ダークツーリズムとは?悲劇と結びつく場所で悲しみに思いを馳せる観光のかたち

ダークツーリズムとは

ダークツーリズムとは、死や苦しみなどの悲劇と結びつく場所へ訪問し、死者を悼み悲しみを感じる観光スタイルである。1990年代後半にイギリスの学者が提唱した言葉で、「ブラックツーリズム」「悲しみのツーリズム」「ピースツーリズム」と呼ばれることもある。

なお、ダークツーリズムの「ダーク」とは、訪れる場所を指すわけではなく、歴史上における影の部分をダークサイドとして捉えている。影の部分の歴史と結びついた悲劇の場所を訪れることでツーリズムが成り立っているのだ。

ダークツーリズムで訪れる場所としては、戦争、テロ、弾圧、差別、公害、事故といった人為的にもたらされた悲劇に結びつくスポットが挙げられる。たとえば、広島の原爆ドームやユダヤ人の強制収容所として使われたアウシュビッツなどである。また、地震や火災などの災害にもとづく死や苦しみと結びついた場所への訪問も「ダークツーリズム」といえる。例として、地震被害では阪神・淡路大震災、津波被害では東日本大震災の被災地などが挙げられる。

従来のツーリズムとの違い

従来のツーリズムと異なる点は、一般的にツーリズムは「楽しむもの」として捉えるが、ダークツーリズムは「悲しむもの」であることだ。近年のツーリズムは「体験を楽しんで消費する観光」といわれ、ダークツーリズムは「悲しみを消費して共感する観光」といわれるのだ。ここでの共感とは、そこで生きた人々への哀悼することだけでなく、悲劇によりトラウマを抱えて生きる人々が、観光を通して悲しみを語るための言葉を獲得していくことを指す。

負の遺産を訪ねる旅との違い

ダークツーリズムと世界遺産の負の遺産を訪ねる旅は異なる。負の遺産とは、人類が犯した悲惨な出来事を伝え、そうした悲劇を二度と起こさないための戒めとなるものを指す。

この場合、負の遺産を訪れて、ただ見学だけして終わることも多い。一方、ダークツーリズムは悲劇となった場所を訪れて死や苦しみを経験した人々に思いを馳せ、悼み、祈る気持ちを抱く観光スタイルである。そのため、被災跡として残され、歴史的に重要な場所であったとしても、ダークツーリズムの対象にはならないこともある。

ダークツーリズムの意義

ダークツーリズムの意義

ダークツーリズムの目的としては大きく2つに分けられる。

過去の悲劇を忘れないようにするため

ダークツーリズムは、過去の悲劇を風化させないために大きな役割を持つ。風化には2段階あるといわれており、まずその場所が生活や経済など人の流れから外れると「物的な風化」が始まる。その後、人々の記憶からその場所で起こった災害や戦争、事故といった悲劇が薄れていってしまう「記憶の風化」がおこる。そのような風化を防ぎ、過去の悲劇を忘れず二度と繰り返さない、と誓う機会をつくるためにダークツーリズムが存在しているのだ。

歴史を体感することで学びが得られるため

訪れた人が直接歴史を体感することで学びが得られる点も大きな意義の一つだ。ダークツーリズムは、その場所に関することだけでなく、そこにいた人々が直面した悲しい歴史についても学ぶことができる。

現代では、本やインターネット、テレビ番組、映画などを通して、日常的に世界の悲しい歴史について知るチャンスが多くある。しかし、現地へ直接赴くことで五感で情報を受け取ることができるため、感じる衝撃はより大きいといわれているのだ。その地を訪れることで、実際に現場から直接伝わってくる悲しみを「忘れずにいよう」と記憶に残すことができる。

国内外のダークツーリズムの目的地

世界と日本の主なダークツーリズムの目的地

ここからは、国内外のダークツーリズムの目的地を紹介する。

アウシュヴィッツ(ポーランド)

ポーランドにあるアウシュビッツには、第2次世界大戦中にナチス・ドイツにより110万人ものユダヤ人が犠牲となった強制収容所跡がある。現在はアウシュビッツ・ビルケナウ博物館として、毎年世界中から多くの観光客が訪れる。収容所では、収容されたユダヤ人の生活の様子が描かれた写真や資料を通して、当時の人種差別や生活の悲惨さを学ぶことができる。

グラウンド・ゼロ(アメリカ)

アメリカ・ニューヨークにある「グラウンド・ゼロ」は、2001年に発生したアメリカ同時多発テロ事件にて崩壊したワールドトレードセンターの跡地である。現在は、911メモリアルと博物館が設置され、犠牲者を悼むための重要なスポットとなっている。また、ツインタワーがあった場所には2つの大きな反射プールがあり、その周囲には犠牲者の名前が刻まれたプレートが設けられて犠牲者を追悼している。

広島(日本)

広島市中心部の平和記念公園周辺は、1945年に投下された原爆の悲劇とその後の復興をテーマにしたエリアとなっている。なかでも、原爆投下時に被爆して崩れた、外壁やむき出しの鉄骨が残る原爆ドームは、戦争の悲惨さを表すシンボルとなっており、世界遺産にも登録されている。

また広島平和記念資料館では、原爆投下で犠牲となった市民らの遺品が展示されており、生々しい惨状を目の当たりにすることができる。

岩手・宮城・福島(日本)

岩手・宮城・福島では、2011年3月に発生した東日本大震災で被災した地域でのダークツーリズムが盛んになっている。2022年には、3県の震災伝承館などへの来場者が約115万人と過去最高になったと発表された。

また、宮城県仙台市では、25のタクシー会社が、タクシーにて県内の被災地を案内する「語り部タクシー」サービスを展開している。ドライバーがガイドを務め、乗った乗客には災害時の参考になるよう、減災のアドバイスをしている。

ダークツーリズムで気をつけること

ダークツーリズムで気をつけること

ダークツーリズムで悲劇のスポットに訪れる際は、いくつか気をつけるポイントがある。

遺族や地元住民の意見や感情に配慮する

まずは、遺族やその地域の住民の意見や感情に配慮することだ。死や苦しみと闘ってきた人々にとって、観光客の姿を見ること自体がつらい記憶を思い出させることもある。そのため、訪れる際はダークツーリズムの「悲劇を繰り返さないための記憶の継承」という意味を重視し、関係者に敬意をもって配慮することが不可欠だ。辛い過去を思い出させたり、心ない質問をしたりする態度は避ける必要がある。

展示品や遺品に敬意を払う

遺族や地元住民へだけでなく、展示品や遺品にも敬意を払うことが大切だ。展示品や遺品は目で見て鑑賞するものであるため、手で触れたり持ち帰ったりする行為は許されるものではない。実際、2015年に2人の未成年者がアウシュビッツの遺品を持ち去った容疑で逮捕された事例がある。ダークツーリズムは怖いもの見たさで刺激を求めるものではなく、悲劇の歴史や人々に対して敬う心構えが大切だ。

メンタル面のケアをする

そして、訪れる人のメンタル面も考える必要がある。ダークツーリズムには意義や価値があるが、旅行中に訪れるスポットすべてを悲劇のスポットにしてしまうと精神的に消耗する可能性がある。悲劇と向き合った後には心を解放させることも大事なのだ。そのため、たとえば広島で原爆ドーム周辺を訪れた後は、厳島神社に行ったり広島焼を食べたりするといった「楽しみ」の観光を取り入れると良いだろう。

ダークツーリズムに対する批判

ダークツーリズムが誕生してからは20年ほどしか経過していないが、この観光スタイルは「悲劇を商売化している」と批判の声も出ている。

ポーランドのアウシュビッツでは、2000年から2015年の間で入場者数が3.5倍以上に増え、博物館には長蛇の列ができている。(※1)また、アウシュビッツ訪問の拠点とされる都市のクラクフからは、頻繁にツアーバスが運行されている。ニューヨークのグラウンド・ゼロでは、観光客が大量に流入することで厳粛な祈りが妨げられるケースがある。

このように、ダークツーリズムと物見遊山との区別がつかないと批判が寄せられることもある。

※1「悲しみ」の遺産で地域振興 ダークツーリズムの可能性|日経ビジネス

まとめ

悲劇と結びつく場所を訪れ、死者を悼み悲しみに思いを馳せる観光スタイルであるダークツーリズム。戦争や災害がいまだに絶えない世界で、悲しみや憎悪が湧いてくるのは当然だ。だが、私たちはそうした現実にただ悲観するだけの存在になる必要はない。人類の過ちから学び、考え、自らの意思や行動を変えることができる。

ダークツーリズムは、私たちが悲しみを受け入れ、静かに勇敢な姿勢をもつことを後押ししてくれるかもしれない。

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