ウォーカブルシティとは?目的や効果、日本や世界の取り組み事例をご紹介

ウォーカブルシティとは

ウォーカブルシティ(Walkable City)とは「歩きやすいまち」という意味であり、自動車ではなく歩行や公共交通機関を活用して移動できるまちを指す。世界の多くの都市で、街路空間を人々の利便性や交流を重視したデザインへとつくり替え、憩いや活動の場として活性化させる取り組みが行われている。この取り組みにより、持続可能な都市になることや、国際競争力の向上などに役立つとされている。

そもそも、ウォーカブルとはどのような意味であるのだろうか。国土交通省は「ウォーカブルなまちなか」を「居心地が良く歩きたくなるまちなか」と定義している。「WEDO:Walkable(歩きたくなる), Eyelevel(まちに開かれた), Diversity(多様な人の), Open(開かれた空間が心地いい)」というキーワードを掲げ、まちを人中心の空間に変え、人が出かけたくなるようなまちづくりに取り組んでいる。

ウォーカブルなまちをつくることは、経済活性化や人々の健康、地域コミュニティを強化するために必須である。交通開発政策研究所の研究によると、歩きやすいまちでは大気汚染や交通事故による被害リスクが低減し、遊び場が多いことで子供の成長にもメリットがあると報告されている。

世界中で都市が発展していくなか、昨今は居心地の良さに焦点を当てたまちづくりが求められている。

ウォーカブルシティが注目されている背景 

日本でウォーカブルシティが注目されている背景としては、少子高齢化の問題が挙げられる。

年々出生率が減少し、高齢者世帯の割合が増加していることから、経済を活性化させる生産年齢人口の比率も相対的に減少している。これは特定の地域だけでなく国内全域が抱えている課題だ。ウォーカブルシティによって人中心のまちづくりをすることで、高齢化が進む地方都市などの関係人口を増やし、にぎわいのあるまちを再構築しようと取り組んでいる。

また、世帯数が減少したことで市町村の統合が進み、それに伴って自治体や町会の数も減少し、人々のつながりが希薄化している場所も多い。このような状況において、ウォーカブルシティの構築によって、コミュニティ内のゆるやかなつながりを作り、孤独や孤立を防ぐことが求められているのだ。

ウォーカブルシティがもたらす効果 

ウォーカブルシティがもたらす効果としては、以下の3点が挙げられる。

  • 地域の活性化につながる

ウォーカブルシティが実現し歩くことが重視されれば、脱炭素化につながり、持続可能なまちへとつながる。世界的に地球に配慮した環境づくりが重視されているため、ウォーカブルシティは環境配慮の観点から魅力的な街として世界に発信できるのだ。世界から注目されることで、関係人口が増え、街の活性化につながるとされる。

  • 新しい出会いやにぎわいが生み出される

車社会であったエリアに人が集えるスペースをつくることで、人中心の空間が生まれる。また、まちにこれまで繰り出さなかった人達が集まれば、新たなつながりやにぎわいも生まれる。

  • 健康を促進する

ウォーカブルであることは、歩行量を増加させる後押しともなる。歩くことは、高血圧や肥満のリスクを低減するといわれており、国土交通省のデータによると、歩行量を1日当たり1,500歩多くすることで、年間約30,500円の医療費が抑制されるとしている。歩行量以外にも、車による排気ガスが減ることによる健康への良い効果が報告されている。

ウォーカブルシティに関する日本の動き

ウォーカブルシティづくりを推進させるために、日本ではこれまでにさまざまな取り組みが行われてきた。

先駆的な取り組みとして、1996年に「コミュニティゾーン形成事業」が実施された。この事業では、歩行者の通行を優先すべき箇所がある全国150の区域に対して、車の走行速度制限や道路の整備などが行われた。

2003年には、歩行者の交通事故割合が世界と比べて多いことを受けて、歩行者の安全を確保する「あんしん歩行エリア」と呼ばれる取り組みが行われた。歩行者や自転車の安全確保が必要な地域が全国800地点指定され、歩行エリア拡大による交通事故対策が実施された。

さらに大きな動きがあったのは、2019年に国土交通省が実施した「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」だ。この懇談会にて、上記で説明した「WEDO」の考えや「居心地が良く歩きたくなるまちなか」をつくる方針が固められた。それぞれの都市においてまちづくりを進めていくうえでは、情報共有や政策作りのためのプラットフォームに参加し、同様の施策を推進していく都市とのつながりが必要であった。国土交通省はそのような都市を「ウォーカブル推進都市」と称して募集し、現時点で、全国372都市がこれに該当している。2020年には、魅力的なまちづくりを進めるにあたって、自然災害や社会の多様化に新たに対応するため「都市再生特別措置法」の改正が行われた。

このように、全国にわたりウォーカブルシティに対する政策が活発に行われている。

日本の都市事例

出典:宇都宮ライトレール株式会社

日本のさまざまな地域で、ウォーカブルに対するさまざまな取り組みが行われている。

宇都宮市(栃木県)

栃木県宇都宮市では、LRT(路面電車)の導入を通して、ウォーカブルなまちづくりをしている。自動車中心であった通りを、歩道、自転車通路、LRTが一体になった空間へと変えることで、さまざまな場所へ車なしで移動できるようになっている。現在も行政や商業者、企業等が連携し、LRTを延伸させる取り組みを行っている。

また、LRTは二酸化炭素排出量が少ないため、環境にやさしい公共交通機関でもある。宇都宮市では、ウォーカブルなまちづくりと合わせて、持続可能な環境づくりを目指している。

長岡市(新潟県)

新潟県長岡市では、JR長岡駅周辺にウォーカブルなスペースをつくり、人同士のつながりやにぎわいを生み出すエリアへと変えた。

2016年から3年間、駅近くの歩道にテーブルやイスを設置し、飲食を楽しめる「まちカフェ」を試験的に開始。時が経つごとに参加店舗数が増え、認知度も高まり、2020年からは正式に実施されるようになった。人々が気軽に訪れられるよう、まちカフェと連動したイベントも随時開催している。

海外の都市事例

ウォーカブルシティの事例

ここからは、海外のウォーカブルシティに関する事例を2つ紹介する。

ニューヨーク(アメリカ)

ニューヨークでは、2010年以降ウォーカブルに対する大きな取り組みが行われた。代表的なものが、現在では広場として認知されているタイムズスクエア周辺の施策だ。元々は自動車が通っていた道を広場として再構築したことで、安全性が高まり、以前より歩行者の数が11%増加。さらに、観光客もアクセスしやすくなったことから、経済効果も生まれ、ウォーカブルシティとしての成功を収めた。

パリ(フランス) 

パリでは、学校や職場、医療施設、公園、レストランなどに徒歩や自転車で15分以内にアクセスできる「15分都市」を目指し、ウォーカブルな取り組みが行われた。2020年のロックダウンで車の交通がないことを活用し、複数の場所を車両空間から歩行者空間へと迅速に変更。具体的には、市内への車の進入を制限したり、自転車専用レーンを積極的に設けたりした。市民の意見や要望を取り入れて実施したこともあり、より市民にとって魅力的で満足度の高いまちづくりとなった。

また、この施策は気候変動問題への対策の一環として行われたこともあり、環境配慮という視点からも世界的にウォーカブルシティに注目が集まるきっかけとなった。

まとめ

ウォーカブルシティとは、誰もが歩きたくなるまちであり、経済の活性化や人とのつながり、健康増進などの効果をもたらす。

ウォーカブルの考えが生まれた際は、車の走行速度を抑制させ、歩行者の安全性の確保が重視されていた。時が経つにつれ、歩く際の安全だけでなく、地域で歩行をベースとして暮らすために必要な政策が行われるようになった。また、最初は狭い地区を対象としていたものの、だんだんとまち全体を変える取り組みとなり、最近では福祉や環境、健康などの分野も取り入れた持続可能なまちづくりに重きを置くようになっている。

世界中でウォーカブルシティに対する取り組みが行われ、今後もこの動きは加速していくだろう。「歩きやすい」に重点をおき、より住みやすく魅力的なまちづくりを行うことで、持続可能なコミュニティの形成へとつながるのではないだろうか。

【参考記事】
ウォーカブルポータルサイト|国土交通省
ウォーカブルなまちづくりの海外事例紹介|国土交通省
「ウォーカブルなまちなか」アイデア集|国土交通省
まちづくりにおける健康増進効果を把握するための歩行量(歩数)調査のガイドラインの概要|国土交通省
宇都宮市公式サイト
ウォーカブルシティに関する考察|北九州市立大学
「歩きたくなる街」が生む利点 地域のにぎわい創出|日経BizGate
Why Walkability|ITDP

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