ゼロエミッションとは?カーボンニュートラルとの違い・世界の現状と取り組みを解説

ゼロエミッションとは

ゼロエミッションとは、人間の活動から排出される温室効果ガスや廃棄物を、できる限りゼロに近づけるという概念である。

地球温暖化をはじめとする環境問題に対する解決策として注目されており、SDGsの目標13 「気候変動に具体的な対策を」とも密接に関連する。具体的な活動としては、再生可能エネルギーの活用や電気自動車(EV)の普及などがあげられる。これらは、CO2排出がゼロとなる仕組みであることから、再生可能エネルギーは「ゼロエミッション電源」、EVは「ゼロエミッション車」とも呼ばれる。

地球温暖化などの環境問題が深刻化している現在、ゼロエミッションは持続可能な未来を守るために重要な考え方として位置づけられている。

カーボンニュートラルとの違い

ゼロエミッションとカーボンニュートラルの違いは、温室効果ガスの排出を認めるか否かである。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を吸収分と相殺して「実質ゼロ」にすること。例えば、ブルーカーボン生態系や森林の保全、CO2を分離・回収して地中に貯留する「CCS」やCO2を“資源”ととらえ、素材や燃料に再利用する「カーボンリサイクル」などの脱炭素技術を用いて、排出された温室効果ガスを吸収しプラスマイナスゼロにする。

そのため、CO2を吸収してくれる資源の保全やそのような仕組みを人工的につくること、またはCO2そのものを資源として再利用する取り組みが主要となる。

一方ゼロエミッションは、再エネの利用などによって温室効果ガスや廃棄物の徹底的な排出削減を追求する。

ゼロエミッションの現状

ゼロエミッションの現状

国連環境計画(以下、UNEP)の最新報告書『排出ギャップ報告書2023』によると、UNEPは「ゼロエミッションは不可能だ」と報告書内に記載している。現状と目標のギャップを埋めるためには、前例のない規模の年間削減が必要な状態で、大規模な根本的変革を起こせなければ実現できないということだ。

2022年において、世界の温室効果ガス(GHG)排出量は、2021年から2022年にかけて1.2%増加し、57.4 GtCO2e※の新記録を更新した。これはCOVID-19の大流行による排出量減少からの完全回復が一因であるが、いずれにせよゼロエミッションには程遠いのが現状だ。温室効果ガスの排出は、化石燃料の燃焼と工業プロセスからのCO2排出が主な原因であり、現在のGHG排出量の約3分の2を占めている 。

主な排出国及び地域は中国、米国、EUで世界のGHG排出量の48%を占める。一人当たりのGHG排出量は、世界平均の6.5 tCO2eに対してロシア連邦や米国は倍以上で、インドはその半分以下となっている。

UNEPによる声明の通り、排出をゼロにすることはまだまだ現実的ではない。しかし、その前段階である2℃目標の達成に向けても、2050年までに世界のGHG排出量を約65%減らす必要があり、また1.5℃目標の達成には、約86%の削減が必要とされている。

ゼロエミッションに向けては、全体像として見ると課題を見つけ原因を特定したというフェーズに留まっており、解決や予防に向けた施策はこれから進んでいくだろう。

※tCO2e=温室効果ガスの排出量を、温暖化への影響を考慮してCO2換算した単位

ゼロエミッション実現に向けた課題|技術・コスト・経済発展との両立

世界の温室効果ガス排出量が過去最高記録を更新している現状を打開し、ゼロエミッションを実現するためには、再生可能エネルギーへの全面移行や、製造プロセス、輸送手段の徹底的な電動化など、あらゆる分野で抜本的な転換をする必要がある。

しかし、実現に向けて以下のような課題を乗り越えなくてはならない。

  • エネルギー転換の必要性とコスト面の課題:太陽光発電・風力発電は、発電コストが化石燃料に比べて高額
  • 技術的課題:電池の性能向上や水素製造の効率化など、さまざまな技術革新が不可欠、かつ莫大な投資が必要
  • 経済発展との両立が困難:特に発展途上国では、経済発展とゼロエミッションがトレードオフになることが多い

また、ゼロエミッションが困難だからといって、二酸化炭素除去(CDR)技術への依存が高まってしまうことも懸念される。除去だけでなく、排出削減の徹底をしなければ温室効果ガスの削減量は増加量に追いつかないという見方が強いためだ。「ゼロ」を目指してできる限り対策を施したうえで、除去技術の発展も進んでいくことが望ましいあり方とされる。

ゼロエミッションの実現に向けて

ゼロエミッションに向けて

ゼロエミッションの実現に向けては課題も多く、排出をゼロにすることには途方もない道のりとなることが予想される。ただその中でも、資源の循環利用や廃棄物削減を目指す「サーキュラーエコノミー(循環経済)」が重要なカギを握るとされる。

例えば、廃棄物の発生を抑える製品設計、シェアリングエコノミーの拡大、製品のサービス化(PaaS)などの方法を用いて、サーキュラーエコノミーを推進していくことであらゆる資源を無駄なく循環させていくことができる。

ゼロエミッション実現のために、技術や社会の発展を犠牲にするのではなく、さらなるイノベーションをもって両立を図り、環境問題に取り組む姿勢も求められている。

ゼロエミッションへの取り組み事例

ここでは、海外と国内におけるゼロエミッションへの取り組みを1つずつ紹介する。

1.EU|2035年の全新車のゼロエミッション化決定

EUでは、脱炭素に向けて、2035年までにすべての新車のゼロエミッション化を決定した。同年以降、ガソリン車など内燃機関搭載車の生産が実質禁止となる。

2035年に向けて、EUは自動車業界と協力して具体的には以下の課題に取り組む予定だ。

  • 充電インフラの整備
  • 再生可能エネルギーや原材料の安定した供給
  • 電気自動車(EV)の大量生産や価格引き下げの実現
  • 自動車部門の雇用への影響緩和

エネルギー価格の高騰や、特定の供給源への原材料依存の増大といった不確実性を鑑みて、電動化一択ではなく、カーボンニュートラル燃料など脱炭素に貢献するすべての技術を活用して、環境問題に取り組んでいく。

2.東京都|「ゼロエミッション東京戦略」の策定

東京都は、世界の大都市の責務として「1.5℃目標」を目指し、2050年にCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を宣言。実現に向けたビジョンと具体的な取り組みやロードマップをまとめた「ゼロエミッション東京戦略」を策定した。

この戦略は、以下の3つの視点を重視している。

  1. 気候変動を食い止める「緩和策」と、既に起こり始めている影響に備える「適応策」を総合的に展開
  2. 資源循環分野を本格的に気候変動対策に位置付け、都外のCO2削減にも貢献
  3. 省エネ・再エネの拡大策に加え、プラスチックなどの資源循環分野や自動車環境対策など、あらゆる分野の取組を強化

特に再エネについては、再エネ由来CO2フリー水素を本格活用し、脱炭素社会実現の柱にしていく。水素は、大量かつ長期間のエネルギー貯蔵ができ、再エネ電力の大量導入時の調整力や、熱エネルギーの脱炭素化に向け重要なカギとなる。

まとめ|ゼロエミッション実現には大変革が不可欠

地球温暖化対策の究極の目標とされるゼロエミッションの実現には、経済、産業、生活スタイルの大変革が不可欠だ。再生可能エネルギーへの転換、製造業における全面的な電動化、交通手段の電動・脱炭素化など、やるべきことは多岐にわたる。

政策や企業の技術革新への期待だけでなく、食品ロス削減、公共交通機関の利用、再エネの利用など、一人ひとりの小さな行動の積み重ねも重要だ。

ゼロエミッションへの取り組みは、環境問題対策だけでなく、限りある資源を大切にすることにもつながる。普段の生活の当たり前を疑い、「ゼロ」にできるものがないか探してみることも大きな一歩となるだろう。

参考記事
UNEP『排出ギャップ報告書2023』
EU、2035年の全新車のゼロエミッション化決定、合成燃料に関する提案が焦点に(EU) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
ゼロエミッション東京|環境対策一般|東京都環境局

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