フレキシタリアンとは
「フレキシタリアン(flexitarian)」とは、ベジタリアン(vegetarian)に「柔軟な」を意味するフレキシブル(flexible)を掛け合わせた造語である。植物性食品が中心だが、状況に応じて肉や魚も食べる人を指し、「セミ・ベジタリアン」、日本では「ゆるベジタリアン」などと呼ばれている。
気候変動の影響が著しく身近になっている昨今。欧州を中心に、環境問題や動物愛護、健康問題への課題意識から、ベジタリアンの考え方を支持した「動物性食品の消費を抑える動き」が見られるようになっている。
一方で、「外食時の選択肢が大幅に狭まる」「食事制限によるストレスを感じる」というように、肉や魚を完全に排除することが実生活において難しい場面も少なくない。そんな中、準菜食主義者であるフレキシタリアンの食生活は、「誰でも始めやすく、環境への影響にも配慮できる」ことから、近年注目が集まっている。
「菜食主義者」になる理由
フレキシタリアンについて詳細を述べる前に、人が「菜食主義」を選ぶ理由について紹介する。
健康志向の高まり
一番身近な理由として、健康意識の向上が考えられる。2015年、WHO(世界保健機関)がベーコンなどの加工肉を「発がん性物質」のリストに追加し話題を呼んだ。これは、「加工肉を毎日食べると大腸がんの発症リスクを高める可能性がある」というものだ。
タンパク質やミネラル、DHA、EPAといった栄養素が豊富な魚類をはじめ、多くのビタミン群と食物繊維を含む野菜や果物が健康に好影響を与えることは言うまでもないだろう。
病気やアレルギーなどで特定食品を摂取できない場合もしかり、健康志向の高まりと比例して、「菜食主義」は現在も増加傾向にある。
宗教的理由
伝統的な和食は、米、汁物、野菜や大豆食品が中心だった。日本では、今から150年以上前の明治維新まで獣肉を食すのは一般的ではなかったが、これは仏教信仰に深い関係があるといわれている。
世界には、宗教的な教えに基づいて菜食主義を実践する人びとが数多く存在する。動物を尊重し、肉食を避ける生活を送るヒンドゥー教や仏教、ジャイナ教の信仰を持つ人びとの食生活は代表的な例だ。イスラム教徒であれば、ハラルフードのみを食し、豚肉や決まりに従った処理を施されていない肉類は避ける、といった独自のルールがある。
このように、菜食主義は単なる食の選択肢に留まらず、深い信念や文化とも密接に結びついているのだ。
アニマルウェルフェア
アニマルウェルフェア(動物福祉)とは、「家畜などの動物が誕生してから死を迎えるまでの間、人間が与える苦痛を最小限に抑え、精神的・身体的な状態を改善すること」を目的とした畜産のあり方である。
我々の食卓を支える畜産業には、動物たちが劣悪な環境で飼育され、暴力を受けるといった非人道的な問題が存在する。インターネットやSNSの発展によって、これらの情報を受け取りやすくなったこともあり、多くの人びとが動物愛護の観点から菜食主義を実践するようになった。
情報の拡散スピードが加速するいま、このような動きはますます広がっていくことが予想される。
地球環境への配慮
近年の気候変動の影響を受けて、環境への配慮から菜食主義に転換するケースも増加傾向にある。なぜなら肉類の生産は、穀物や野菜の生産よりも多くの温室効果ガスを排出するからだ。
温室効果ガスの一種であるメタンが温暖化の原因になることは広く知られているが、実はウシのげっぷにはメタンが含まれている。また、家畜の大量の排泄物は、メタンの発生だけではなく土壌や水質の悪化にもつながっている。食肉の製造過程では、飼料生産から輸送、加工、そして最終的な消費にいたるまでの一連のプロセスにおいて、温室効果ガスが排出され続けているのだ。
菜食主義を選んで肉の消費を抑えることは、地球温暖化の原因を取り除く大きな手段のひとつといえるのではないだろうか。
フレキシタリアンの食事
フレキシタリアンの食事内容の最たる特徴は、「動物性の食品を食べても問題はない」という柔軟性をもっていることだ。
ベジタリアンは、野菜や果物、豆類、穀物といった植物性食品を摂り、肉や魚、卵、乳製品などの動物性食品を避けるという明確なルールがある。一方のフレキシタリアンは、植物性食品を食の中心に置きつつも、状況に応じて肉や魚を食べることを許容している。
たとえば、「平日は植物性食品だけを食べるが、週末には友人や家族と肉や魚料理を食べる」「毎週、月曜日は動物性食品を一切摂らないと決めている」といったように、自分のペースで気軽にルールを設けることができるのだ。
フレキシタリアンのメリット
フレキシタリアンの食生活には、心と身体への負担が少ない上にさまざまなメリットがある。
手軽に始められる
最大のメリットは、誰でも、いつからでも始められる“手軽さ”なのではないだろうか。
環境問題やアニマルウェルフェアに高い関心を持つ人でも、乳製品やハチミツなどを含むすべての動物性食品を断つ完全菜食主義者であるヴィーガン(Vegan)や、食の選択に制限のあるベジタリアンを実生活に採用することは、少なくとも現在の日本社会では未だ難しい場面があるかもしれない。
あくまでも肉や魚介類を控える「野菜中心」の食事にシフトするフレキシタリアンの食生活は、普段の生活にも組み込みやすいというハードルの低さがある。
食事のストレスが少ない
フレキシタリアンの食生活は手軽に始められ、「動物性食品を避けるべき」といった強迫観念を感じずに済む。自分の体調や状況に応じて柔軟に食事内容を選べるため、ストレスフリーで続けやすいことも大きな利点だ。
肉や魚を完全に断つことは、毎日の食事や外食での選択肢を減らすことでもある。フレキシタリアンの食事内容なら、家族や友人、仕事仲間など周囲からも理解を得られやすいだろう。現在の食生活を大幅に変えるという負担がなく、食事自体を楽しむことができるのだ。
ダイエット効果がある
フレキシタリアンは「食事内容を柔軟に選べる」といっても、中心となるのは野菜や果物、穀物といった植物性食品だ。
ビタミン、ミネラル、食物繊維などを豊富に含む野菜中心の食事にシフトすることは、肥満やメタボリックシンドローム、高血圧、糖尿病などのリスクを低下させることが分かっている。また、肉類を避けることは便通の改善にもつながる。野菜やキノコなどに豊富に含まれる食物繊維は、腸内環境を整え、善玉菌を増やして腸のぜん動運動を促進する作用がある。
植物性食品自体が肉類に比べて低脂質・低カロリーであることから、ダイエット効果も期待できるのだ。
まとめ
「健康や環境問題に関心がある。けれど、『菜食主義』の食生活にいきなりシフトするのは難しい」。本記事で紹介したフレキシタリアンは、そのような葛藤を抱える人でも取り入れやすい食事方法だ。
ヴィーガンや他のベジタリアンの食生活と比較しても、習慣化と継続化が期待できる「ゆるベジタリアン」。肉と野菜の簡単な置き換えや、週に1回は肉類を摂取しないといった手軽なルールを決めることから始められ、これからますます注目されるだろう。
カフェラテをソイラテに変更する、いつもの食事に大豆ミートを取り入れる、週に一回は肉や魚を食べない日を作る――気になる方は、こういった小さなアクションから始めてみてはいかがだろうか。
参考サイト
ベジタリアンとは?|日本ベジタリアン協会
欧州における食肉および乳製品代替食品市場の現状|独立行政法人 農畜産業振興機構
ここが知りたい地球温暖化|国立環境研究所 地球環境研究センター
健康と環境における赤身肉と加工肉|公益社団法人 日本WHO協会
アニマルウェルフェアについて|農林水産省
ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド|国土交通省 観光庁
関連記事
新着記事















