サイレントマジョリティとは
サイレントマジョリティ(silent majority)とは、「あえて発言をしない多数派の人々」を指す言葉。「静かなる多数派」「声なき声」などとも言われる。若者の間では「サイマジョ」と略して使うこともある。
元々は政治において用いられた言葉で、第37代アメリカ大統領リチャード・ニクソンが演説で使ったことでも知られている。近年はビジネスや広告業界、マーケティング、顧客対応、商品開発など、いろいろなシーンでサイレントマジョリティの重要性が高まっている。
サイレントマジョリティとは、具体的には以下のような人々を指す。
- 政策に対して不満はあるが、声を上げることはしない
- サービスにはガッカリしたが、直接文句は言わない
- 好きなアーティストがいるが、テレビなどで見て応援しているだけ
消費者の苦情に関する法則として知られる「グッドマンの法則」では、商品やサービスに不満を感じたときに直接企業に伝える顧客は4%で、それ以外の96%がサイレントマジョリティとされる。
また選挙の際には、「投票に行かない市民」や「政治に無関心な有権者」への批判として「サイレントマジョリティ」という言葉が使われることもある。
サイレントマジョリティの言葉の意味
サイレントマジョリティは、形容詞のsilentと名詞のmajorityを組み合わせてできた言葉。本来、サイレントは「静かな」という意味で知られるが、この場合は「おしゃべりでない、口数の少ない、無口の」などの意味を含む。
一方のマジョリティーは、「多数」や「多数派」「多数者」「多数党」などを表す言葉だ。「多数の」という意味の形容詞であるmajorから由来している。
またマジョリティの反対語は、「少ない」という意味のminorに由来するマイノリティ(少数派)だ。差別や偏見などの対象として社会的に弱い立場にいる人やグループを指す言葉としても用いられ、性的少数派を指す「セクシャルマイノリティ」、人種や民族的に少数派の「エスニックマイノリティ」などの言葉が代表的だ。
サイレントマジョリティの対義語
サイレントマジョリティをより深く理解するうえで、反対の立場に立つ人々についても確認しておきたい。代表的なのが「ノイジーマイノリティ」「ラウドマイノリティ」「ボーカルマイノリティ」の3つだ。
ノイジーマイノリティ
ノイジーマイノリティ(noisy minority)とは、「騒がしい少数派」「うるさい少数派」のこと。自分の意見を主張したいだけで、主張に理論性や脈絡性がない場合でも騒ぎ立てている、あるいは攻撃的に主張している少数派を指す。ノイジー(noisy)が使われているのは、雑音という意味合いがあるともされる。
ノイジーマイノリティの問題点は、文句を言い続けたり、SNSへの悪質な書き込みを繰り返すなどで、実際よりも人数が多くいるイメージを受けてしまうこと。誹謗中傷にまでおよぶこともあり、ノイジーマイノリティのSNSへの投稿によって店舗が閉鎖するなど、事業活動や行政に影響が及ぶケースもあった。
ラウドマイノリティ
ノイジーマイノリティと同じ意味合いだが、騒がしさよりも「声が大きい」「しつこい」ことなどが特徴。そのためラウドマイノリティ(loud minority)は「声が大きい少数派」とされる。
同じことを声高に粘り強く主張するという意味合いがあり、クレーマーやモンスターペアレンツ、モンスターカスタマー、モンスターペイシェントなども含まれる。
ボーカルマイノリティ
ボーカルマイノリティ(vocal minority)とは、「(自分の信念に基づいた)意見を声高に主張する少数派」を指す。ノイジーマイノリティやラウドマイノリティと比べて、批判的な意味合いは弱い。
政治的な主張が多く、ニクソンが行った演説でも「声高に主張する少数派」という意味で「ボーカルマイノリティ」という言葉を使っている。
サイレントマジョリティが知られるようになったきっかけ

「サイレントマジョリティ」という単語は、リチャード・ニクソン大統領が行ったベトナム戦争への支持を求める演説で用いられたことで広く知られるようになった。1969年11月3日に行われたもので、今では「The “Silent Majority” speech」と呼ばれている。
当時、長期化するベトナム戦争への懸念や不満が広がり、即時撤退を求める反対運動がアメリカ国内各地で行われていた。それに対してニクソン大統領は、反戦運動に加わらずに静観している人々に向けて〝the great silent majority of my fellow Americans(偉大なるサイレントマジョリティのみなさん)〟と呼びかけた。
この呼びかけは「声を上げている少数派以外のみなさん」という意味に受けとらえられており、「アメリカの民意は沈黙のなかにこそある」という思いを含んでいるとも考えられている。
いま、サイレントマジョリティが注目される理由
近年、サイレントマジョリティが注目されるようになったのは、SNSによって個人の意見を主張する場所や機会が増えていることが理由の一つだ。
例えば、かつては商品に対して意見を持ったとしても、「直接電話をかけて言うほどでもない」という方が多くを占めていた。しかしSNSによって、さまざまな意見が可視化されるようになっている。こうした声を拾い上げることが、政治でも、ビジネスでも有効と考えられるようになり、サイレントマジョリティが重要視されるようになっているのだ。
また、あえて発言しないことについていろいろな考え方があることも、注目される理由だ。サイレントマジョリティは「声を上げない多数派」を意味するが、多くは「発言するほど問題にしていない」と考えられる。
しかし、「反対意見を言わなくてもわかってもらえる」「誰かが同じことを言っている」という考えがあったり、単に「発言するのが面倒」という人もいるからだ。このような意見も無視するのではなく、注意深く耳を傾けるべきであるという考え方が浸透してきたのだ。
サイレントマジョリティの問題点
サイレントマジョリティは意見の発信に積極的ではないため、世論形成や政策決定に反映されないことが多々ある。一部の強い主張によって多数派の意見がゆがめられたり、同調圧力が強まることで多数派が意見を言えない空気になってしまうことがあるからだ。
例えば、行政機関が空き地に公園を建設しようとした際に、一部の住民から強い反対運動が起きたとする。この場合、公園建設に賛成していた人、あるいはどちらでもいいという人々の声はかき消され、その結果、公園の建設が頓挫する可能性がある。
意図的か否かは別にして、サイレントマジョリティの意見を聞かないことは、「公園があると助かる」と思っている人々の考えを蔑ろにしてしまうことになるのだ。
サイレントマジョリティの声を聞く方法

「サイレントマジョリティ」は「ものを言わぬ多数派」や「反対を示す必要がない多数派」という意味で主に使われるが、「不満がないから言わない人々」だけではなく「不満があっても言わない人々」も含む。
そのため、積極的にサイレントマジョリティの声を聞く方法も模索されている。代表的な3つの方法について紹介する。
ソーシャルリスニング
ソーシャルリスニングとは、SNSや口コミサイト、個人のブログなどのソーシャルメディアに投稿されている声を聞くことだ。
例えば、商品やサービスに対して意見を持っていたとしても直接伝えない人の方が多いが、ソーシャルメディアには気軽に個人の感想を書き込むケースが多い。こうした何気ない声にこそ、潜在的なニーズが隠れていたり、世間でのイメージがわかる。そのため、1日に何度も投稿をチェックするといった取り組みを行っている大手企業もある。
特にマーケティングにおいて、サイレントマジョリティは「積極的な発言はしない大多数の消費者」として尊重される。多くの消費者から支持を受けるには、「声なき声」と言われるサイレントマジョリティの声を意識することが欠かせないのだ。
例えば、SNSやアンケートなどを通じてサイレントマジョリティの声を把握することで、大多数の消費者をターゲットにすることができる。こうして集めた意見をもとに商品開発をしたり、サービスの改善をすることで多数派からの支持につなげることができると考えられる。
ヒアリング
ソーシャルリスニングとは反対にアナログな方法だが、現場で直接感想を聞くのもサイレントマジョリティの声を確かめるのに最適だ。行政機関が意見公聴会を開催したり、政治家が地元のお祭りなどに参加して有権者と触れ合うのもサイレントマジョリティの声を聞く方法の一つと言える。
また、化粧品などではサンプルを配布し、意見や感想をフィードバックしてもらうといったことでサイレントマジョリティの声を集めることもある。
アンケート
アンケートも古典的な方法だが、直接意見を言うのは気が引けるけれども、無記名によるアンケートなら言いたいことが言えるという人もいる。
企業や飲食店では、顧客が意見を言いやすいような環境を整える取り組みを行っているケースがある。近年はオンラインアンケートを活用する企業も増え、リサーチ会社に委託したり、オンラインアンケート専門のサービスを活用する事例も増えている。
また顧客だけではなく、社内の働きやすさを改善するために、社員に無記名アンケートを行うという手法で社員の声を集めるケースもある。
サイレントマジョリティへの対策例
多数派であるサイレントマジョリティからの支持を集めることは、企業の事業活動や行政を円滑に進めていく上で重要だ。そこで意見をくみ上げるために、行政機関や企業などで行われている対策例を紹介する。
SNSの活用
サイレントマジョリティの声をくみ上げるために多くの自治体で導入しているのが、SNSなどのデジタルコンテンツの活用だ。行政機関では、住民の声を聞く機会として意見交換会やパネルディスカッション、シンポジウムといった機会を設けているが、積極的に参加するのは一部の住民に限られてしまう。
そこで気軽に意見を言えるように、メールや専用フォームでの問い合わせを受け付けるほか、LINEの公式アカウントを開設したり、SNSで特定のハッシュタグをつけて投稿してもらう手法などを活用している。
またデジタル庁では、意見やアイデアを募集したり、共有できるコミュニティプラットフォームとして「アイデアボックス」を活用している。千葉市などの自治体でもアイデアボックスを採用し、市民からの気軽な意見を求めている。
無作為抽出による市民参加型の会議
住民基本台帳などから無作為に市民を抽出して、会議などに参加してもらう手法のこと。1970年代のドイツで考案され、日本でも2005年頃から地方自治体などで導入されるようになった。
八王子市や武蔵野市、吹田市、太宰府市、宜野湾市などで実施例があり、行政の意思決定や政策に反映させている。なお無作為抽出は、内閣府の世論調査などでも用いられている。
住民参加型ワークショップの開催
近年、住民参加型のまちづくりにおいて、各自治体で取り入れているのがワークショップだ。ワークショップとは「作業場」や「工房」といった意味だが、自由に意見を言い合ったり、参加者の合意を得るための有効な技法となっている。
参加者は募集のほか、無作為抽出を用いている例もある。地域の自由な意見交換の場所になっているだけではなく、新たなコミュニティづくりとしても活用されている。
まとめ
「静かなる多数派」「声なき声」のことを指すサイレントマジョリティ。表には出てこない多数派の意見にこそ重要なニーズが隠れているとして、政治や行政、店舗経営、商品開発、マーケティングなどの分野で注目されている。SNSの浸透により、サイレントマジョリティの意見が可視化しやすくなっていることも、注目を集める要因の一つだ。
身近なところでは、仕事上の会議や仲間内での会合などでもサイレントマジョリティの意見が届いていないことも考えられる。誰一人取り残さない社会を目指すには、そうした声を上げずにいる人たちの意見に耳を傾け、尊重することも重要だ。
参考記事
“サイレントマジョリティ”の市区町村行政への意見反映|SYNODOS
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