スロージャーナリズムとは
スロージャーナリズムは、一つのニュースについて丁寧に掘り下げ、社会や人々にとってその情報が本当に価値のあるものかを吟味する報道の形である。
現在のメディア各社は、いち早く情報を出すことを重要視している。また私たちも「速報」や「新着情報」という言葉に価値を感じ、その内容に関わらず「早く得られた」ということ自体に満足感を得ている節がある。
スロージャーナリズムは、情報に「即時性」が求められる現代とは真逆の価値観だ。インターネットやSNSが発展したことで、地球の裏側や宇宙の出来事でさえも瞬時に知ることができるようになった今だからこそ、スロージャーナリズムに注目が集まっている。
スロージャーナリズムが注目される理由
ニュースサイトやSNSでの新着情報は、常に更新されつづけている。それらはすぐに消費されたのち、翌日にはほとんどの人が忘れてしまっているものだ。
情報がスピーディーに消費されることは、正確な情報が伝わらないという問題点を抱えている。瞬時にクリックさせるため、発信者は内容に合わないセンセーショナルな見出しで人々の関心を集める。なかには、事実とは大きく異なるフェイクニュースも出回っている。このような、真偽不明でありながらあたかも事実のように扱われている情報は、数え切れないほど存在しているのだ。
さらに、訂正や修正、削除が簡単に行えるというインターネットの特性上、情報の提供に責任をもたない発信者も増加している。
一度話題になったことでも、常に新しい情報で上書きされつづけ、さらにその内容に対して無責任な記者の態度も見受けられる。スロージャーナリズムは、こうした報道の形に疑問を持つ人々の中で、注目されるようになった。
スロージャーナリズムの特徴

スロージャーナリズムは、現在主流の「ファストジャーナリズム」と対極にあるものだが、その特徴にはどんなものがあるだろうか。
伝達が遅い
「スロー」の名の通り、スロージャーナリズムの最大の特徴は、情報が伝達されるスピードが遅いことだ。これは時間をかけて内容を調査し、濃密な情報を提供しようとする報道精神によるものである。速報に価値を見出さないため、どれだけ時間がかかろうとも正確な内容を届けることを目的としている。
自らニュースを作成する
各メディアは他社より一秒でも早く報道するため、基本情報のみで構成された、表面的なニュースを生み出していることも多い。また、それらの関連する記事を、内容を吟味せずに集めただけのまとめ記事も同じように多数存在する。これに対してスロージャーナリズムは、そのニュースの背景に焦点を当て、一から丁寧にニュースを作成するという特徴がある。
文章が長い
スロージャーナリズムによって生まれた記事は、一般的に文字数が多い。この特徴も、一つのニュースについて様々な視点から掘り下げることに起因している。「速報」が起こった事実だけを簡単に述べているのに対し、スロージャーナリズムでは「なぜ起きたか」という理由についても取材することを大切にしているからだ。その結果、伝えるべき内容が増えるため、多くの文章量で構成されるようになる。
スロージャーナリズムで得られること
スロージャーナリズムは時代に逆行するようなスタイルであるが、報道する側だけではなく、もちろん私たち受け手が得られる大きな利点がある。
充実した内容
これまで述べたように、スロージャーナリズムではしっかりとした取材や調査、分析、考察などが行われている。そのため、速報のニュースでは分からなかった「ニュースのその後」を知ることができるのだ。
衝撃的な事件がなぜ起きたのか、そこに関わる人はどんな想いをもっていたのか、といったことを徹底して取材している。たとえばルポルタージュやノンフィクションは、スロージャーナリズムの代表であるといえるだろう。
深く理解する力
昨今、検索エンジンにおいて検索したい言葉を入力したとき、「簡単に」といったサジェストが表示されることがほとんどだ。それだけ私たちは物事を単純化し、分かりやすく知ることを望んでいるのだろう。しかし、それらからは表面的なものしか得ることはできず、情報が錯綜していることもある。
一方スロージャーナリズムは、出来事を咀嚼し、整理して作成されているため、実は分かりやすく執筆されていることが多いのだ。そのため文字数が多く、内容の濃い記事でありながら、深く理解しやすいといった利点がある。
情報の精査能力(情報リテラシー)
短時間で多くの情報を処理するため、タイトルや概要だけを読むという人も少なくないだろう。しかし、それらの記事はクリック数やPV数のために目を引くタイトルをつけていることが多く、実際タイトルが内容と全く異なっている事例も珍しくない。
その点、スロージャーナリズムによって正確な情報にじっくり触れることで、どのような記事が信憑性および信頼性があるものか、見抜く力(情報リテラシー)を身につけることが期待できる。
スロージャーナリズムの事例
スロージャーナリズムは、今や世界中で注目されており、先駆けとなったジャーナリズム雑誌やメディアサイトなど、その媒体は増加の一途を辿っている。ここではその一例を紹介する。
海外
ジャーナリズム誌「ディレイド・グラティフィケーション」
ディレイド・グラティフィケーションは、イギリスで創刊した世界初のスロージャーナリズム誌である。季刊誌として年4回発行されており、過去3ヶ月の間に起きた出来事について深く掘り下げた情報を提供している。
「第一であることより、正しくあること」を大切にし、広告なし、資金提供者なしといった状態で、読者へ質の高いジャーナリズムを届けることを信念として掲げている。
デジタルのみ、もしくは印刷物とデジタルの両方を選ぶことができるサブスクリプションで、印刷物は四半期ごとに自宅へ届き、デジタル版は無制限にアーカイブへアクセスできるものだ。
ニュースメディアサイト「ディ・コレスポンデント」
オランダのニュースメディアサイト「ディ・コレスポンデント」も、同じく完全に広告なしのプラットフォームで運営されている。この広告には、いわゆる「スポンサー付きコンテンツ」も含まれており、メディアにありがちな「資金提供者へ有利な情報提供」が行われないようにしている。
また、ニュースを見ながら「自分は何もできない」という虚無感を覚えたり、どこか他人事のように捉えてしまうことは、数多くの人が経験しているだろう。ディ・コレスポンデントでは、単に問題を伝えるだけではなく、その問題に対して何ができるかを説明することで、そうした情報消費者に対して自分事として考えるきっかけを与えている。
公式サイト:De Correspondent
日本
新潮社の国際情報サイト「フォーサイト」
出版社である新潮社が運営する「フォーサイト」は、国際情勢を中心としたニュースを配信するメディアサイトである。1990年に会員制の雑誌として創刊されたものの、2010年4月に休刊、同年9月にWebマガジンとして配信を開始している。
世界のニュースや日本の政治経済の重要なニュースについて書かれた記事を提供しており、月額800円ですべてのコンテンツを閲覧することができる。ジャンルは軍事問題からカルチャーまで多岐にわたり、執筆者には専門家が名を連ねている。
公式サイト:新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト|新潮社
まとめ
インターネットの発達によって、瞬時に世界中の情報が手に入るようになった現代において、スロージャーナリズムの台頭は、そうした社会が限界を迎えたことの表れかもしれない。
現代社会の情報を担っているのは、一分一秒を争い出来るだけ早く報道しようとする大手マスメディア、同じ日に同じような内容の投稿を行うインフルエンサー、真偽不明の情報を集めたまとめサイトなどである。現代人はとにかく時間がないため、それらが手っ取り早く情報を得られる手段なのかもしれない。
もちろん、目まぐるしく変化する社会では、地震速報など即時入手したい情報もたくさん存在している。ただ、それと合わせてスロージャーナリズムの精神に則って作成された記事を読むことで、そのニュースに対する新たな知識や見解が生まれ、より深く向き合うことができるだろう。
参考サイト
What Is ‘Slow Journalism’? | Out of Eden Walk
Editing, Fast and Slow | Slow Journalism | Susan L. Greenberg
Slow journalism|Prospect Magazine
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