人新世(アントロポセン)とは?地質年代における新しい区分を解説

人新世(アントロポセン)とは?・意味

人新世(アントロポセン)とは、人類の活動が地質に永久的な変化を残していることから、新たな地質年代として提唱された用語である。古代ギリシャ語の「Anthropo(人間)」と「Cene(新しい)」を組み合わせてできた造語だ。

2000年に化学者のポール・クルッツェン氏と生物学者のユージン・ストーマー氏によって提唱されて以降、急速に認知されるようになった。

現在の正式な地質年代区分は「完新世(Holocene)」であり、約11,700年前から始まっている。しかし、近年の人類の活動による自然環境の著しい変化によって、これまでとは異なる新たな地質年代が到来しているとされている。

人新世が始まったとされる年代については、さまざまな議論がある。一般的には1800年代の産業革命によって大気中の炭素濃度とメタンの割合が大きく変化した時代がその始まりとされる。一方で、1945年の第二次世界大戦による原子爆弾の投下によって、世界中の土壌サンプルから異なる放射性粒子が検出された時代を人新世の始まりとする意見もある。いずれにしても、人類の活動によって地質、大気、岩石中の構成要素が変化したことが言及されている。

2016年に「Anthropocene Working Group」は、人類の活動が環境に多大な影響を及ぼし始めた1950年を人新世の始まりだと合意した。しかし、これは世界的に認知された公式な決定ではないため、今後の動きに注目が集まっている。

人新世に関する議論

2000年に人新世について提唱されて以降、科学者達の間で議論が盛んに行なわれるようになった。国際組織である「the International Union of Geological Sciences(国際地質科学連合)」では、人新世(アントロポセン)を正式な地質年代にするかの議論が続いている。第一の条件は、人間が地球の岩石システムに影響を与えたのかどうかが鍵だ。これは、過去の地球規模のイベントによって地質に変化が起きた科学的根拠が元になっている。

人新世の目印の候補

人新世(アントロポセン)の到来を裏付ける有力候補とされているのが、カナダにある「クローフォード湖」である。この湖は、ベルリンの科学者グループによって世界12の「ゴールデンスパイク」に選出された地点の一つである。地球規模の大きなイベントによって、岩石中に堆積した化石のような層状の変化が確認されると、その地点に「金色の杭」が打ち込まれる。この「ゴールデンスパイク」の地点は、国際地質科学連合によって決定される。

クローフォード湖の底には、過去の人間活動によってもたらされた堆積物が重なっている。深さ24メートルのこの湖は、過去100年以上の湖底堆積物のサンプルを採取することが可能であり、これによって人類活動による環境への影響を比べることができる。調査隊によってクローフォード湖の地質が採取された際、興味深い地質の層が多く発見された。近い将来、その層が人間の活動によって生成されたものであることを裏付ける証拠が揃う可能性がある。

他の「ゴールデンスパイク」の候補地には、日本の別府湾、イタリアのエルネスト洞窟、オーストラリアのフリンダース礁、バルト海のゴットランド海、南極半島のパーマーアイスコア、アメリカのサンフランシスコ河口、シアーズビル貯水池、中国の四海龍湾湖、ポーランドのシェニスカ沼、メキシコ湾などが挙げられる。

批判的議論

人新世が大きな興味を集めている一方で、その概念に対する疑問も多くある。特に、人新世が「いつ」始まったのかについては議論が続いており、科学者たちからの批判も多い。産業革命の1800年代、第二次世界大戦の1940年代、原子爆弾が投下された1945年をその始まりとするなど、一貫した見解がないためだ。加えて、人新世の次の地質年代をどう定義するのかも注目の的となっている。

しかし、「Anthropocene Working Group」は人類の活動が急激に増加した1950年の「大加速」を人新世の始まりとした。この大加速は、第二次世界大戦後の世界的な経済成長のことを指している。経済の再生と発展のために人々は尽力したが、同時に深刻な環境汚染も確認された。このため、同組織はこの年代に焦点を当てることで、地層の変化と人類活動の関係性を明らかにしようとしている。

人新世における地球環境

人口の爆発的な増加によるエネルギー使用の急激な拡大は、環境負荷を大きく無視した現代社会の発展を促してきた。

先進国が過去に大量排出した温室効果ガスは、月日を経て気候変動による異常気象を頻発させている。地球規模で起きているこの現象は、大気だけでなく地質的にも影響を与えており、実際、増加する土砂災害や土壌流出などの被害をもたらしている。

海洋プラスチックによる環境負荷も深刻である。人類が製造し廃棄したプラスチックの量は急速に増加しており、2050年には海に生息する魚類の量を上回るという研究もある。プラスチックとは無縁と思われる北極地方でも、マイクロプラスチックの存在が確認されており、ほとんどの海域で廃棄プラスチックが存在している。海や湖、陸地の土壌を検査すると、プラスチックの堆積物が確認されることもあり、これが後年には新しい地質層として定義される可能性があるという意見もある。

人新世における資本主義

斎藤幸平氏が執筆した著作『人新世の資本論』では、人新世と資本主義の関係について言及されている。地球全体で人間の活動の痕跡が広がっている現代は、新しい地質時代と呼ぶに相応しいとされている。

相次ぐ自然災害によって我々の生活は対応を余儀なくされているが、この状況は資本主義が人間の欲求を加速させ、自然資源を過剰に利用していることが一因である。大量消費が当たり前となっている現代において、人類は自分たちの恵まれた生活に気付かず、むしろさらに欲望を増しているのが現実だ。

斎藤幸平氏によると、現代社会の人間は「足るを知る」ことに気付き、「脱成長」という新しい転換点に進むことが重要であると述べている。これは、資本主義による限りない消費の中で、「我々はすでに豊かである」という価値観を手に入れることを示している。この価値観は、今後の人間社会の持続可能性を確保するために重要な要素となるだろう。資源が人口増加によって逼迫し始めている中で、国だけではなく「個人」の生活スタイルを変える必要があるとされている。

今後の展望

人新世に関する定義とその在り方については議論が続いている。公式には完新世である現代に対して、どのように人新世を導入するかがカギとなる。そのためには、地球規模で岩石や地質に変化が起きた証拠を集める必要がある。世界各地にある12の「ゴールデンスパイク」が人新世の到来を裏付ける証拠となる可能性が高い。

仮に人新世が公式に認められるようになった場合、人々の環境への関心を大いに喚起することにつながるだろう。科学的に十分な証拠が揃えば、人類の地球規模での影響をより明確にし、国家レベルでの対応策を決定するための重要な指針となるであろう。

参考記事
https://www.ibaraki.ac.jp/news/2022/05/20011629.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/psaj/58/0/58_580116/_pdf
https://shinshu-kaikan.jp/samgha/saitoukouhei
カナダ クローフォード湖
Canada’s Crawford Lake chosen as ‘golden spike’ to mark proposed new epoch | CBC News
アントロポセン
海洋プラスチック問題について |WWFジャパン

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