気候危機とは
気候危機(climate crisis)とは、2019年の国連気候変動サミットにおいてグテーレス事務総長が呼びかけたメッセージのなかで使われた言葉である。事務総長は「気候変動はもはや気候危機であり、気候非常事態である」と発言し、各国政府に対し気候変動対策のさらなる加速を促した。「気候危機」という語句は、「気候変動」よりも差し迫った緊急性を感じさせる。
また、英国のガーディアン紙は、世界が直面する危機的状況をより正確に表現するために気候危機(climate crisis)・非常事態(emergency)気候崩壊(breakdown)を使うと発表した。
日本では、環境省が発行した2020年版「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」の中で、初めて気候危機という表現が使用されている。
気候変動は、人間活動によって引き起こされる気温と気象パターンの長期的な変化であり、現在世界中で気候変動の悪影響が顕在化しリスクが高まっている。「気候危機」は、気候変動への対策の必要性や緊急性をさらに強調した表現といえる。
気候変動の原因
現在問題となっている気候変動の原因は、人間の活動である。IPCC第6次評価報告書では「人間の影響が大気・海洋・陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と断定されている。
人類は長い歴史の中で、温暖な時期と寒冷な時期を繰り返し経験してきたが、その変化は自然要因によるものであった。自然要因には、太陽活動の強弱、地球の自転軸の傾きの変化、火山の噴火などが挙げられる。
しかし、産業革命以降の主たる要因は、人間活動により排出される温室効果ガスであることが分かっている。温室効果ガスは、太陽によって温められた地表の熱が宇宙に放出されるのを防ぎ、地球全体を適切な温度に保つ役割を果たしている。
温室効果ガスがない場合、地球の平均気温はマイナス19度になるといわれているが、逆に増え過ぎて、地表の熱が放出されず気温が上昇してしまうのが地球温暖化である。
世界中から排出される温室効果ガスのなかで75%を占めるCO2は、化石燃料の使用や森林破壊によって増大している。大気中のCO2濃度は、2023年の12か月平均で約420ppmであった。これは、産業革命前の1750年の値である280ppmに比べると1.5倍に相当する。またIPCCによると、温室効果ガスの濃度は過去80万年間で前例のない水準まで増加しているとのことだ。
このように、気候変動の要因は人間活動であることは明らかであり、地球温暖化は自然要因によるものに比べ急激であることも懸念事項である。
気候変動の日本への影響
気候変動の日本への影響をまとめたのが、2018年公表の「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート 日本の気候変動とその影響」である。その中で、日本における気候変動の観測事実と将来の予測として4点をあげている。
- 日本の気温上昇は、世界平均よりも早いペースである
- 強い雨の頻度は増えている一方、降水の日数は減少している
- 真夏日や猛暑日が増えている
- 多くの地域で積雪が減少する一方、内陸部では大雪が増加する可能性がある
日本では、猛暑や水不足、局地的な豪雨による水害など、地球温暖化による気候変動のリスクが日常生活でも感じられるようになっている。2024年夏の平均気温は平年と比べて1.76度高く、気象庁が1898年に統計を取り始めて以来、昨年と並び最も高くなった。
以下に各分野への影響についてご紹介する。
農林水産業への影響
気候変動の影響の大きさは地域や作物の種類によって異なるが、作物の品質低下や生産適地の変化などが生じる可能性がある。
コメは、気温とCO2濃度が高い環境下では米粒が不揃いになることが分かっており、気温の上昇による品質の低下や収量の減少が報告されている。ぶどう・りんご・みかんで懸念されるのは、高温による着色不良だ。また、みかんやぶどうでは栽培適地の変化が予想される。また、サンマの来遊量を解析すると、海水温が上昇した場合にはサンマの南下が遅れるという結果となった。来遊時期の遅れにともない、水揚げされるサンマの体重が徐々に減少する可能性がある。
これらは一例に過ぎないが、今後農作物や水産物が供給不足となれば、私たちの食卓に直接影響が及ぶだろう。
自然生態系への影響
地球温暖化による植物や動物の分布域の変化がすでに確認されており、今後も進行すると予想されている。
大気条件の変化により春・秋の上空の風向きが変わった場合に大きな影響を受けるのが、大陸と日本を行き来する渡り鳥である。また、現在でも拡大が問題となっている竹林が、温暖化によりさらに勢力を広げ、里山の生態系に悪影響を及ぼす可能性も指摘されている。さらに、海水温の上昇は沖合・沿岸域の水産生物の産卵場・餌場・回遊経路を変化させると考えられる。 藻場・干潟の減少や構成種の減少などは、水産業に大きな損失をもたらす可能性がある。
地球温暖化が原因で自然生態系に変化が生じることで、人間が生態系から受けている多様なサービスが低下することが懸念されている。
水環境・水資源への影響
雨の頻度や強度の増加や短時間の集中豪雨は、洪水・土砂災害の要因となる。また、台風の強度が増すことで高潮災害が生じうる。
気候変動により雨の量や降り方が変化すると、山地の多い日本では河川の流量が大きく変わることとなる。近年の傾向では豪雨が増加しており、深層崩壊・堰き止めによる天然ダムの形成・河床上昇などが生じれば、被害はさらに大きくなる。
台風による高潮は内湾の奥で顕著になるが、 台風の強大化や経路の変化によって、これまで災害がなかった地域でも危険性が高まる可能性もある。豪雨や台風による災害は、国内各地で生じる恐れがあり市民生活に直結したリスクといえる。
健康・生活への影響
地球温暖化に伴う気温の上昇は、人の健康に直接的な影響を及ぼす。また、豪雨や強力な台風などにより、企業活動や各種のインフラが損害を受ける懸念がある。
気候変動と熱中症との相関は強く、熱中症による死亡者数は増加傾向だ。また、気温の上昇などにより、快適な生活が難しくなったり従来の季節感とのずれが生じたりする可能性がある。
建設・製造・運輸など各種の産業においては、豪雨や強い台風などの頻度・強度が増すことで甚大な損害を受ける恐れがある。さらに、サプライチェーンを通じて、他国の気候変動による損害が国内の経済や産業に影響することも考えられる。
気候変動はわれわれの健康にリスクをもたらすだけでなく、社会・経済に甚大な損失を与えることが懸念されている。
気候変動の世界への影響|IPCC第6次評価報告書

2023年に採択されたIPCCの第6次評価報告書は、気候変動の影響についての現状や予測を科学的な評価に基づき公表している。
地球の平均気温は、近いうちに産業革命前と比較して1.5℃の上昇に達するという見込みだ。それにともなって複数の気候関連災害が増加し、生態系と人間に対してリスクをもたらすと予想している。
短期的なリスクの例は次のとおりだ。
- 継続的かつ加速的な海面水位上昇は、 沿岸域の居住地やインフラを侵食し、沿岸低平地の生態系を水没・喪失させる
- 気候変動の影響を受けるリスクの大きい場所で都市化傾向が続けば、エネルギー・水・その他の サービスが制約されるなどの問題が増え、影響はさらに悪化する
- 気候変動と生物多様性の喪失のリスクに直面する人々の数は徐々に増加する
- 生物多様性の喪失の短期的なリスクは、森林生態系・海藻及び海草の生態系において比較的高く、北極域の海氷・陸域生態系・暖水性サンゴ礁ではさらに高い
さらに、短期的な対策で地球温暖化を1.5℃の上昇に抑えられたとしても、気候変動に関連する損失と損害は大幅に低減されるが、全てをゼロにはできないとされている。地球温暖化の進行によるリスクの増大は科学的に明らかにされており、われわれは不都合な現実を直視すべきだろう。
気候変動と防災
気候危機と言える現状において、気候変動のリスクを踏まえた防災・減災対策が必要となるなか、政府は2020年に『気候危機時代の「気候変動×防災」戦略』を公表した。
この戦略の目的は、気候変動対策と防災・減災対策の効果的な連携であり、次の内容を盛り込んでいる。
- 気候変動×防災の主流化
- 脱炭素で防災力の高い社会の構築に向けた包括的な対策の推進
- 個人・企業・地域の意識改革、行動変容と緊急時の備え、連携の促進
- 国際協力・海外展開の推進
戦略は、上記の取り組みを推進し激甚化・頻発化する災害に備えることにより、国民の生命・財産・文化を守るものである。
また、災害からの復興では単に地域を元の姿に戻す原形復旧にとらわれず、気候変動への適応を進める適応復興の考え方で、対策の検討や実装、関連主体との連携を求めている。
取組を各地域において、きめ細やかに推進していくためには、地方公共団体が政策に「気候変動×防災」を組み込み、主流化していくことが必要だ。一例として、都道府県や市町村が策定する地域気候変動適応計画のなかで位置づけることなどがあげられる。
まとめ
近年、気温上昇や海水温の上昇、大雨の増加などの気候変動により、想定を超える気象災害が各地で頻発しリスクが身近なものとなっている。災害に備えることはもちろん、温暖化を防止するための行動を地道に続けることも重要だ。
環境問題についての意識に関する調査において、国内の環境問題で危機的だと思うものを問う項目では、5年連続で「気候変動」が1位にあがっている。
エコな交通手段の利用や地元産・旬の食物の選択、家電や衣類のリサイクルなど、温室効果ガス削減に向けた行動を起こしている人は、全国平均で約75%と高い割合を占めている。一方、再エネへ切り替えや環境団体へ寄付など、より積極的に行動している人は約23%にとどまる。
気候変動の危機感は、社会で広く共有されつつあるといえるだろう。今後は企業と市民それぞれに対し、脱炭素につながる具体的な行動を促すはたらきかけが必要なのではないか。
参考記事
気候危機 ― 勝てる競争 | 国連広報センター
1-03 温室効果ガス総排出量に占めるガス別排出量 | JCCCA 全国地球温暖化防止活動推進センター
今年も最も暑い夏に 平年より1.76度高く 暑さの原因と影響は? | NHK
気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018 ~日本の気候変動とその影響~|環境省ほか
IPCC第6次評価報告書の概要|環境省
「気候変動 × 防災」 実践マニュアル|環境省
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