STEAM教育とは?推進する背景や具体例、目指すべき教育のあり方を探る

STEAM教育とは?

STEAM教育とは、文系・理数系を問わず、課題の発見・解決や社会的な価値の創造につながる力を育んでいく学習のこと。VUCAと言われる混沌とした現代において、必要とされる能力を養う教育として、日本では文部科学省が推進している。

具体的には以下の5つの分野が互いに影響し合うように、横断的かつ統合的に学ぶことを推奨している。

  • Science(科学)…光や熱、エネルギーなどの自然現象の法則などを学ぶ学問
  • Technology(技術)…科学の知識をもとに、実際に物を作ったりする学問
  • Engineering(工学)…製品や新しい技術を研究する学問のこと。
  • Art(芸術・リベラルアーツ)…芸術に加えて文化や経済、整理、倫理などを学ぶ
  • Mathematics(数学)…数の性質や空間図形などを学ぶ

数理的思考力を育成するために、世界的には「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」を横断的に学習する「STEM教育」が広く知られている。しかし、新しい製品や技術を生み出すには創造力も必要だとして、日本では「Art(芸術・リベラルアーツ)」を加えた「STEAM教育」を推進している。

日本でSTEAM教育を推進する背景

STEAM教育は、1990年代からアメリカで提唱されていたSTEM教育をもとにしたもの。STEM教育とは科学リテラシー教育の向上を目的とする教育のことで、2006年にブッシュ政権において「STEM教育強化10の指針」が発表されたことで注目を集めた。さらにオバマ大統領が2011年に行った一般教書演説の中で、STEM教育を優先課題としたことで注目度が上昇。その2年後に、STEM教育はアメリカの国家戦略に位置付けられている。

日本でSTEAM教育がはじめて取り上げられたのは、2016年に閣議決定した「第5期科学技術基本計画」でのこと。この中で、日本が目指すべき未来社会の姿として内閣府が提唱したのが「Society5.0」だ。Society5.0とは「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」である。

社会生活や産業にIoTやAI、ロボット、ビッグデータといった先進テクノロジーが導入される社会(Society 5.0)では、「新たな価値創造」「イノベーション創出」「一人ひとりの多様な幸せ」を目指すことが重要とされる。そのためには、理数系の能力とクリエイティブの能力を高い水準で融合するSTEAM教育の推進が必要不可欠だと考えられている。

人類の社会は、狩猟社会(Society1.0)→農耕社会(Society2.0)→工業社会(Society3.0)と発展・進化し、現在の情報社会は「Society4.0」と位置づけられている。Society4.0が抱える課題や困難を克服するのが、Society5.0ということだ。

STEAM教育が必要とされる理由

気候危機や人口減少、格差、貧困など、現代の社会課題は複雑化しており、これらの解決に科学技術の力は欠かせない。しかし物事を俯瞰的で見て課題を解決し、新しい価値を創造するには、自然科学だけではなく人文・社会科学も含めた多様な「知」を集結させた「総合知」が重要となる。

こうした中、科学技術を基本にしつつ異分野への興味関心を発展させて、多様な知を育んでいくことができるとしているのがSTEAM教育だ。STEAM教育によって総合知を育むことで、「社会全体を再設計できる」と政府では考えている。

ちなみにOECDでは、「個人と社会のwell-beingを実現していくためには、子供たち一人ひとりがエージェンシーを発揮しながら、①新たな価値を創造する力、 ②対立やジレンマを克服する力、③責任ある行動をとる力、という3つの「変革をもたらすコンピテンシー」を身に付けていくことが重要」としている。これらの力を育むためにも、総合的な学習や探求、STEAM教育が基盤になると考えられている。

STEAM教育が目指す教育

STEAM教育の実現に向けて、文部科学省では探究とSTEAM教育を社会全体で支えるエコシステムの確立を目指して、約5年のロードマップを作成している。その中で、具体的にどのような将来像を描いているのだろうか。

小学生・中学生

各教科の本質的な学びに加えて、「なぜ?」「どうして?」といった子どもの好奇心に基づいたワクワクする学びの実現を目指して課題解決型学習も充実させる。

そのためには、専門性の高い高専生や専門高校生がインストラクターとなって子どもの学びを支援する。また、理数リテラシーの高い教師や博士号取得者などが学問の本質的な面白さを伝えるような指導を行う。

高校生

高校では、大学・企業との連携体制を整備している。例えば高校と大学の教育内容の接続を強化することで、文理の枠を超えて学び、進路選択できる環境づくりや高校生が大学教育にアクセスできるような環境も目指している。また、2022年度に学際領域や地域社会に関する学科の新設も行われた。

さらに高校には、STEAM教育の設計・コーディネートや、大学や企業などとの連携をコーディネートできる人材が常時いる状況も目指している。

子どもを支える側の学校や社会が目指すもの

文部科学省の目指すエコシステムでは、企業や大学、社会などが子どもたちの学びを支える。

例えば、企業や大学、研究機関などと学校や子どもをつなぐプラットフォームを設けることなどで実現するとしている。また、図書館や科学館、民間企業のハンズオンミュージアム(直接手で触れることができる展示)において、誰でも科学技術を身近に感じる環境を構築していく。

あるいは、大学や企業における最先端の研究活動などに、子どもたちが触れる機会、挑戦できる機会を設けるのも一つの方法だ。これによって、知識レベルを高度化および深化できる基礎を築いていくとしている。

STEAM教育の推進に向けた取り組み

STEAM教育の推進に向けた取り組み

STEAM教育の推進に向けて、文部科学省では以下のような取り組みを実際に開始している。ここでは6つ紹介する。

学習指導要領の改訂

文部科学省では、時代の変化や学習の定着状況に合わせて、おおよそ10年ごとに学習指導要領を改訂する。直近では2017年度に改訂(告知)が行われ、小学校では2020年度、中学校では2021年度、高校では2022年度から全面的に実施されている。

例えば、小学校の新しい学習指導要領では「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力など」「学びに向かう力、人間性など」の3つの柱からなる「資質・能力」を総合的にバランスよく育んでいくことを目指している。これは、STEAM教育において育成する人材像とも重なっている。

探求学習の導入

探求学習は「課題解決型の学習」とも言われ、児童・生徒自身が自主的に課題を発見・設定し、その解決に向けた計画を立てていくことが中心となる。急激に変化する社会の中で課題を解決するために自分の考えを持ち、発信していく力を身につけていくことが探求学習の目的だ。

2020年には小学校で「総合的な学習の時間」が必修化され、2021年には中学校で同じく「総合的な学習の時間」という科目で、2022年度には高校で「総合的な探求の時間」などの科目で探求学習がスタートしている。

理数教育の強化

2021年に公表された「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ〈中間まとめ〉」(内閣府教育・人材育成ワーキンググループ)では、理数リテラシーを高めるために小中学生に興味や関心を持たせるような授業を提供するほか、社会全体でサポート体制を構築するとしている。

具体的には、2020年に小学校でプログラミング教育が必修化。また高校では2022年度から必修科目として、プログラミングやネットワーク、データベースの基礎知識について学習する「情報Ⅰ」が新設されている。さらに2025年度からは、「大学入学共通テスト」や一部の大学の入試で選抜に用いることができるようになる。

SSH(スーパーサイエンスハイスクール)への支援

SSH(スーパーサイエンスハイスクール)とは、理数系の優れた人材を育成するために先進的な理数教育を実施する高等学校のこと。創造性や独創性を高める指導方法、教材の開発などの取り組みも行っている。文部科学省ではSSHの認定制度を設け、補助金を支給することで人材育成を支援している。

なお2021年度までは、将来的に世界で活躍できるグローバル・リーダーを育成するSGH(スーパーグローバルハイスクール)の認定も開始。コミュニケーション能力や問題解決力、国際感覚を持つ人材育成の支援を行っている。

WWL(ワールドワイドラーニング)コンソーシアム構築支援事業

イノベーティブな人材を育成するために、文部科学省では2019年から「WWL(ワールドワイドラーニング)コンソーシアム構築支援事業」を開始。目的はSociety5.0時代に活躍するグローバル人材を育成するためだ。

WWLの取り組みを3年間実施する拠点校を文部科学省が毎年指定する。指定された拠点校では、文系や理系といった体系にとらわれず、各教科をバランスよく学ぶようカリキュラムを編成することに加えて、国外の大学や国際機関との協力体制も築くことで、グローバルに活躍できる人材の育成を目指す。

2024年度に新たに公立3校が指定校に加わり、2022年度の3校、2023年度の3校に加えて、拠点校は合計9校になっている。

STEAM教育の情報発信

STEAM教育について情報発信をするために、各機関と連携してさまざまなサイトが立ち上げられている。

これらのサイトでは、STEAM教育の情報に加え、地域における子どもたちへのサポート、学びに対する意欲を刺激するための情報などを発信している。

STEAM教育実践モデル校事業

STEAM教育を推進するために、各教育委員会がモデル校を指定する事業も行っている。代表的な「兵庫型STEAM教育」と「ぐんまのSTEAM教育(群馬型STEAM教育)」の取り組みを紹介する。

兵庫型STEAM教育

2020年から2022年度の3年間にわたり、STEAM教育を推進するために兵庫県は実践モデル校事業を実施した。モデル校に指定された県立高校3校では、新たな価値や課題解決への道を切り拓く人材を育成するためにさまざまな取り組みを行った。

当初の目標は、「文理融合型カリキュラムの開発」「STEAM学科の設置」「文理融合型カリキュラムマネジメントの全県展開」の3つだ。

実践モデル校では、兵庫県教育委員会の支援によって壁面ホワイトボードやプロジェクターなどが設置された「STREAM ROOM」を開設。企業や自治体との連携も行い、イノベーションに関わるSTEAM講演会や企業と連携した探求活動などが行われた。

ぐんまのSTEAM教育(群馬型STEAM教育)

「ぐんまのSTEAM教育」は、群馬県がSDGsの課題などにも積極的に取り組む「始動人」の育成を目指している教育事業だ。小中学校では「総合的な学習の時間」を充実させ、高校では各教科の学びを重視しつつ「総合的な探求の時間」「課題研究」「理数探求」の時間にも注力している。

モデル校指定事業も行っており、2022年度から2024年度の3年間にかけて県内高校4校で実施した。また始動人の育成のために、以下のようなさまざまな事業を行っている。

  • ぐんまサイエンスリーダープログラム (群馬県高校生数学コンテスト、群馬県高校生数学キャンプ、群馬県高校生科学コンテスト)
  • 科学の甲子園ジュニア群馬県大会
  • ICT活用促進プロジェクト「総合的な学習の時間の充実」

これらによってSociety 5.0時代の社会に活躍する始動人の育成を目指している。

STEAM教育の課題

STEAM教育は実践に向けてスタートを切ったばかりで、課題も浮かび上がっている。現在指摘されている3つの課題について確認していく。

STEAM教育の質が不均一

STEAM教育は文部科学省が推し進めている教育施策だが、具体的な教育内容はまだ決まっていない。STEAM教育専門の教科書があるわけでも、教員がいるわけではなく、各教育機関においてどのように学んでいくかを独自に決めているケースが多い。そのため、STEAM教育の質にはばらつきがあると推測される。

例えばイギリスでは、STEM教育を広める「STEM教育アンバサダー」が国内に約3万人おり、ワークショップの企画やキャリア相談なども行っている。こうした仕組みを構築することで、STEAM教育の質を全体的に高めていくことができると考えられる。

ICT環境の不整備

STEAM教育においてIT技術の活用は不可欠だが、教育施設によってはICT環境が整っていないケースもある。例えば、学校Aでは生徒一人に1台のタブレットが与えられているが、学校Bでは生徒2人で1台のパソコンを使っているということもある。また生成AIを使った特別授業を展開している高校もあり、他校との教育内容には差があると考えられる。

一方、教える側の教員のICTツールに対する知識レベルやスキルも異なる。デジタルネイティブが多く占める現代においては、生徒の方がよりスキルが高いというケースも考えられる。このような状況で、いかにして高度な授業を展開するかということは大きな課題とされる。

苦手教科の克服

STEAM教育の根幹は、理数系教科をベースにしつつ、文理の枠を超えて5つの分野を横断的に学ぶこと。しかし日本では「自然科学」と「人文・社会科学」に分ける大学入試制度などの影響もあり、理数系・文系といったように体系ごとに分けてしまうことが多い。

人によっては「文系が得意、理数系は苦手」といったように、得意分野と不得意分野がはっきり分かれてしまうこともある。理科が苦手でも「私は文系に進むから問題はない」ということもある。こうした中で、苦手教科を作らずに横断的な学力を伸ばせる環境を提供できるか、という課題がある。

まとめ

IT技術やAIの飛躍的な進化などにより、企業や普段の生活の中でDXによる変化が始まっている。このような状況下で新たな価値を創造するには、課題解決力と豊かな想像力の融合が不可欠だ。そうした能力や資質を持つ人材を育成するために、日本ではSTEAM教育が推進されている。

実際に、STEAM教育を推進するための取り組みを行う学校も増加している。自治体や民間企業といった学校外との連携も増えているため、STEAM教育を目にする機会も多くなったのではないか。

デジタル化やグローバル化が進み、より一層複雑になっていくであろうこれからの時代に、あらゆる学問を用いながら、課題を発見し、自ら考えることができるスキルや態度を備えることが、社会においても、自らのウェルビーイングを向上させるためにも重要になりそうだ。

参考記事

STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進について|⽂部科学省
Society 5.0の実現に向けた 教育・人材育成に関する政策パッケージ <中間まとめ>|内閣府
STEAM教育って?|STEAM JAPAN
兵庫型STEAM教育について|兵庫県教育委員会
ぐんまのSTEAM教育
STEAM教育とは? 編集部が解説|寺子屋朝日
文部科学省が重視するSTEAM教育とは?成り立ちや日本での取り組み・課題などを解説|KDDIまとめてオフィス
STEAM教育とは? 推進されている背景やメリット、国内外の事例を解説|SKYMENUCloud
文部科学省が推奨するSTEAM教育|学習効果や現状の課題を解説|プロクラ

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