IUU漁業とは?地域社会の安全や生物多様性を脅かす違法漁業の現状と対策

IUU漁業とは

IUU漁業とは、「Illegal(違法)」「Unreported(無報告)」「Unregulated(無規制)」の頭文字を組み合わせた言葉で、不適切に行われている漁業のことを指す。健全な水産資源や魚種の個体数が世界中で損なわれているなど漁業を取り巻く問題が多く指摘されているが、IUU漁業はその要因の一つとされる。国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)においては、目標14「海の豊かさを守ろう」に関連する国際的な課題にもあたる。

国際NGOのWWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)によると、IUU漁業の事例として以下のことが当てはまる。

●Illegal(違法):国や漁業管理機関の許可なく行う漁業、国内法・国際法に違反する漁業など

●Unreported(無報告):獲った魚の数を報告しない、または不正確に報告することなど。産地偽装も含まれる

●Unregulated(無規制):ルールを決めずに行う漁業のこと。無国籍または当事国以外の漁船、旗国なしの漁船を使用して漁業をしたり、地域漁業管理機関(RFMOs)の対象地域で認可されていない漁船を使用して行う漁業なども含まれる

IUU漁業問題が地球の持続可能性を脅かす理由

ゴーストギア

IUU漁業が地球の持続可能性を脅かすと言われる理由はいくつかある。

1つは、直接の問題点となる水産資源の減少だ。定められた以上の水産資源を獲ってしまう乱獲は、その種の個体数を減少に追いやり、さらに行き過ぎた乱獲によって種の絶滅を招く可能性もある。しかし、問題はそれだけではない。ある種の個体が減少することで生態系バランスが崩れ、水産資源全体のの持続可能性にも大きな影響が及んでしまうことになる。

また、不適切に乱獲された水産資源は、通常よりも安価で取引されることが多い。そのため、正規の漁業者は本来得られるはずの利益を損失してしまうことになる。こうした状態が続くと事業としての漁業は継続が困難になり、漁業事業者の減少を招いてしまうことにもなるのだ。

違法状態で行われるIUU漁業は、人権・人種問題にも影を落としている。移民労働者を強制的に過酷な環境下で働かせているケースや、加工工場で児童労働が行われているといった報告もある。危険な作業や長時間労働など劣悪な労働を強いている事例もあるとされ、さらに人身売買が行われているという指摘もある。

近年は、魚網や釣り糸、ロープなどの漁具を海中に違法に廃棄するゴーストギア問題も指摘され始めている。ゴーストギアは「漁具の幽霊」と訳されるが、廃棄された漁具は回収されないまま海中を長時間さまよい、将来的には海洋生物の死や水産資源の減少を招く恐れがある。

こうした直接的な被害は起きなくても、漁具はプラスチック製のものが多いため、最終的には海洋汚染にもつながる。海洋汚染の主な要因である海洋プラスチックの10%を占めているのが、このゴーストギアとも言われている。

このほかにも違法漁船が薬物売買の場となったり、資金洗浄の場として使われたり、テロリズムなどの犯罪組織の活動拠点になっている事例もある。他の犯罪につながることも懸念されており、国際安全保障における脅威にもなっているのだ。

IUU漁業に関する動き

国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization:FAO)の報告では、過剰に漁獲されている水産資源は1974年では10%だったのが、2015年には33%まで増加。またWWFでは、IUU漁業によって漁獲される水産物の量は年間約1,100〜2,600万トン、金額的価値は最大で年間2兆6100億円としている。

海洋生物の多様性や地域社会の生活を守るため、IUU漁業対策は最重要課題とされ、2001年にはFAOが「違法な漁業、報告されていない漁業及び規制されていない漁業を防止し、抑止し、及び排除するための国際行動計画」を策定。2009年には「違法な漁業、報告されていない漁業及び規制されていない漁業を防止、抑止、及び排除するための寄港国の措置に関する協定(違法漁業防止寄港国措置協定:PSMA)」が採択された。

現在は、違法漁業防止寄港国措置協定(PSMA)、WTO漁業補助金協定、地域漁業管理機関(RFMO)に加え、当事者の2国間における枠組などを基に国際的な対策が進められている。

2017年には、国連総会が6月5日を「違法・無報告・無規制漁業との闘いのための国際デー」と宣言するなど国際的な舞台での注目度も高まっている。日本で行われたG20大阪サミット(2019年)、G7広島サミット(2023年)でも、首脳宣言においてIUU漁業対策の重要性が明記されている。

各国におけるIUU漁業の現状と対策

IUUの現状と対策

IUU漁業の現状は各国で異なるが、これまで中国やロシア、韓国、台湾、ソマリア、イエメン、日本などがIUU漁業の温床として国際的な問題となっている。英の環境コンサルタント企業Poseidon Aquatic Resource ManagementがIUU漁業のリスクを評価している「IUU Fishing index」におけるランキングも見ながら、5つの国のIUU漁業の現状と対策について紹介する。

1.中国

中国は漁業大国の一つで、2022年の水産物漁獲量・生産量は世界第1位。2位のインドネシアと比べると約4倍で、圧倒的な漁獲量・生産量となっている。その漁獲能力は生態学的な持続可能性を破壊するほど高く、世界で最も乱獲が行われている海域は渤海、黄海、東シナ海、南シナ海の中国近海の4つの海と言われる。

当然、水産資源への負荷も大きく、過度な漁獲が海洋バランスにも大きな影響を及ぼしている。海洋食物連鎖においてドミノ倒しが起き、海洋生物の多様性も失われているのだ。

こうした漁業事情を持つ中国は、IUU Fishing indexにおける2023年のランキングでは150カ国中ワースト1位に位置する。ただし、2019年と2021年のランキングも同様に1位だったが、スコアは3.93(2019年)、3.86(2021年)、3.69(2023年)と調査年ごとに改善しているのも事実だ。

中国ではIUU漁業に向けてさまざまな対策を行っており、例えば2014年から2019年にかけて国内漁船団への燃料補助金を60%削減。また、遠洋漁船団の上限を3,000隻に制限するという方針も打ち出している。

さらに2023年6月には、水産資源の乱獲抑制を目指し、WTO漁業補助金の削減協定に合意。違法漁業防止寄港国措置協定 (PSMA)については未加入だが、合意に否定的ではないと見られており、今後の動向も注目されている。

2.ロシア

ソビエト連邦末期だった1980年代当時、ロシアの漁獲量は800万トンで、世界第3位の漁業大国だった。その後、漁獲量は約半分に減少したが、2022年の漁獲量・生産量は539万トンと徐々に回復している。主要魚種はスケトウダラやマダラ、ニシン、サケ・マスなど。海面漁業が約95%を占めるが、近年は養殖漁業が拡大。養殖サケ・マスが全体の4割を占めている。

そんなロシアでもIUU漁業が横行。2009年はサケの密漁、2015年にはロシア政府が法律で定めた漁獲量を大きく上回ったロシア産カニが世界で流通していることなどが報告されている。IUU Fishing indexのランキングは、2019年、2021年、2023年と2位に位置。スコアは3.16(2019年)、3.04(2021年)、3.20(2023年)と推移しており、2021年に一度下がったが2023年では再び上昇している。

日本でも多くのロシア産水産物を輸入。2015年には、日本が輸入したロシア産サケの30〜40%に当たる1万3,000トン以上がIUU漁業によるものと指摘された。養殖の場合、稚魚や養殖魚のエサとなる水産資源をIUU漁業で得ているケースもあり、目に見えないIUU漁業が多いのも特徴だ。

また2023年6月には、IUU漁業由来のロシア産カニが第三国を経由して日本やアメリカで流通しているとWWFジャパンが報告。各国は適切な方法で輸入管理を行う必要性があると指摘している。

3.インド

主要産業の一つとなっているインドの漁業は、中国とインドネシアに続いて世界第3位の漁獲量・生産量を誇る。水産分野には1,400万人以上が就業していると言われており、GDPの1.1%、第1次産業GDPにおいては約4.7%にあたる。

世界一の人口を擁するインドでは国内需要が大きいことに加えて、加工業の発達によりアメリカやEU諸国、アジア諸国への輸出量も多い。しかし水産業者は零細が多く、水産業に関わる組織が発達していない、水産資源に関する法律が未整備、適切な販売ルートが確立していないなどの課題がある。

そのため、2023年のIUU Fishing indexにおけるランキングは、スコアが2.97で4位。2021年の調査時から0.61上昇し、ランクも48の大幅上昇となった。

日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国による協力枠組み「クアッド(QUAD)」においてIUU漁業対策を強化しており、インド国内におけるIUU漁業対策の進展も期待されている。

4.ソマリア

2023年のIUU Fishing indexにおけるソマリアのランキングは13位。前回の4位から大幅にランクを下げた。スコアは2.75(2019年)、2.90(2021年)、2.68(2023年)となっており、2023年は前回調査時より0.22ポイントも改善している。

ソマリアのIUU漁業は、海賊・海上武装強盗問題によるものがほとんどを占める。ソマリア沖で、2006年から2012年にかけて頻繁に強盗事案が発生し、これは「海賊危機」と呼ばれた。

しかしこの海賊危機は中国の影響が大きいとされる。1991年にソマリア国内の中枢政権が失脚。無法状態になったソマリアの排他的経済水域(EEZ)で、中国の遠洋漁船団が違法的な漁を行った。そのためソマリアの漁師は仕事を失い、海賊行為に至った。

2009年にはソマリア海賊に対して取り組みを行うことを目的に、各国の政府や軍、海運業者、NGOが「ソマリア沖海賊対策コンタクト・グループ(CGPCS)」を発足。多国籍海軍部隊による監視艇の出動などによって海賊行為が抑制された。そのため2007年に237件あった海賊行為発生件数は、2022年には0件に減少。今後もIUU Fishing indexのスコアは改善されていくと見られている。

5.日本

日本で行われるIUU漁業は、漁業権を持たない者が行う密漁が多くを占める。また世界第3位の水産物輸入大国である日本では、輸入する天然水産物の約3割がIUU漁業由来とされている。ただしIUU Fishing indexにおける日本のランキングは、2019年は2.63(19位)、2021年が2.67(12位)、2023年は2.36(46位)となっており、スコアが大幅に改善されている。

スコアが改善している要因の一つが、持続可能な漁業を目指した管理漁業へのシフトだ。先進国の中でIUU漁業対策が遅れていた日本だが、転換点となったのが2017年のPSMAへの加盟。そしてその翌年の2018年には70年ぶりに漁業法を改正した。漁業法の大きな変更点は「資源管理」「海面利用制度」「密漁対策」の3つ。密漁に対する厳罰化などによって水産資源の適切な管理を行い、水産業の成長産業化や流通の適正化を目指している。

また、2022年12月には「水産流通適正化法」が施行され、水産流通適正化制度がスタートした。水産流通適正化制度では次の2つの制度が軸になる。

違法かつ過剰な漁獲が行われやすい魚種(アワビやナマコ)を取引する際に事業者に漁獲番号等の記録および伝達が必要な制度と、国際的にIUU漁業の恐れが大きい魚種(サバやサンマ、イカ、マイワシ)を日本に輸入する際に外国政府機関が発行した漁獲証明書の添付が必要な漁獲証明制度だ。

漁獲証明制度はEUでは2010年、アメリカでは2018年に開始。他国に遅れはとっているものの、日本でも密漁・乱獲の防止につながると期待されている。

まとめ|IUU漁業の規制と管理強化は世界的な課題

FAOの報告書「FAO2020」によると、世界人口80億人のうち約33億人が水産資源を食べており、漁業は約1.2億人の主な収入源となっているという。また、水産資源量の34.2%はすでに乱獲状態にあると推測され、世界人口の増加により水産資源の需要は今後もさらに高まるとの予想もある。

無秩序な漁獲や不適切な乱獲などのIUU漁業は、水産資源の減少・絶滅など環境破壊の一因になっているだけではなく、各国の水産業および水産事業者に莫大な損害を与えている。しかも過酷な労働環境などが下支えしている背景もあり、人種・人権問題などにも影を落としている。

しかし、法整備や管轄などの対策が遅れている国もあり、発展途上国では生活を維持するために仕方なくIUU漁業を行っているケースも多い。農産物などではトレーサビリティやフェアトレードの認知度も高まっているが、今後は水産業でも同様のキーワードが必要になっていくだろう。

2017年には水産物のトレーサビリティのため、国際的な対話の枠組みとして「GDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)」が発足。2020年時点で、世界の水産関連企業60社以上(日本からは3社)が参加している。今後も、こうした国際連携および取り組みの拡大が、IUU漁業排除には不可欠と考えられる。

【参考記事】
JETRO水産業「インドニューデリーBOP実態調査レポート」
JETRO水産業「インドチェンナイBOP実態調査レポート」
WORLD ECONOMIC FORUM「環境と人道的見地から違法漁業を根絶しなければならない理由」
グローバルノート「世界の水産物の漁獲量・生産量国別ランキング・推移」
水産省「(1)「国連海洋法条約」に基づく国際的な漁業管理の枠組み」
「水産政策の改革について」
WWFジャパン「世界初の水産物トレーサビリティ世界標準GDST1.0の発表」
IUU Fishing Risk Index

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