギー効率の向上は、より少ないエネルギーで同じ効果を得られるため、CO2排出量を減らすことにつながる。

具体的な方法としては、建物や車の断熱性能を向上させることや、省エネ家電の利用促進が挙げられる。また、エネルギーの使用効率を高めるために、スマートグリッドやエネルギーマネジメントシステムの導入も有効だ。これらの取り組みによって、より効率的なエネルギー利用の実現が期待されている。

CO2排出源の低減

CO2排出源の低減も、ゼロカーボンを達成するために欠かせない。具体的には、化石燃料の使用を減らすことが重要だ。例えば、電気自動車の普及や代替エネルギー源への転換が求められている。

また、工業プロセスや農業などの分野でも、CO2排出を抑える取り組みが必要だ。さらに、森林の保護や植林活動などによって、二酸化炭素の吸収量を増やすことも重要である。これらの取り組みによって、CO2排出源の低減を実現できるだろう。

再生可能エネルギーの推進

ゼロカーボンを達成するためには、再生可能エネルギーの推進も不可欠だ。再生可能エネルギーは、太陽光や風力などの自然のエネルギーを利用することで、CO2排出をほとんど生じさせない。

具体的な方法としては、太陽光発電や風力発電の導入が挙げられる。また、地熱やバイオマスなどの再生可能エネルギーの利用も選択肢の一つだ。これらの取り組みによって再生可能エネルギーのシェアが増えれば、ゼロカーボンの実現にもつながるのである。

ネガティブエミッション

大気中の二酸化炭素を取り込む技術である「ネガティブエミッション」の技術開発も注目されている。ネガティブエミッションとは、大気中のCO2を回収・吸収し、貯留・固定化することで、正味としてマイナスのCO2排出量を達成する技術の総称だ。これには植林・再生林、土壌炭素貯留、バイオ炭、BECCS、DACCSなどが含まれる。

具体的な方法としては、二酸化炭素を吸収する装置や、二酸化炭素を地下に貯める技術などが挙げられる。また、植物の成長によって二酸化炭素を吸収することも一つの手段だ。

ゼロカーボンに関する世界の取り組み

パリ協定に対して、世界各国はゼロカーボンに向けてどのような目標を掲げているのだろうか。ここでは、主要3カ国と日本の取り組みに焦点を当てて見ていく。

フランス

フランスは、ゼロカーボン社会の実現に向けて積極的な取り組みを進めている。2018年に発表された中期エネルギー計画(PPE)では、CO2排出量が少ない低排出量自動車への税控除や、住宅のエネルギー効率向上のためのリノベーション支援策が打ち出された。これらの政策は今後、その効果が注視されることになる。

また、フランスはパリ協定に基づき、2030年までに1990年比で40%の温室効果ガス削減を目指しており、2016年時点で18%の削減を達成しているが、最近は微増傾向にある。非化石電源が9割を占める中、さらなる削減には省エネルギーの促進が必要である。

イギリス

イギリスはパリ協定に基づき、温室効果ガス(GHG)の削減に取り組んでいる。2020年には1990年比で37%、2030年には57%の削減を目指し、2016年度には41%の削減実績を達成している。非化石電源比率の増加やエネルギー消費の削減など、バランスの取れた施策が進行中であり、再エネの比率は2030年には53%に達する見込みだ。

石炭火力発電所は2025年までに閉鎖される計画で、省エネルギーに関しては、2020年までに最終エネルギー消費を17%削減する目標が設定されているが、最近は停滞している状況である。今後の政策効果に注目が集まっている。

アメリカ

アメリカは、パリ協定に基づく温室効果ガス(GHG)の削減に向けて取り組んでおり、エネルギー自給率の高さを誇っているものの、GHG排出量は主要国で最も多いのが現状だ。オバマ政権下で設定されたGHG削減目標に対し、トランプ政権はパリ協定からの脱退を通告し、現在の進捗は当初の目標に達していない。

再エネや原子力の比率増加を目指す「電源の非化石化」と「省エネルギー」が重要視されており、州によっては再エネ比率が増加している。火力発電では天然ガスへの転換が進み、石炭の比率は低下。しかし、最終エネルギー消費は横ばいで、特に運輸部門の消費量増加が課題である。省エネルギーの取り組みが今後の鍵となる。

日本

日本は、2050年のネットゼロ実現に向けて、法改正や資金支援などの具体的な施策を進めている。2020年に菅義偉首相がカーボンニュートラルを宣言し、2030年度には2013年度比で46%の温室効果ガス削減を目指すと国連に提出した。

2021年度の排出量は11億7000万t(CO2換算)で、2013年度比20.3%減少している。地球温暖化対策推進法の改正や脱炭素化支援機構の設立など、日本はネットゼロ達成に向けた取り組みを加速させている。

企業の取り組み事例

企業においても、ゼロカーボンに向けてさまざまな取り組みが行われている。ここでは3つの企業の取り組みから、各社のゼロカーボンに対する姿勢を見ていく。

キリンホールディングス

キリンホールディングスは、気候変動に積極的に取り組み、2050年までにバリューチェーン全体でGHG排出量をネットゼロにする長期目標を掲げている。再生可能エネルギーへの転換を進め、2022年7月には食品産業で世界初の「SBTネットゼロ」認定を取得した。

2040年までに使用電力の100%を再生可能エネルギーにし、2023年度末時点でCO2排出量が2019年比53%削減する見込みである。これらの取り組みは、脱炭素社会の実現に向けた重要な一歩である。

企業サイト:https://www.kirinholdings.com/jp/impact/env/3_4a

IKEA

IKEAは、2030年までにクライメートポジティブを目指し、サステナビリティ戦略を推進している。再生可能エネルギーへの完全な転換を図り、2021年度には全工場で再生可能電力使用率100%を達成した。

また、製品に使用される木材の99.5%が認証材またはリサイクル材であり、充電式電池への切り替えによりゴミ削減にも貢献している。これらの取り組みにより、持続可能な消費と環境への責任を果たしているのである。

企業サイト:https://www.ikea.com/jp/ja/this-is-ikea/climate-environment/climate-action-pub85dbcef0

ソフトバンク

ソフトバンクは、カーボンニュートラル2030宣言を掲げ、2030年までに事業活動に伴う温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を設定している。再生可能エネルギーの調達拡大や、AIやIoTを活用した省エネルギー化など、環境負荷軽減に向けた具体的な施策を進めている。

また、SBTのスコープ3を含むサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量も2050年までに実質ゼロを目指すとしており、環境への配慮を企業活動の根幹に据えている。

企業サイト:https://www.softbank.jp/corp/sustainability/special/netzero

ゼロカーボンに向けて私たちができること

ゼロカーボン社会を目指すためには、個人レベルでの行動変容も重要である。例えば、日常生活におけるエネルギー消費を意識し、省エネ家電の使用や節電を心がけることが挙げられる。

また、移動手段として公共交通機関の利用や自転車、徒歩を選ぶことで、自動車によるCO2排出量を減らすことにつながる。食生活では、地産地消を意識した食材選びや、肉類の消費を控えることで、食品生産に伴う温室効果ガスの排出を抑制することが可能だ。

これらの行動は、一見小さなものかもしれないが、多くの人々が実践することで大きな効果をもたらすのである。ゼロカーボン社会への移行は、政府や企業の取り組みだけでなく、私たち一人ひとりの積極的な行動が不可欠なのだ。

まとめ

ゼロカーボンは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、気候変動を抑制し持続可能な地球環境を守る目的をもつ。各国や企業は、再生可能エネルギーの導入拡大、省エネ技術の開発、サプライチェーンの環境負荷低減など、多岐にわたる取り組みを進めている。

今後も、技術革新と国際協力が鍵となり、個人のライフスタイル変革も重要である。ゼロカーボン実現に向けた行動は、一人ひとりの意識改革から始まる。持続可能な未来のために、今日からできる小さな一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。

【参考記事】
地球規模の温暖化の影響 現在生じている影響|環境省
世界の年平均気温|気象庁
経済産業省 資源エネルギー庁
IPCC1.5℃特別報告書|JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター

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