強制労働とは?世界の実態や日本での問題点について解説

強制労働とは

強制労働とは、所有者の支配のもとで自分の意思に反して働く労働のことで、奴隷的労働形態の一つ。処罰や脅しによって働かされる労働も含め、労働者の意にそぐわないすべての労働を指す。世界中の国や地域に存在しており、農業、建設業、鉱業、家事労働といった業種で見られる。

強制の手段には、債務奴隷や詐欺的な募集形態、児童労働などの違法または違法に近い形での労働、社会制度として成り立っている伝統的な奴隷制度などがある。また、人身取引や非正規移民による労働や商業的性的搾取も強制労働に含まれるほか、賃金の未払いや極端な低賃金での労働契約も強制労働と見なされる可能性がある。

強制労働を強いられやすいのは、貧困層や教育レベルの低い層などの社会的あるいは民族的な少数集団だ。低収入を補うために負債を抱えることで、強制労働の被害に遭うケースが多い。一方、強制する側は、国家や民間企業、個人など様々なケースがある。

統計でみる強制労働

世界における強制労働の実態について、「現代奴隷制の世界推計」(2022年)と「利益と貧困:強制労働の経済」(2024年)から紹介する。

「現代奴隷制の世界推計」による報告

「現代奴隷制の世界推計(Global Estimates of Modern Slavery: Forced Labour and Forced Marriage)」は、ILO(国際労働機関)と国際人権団体ウォーク・フリー、IOM(国際移住機関)が2021年9月に公表した強制労働と強制結婚についての報告書だ。2021年時点で世界に5,000万人の「現代奴隷(modern slavery)」がいるとし、2016年時点に比べて1,000万人以上増加したと報告した。

そのほかの内容は以下の通り。

  • 強制労働の86%は民間企業で、14%は国家による
  • 5,000万人の内訳は、2,800万人が強制労働、2,200万人が強制結婚
  • 強制結婚の65%は「アジア・太平洋」地域
  • アラブ諸国では1,000人あたり4.8人が強制結婚を強いられている
  • 移民は、非移民と比べると強制労働に陥る可能性が3倍以上高い
  • 強制労働をさせられている子どもは330万人(全体の約8人に1人)
  • 強制労働をさせられている子どもの半数超が商業的性的搾取の被害者
  • 商業的性的搾取は全体の23%で、5人のうち4人が女性か少女、など

なお「現代奴隷」とは、強制労働のほか、人身売買、性的搾取、臓器売買、強制結婚などを指す。奴隷貿易によって、16世紀〜19世紀にかけてアフリカからアメリカに強制的に連れてこられた奴隷は1,200万人超とされており、現代奴隷の方が多い。

「利益と貧困:強制労働の経済」による報告

ILOが2024年3月19日に発表した「利益と貧困:強制労働の経済(Profits and Poverty: The economics of forced labour)」では、以下のことが報告されている。

  • 2024年の強制労働による違法利益は2,360億ドル(2014年の37.2%増)
  • 2024年の強制労働による違法利益は一人あたり9,995ドル(2014年の20.8%増)
  • 部門別では「産業(製造・建設・採掘等)」が全体の55%
  • 商業的性的搾取の被害者数は全体の27%。違法利益総額は全体の73%、など

なおILOでは、強制労働の形態は複数あり、最も多いのが給料から天引きする形で組織的に行われていると指摘している。

強制労働に関する国際的な条例

強制労働について国際的な取り決めを主導しているのがILOだ。ILOでは1930年に「強制労働に関する条約(第29号)」を採択し、強制労働は基本的人権の侵害にあたるとした。

しかし国家による強制労働が増加したため、ILOは1957年に第29号を補完する形で「強制労働の廃止に関する条約(第105号)」を採択した。第105号で廃止を求めているのが以下の強制労働だ。

1957年の強制労働廃止条約(第105号)|ILO(国際労働機関)より抜粋

第105号は、2023年4月時点で178カ国が批准している。

強制労働に対する世界各国の法整備の動き

海外では、現代奴隷に対する法整備を進める国も増えている。イギリスは2015年、オーストラリアは2019年に「現代奴隷法」を施行したほか、カナダでは2023年に議会で可決した。

また、サプライチェーンによる人権侵害等を防止するために人権デューデリジェンス(人権DD)への対応も進んでおり、フランスは2017年に「企業注意義務法」、ドイツは2023年に「サプライチェーン注意義務法」を施行している。このほか、オランダやノルウェーなどでも法律が整備されている。

強制労働に対する日本における法整備の動き

日本は「強制労働に関する条約(第29号)」を1932年に批准しており、1947年施行の「労働基準法」第5条で「強制労働の禁止」を定めている。労働者を無理に働かせることを禁止しており、違反した場合は労働基準法の中で最も重い「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」が科される。

ただし第105号は2022年7月19日に177番目に批准し、2023年7月に発効している。批准が遅れたのは、公務員法により公務員は政治活動に参加できないなどと定められていたことが理由とされている。

国際条約に違反した強制労働の事例

これまでに国際法的に強制労働と確定している事例は以下の通りだ。

  • アメリカ、スペイン、フランス、ポルトガルなどによる黒人の奴隷
  • 大航海時代のスペイン・ポルトガルが強いたインディオの労働
  • 1863年に奴隷解放宣言が行われたアメリカで、それ以降に労働力として導入したアジア系労働者の労働
  • ナチスドイツによるユダヤ人絶滅収容所
  • 社会主義国で行われている強制収容所や児童労働

地域ごとの強制労働の実態

地域ごとの強制労働の実態

強制労働に従事する約2,800万人を地域別に見ると、「アジア・太平洋」が55%、「欧州・中央アジア」が15%、「アフリカ」が14%、「南北アメリカ」が13%となる。それぞれの地域別に強制労働の特徴を紹介する。

アジア・太平洋

割合が圧倒的に多い「アジア・太平洋」では、伝統的な奴隷労働と新しい形の強制労働が存在している。特に貧困層の子どもを対象とした債務奴隷が農業や家事労働、鉱山、工場などで行われ、長期間にわたって経済的搾取が続けられている。また、人身取引や強制的な商業的性的搾取が常態化しているのも問題視されている。

欧州・中央アジア

中央アジアで、世界的に強制労働が注目されたのがウズベキスタンだ。綿花産業で常態化しており、ウズベキスタン産の綿を用いたアパレルブランドに対して世界中で不買運動が巻き起こったこともある。政府による賃金上昇に向けた取り組みなどにより強制労働は終息したが、近隣国でも同様の強制労働が行われているとされる。

アフリカ

武力紛争や民族対立により、アフリカ大陸全土で不完全就労や失業が慢性化。これらを要因とした根深い貧困問題が、強制労働や人身売買につながっている。自国を離れて先進国に入国する際に負債を負わされ、強制労働の被害に遭う事例も多い。他地域よりも児童労働が多いのも特徴で、子どもが兵士として徴用されている点も問題とされる。

南北アメリカ

ラテンアメリカやカリブ海諸国では、先住民が多くを占める農業労働者のほとんどが債務奴隷に陥っているとされる。一方、アマゾン川流域では、前払い賃金を理由に奴隷労働を強いられている労働者が多いとされる。

日本における強制労働

先進国では、サプライチェーンにおける強制労働が問題視されている。ドイツではフォルクスワーゲンやBMW、メルセデス・ベンツの国際的な大手自動車メーカー3社がサプライチェーンにおいて強制労働を利用しているとして告発された。

日本においても、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)が2024年10月にスポーツ自転車部品世界トップシェアの株式会社シマノの事例を取り上げて提言を行った。

また海外から厳しい目を向けられているのが外国人技能実習制度だ。パスポートを取り上げたり、実習計画と異なる仕事内容などが指摘されている。なお、2019年にはパナソニックや三菱自動車、アイシンなど4社が技能実習計画の取り消しを受けている。

強制労働の問題点

強制労働の問題点

強制労働の問題点として第一に挙げられるのは人権侵害だ。低賃金で長時間労働をさせられたり、劣悪な労働環境で働かされている例が多い。劣悪な環境で働くことで、労働災害に遭う危険が高いのも問題点の一つだ。

一方、近年は企業側の問題点も指摘される。企業にとっては強制労働を活用することにより低コストで製品・商品を作ることができ、企業の競争力を高めることができる。しかし、不法あるいは非倫理的な事業活動によって利益を得ることは、消費者や投資家からの信頼を失うことにもつながり、企業価値の低下を招くケースもある。

まとめ

強制労働とは、本人の意思に反する労働のこと。現代では、賃金の前貸しなどによる強制労働も世界各地で見られる。このような強制労働は「現代奴隷」と言われ、世界には2,800万人いる。

先進国では、サプライチェーンによる強制労働および人身取引などへの関与が問題となっている。また日本では外国人技能実習制度の不適切利用も明らかになっており、企業の姿勢も問われるようになった。

強制労働を強いる立場にはならないことはもちろん、強制労働によって生産された商品の購入を控えるなど、個人としても強制労働終息に向けて貢献できることがある。

参考資料

「現代奴隷」、世界で5千万人に|ILO(国際労働機関)
強制労働による違法利益が年間2,360億ドルに増加|独立行政法人労働政策研究・研修機構

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