宿泊者向けアパートをすべて営業停止へ。バルセロナのオーバーツーリズム対策

観光地は誰のための土地なのか

特定の土地に多くの観光客が押しよせ、現地の環境・建築物・住民の暮らしにマイナスの影響を発生させてしまうオーバーツーリズム。この現象が発生するまで、観光産業はそもそも地域活性化の手段のひとつだった。本来であれば、観光客が増えることでホテルをはじめとしたホスピタリティ産業の雇用が増え、観光客がお金をつかうことで、地元の観光施設やそこで働く人々の暮らしがゆたかになる。つまり地域の人々に還元されるしくみなのだ。

しかし現在、オーバーツーリズムはときに知事選の勝敗を決めるほどの重要課題となっている。この課題を抱えているのは日本だけではない。他国の観光地でも、マナー違反による景観問題・観光客向けのホテルや別荘の建築による物価高騰などが発生。それに加え、交通渋滞や公共交通機関の混雑など、インフラがパンクしている地域もある。

つまり、地域の暮らしをゆたかにするはずの観光産業が、その土地の対応可能な範囲を超えてしまったとき、現地の生活にデメリットを与えてしまうのだ。オーバーツーリズムが発生しているとき、観光産業は地元への還元という本来の役割からはなれてしまう。

バルセロナのオーバーツーリズム対策 ―「地域住民のため」の街づくりへ

オーバーツーリズムによる負の影響をやわらげ、地域住民が暮らしやすい街を取り戻せるよう、大々的な政策に踏み切ったのがスペインのバルセロナだ。サグラダファミリアをはじめとした建築物が特に有名なこの街は、スペインで最も観光客が多く、その魅力ゆえにオーバーツーリズムに悩まされてきた。そのひとつが、地元の物価高騰だ。

そこで2024年6月、コルボニ市長はオーバーツーリズム対策として、宿泊者向けアパートの営業停止を発表した。現地で起きている問題、政策の内容、期待される効果を紹介する。

オーバーツーリズムで起きていた問題

スペイン国内では、オーバーツーリズムによって経済格差が生まれている。10年前と比べると、アパートの家賃は68%、物価購入にかかる費用は38%も上昇した。特にバルセロナやマドリードといった観光地は、たった1年で18%も物価が高騰している。

この背景にあるのが、観光客向けの宿泊施設の増加だ。今回の政策で営業停止となる宿泊者向けのアパートは日本で言うところの民泊であり、一般的な生活用の空間を観光客への貸し出し用として使っている。そのため観光客が泊まれる空間が増えてオーナーはお金を稼げる反面、地域住民の居住スペースは減ってしまった。

この状況が、現地の物価を引きあげており、バルセロナでの生活や就業を考えている人の障害となっている。たとえば、リゾートバイトのように短期的に観光地のホスピタリティ産業で働く人々は、マンスリーマンションを見つけられない。そのため、一部の人はキャラバンや自分の車で夜を過ごしながら働いている。また、収入に見合う部屋がないため若者にとっても暮らしにくい街に変わってきている。

地域の未来を担う存在である若者が離れていくということは、長期的に考えると地元の衰退にも関わる。この現状をみたコルボニ市長は「実家から独り立ちをしたいと言う若者の多くが、バルセロナを離れることを余儀なくされる状況は避けなければいけない」と、宿泊施設増加に歯止めをかけた。

宿泊者向けアパートをすべて営業停止に

改善のためにコルボニ市長が発表したのが、バルセロナ市内の全宿泊者向けアパートの営業停止だ。2028年11月までの完遂を目指している。対象のアパートは10,101件におよび、営業停止になり次第、地域で生活をおくる人々の住居として開放される。

バルセロナ市は現在にいたるまで、AirbnbやBooking.comといった宿泊者向けのアパートを紹介するサイトを調べ、許可証を得ずに経営しているアパートには罰則を与えてきた。今回の政策では、許可証を持っているアパートにたいしても営業権の更新をおこなわず、期限が切れたタイミングで営業停止にする。

バルセロナにおけるオーバーツーリズム対策への懸念

宿泊者向けアパートの営業停止は、物価高騰の抑止・地元住民の住居確保・人口流出の防止など、市民にとってプラスとなる効果が期待されるが、違法宿泊施設の増加も心配されている。

これまでもバルセロナは、違法宿泊施設の取り締まりをおこなってきた。2016年以降、計10,500回もの罰金を課し、9,700の違法宿泊アパートに営業停止を要請。そのうち3,473が違法宿泊施設から長期滞在用へと変わった。

しかし、政府の取り締まりが厳しくなるにつれて、違法宿泊施設の隠れ方も巧妙になってきている。違法施設を見つけたところで、オーナーが不明なケースも発生している。現在は営業証をもっている宿泊施設のなかにも、収入の目途がたたなくなることを理由に違法で施設を観光客向けに貸し出すところは出てくるだろう。

完全停止になる2028年までに、宿泊アパートのオーナーにたいしてどのようなアプローチがなされるのか注目だ。

バルセロナ市民はオーバーツーリズムに何を思うのか

各国はオーバーツーリズムを早急に解決すべき問題としてとらえている。そして、スペインではたびたび観光客を批判するデモが起きているように、市民の不満は頂点へと達してきた。しかし、観光が不要なものだと考えているわけではない。地域や自治体が観光への取り締まりを強化する一方、住民たちは何を思っているのだろうか。バルセロナ市が市民を対象におこなった調査から、現地の人々の声を拾っていく。

有益であり有害な観光産業

バルセロナ市が2023年12月に公表した調査結果によると、観光を有益と考える市民の割合は70.9%にのぼり、2019年と比べて約4%増えた。とくに観光産業で働く人々への還元は大きく、2019年から3年間で正社員の数は増加。2019年は臨時契約の割合が88.4%を占めていたが、2022年には54.7%にまで減少し、約半数が正社員として雇用された。つまりバルセロナ市における観光の盛り上がりは地元の経済に貢献しており、なんらかの恩恵を感じている市民が多数派なのだ。

しかし同時に、観光には限界があると感じている住民も多い。バルセロナ市による同調査によると、観光が有益であると考える市民が大半を占める一方で、有害だと考える市民の割合も、2019年の17.3%から23%に増えた。さらに2023年1月、市の公式ホームページに掲載された情報によると、61.5%の市民が観光客の数が限界に達していると答え、21.5%が観光客用の宿泊施設が多すぎると回答したという。

観光による恩恵を実感すると同時に、そろそろ歯止めが必要だと考えているのだ。また観光がもたらすメリットが大きくなるにつれ、どこかで不満もふくれている点も見逃してはいけない。

狭まっていいく市民の行動範囲

観光が有害だと考える理由は主に2つある。観光による物価高騰と人気スポットの過密化だ。前述の通り、宿泊施設としてつかわれるスペースが増えたことで、住宅費が高くなり、バルセロナは生活しづらい街と化している。

それに加え、観光が盛り上がるにつれて行動範囲が狭くなったという住民もいる。例えばカタルーニャ広場は、市バス・国鉄・地下鉄が集まるハブ的な存在を果たしてきたことに加え、周囲には繁華街も広がっており、市民の生活の中心となってきた。しかし、観光客が増えれば、利便性の高い場所ほど過密で行きづらい場所になってしまう。このカタルーニャ広場や、そこからほど近い高級ブティックが立ち並ぶグラシア通り・旧市街地のランブラス通りからは、徐々に地域住民の客足が遠のいてしまった。

オーバーツーリズムで浮き彫りになった観光地の課題

コロナ渦に入るまで、全雇用の10.5%、GDPのうち10.4%は観光に関する産業が占めていた。つまり観光産業は、現地の経済活動に欠かせないのだ。特に海外の観光客が増えるということは、海外で生み出されたお金が国内に持ち込まれることになるため、現地の経済はより潤う。観光業界はロックダウンで大きな打撃を受けたものの、現在雇用数もGDPに占める割合も徐々に回復し、コロナ前の数値に近づきつつある。

しかし、今回のバルセロナの例にみるように、その土地への需要が増えるとなれば必然と物価はあがる。現地で多くのお金がつかわれ、一部のビジネスがもうかっていたとしても、すべての住民の生活水準が向上するわけではない。むしろ、固定費である生活費や食費があがり、不満を感じる人が出てくるのだ。

そのうえ、観光産業は想像以上に基盤がもろい。観光客を減らすということは観光収入が減るということであり、観光関連のビジネスの衰退や、そこで働く人々の収入減にもつながる。現地にマイナスをもたらさないように観光を抑えるとなると、観光客が支払う金額をあげる工夫をしなければいけない。バルセロナは2024年の4月に引き上げられた観光税を、10月にも値上げする予定だ。

【参考記事】
Spanish government to limit short-term rentals and tourist flats to address housing crisis|SPAIN in ENGLISH
Barcelona wants to revoke all city’s 10,101 tourist apartment licences by Nov 2028|SPAIN in ENGLISH
The city keeps its tourist appeal intact|Ajuntament de Barcelona
Over 70% of Barcelona residents see tourism as beneficial to the city|Ajuntament de Barcelona
Economic Impact Research|World Travel & Tourism Council

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