女性の貧困とは
女性の貧困とは、女性が十分な収入を得られず、経済的に困窮している状態を指す。
女性の貧困が問題なのは、単に収入が低い、というだけにとどまらず、住む場所や食事、教育、医療などに使えるお金がなく、人間として基本的な尊厳を維持するだけの生活もままならなくなっている人も少なくない、という点だ。
日本は長らく不景気が続いているとはいえ、先進国と言われる国だ。しかし、それにもかかわらず、貧困に陥っている女性は少なくないのはなぜだろうか?
今回は、女性の貧困の問題点や、なぜ貧困になってしまうのか、どうすれば改善できるのか、を解説していく。
日本の「女性の貧困」問題とは? 暴力や搾取の対象になるリスクが上がる
貧困にはさまざまな弊害がある。満足な教育が受けられず、低賃金でキャリアアップの望めない仕事に従事せざるをえなかったり、ハイリスクな仕事に追い込まれたりする可能性もある。経済的に不安定な状態で病気になったり事故に遭ったりした場合には、命が危険にさらされる。
また、女性の貧困は、子どもの貧困にも直結する。
日本は先進国では珍しく、シングルマザーの貧困率が高いことでも知られている。実に、ふたりに一人のシングルマザーが貧困ライン以下の収入しか得られてない。それゆえ、女性の貧困は容易に子どもに連鎖する。子どもに十分な教育を受けさせることができず、満足な食事も与えることができなくなる。
貧困に陥った女性や子どもは、暴力や搾取の対象になりがちだ。例えば、貧困に陥ったシングルマザーが、子供がいても働ける時間に仕事を得るためにキャバクラで働くことになったとする。そこで、客から体を触られるなどのセクハラを受けたとしても、訴えることは難しい。「キャバクラだし、それくらい多めに見て」「自分がその職場を選んだんだから自己責任」と言われ、抵抗しようにも弁護士を頼って訴えるためにはお金と時間が必要だ。お金がないと、自分の尊厳を守ることも難しい。
また、お金がないゆえにコミュニティに属する機会が失われ、社会的な孤立が進むケースも少なくない。そうなれば、貧困から抜け出すのも至難の技になる。
なぜ女性が貧困になりやすいのか?
次に、なぜ女性が貧困に陥りやすいのか、その原因を見ていこう。主な要因として、以下の三つが挙げられる。
女性が貧困になりやすい理由1 男女賃金格差。女性ばかりの仕事は賃金が低い
令和三年、内閣府の調査によると、男性正社員を100とした際、女性正社員の収入は77.6だ。この数値はOECDで最低の数値であり、世界的に見ても男女格差が大きい部類に入る。(※1)

同じ仕事をしていても、男性に比べて女性は少ない賃金しか受け取れない現状が、女性の貧困の最も大きな要因だろう。
一般的に、女性ばかりの仕事は、その仕事に必要なスキルや労力に関わらず、賃金が低く抑えられる傾向にある。また、女性ばかりだった仕事に男性が参入すると、賃金が高騰するケースや、男性ばかりだった仕事に女性が参入すると賃金が下がるケースも珍しくない。
例えば、プログラミングの仕事がこの世に誕生し始めた頃は、裁縫と同じくらい女性がする単純な仕事だと思われていた。そのため、プログラマーはほとんどが女性であり、プログラマーは低賃金の仕事だった。しかし、プログラミングに男性が参入し、重要な仕事とみなされた結果、賃金が上昇した。
1950年から2000年代まで、アメリカではもともと男性が多かったレクリエーションインストラクターとチケット販売員を女性がするようになった。すると、平均賃金がそれまでに比べて、それぞれ57%と43%減少したという。デザイナーの平均賃金も女性が増えてから34%減少している。
日本では男性が多く、高賃金の代表格と言っていい仕事である医師においても同じことが言える。ロシアでは、医師は男性より女性が多い。それゆえ、医師の給料は低賃金だ。
似たような仕事をしても性別によって職種が分けられると報酬に差が出る。ジムのパーソナルトレーナーとヨガのインストラクターの給与の差、保険の営業と不動産営業の給与の差には、明確な格差が存在する。
保育士が命を預かる重責に見合わない給与設定になっているのはなぜか。それは、女性の仕事だからだ。
ではなぜ女性は賃金が低いと分かりながらも女性が多い職場を選んでしまうのだろうか。さまざまな要因があるが、一つには、社会やメディアが女性に相応しい仕事とは何か、というメッセージを発しており、ステレオタイプ化されたイメージから逃れるのは難しい、という要因がある。どんな職業が女性に相応しく、どんな職業がそうでないかを人は成長の過程で学習する。見たことがないものに、人は憧れることができない。
女性は大きな影響力を持って、リーダーシップを発揮し、目立つ仕事を自分とは合わない仕事だと思わされ、サポーターこそが「女らしい」役割なのだと社会化される。
女性の起業家や政治家が揶揄やセクハラの対象となるのは女らしさから逸脱した罰であり、結婚を機会に仕事を辞めた「女優」が賞賛されるのは、女らしさへの適合への報酬なのだ。
職業選択の際、女性がたくさんいる、社会的に女性がしていても批難の対象にならない仕事を無意識に選ぶのは、生存戦略の一つだといえるだろう。
女性が貧困になりやすい理由2 出産や育児によるキャリアの中断
ただでさえ男女の賃金格差が大きく、女性の多い仕事では給与が低く抑えられている現状がある上に、女性のキャリアは中断されやすい。
育児休暇は法律上義務付けられているものの、実質的には育児休暇取得の例がなく、退職しなければならない、という会社もまだまだある。また、日本ではまだ男性の育児休暇取得が根づいておらず、男性が育児の主体となることが少ないため、女性がワンオペで育児をせざるを得ず、退職を選ぶ人も少なくない。
女性の賃金が安く抑えられていることは、「夫婦どちらが仕事を休むか」「どちらが仕事を辞めるか」を決める際に重要な判断基準となる。日本では男女の賃金格差が大きいため、女性側がキャリアを一時的に中断することが合理的な選択肢になってしまうのだ。
キャリアの中断はスキルや経験の蓄積を阻害し、再就職の際に不利になる。育児休暇を取得して職場復帰しても、時短勤務で出世ルートから外され、いわゆるマミートラックを歩むことになるケースも多い。
一度中断したキャリアを再開することは難しい。そうなると、夫が先に死んだり、離別したりした後、女性は貧しい老後を送ることになる。実際、高齢単身女性の貧困率は44%で男性の30%と大きな開きがある。(※2)
女性が貧困になりやすい理由3 非正規雇用の拡大。正規雇用の6割の給与
女性は非正規雇用に従事する割合が高く、正規雇用に比べて賃金が低く抑えられており、雇用も不安定だという問題もある。
令和3年の調査によると、男性の非正規雇用率が2割程度なのに比べて、女性の非正規雇用は実に5割を超えている。(※3)

非正規の拡大が加速したのは、1999年に派遣法が改正されたことが原因だ。以降、日本には派遣会社が乱立し、非正規雇用の割合が増えていった。
日本の非正規雇用の問題点は、同一労働同一賃金の原則を無視し、低い賃金しか支払っていない、という点だ。諸外国ではフルタイム労働者と非正規雇用の労働者の賃金格差は7割〜9割程度だが、日本は6割に満たない。(※4)
女性の貧困を解消するためにできることは?
最後に、女性の貧困を解消するためにできることについて確認していく。
女性の貧困を解消するためにできること1 賃金格差の是正
女性の貧困を撲滅するためには、同一労働同一賃金の原則を徹底し、性別や非正規・正規に関わらず、公平に賃金が支払われる環境を整えることが不可欠だ。
政府が働きかけるだけではなく、企業は、賃金の透明性を確保し、男女間の賃金差を縮小する努力をするべきだろう。モデルとなるケースとして、メルカリがあげられる。メルカリは社内で男女の賃金格差を調査、公にし、男女の賃金格差是正に取り組んでいる。(※5)
女性の貧困を解消するためにできること2 育児・介護の外注・男女平等
女性がキャリアを中断せずに済むためには、育児や介護のサポートを充実させることが大切だ。ベビーシッターなどの外注を頼むことも考えられるが、肝心のベビーシッターが「女性がする仕事だから」と低賃金に抑えられていたら本末転倒だ。それでは貧しい女性と豊かな女性の格差が広がるだけだろう。
大切なのは、育児休暇の取得を男女ともに推奨し、育児の責任を男女で分け合うことだ。さらには、保育所や介護施設の整備を拡大し、正当な報酬を支払うことも必要だろう。こういった変化は個人で作り出すのは難しいため、政府に働きかける必要がある。
女性の貧困を解消するためにできること3 非正規雇用の待遇改善
非正規雇用の待遇を改善したり、正規雇用への道を開いたりすることも必要だろう。安定した雇用の確保を図ることは、女性の貧困を撲滅するための大切な一歩だ。
最後に。女性の貧困を解消するためには、男女の賃金格差をなくすことが不可欠
女性の貧困問題は、社会全体の問題として捉え、総合的な取り組みが必要だ。同時に、個人の意識の改革も大切だろう。
女性の仕事だからという理由で、賃金が安く抑えられている仕事があること、女性がその仕事を選ぶように社会化されていることを、女性自身が明確に自覚すれば、そういった仕事を選ぶ人は少なくなり、結果的に賃金を上げざるを得なくなるかもしれない。
女性の貧困問題を解消するためのひとつとして、男女の賃金格差をなくすことが求められる。そのためにできることは、無数にあるのだ。
※1, 2 男女間賃金格差(我が国の現状)
※3 (第2分野)雇用等における男女共同参画の推進と仕事と生活の調和 (第一節)就業
※4 小前和智「非正規雇用者の賃金が低いのは世界共通なのか?―国際比較からみた日本」
※5 「説明できない格差」を埋めてより良い社会にしていきたい──男女間賃金格差に対する、メルカリが考える是正アクション
参考記事
『失われた賃金を求めて』イ・ミンギュン著 小山内園子・すんみ訳(タバブックス)
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