アウティングとは?性的指向や性自認を暴露する危険性や影響、防止策を解説

アウティングとは

アウティングとは、人の性的指向(どのような性の人を好きになるか)や性自認(自分の性別をどのように認識しているか)を本人の同意なしで第三者に暴露してしまうことだ。例として以下のようなものがある。

「〇〇さんって、男から女になったんだって」
「◇◇さんって、女性が好きって言ってたよ」
「△△さんってトランスジェンダーだって知ってた?」

職場の同僚や友人などからカミングアウト(性的指向や性自認を打ち明けられる)された際や、当事者がLGBTQ+だと知った際、本人の承諾なしに他人に共有してしまうと善意であってもアウティングだとみなされてしまう。

当事者であるLGBTQ+の人達の多くは、自らの性的指向や性自認について周囲に言わないことで、身を守っている。しかし、アウティングをされると周りから差別や偏見にさらされ、それまで安全だと感じていた今の自分の居場所を失ってしまう可能性がある。そのため、いくら善意であったとしても、行為自体が重大な人権侵害となってしまうのだ。

当事者は性的指向・性自認といった個人情報をデリケートに扱っているため、意に反して明かされることは本人にとって苦痛になる。そのため、たとえ情報を知った場合でも、本人の希望なしに他者に共有することは避けなければならない。

カミングアウトとの違い

アウティングと類似の言葉「カミングアウト」は、LGBTQ+の当事者が自身の性的指向や性自認について他者に伝えることである。カミングアウトは強制してはならず、本人の自由意思によって行うべきだとされており、カミングアウトを受けた際は受け止めることが大事である。

一方、アウティングは、カミングアウトを受けた後に本人の承諾なく周りへ暴露してしまったり、カミングアウトを直接受けずとも耳にした情報を共有してしまったりすることを指す。

アウティングが当事者に与える影響

アウティングが当事者に与える影響

ここでは、アウティングをした際に当事者に与える影響を2つの面から見ていく。

精神的なダメージを受ける

一つ目は、精神へのダメージである。アウティングが発覚すると当事者は加害者の信頼を失い「どこまで知られているのか」「正直に話したらこれからも言いふらされる」などと人に対して疑心暗鬼になってしまう可能性がある。すると、自分の意見を正直に言うことに対し不安が強まり、精神的に不安定になる恐れがある。このような状況が続くと常に不安や緊張を感じ、最終的にうつ病や不安障害などの精神疾患を引き起こすリスクもある。

社会的地位が崩れる恐れがある

二つ目は、当事者が属するコミュニティにおいて社会的地位が崩れる可能性があることだ。職場でアウティングされた場合、当事者と同僚、上司との関係がギクシャクし昇進や評価に影響を与えることもある。さらに、同僚間での誤解や差別的な態度が生まれ、被害者が不当に扱われる可能性も高まる。当事者は職場に居づらくなり退職を余儀なくされるかもしれない。

また、LGBTQ+が多く属するコミュニティでアウティングが発生すると、信頼している友人や同僚が秘密を守らないという不安が広まり、ほかのLGBTQ+メンバーも自分の性的指向や性自認を隠すようになる。すると、安全だと思っていた場所がそうではなくなり、コミュニティ自体で不信感が高まる可能性がある。

【事例】一橋大学学生転落死事件

アウティングが社会で注目されるようになったきっかけの一つとして、一橋大学で起きた学生転落死事件がある。これは2015年8月、ゲイであることを同級生にアウティングされた一橋大学の学生が精神的に不安定となり、大学敷地内で転落死したとされる事件だ。

この事件の発端は、学生から告白を受けた同級生が、その後自分だけが秘密を抱えていることに苦しさを覚え、学生がゲイであることを友人間のグループチャットで暴露したことだった。アウティングを受けた学生はその後精神的に不安定になり、ある日パニック発作を起こし大学構内の建物から転落し亡くなった。

事件後学生の遺族が起こした裁判にて、アウティングは「人格権ないしプライバシー権等を著しく侵害するものであって、許されない」とされ、不法行為であることがはっきりと示された。この事件は社会に大きな影響を与え、2018年4月には一橋大学のある国立市が全国で初めてアウティング禁止を盛り込んだ条例を施行し、2022年4月からはパワハラ防止法により中小企業にも防止対策が義務付けられることとなった。

アウティングをしてしまった場合どうなる?

アウティングをしてしまった場合どうなる?

アウティングをしてしまった場合、賠償を負ったり法律で訴えられたりする可能性がある。

損害賠償の発生リスクがある

先ほど述べた通りアウティングは不法行為であるため、LGBTQ当事者に精神的ダメージを与えた場合は損害賠償責任を負う可能性がある。たとえば、アウティングが原因の精神疾患の治療費の負担や企業の場合は仕事の休職期間の賃金の支払いなどが挙げられる。賠償金額は状況によって異なり、大きい場合は数百万円に及ぶこともある。金額は被害者の生活におけるさまざまな影響を考慮して決められ、加害者にとっては非常に重い負担となる可能性もある。

名誉棄損罪で訴えられる

アウティングされた人が社会的評価を低下させるような差別的な言動をされたと判断した場合、名誉棄損罪で訴えられる可能性がある。名誉棄損罪が成立すると「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」といった重い刑となる。特に、多数の人に知られる可能性がある状態で行われた場合、名誉棄損罪が成立しやすいといわれている。また、名誉棄損罪は親告罪であるため被害者の告訴がなければ起訴されないものの、一度告訴されると取り下げは難しい。

パワハラ防止法で訴えられる

職場内でアウティングが起こった場合、事業主にパワハラ防止の措置を義務付ける「パワハラ防止法」が適用され、事業主は訴えられることもある。厚生労働省が発表した「パワハラ防止指針」によると、パワハラとは「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」とされ、アウティングもパワハラの一部だと示された。そして、2022年4月よりパワーハラスメント防止措置が中小事業主を含む全事業主の義務となっている。そのため、企業には従業員が安全を確保しつつ労働に従事するために必要な措置を取る義務が課せられているのだ。

企業のイメージダウン

アウティングに対する対応次第では企業のイメージダウンにつながる可能性もある。2020年には国内の企業にて、アウティングの発生に対する企業の対応に関して、被害を被った社員が企業前で抗議行動をとった事例がある。このような事態となると企業に対する信頼度も下がってしまうため、アウティングを防止する対策が必要となる。

企業におけるアウティング防止策

企業で取り組み可能なアウティングの防止策3選

ここでは、企業で取り組み可能なアウティングの防止策を説明していく。

就業規則を変更する

まずは、既存の就業規則にアウティングを禁止する規定を追加することが挙げられる。企業はセクハラ防止対策の措置を講じることが男女雇用機会均等法により義務付けられているため、その規定に加える形で防止する一文を含める選択肢もある。就業規則として設定することは、アウティングが起こった際にヒアリングや懲戒処分を実施する根拠になる。さらに禁じられていることを従業員に広く知らせるため、アウティングに対し問題意識をもつ従業員を増加させる効果がある。

従業員に教育や研修を行う

そもそもアウティングに対する知識がない従業員も多いため、教育や研修・周知を徹底するのも大切だ。アウティングは良かれと思ってしてしまうケースも多く、アウティングによってLGBTQ+当事者を傷つけてしまう事実を知らない人もいる。そのため、全従業員に教育や研修を実施し、各従業員が自分の行為を見直し正しい行動ができるように促す必要がある。同時に、行った場合は企業で厳正な対処を実施することを周知するのも大切だ。

相談できる場所を設ける

アウティングされた従業員やカミングアウトをされ秘密を共有されたことで悩む従業員が相談できる窓口を設けることも選択肢の一つだ。就業規則で定められていたり教育が行われていたりしたとしても、仮にアウティングが起こると当事者や関わった人が追い込まれてしまう可能性もある。そのため、悩みを打ち明けられる場所を設けるのが大切なのだ。なお、相談窓口は対面以外にも、電話やメールなどのケースもある。また、社内では打ち明けられにくい場合もあるため、外部窓口を検討するのも選択肢の一つだろう。

まとめ

ここまで、アウティングの防止策を説明してきたが、大切なのは一人ひとりがアウティング行為が起こらないよう意識をすることだ。これまで述べた通り、アウティングは当事者の居場所を奪ったり精神的に追い詰めたりするだけでなく、重大な人権侵害につながりうる。カミングアウトをするのは本人の自由だが、アウティングをすることは大きな危険性がはらんでいることを覚えておくことが重要だ。性に対する考えが多様化する現代において、一人ひとりが持っている思い込みや当たり前などを見直すことが求められているのではないだろうか。

参考記事
~ 性的マイノリティに関する企業の取り組み事例のご案内 ~|厚生労働省
労働施策総合推進法に基づく 「パワーハラスメント防止措置」が 中小企業の事業主にも義務化されます!|厚生労働省
職場におけるパワーハラスメント|厚生労働省
みんなに知ってもらいたい性の多様性|船橋市
知っておきたい 「カミングアウト」と「アウティング」|東京人権啓発センター
LGBTQの「アウティング」に全面謝罪 当事者は「制度」をどう活用したのか?|Yahooニュース
職場での「SOGIハラ」「アウティング」に要注意|東洋経済ONLINE

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