
見てみぬふりのできない「漁業ゴミ」
漁業において長年にわたって見過ごされてきた問題の一つが、海洋プラスチック問題である。なかには一度しか使用できない漁具も多く、漁業の最中にやむなく海に流出してしまうプラスチックも深刻な影響を及ぼしている。
水産庁によると、海洋プラスチックごみのうち、全体の86%は陸域からであるものの、漁業由来は9%にのぼり、年間約60万トンに相当するという。
「ゴーストフィッシング」と呼ばれる現象もこの問題の一種だ。「ゴーストネット」や「ゴーストギア」と呼ばれる、使われなくなった魚網などが海中で放置され、幽霊のように漂い続ける現象を指す。人の手を離れた後も自動的に魚を捕獲し続け、海洋生物に深刻な被害をもたらしているのだ。プラスチック製の漁具は、その耐久性ゆえに600年以上も海中を漂い続け、微細なプラスチック片となって海洋生態系に悪影響を及ぼすことが分かっている。
オランダのNPO団体・オーシャン・クリーンアップの調査によれば、世界最大の海洋ごみ集積地「太平洋ごみベルト」に浮遊する海洋ごみの46%が漁網であったとされる。同様に、環境省が行った国内10地点の漂着ごみ調査では、重量比で漁網・ロープが全体の41.8%を占めていた。これらの数字からも、漁業由来の海洋プラスチックごみ問題がいかに深刻であるかがわかる。
流出した漁具は船舶にとって障害物となり、渡航の遅延や事故の原因となる可能性がある。漁業から発生する海洋ゴミが、海水温の上昇による大幅な収入減や、産業廃棄費用の高騰などの問題にもつながり、漁業者自身に降りかかっているのだ。
この問題の解決には、漁具の流出防止策だけでなく、既に流出してしまった漁具を回収するシステムも必要だ。漁師たちによる海浜清掃活動も重要な役割を果たしており、多くの漁業組合が取り組んでいる。しかし、これらの対策にはコストの問題が伴い、実用化にはまだ課題が多い。
廃棄するしかなかった漁具から、デザイン性の高い「GYOG」へ
漁業ゴミ問題は処理に高いレベルを要するプラスチック問題と絡み合い、早急な解決が求められている。そんな中、マテリアルリサイクルの開発企業「REMARE(リマーレ)」は、漁業ゴミを単なる廃棄物ではなく資源として捉え、アップサイクルに取り組んでいる。使用済みの漁具を有価で買い取り、サステナブルでデザイン性の高い製品へと変換することで、環境負荷を軽減しつつ新たな価値を創出しているのだ。
廃棄予定であった漁具は、年月を経て独特の風合いを持ち、人の手では作り出せない表情がある。「GYOG」と名付けられた製品は、漁具が持つ魅力を活かし、プラスチックの板材やペレットとしてデザイン性の高い製品へと生まれ変わっている。建材や内装材、家具など多様な用途に使用可能であり、再利用することで環境への負担を軽減する。
REMAREは、回収・洗浄・粉砕・成形・加工といった全行程を自社内で一貫して行い、PVCを除く熱可塑性樹脂であれば、どんな素材でも独自の美しいマテリアルに変貌させることが可能だと言う。廃棄資源を有効活用し、価値あるプロダクトへと変えているのだ。
REMAREの製品は100%リサイクルプラスチックで構成されており、従来の再生材が30%程度しかリサイクル材を含められないと言われる中、高いリサイクル率を実現している。漁業ごみにとどまらず、企業からの廃棄プラスチックもサステナブルな形で再利用し、社会で循環させている。
海洋プラスチック問題の根本解決を目指し、本格始動
2024年10月、REMAREは、海洋プラスチックのアップサイクルを通じて、持続可能な漁業と環境保護を両立させるため、若手漁師集団「フィッシャーマン・ジャパン」との協力を開始した。両社は水産業界における環境問題解決のビジネスモデルを構築し、持続可能な漁業と環境保護の両立を目指す。
全国の漁業関係者と連携するフィッシャーマン・ジャパンは、後継者不足の解消や販路拡大に取り組んできた。近年では、海洋環境の保全にも積極的に投資し、海洋プラスチック問題に対する危機感を強めている。2023年には、「フィッシャーマンジャパン・ブルーファンド」を設立。漁業団体とフィンテック企業の連携によって、持続可能な漁業を目指すための新しい投資の枠組みをつくり、REMAREにも出資している。
両社の提携により、REMAREはフィッシャーマン・ジャパンが有する全国の漁業協同組合ネットワークを活用し、使用済み漁具の安定した回収ルートを確保できる。一方、フィッシャーマン・ジャパンは、漁業関係者にとって大きな負担となっていた漁具の廃棄にかかる費用を削減できる。
両社の取り組みは、海洋環境保全の動きを国際規模で加速させる可能性を秘めており、持続可能な未来の実現に向けた大きな一歩として注目されている。
これからの水産業を持続可能にするために
フィッシャーマン・ジャパンは、宮城県石巻市を本拠地とし、三陸地域を中心に活動している。従来の漁業の労働環境における3K「キツい・汚い・危険」といったイメージ改革を目指し、「カッコいい・稼げる・革新的」という「新3K」を掲げている。次世代の担い手を育成し、水産業の変革を推進することを目指す。
彼らのビジョンは、地域や職種を超えてタッグを組み、新しい働き方を提案することで水産業に新たな魅力をもたらすことである。その一環として、若手漁師のための学校や水産業専門の求人サイト、移住者向けのシェアハウスの運営を通じて、漁業従事者の増加を目指している。
また、魚を獲るだけでなく、加工・卸売・販売・情報発信など広範な業務を担う人々も「フィッシャーマン」と位置づけ、設立から10年で1,000人のフィッシャーマンを増やすことを目標としている。
漁業の労働環境に蔓延るネガティブな印象を変えるため、積極的にイノベーションを創出している。例えば、従来のFAX利用などアナログな部分をデジタル化し、効率化を図る取り組みを進めている。また、従来は廃棄されていたホヤ殻に目をつけ、スタートアップ企業と連携して代替プラスチック素材にアップサイクルし、海洋プラスチック問題の解決にも取り組んでいる。
このように、地域の豊かな水産資源を活かし、持続可能な未来を築くため、フィッシャーマン・ジャパンは事業者や地域社会とも積極的に連携している。水産業が自然を相手にする以上、事業者自身がSDGsを意識したアクションを取ることが求められる。地域の基幹産業としての水産業の重要性を理解し、セクターを超えた連携を強化することで、持続可能な水産業を実現しようとしているのだ。
フィッシャーマン・ジャパンの取り組みは、日本全国の漁協や行政からも注目を集めており、今後も全国レベルで水産業の振興やイノベーションを進めていくことが期待されている。REMEREとの取り組みで、漁業ゴミ削減に向けた新たなビジョンを投じ、海洋プラスチック問題解決の可能性を広げていくだろう。環境問題全般に対する一つの回答を投げかけることにもつながると期待される。
参考サイト
フィッシャーマン・ジャパン
Materials|REMARE
太平洋ゴミベルト、46%が漁網、規模は最大16倍に|NATIONAL GEOGRAPHIC
プラスチックを取り巻く国内外の状況|環境省






















丸山 瑞季
大学で国際コミュニケーション学を専攻。卒業後はデジタルマーケティングに携わり、現在は難聴児の子育てに奮闘しながら、楽しく生きることをモットーに在宅で働く。関心のあるテーマは、マインドフルネス、ダイバーシティ、心理学。趣味は、食べること、歩くこと、本を読むこと。( この人が書いた記事の一覧 )