LCA(ライフサイクルアセスメント)とは?環境評価を「見える化」する指標の概要や事例などを解説

LCA(ライフサイクルアセスメント)とは

LCA(ライフサイクルアセスメント)とは、製品およびサービスの環境への影響を、原材料の採取から製造、使用、廃棄に至るまでの「ライフサイクル」全体を通じて評価する手法である。

環境負荷の低減に向けた改善点を発見するには、部分的なプロセスだけで判断すると不十分な場合がある。

例えば、レジ袋とマイバッグの使用におけるLCAを考えると、レジ袋は一度の使用で廃棄されることが多く、その製造から廃棄までのトータルの環境負荷は大きい。一方、マイバッグは繰り返し使用することでそのライフサイクル中の環境負荷を分散させられる。しかし、マイバッグが環境に優しいと一概に言えるわけではない。その製造に要するエネルギーや、使用頻度、寿命、処理方法によっては、レジ袋よりも環境負荷が高くなる場合もある。

このように、LCAは製品の環境負荷を多角的に分析し、より環境に優しい選択を促すための科学的根拠を提供する。結果として、消費者や企業は環境に配慮した意思決定を行うことが可能となるのだ。

CFP(カーボンフットプリント)との違い 

「LCA」と「CPF」はどちらも環境負荷を評価する手法だが、環境への影響を評価する対象が異なる。LCAは製品やサービスのライフサイクル全体における環境負荷を評価するが、CPFは温室効果ガスに限定してCO2排出量を算定し、商品やサービスに分かりやすく表示する。LCAは環境への影響すべてを対象としている一方、CPFは温室効果ガスに焦点を当てているのだ。

Scope3との違い

Scope3は、SBT認定の際に用いられる概念で、企業活動に関連する温室効果ガスの間接的な排出を指す。これには、自社だけでなくサプライチェーン全体における製品の使用、廃棄に至るまでの排出を含む。LCAはこれらの排出を含めた製品やサービス全体の環境負荷を分析するが、Scope3は企業の責任範囲内での排出に焦点を当てる。そのため、LCAの方がより包括的と言えるだろう。

LCAの歴史

LCAの歴史は、1969年にコカ・コーラ社が実施した環境影響の比較研究である「飲料容器に関する環境影響評価」が起源だとされている。この研究は、再利用可能な瓶と使い捨ての飲料容器の製造が環境に与える影響について、詳細に比較・評価することを目的としていた。

その結果は、製品のライフサイクル全体を通じた環境への影響を考慮する必要性を浮き彫りにし、後のLCAの発展に大きな影響を与えた。

この研究を契機に、製品の原材料の採取から廃棄に至るまでの過程全体を総合的に評価する手法が注目され、LCAは環境政策や企業の製品開発において重要なツールとして位置づけられるようになったのだ。

注目されている背景

LCAが注目される背景

LCAが注目される背景には、環境問題への意識の高まりが大きく関わっている。特に、国際社会が共通の目標として掲げるSDGsの実現に向けた動きが、LCAの重要性を後押ししている。

その中でも特に、カーボンニュートラルの達成に向けて、企業活動におけるCO2排出量の削減を求める声が強まっている。カーボンプライシングなどの経済的なインセンティブを通じて、環境負荷を数値化し、削減に努める動きが加速しているのだ。また、地球温暖化対策推進法をはじめとする環境に関する法律や政策も、企業や製品の環境負荷を評価する重要性を高めている。

こうした背景から、製品やサービスのライフサイクル全体にわたる環境負荷を把握し、実質的な改善につなげるLCAが注目されている。環境問題への対応が企業の社会的責任として求められる現代において、LCAはその実践のための有効なツールとして位置づけられているのだ。

LCA活用のメリット

LCA活用のメリット

LCAの活用は、企業や消費者にとってさまざまな利点がある。ここでは、主なメリットとして以下の4つを紹介する。

製品・サービスの改善につながる

LCAを実施することで、製品やサービスのライフサイクル全体にわたる環境への影響を把握できる。これは、原材料の調達から製造、使用、廃棄に至る各段階での改善点が明確になることを意味する。

例えば、エネルギー消費の多い工程を特定し、効率化や代替技術の導入によって環境負荷を低減できる。結果として、より環境に優しい製品やサービスの提供が可能となり、企業の持続可能性にもつながるのだ。

トレードオフを最小化できる

一般的に、ある環境負荷を削減することで別の負荷が増加する可能性がある。しかし、LCAを用いることで、環境負荷におけるトレードオフ(マイナスの影響)を事前に把握し、最適なバランスを見つけることが可能となる。

これにより、一面的な環境対策による意図しない結果を避け、全体としての環境負荷の最小化を目指すことが可能となるのだ。

CFP(カーボンフットプリント)などのデータを取得できる

CFPは製品の二酸化炭素排出量を定量的に示す指標であり、企業が自社の環境負荷を公表し、消費者に情報を提供する上で重要なデータとなる。また、カーボンプライシングなどの政策に対応するためにも、具体的な排出量の把握は不可欠である。

LCAを用いることで、製品の生産から廃棄までの間の二酸化炭素排出量を算出できるため、同時にCFPのデータを取得することが可能となる。

改善の可能性が見つかる

LCAを実施することで、製品やサービスにおける環境負荷を削減するための潜在的な改善の可能性が見つかる。これは、新しい材料の選定、製造プロセスの最適化、リサイクルの促進など、具体的なアクションにつながる。

また、LCAの結果は、環境に関する企業のコミュニケーションやマーケティング戦略にも活用され、企業価値の向上をもたらすことも期待できる。

LCAの活用方法

LCAの実施方法はさまざまだが、以下にその具体的な活用方法を3つ紹介する。

ISO(国際標準化機構)

ISO(国際標準化機構)は、LCAの手法に関して「国際規格ISO14040シリーズ」を提供している。国際規格ISO14040〜14049によって、ライフサイクルにおける評価手順が標準化され、CSR報告書などで取り入れている企業も多い。

この規格は、製品の原材料の採取から廃棄に至るまでのライフサイクル全体を通じて、環境への影響を定量的に評価するためのフレームワークを定める。

企業がLCAを実施する際には、ISO14040シリーズの手順に従うことで、その評価の信頼性を高めることが可能だ。また、国際的な取引においても、ISO規格に基づいたLCAの結果は広く受け入れられるため、グローバルなビジネスにおける環境コミュニケーションの基準として機能する。

環境ラベル

エコマーク
エコマーク 出典:環境省

環境ラベルは、製品やサービスが環境に与える影響が比較的小さいことを消費者に伝えるためのマークである。LCAの結果を基にして、製品の環境パフォーマンスが一定の基準を満たしている場合に、このラベルが付与される。例えば、エコマークやエネルギースターなどが知られている。

消費者は環境ラベルを目印として、環境に配慮した製品選びができる。企業においても、LCAを活用して環境ラベルを取得することで、製品の環境負荷を低減するとともに、市場での競争力を高めることが可能となるだろう。

CFP(カーボンフットプリント)

CFPは、製品やサービスが生涯にわたって排出する温室効果ガスの総量を表す指標である。LCAを用いてCFPを計算することで、企業は製品の炭素排出量を明確にし、削減目標の設定や改善策の検討に役立てられる。

また、CFPの情報は消費者にとっても重要であり、環境に優しい購買選択の指標となる。国際的には、カーボンラベルとして製品に表示されることもあり、企業の環境への取り組みをアピールする手段としても活用されている。

LCAの課題

LCAには、いくつかの課題が存在する。まず、調査や分析には専門的な知識が必要であり、時間とコストがかかる点が挙げられる。

また、すべての工程を網羅することは困難で、特に工場などの設備に関しては測定範囲外となることが多い。これにより、実際の環境負荷が過小評価されるリスクがある。

さらに、データの不確実性や地域性を反映できない場合もあり、LCAが万能な分析手法であるとは言い切れない。LCAの結果を解釈する際には、これらの課題を踏まえた上で慎重に行う必要があるだろう。

LCAの取り組み事例

自社の環境施策の一環として、多くの企業がLCAに取り組んでいる。ここでは、代表的な取り組み事例として、以下の3つの企業を紹介する。

凸版印刷

凸版印刷(GL BARRIER)
透明バリアフィルムGL BARRIER 出典:凸版印刷

凸版印刷は、1998年からパッケージのLCA評価を行い、現在では主要パッケージ製品のCO₂排出量を定量評価している。クライアントとなる企業において、CO₂排出量の少ないパッケージへの置き換えをすることで、サプライチェーン全体でのCO₂削減に貢献している。

再生材の利用・メカニカルリサイクルPETフィルム・透明バリアフィルム「GL BARRIER」・紙素材の活用など、CO₂排出量の削減を目的とした取り組みは多岐にわたる。例えば、「メカニカルリサイクルPETフィルム」は従来製品に比べ約24%、紙パッケージは従来のフィルム構成に比べ約18%〜28%のCO₂削減が可能だ。

大東建託

LCCM賃貸集合住宅(大東建託)
大東建託「LCCM賃貸集合住宅」 出典:大東建託

大東建託は2021年、日本で初となる建物のライフサイクル全体でCO2排出量をマイナスにする「LCCM賃貸集合住宅」を開発した。これにより、建物価値の向上と環境負荷の削減に貢献することを目的としている。

この住宅は、京セラの太陽光発電システムを活用し、建設・居住・廃棄の各段階でCO2削減を図る。特に、断熱性能の強化や屋根形状の工夫により、省エネと創エネを両立。また、建築資材の製造に再生可能エネルギーを用いることで、製造時のCO2排出を低減している。

大東建託は、2030年までに賃貸住宅の居住時CO2排出量を16%削減する目標を掲げており、LCCM賃貸集合住宅の普及を通じて、脱炭素社会への貢献を目指す。

MAZDA

MAZDA・アクアテック塗装
MAZDA「アクアテック塗装」 出典:MAZDA

MAZDAは、2009年からLCAを活用し、自動車のライフサイクル全体における環境負荷の低減に取り組んでいる。

特に、新技術を搭載した車両においては、国際規格ISO14040/ISO14044に準拠した客観的かつ信頼性の高い評価を実施。2018年度には、世界5地域で内燃機関自動車と電気自動車のCO2排出量を比較し、地域ごとの電力事情や走行距離に応じた排出量の違いを明らかにした。

また、サプライチェーンを含めたCO2排出量の削減・水性塗装「アクアテック塗装」の導入・空力設計の最適化・合成燃料の研究など、環境負荷の低減に向けた多角的な取り組みを展開している。

MAZDAは多様なパワートレイン技術の開発も進めており、2050年までにライフサイクル全体でのカーボンニュートラルを目指している。

まとめ

LCA(ライフサイクルアセスメント)は、環境負荷の低減に向けた改善点を発見し、より環境に優しい選択を促す科学的根拠を提供する。企業はLCAを活用し、環境ラベル取得やCO2排出量の削減に努めている。

活用にあたっては専門知識が必要であり、データの不確実性や地域性を反映できない課題もあるが、環境問題への対応が求められる現代において、LCAは重要なツールとして位置づけられている。

多くの企業では、LCAの取り組みを通じて、環境負荷の削減やリソースの有効活用を図っている。今後、持続可能な社会を目指す上で、LCAの重要性はさらに高まるだろう。企業や政策立案者は、LCAを活用し、多角的な視点から環境に配慮した意思決定を進めていく必要があると言える。

参考記事

LCAを考える「ライフサイクルアセスメント」考え方と分析事例|一般社団法人プラスチック循環利用協会
パッケージのCO2排出量削減|凸版印刷株式会社
日本初!脱炭素住宅「LCCM賃貸集合住宅」を開発|大東建託株式会社
環境への取り組み – カーボンニュートラル化に向けたマツダの挑戦|MAZDA

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