マミートラックとは
マミートラックとは、出産後の女性が歩みがちな、管理職や責任のあるポジション、昇給のチャンス等から阻害された「責任や収入が低く、出世コースから外れたキャリアパス」のことだ。
日本では、半数以上の女性が出産後出世コースから外れ、同期の男性と責任や給料が大きく違ってくるという現状がある。一度マミートラックに乗ってしまったら、出世コースに戻ることは不可能に近く、昇進や昇給が遅れ、同期と大きな差が開いた結果、仕事に対するモチベーションが下がることも珍しくない。
データで見るマミートラック
日本では近年、出産後に働き続ける女性の割合は増加しているものの、出産を機会に正規の職から離脱し、非正規雇用に移行する傾向は依然として強く見られる。出産後同じ職場に正社員として残り続けた場合も、時短勤務などをきっかけに出世コースから外され、マミートラックを歩むケースが多い。
働き続ける女性のうち、半数以上がマミートラックを歩む
子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究(2022年)(※1)によると第一子出産後「難易度や責任の度合いが低く、キャリアの展望もないマミートラック」に移行した女性の割合は50.6パーセントで、実に半数以上の女性が出産を機にキャリアダウンしていることがわかる。
多くの女性が出産を機にキャリアアップの可能性が著しく停滞し、生涯賃金が大幅に下がるのだ。この現状に対し、当の女性自身は納得しているのだろうか?
マミートラックを歩む女性の納得感。納得していない人は約2割
第一子出産後復帰時にマミートラックにいた女性に対し、納得感を調査したところ、納得していた人が29.8パーセント、どちらかといえば納得していた人が50.4パーセントで、「出産後マミートラックにいること」に対する納得感は高かった。
一方、納得していなかったは5.2パーセント、どちらかと言えば納得していなかったは14.6パーセントで約2割の女性が出産後にキャリアの展望が見えなくなることに納得していなかった。
日本ではそもそも、出産後も出産前と同じように働き続け、出世できると考えている人が少ないゆえ、マミートラックにいることは自然なことだと受け入れている女性が多いのだろう。
納得している女性の自由回答によると、「夫婦共働きであってもどちらかが仕事をセーブしなければ子供を育てていくのが難しく、その場合、夫のキャリアを優先して、自分が子育てをするのが自然だと考えている」といった類いの回答が複数見られた。日本は男女の賃金格差が大きく、母性神話(子育ては女性がするべき。母親は子供への無償の愛がある)などが強いため、夫婦どちらかがキャリアを中断して子育てをする必要がある場合、女性が「自ら進んで」「納得して」マミートラックに進むことも珍しくないのだ。
マミートラックに納得していない理由
第一子出産後にマミートラックに進まざるを得ないことに対し、納得していなかった理由で最も多かったのは「キャリアの展望がなかった」ことで、38.6パーセントの女性が納得できていなかった。
そのほかの理由は、数値の多い順から「やりたい仕事ではなかった」「仕事の内容が限定されていた」「自分の能力よりも難易度の低い仕事だった」「自分の希望よりも責任の軽い仕事だった」「同期の男性よりも責任の軽い仕事だった」等が続いた。
問題点|マミートラックが女性に与える影響とは?老後、半数以上の単身女性は貧困

次に、マミートラックが与える影響について見ていこう。
マミートラックが企業や国に与える影響としては、経済的な損失、という面が挙げられる。優秀な女性が責任あるポジションや出世コースから外された結果、モチベーションを失って退職してしまうリスクもある。出産後多くの女性が同じ職場で働き続けられず、非正規になった結果、GDPも下がっている。しかし、企業や国は女性がマミートラックに進むことで、利益も得ている。優秀な女性をキャリアアップさせずに、低賃金で雇用すれば、人件費を抑えることができるのだ。
では、マミートラックに進んだ女性自身にはどういった影響があるだろうか?
マミートラックが女性に与える影響1 キャリア形成ができない
多くの会社では、年次が上がり、責任が増えていくに従って、役職や給与が上がる。しかし、マミートラックに乗った場合、そういったルートは断たれる。責任の重い仕事から遠ざけられた結果、スキルアップができず、転職の際も不利になる。マミートラックに一度でものれば、元のルートに戻ることは難しいため、その先のキャリア形成が難しくなりがちだ。
マミートラックが女性に与える影響2 生涯賃金が下がり、貧困に陥る
マミートラックにのった女性の多くは、ひとりで老後も十分に生活できる賃金を稼げなくなるケースが少なくない。現在、老後、夫の死別なども含め、単身世帯になった女性の貧困率は50パーセント程度だ。実に、半数程度の女性が、老後、貧しい生活を余儀なくされている。
これは、現役世代の年収が年金や退職金に反映されていることも一因だ。出産後、非正規雇用になったり、出世コースから外れたりした場合、生涯年収は大きく下がるのだ。
マミートラックが女性に与える影響3 モラハラやDVから逃げ出しにくくなる
マミートラックにのった女性は、配偶者の収入が生活費になっていることが多い。
この場合、配偶者からモラハラやDVを受けたとしても、即離婚することが難しくなる。自分ひとりならすぐに離婚を決められたとしても、子どもの将来を考えた際、自分が耐えればいい、という思考になってしまうパターンもあるのだ。
マミートラックが女性に与える影響4 仕事に対するモチベーションの低下
マミートラックに進むことになった女性の約2割は、自分の処遇に納得していない。
自らの能力が軽視されていると感じたり、同期の出世や収入に対し悔しい思いをしたりした結果、仕事に対するモチベーションが下がることは珍しくない。
解決策|出産後もキャリアを継続できるようにするには?国や企業ができること

マミートラックは、長期的に見ると女性の生涯賃金を大幅に低下させ、ひとりで生活できる賃金を稼ぐことが難しくなり、貧困化のリスクが上がるという弊害がある。
では、そういったことを防ぐために企業や国ができることはあるだろうか?
出産後も女性がキャリアを継続するための工夫1 フレキシブルな働き方を導入する
フレキシブルな働き方が認められるようになれば、大幅なキャリアダウンを避けられる可能性もある。リモートワークやフレックスタイムなどを導入することも一案だ。
出産後も女性がキャリアを継続するための工夫2 アンコンシャスバイアスの自覚
上司の中には、「出産後の女性に重い仕事を任せてはならない」というアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)がある人もいる。そういった思い込みを持っている上司がいると、出産後の女性は、仕事でのスキルアップやキャリアアップのチャンスを奪われることになる。
「これまでの女性の従業員は皆そうだったから」という理由で、簡単な仕事ばかりを任せるのは、「統計的差別」と言われるものだ。「統計上、そうだったから、今回も・・・」という対応は、女性のキャリアアップを阻害する。
まずは企業がそういったアンコンシャスバイアスに気がつき、是正していく必要があるだろう。
出産後も女性がキャリアを継続するための工夫3 同一労働・同一賃金を法で定める
日本は、派遣などの非正規雇用の割合が多い。また、正社員と非正規では大きな賃金の格差がある。
例えばイギリスでは、非正規社員や正規社員の85.1パーセントほどの賃金を得ているが、日本の非正規社員は正規社員の64.8パーセントの賃金しか得られていない。(※2)
令和3年の調査によると、女性の約半数は非正規(※3)であるから、正規と非正規の待遇格差を改善することは、女性の貧困を防止する効果的な一手となる。非正規でも正規と同等の給与を得ることができるようになれば、一度非正規になった場合でも、リスキリングなどをしてキャリアアップを図れる可能性も高まる。
さいごに。マミートラックは構造的な問題
現在、出産後にキャリアダウンする女性は多い。しかし、男性の場合、子どもがきっかけでキャリアダウンするケースは稀だ。
出産前の段階で男性の収入が女性の収入より多い場合、どちらかが仕事をセーブすることになれば、女性側がセーブすることが合理的な選択になる。しかし、その合理的な選択によって、将来、女性が貧困化するリスクがあることは忘れてはならない。
マミートラックは、男女の賃金格差や、女性に育児・家事負担が偏っていることが原因で発生する、構造的な問題だということをしっかり認識する必要があるだろう。
※1 子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究(2022年)
※2 小前和智「非正規雇用者の賃金が低いのは世界共通なのか?―国際比較からみた日本」
※3 男女共同参画白書(令和4年度版)
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