SBT(Science Based Targets)とは?認定基準や認定取得のメリットを解説

SBT(Science Based Targets)とは?

SBT(Science Based Targets)とは、温室効果ガスの排出量削減における国際的な目標。直訳すると「科学的根拠に基づいた目標設定」で、企業が気候危機対策をする際の指針の一つとなっている。2015年に、CDP、国連グローバルコンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)の4つの機関が共同イニシアチブとしてSBTiを設立して運用を開始した。

SBTの誕生は、2015年の「パリ協定」が契機となっている。パリ協定とは、1997年の「京都議定書」に代わる新たな枠組みを構築するために、フランス・パリで開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」で採択された協定のことで、「気候変動枠組条約」に加盟する196カ国が、共通の温室効果ガス削減目標に向かって行動することを明確にルール化しているのが特徴だ。

このパリ協定の骨子の一つが「2℃目標」で、「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃より十分に下回る水準(Well Below 2℃:WB2℃)に抑えること。なおかつ1.5℃に抑える努力をすること」が国際的な共通目標として設定された。この目標をもとにSBTでは基準を設けており、基準に準じて温室効果ガス削減目標を設定した企業は、SBTiの「SBT認定」を取得することができる。

認定条件

出典:環境省

SBTiは、中長期的な視野を持ち、温室効果ガスの削減目標と、目標を達成するための具体的な行動を定めることを求めている。SBT認定を取得するには、申請時から最短5年・最長10年を目標年とし、以下の水準を超える削減目標を設定することが条件となる。

Scope1と2:1.5℃水準に則り、少なくとも年4.2%削減

Scope3:Wellbelow2℃水準に則り、少なくとも年2.5%削減

ただし、Scope3が温室効果ガス排出量の合計の40%以下の場合、Scope3の目標設定の必要はない。

Scopeの範囲

Scope1:燃料の使用などによって事業者が直接排出する温室効果ガス

■Scope2:電力をはじめ、他社から供給されたものを使用することによって排出する温室効果ガス

Scope3:原材料の輸送や従業員の通勤、製品の廃棄など事業者の活動に関連する他社の温室効果ガス(Scope1、Scope2以外の間接排出)

つまり、SBTにおいて温室効果ガスの削除対象となるのは、事業者自らの排出だけではなく、サプライチェーン全体での排出量ということになる。

申請の手順

SBT認定取得を目指す際の手順は、以下のような流れで行う。

  1. コミットメントレター(※1)を事務局に提出する(任意)
  2. 目標を設定し、SBT認定のための申請書を提出する
  3. SBT事務局が目標の妥当性を確認して回答する
  4. SBT認定が承認された場合、SBTi、CDP、WMBのサイトで公表される
  5. 認定後は、排出量と対策に関する進捗状況を年1回報告し、開示する
  6. 定期的に、目標の妥当性を確認する

※1 コミットメントレターは、「SBT認定を2年以内に取得する」と宣言する書類のこと

SBT認定後も、少なくとも5年に1度は目標の再評価を行い、変更がある場合や変化が生じているケースは必要に応じて目標を再設定する。なお、SBT認定を申請するには、通常のSBT申請で9,500ドル(約147万円)の費用が発生する。

中小企業向けSBT

SBT認定は、通常版とは別に中小企業向けSBTも存在する。通常のSBTは、企業規模の大小に関わらずすべての企業が取得できるが、費用や工数を考慮するとリソースに限りがある中小企業にとっては、負担が大きくなってしまう。

そのため、通常のSBT認定取得済み企業の子会社ではない独立系企業であることや、温室効果ガス合計排出量が10,000tCO2e未満、発電設備(再エネ発電設備以外)を所有または管理していないなどの条件を満たしている中小企業は、中小企業版SBTを取得することが可能だ。

中小企業版においては、申請コストを抑えることができる点やScope3の目標設定が任意である点など、通常版と比較して条件が緩和されているため、より多くの企業がSBTを活用して自社における温室効果ガス削減目標を設定することができるようになっている。

SBT認定を取得するメリット

SBT認証 企業 社員モチベーション

SBT認定を取得することで、社員のモチベーションアップなど企業にとってもメリットがある。この項目では代表的な3つのメリットについて解説する。

CDPスコアの評価向上

国際的NGOであるCDPは、CDPスコアを用いて「気候変動」「ウォーターセキュリティ」「フォレスト」などの複数の分野で環境保全に関する各企業の取り組みを評価し、企業の経営リスクへの対応として投資家向けに情報を提供している。

SBT認定を取得している企業は、環境保全に対する意識を強化していると評価され、CDPスコアの評価が向上する傾向があり、それに伴い投資家からの評価も高まると考えられる。

ビジネスリスクの低減・機会獲得

環境配慮に対して高い意識を持つ大企業などでは、取引先や調達先企業にも温室効果ガス排出量の削減などに関して高い目標設定や取り組みを求めてくるケースもある。

そのためSBT認証を取得することで、自社の環境配慮への活動をアピールし、そのような取引先の要請に応えることができるため、取引停止などビジネスにおけるリスクを低減することになる。逆に、サプライヤーからの信頼につながり、新たな事業機会を獲得する可能性もある。

さらに、サステナビリティに関する消費者の意識の高まりに対応できるため、不買運動などのビジネスリスクを低減することもできる。

調達リスクの低減

サプライチェーンにとって商品やサービスを安定的に消費者に届けるには、それぞれの工程が正しく機能する必要がある。グローバルに事業を展開している企業にとって、リスクの一つは取引先の国や地域によって温室効果ガス排出量や有害化学物質含有量などに関する法規制が異なっていることだ。

しかし、世界的な基準で温室効果ガス削減に取り組んでいると認められるSBT認定を取得していることで、サプライヤーからの信頼を得やすく、調達リスクの低減につながると考えられる。

社員のモチベーションアップ

SBT認証を受けることで、現在の自社における温室効果ガス排出量を見える化し、さらに中長期的な削減目標を設定することになる。つまりSBT認証を得ることによってやるべきことが明確に把握でき、社員のモチベーションアップにつながると考えられる。

また、新たなイノベーションが生まれる機運も高まり、これまでになかった発想が社員から出てくる可能性も高まる。

SBTの取り組み状況

世界の動向

SBT認定の状況について、2024年2月時点の全世界における参加企業は合計7,479社となっている。このうち認定企業は4,565社、コミット企業は2,914社だ。なお、参加企業の推移は以下のようになっている。

認定企業(社)コミット企業(社)参加企業(社)
2015年3月1717
2017年3月40166272
2019年3月191350841
2021年3月6426681310
2023年3月2,2562,5544,810
2024年2月4,5652,9147,479

2023年3月時点では、認定企業は2,256社、コミット企業は2,554社で合計4,810社。2024年2月までの増加率は認定企業が202.3%、コミット企業が114.1%、参加企業が155.5%と大幅に伸長していることがわかる。こうした状況から、SBTへの参加企業数がさらに増えていくことが予想される。

なお、2024年2月時点の認定企業数を国別に見ると、日本が世界の約20%と占めており、イギリスやアメリカを抑えて認定企業数が最も多い。

日本の動向

世界の中でSBT認定企業数が最も多い日本では、2024年2月時点で認定企業が845社、コミットしている企業が78社となっており、参加企業の合計は923社にのぼる。参加企業数は2018年頃から増加を続けており、2022年3月時点で認定企業は164社、コミットしている企業38社で参加企業は202社だったことから、直近2年間で約4.5倍になっていることがわかる。

なお、以下の表は、産業別の認定企業数だ。

業種認定企業数(社)割合(%)
電気機器メーカー16119.1
建設業8910.5
商社や代理店647.6
自動車および部品576.7
建築製品546.4

電気機器メーカーと建設業での取得が全体のおよそ3分の1ほどを占めており、これらの業界ではSBTに対する関心が特に高いことがうかがえる。とはいえ、幅広い業種からの参加があり、多くの企業が気候危機対策をアピールする方法としてSBT認定取得を活用していることがわかる。

取り組み事例

このように世界各国で広がるSBT認証取得への動きだが、具体的にどのような企業でどのように導入しているのか事例を紹介しよう。

米アップルでは、SBTの基準を主軸に、2030年までにすべての製品をカーボンニュートラルにするという目標を発表。2023年9月には、グローバルサプライチェーンの300社以上のメーカーが、アップル製品を製造する際に100%クリーンエネルギーを使うことを確約していると発表。これはアップルの直接製造費の90%にあたり、2030年までのカーボンニュートラルに近づいたことを意味している。

またソニーでは、2010年に長期環境計画「Road to Zero」を掲げ、2050年までにグループ全体で環境負荷をゼロとすることを示した。さらに2022年5月には、2040年のバリューチェーン全体でのネットゼロ目標を設定。これに対し、2022年9月にはSBTのネットゼロ目標の認定を取得している。なお、同時期に「Road to Zero」の達成年を2050年から2040年に10年前倒しすることも発表している。

まとめ

SBTはパリ協定をきっかけに誕生した、「2℃目標」という科学的な根拠に基づいた気候危機対策に関わる枠組みの一つ。SBT認定は、自社の気候危機対策を外部にわかりやすく示すことができるため、国内外の多くの企業が取得を試みている。そして、実際に認定される企業も年々増加傾向にある。

しかし、まだ先進的な取り組みという位置づけを脱しておらず、特に中小企業においては、SBT認定の取得によって競合優位性を獲得できるという段階だ。個別の企業にとっては、早い段階でSBT認定を取得することで、環境配慮への取り組みを強くアピールすることにつながるだろう。ただ、地球規模で見たときには、すべての企業が温室効果ガス削減目標を定め、SBT認定取得が当たり前となることが最終的な理想となるはずだ。

参考資料
JNet21「カーボンニュートラルをめざすSBTには中小企業も参加できますか。」
環境省
SBT公式

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