日本版DBSとは
日本版DBSとは、子どもと接する職業に従事しようとする人の性犯罪歴の有無を確認できる制度のこと。子どもたちを性被害から守るため、学校や塾などの事業者に対して確認が義務付けられる。
日本版とつけられている理由は、イギリスの DBS(Disclosure and Barring Service、前歴開示・前歴者就業制限機構)制度が元になっているためだ。イギリスでは犯罪歴の照会制度が1997年に開始されており、2012年にDBS制度が確立されている。
法務省の「再犯防止推進白書」によると、性犯罪を犯した人が2年以内に再び性犯罪を起こす確率は2020年の出所者で5.0%にのぼった。刑を終えて出所した100人のうち、5人が2年以内に再び犯罪を起こす計算になる。しかし、子どもが通う学校や施設などで、性犯罪を犯した過去を持つ人物が働いているかどうか保護者はわからない状況が続いている。
このような背景の中、子どもを性被害から守ることが目指される一方、加害者の人権尊重やプライバシーの侵害、職業選択の自由などの観点から制度の構築に関しては慎重に議論されていたが、2024年6月19日に「日本版DBS」の創設を含む「こども性暴力防止法」が成立。現在は、2026年度の制度開始に向けて、制度の内容を詰めている段階とされる。
日本版DBSが制度として運用されると、性犯罪を犯したことのある人物は子どもに関わる職種に就きづらくなり、性犯罪の抑止に効果を発揮すると期待されている。
子どもの性被害の実態
子どもに対する性被害は「魂の殺人」と言われる。それは一生消えない傷を心に残すからだ。実際に子どもたちがどのような性被害に遭っているか、内閣府男女共同参画局「こども・若者の性被害に関する状況等について」から確認しておこう。
2022年の強制性交等罪の認知件数は1,655件で、そのうち10代以下の被害者は4割以上を占めている。なお、被害者のうち0〜12歳が13.1%を占めており、2018年に比べて1.4倍になっている。
また、性交を伴う性暴力被害の加害者は、学校の関係者が最も多く、次いで交際相手・元交際相手、SNSなどインターネット上で知り合った人が続く。
| 性交を伴う性暴力被害の加害者 | 割合 |
|---|---|
| 通っていた(いる)学校・大学の関係者(教職員、先輩、同級生、クラブ活動の指導者など) | 29.3% |
| 交際相手・元交際相手 | 27.5% |
| SNSなどインターネット上で知り合った人 | 19.2% |
| まったく知らない人 | 18.0% |
| 職場、アルバイト先の関係者(上司、同僚、部下、取引先の相手など) | 10.2% |
なお、性被害に遭った場合の相談先は「どこ(だれ)にも相談しなかった」が52.1%と圧倒的に多く、続いて「友人・知人」が30.5%、「家族や親戚」が14.4%となっている。
日本版DBSの成立までの道のり
2020年から日本版DBS創設の機運が急速に高まった。きっかけは、ベビーシッターマッチングアプリを使った複数の男性シッターが、派遣先で担当した子どもに性的な暴力を加えたとして強制わいせつ容疑などで逮捕された事件だ。この後、当時の法務大臣などに、日本版DBS創設を要望する要望書と21,000筆以上集まった署名が渡される。
2022年6月には「教育・保育施設等において働く際に性犯罪歴等についての証明を求める仕組み(日本版DBS)の導入」が明記された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2022」が閣議決定される。同年8月には、こども家庭庁の令和5年度(2023年度)予算概算要求に「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組み(日本版DBS)の導入に向けた検討【新規】」が加わった。
2023年4月にはこども家庭庁が新設され、日本版DBSを重要な施策として位置づけた。そして2024年6月19日に、日本版DBS創設を含む「こども性暴力防止法」が成立した。
日本版DBSの主な仕組み

日本版DBSは、子どもと関わる仕事に従事する予定がある人、またはすでに従事している人の性犯罪歴を、学校や施設などの事業者が照会できる仕組みだ。まだ制度は開始されていないが、現時点で判明している主な仕組みについて解説していく。
対象職業
子どもに関わる職種にはいくつか種類があるが、すべてが日本版DBSの対象になるわけではない。従事する人物についての照会が義務付けられている施設と、認定制度によって認定されることで義務化される施設に分けられる。
●対象となる施設
学校、認可保育所、幼稚園、認定こども園、児童発達支援、放課後等デイサービス、など
●対象外の施設(認定を受けるのは任意)
民間企業が運営する認可外保育所、学習塾、子どもが通うスポーツクラブ、放課後児童クラブ(学童クラブ)、ベビーシッター派遣業、など
対象外の施設が認定を受けることは原則任意だが、性暴力に対する職員の研修、子どもが相談しやすい体制づくりなどの一定の条件を満たした場合に認定される。認定された施設は、従事する人物の性犯罪歴の有無を照会することが義務付けられる。
なお、認定を受けることにより保護者も子どもも安心して施設やサービスを利用できるとして、大手の民間事業者は認定を受ける意向を持っているとされる。
申請する手順
照会が義務化されている施設で新しい人材が子どもに関わる職種に就く場合、以下の手順に沿って対象人物の性犯罪歴の有無が照会される。
- こども家庭庁に対して事業者が照会を申請する
- 照会の対象となった人は戸籍に関する情報を同庁に提出する
- こども家庭庁が法務大臣を通して性犯罪歴の有無を照会する。
- 性犯罪歴の有無に関して記載された「犯罪事実確認書」が事業者に交付される。
ただし、対象人物に性犯罪歴がある場合とない場合で、「犯罪事実確認書」の交付に関する対応が異なる。
万が一、対象人物に性犯罪歴がある場合、事前に本人に対して通知される。その際、訂正請求をすることも可能で、その場合は2週間以内に行う必要がある。また、本人が当該事業所での就労を辞退することもできる。その際、事業者が行った申請は却下という扱いになり、「犯罪事実確認書」の交付は行われない。
一方、対象人物に性犯罪歴がないケースは、「犯罪事実確認書」が直接事業者に交付される。
また、すでに子どもに関わる仕事に従事している人も、対象施設で勤務している場合は性犯罪歴を照会することになる。申請から「犯罪事実確認書」交付までの流れは同じだが、仮に性犯罪歴がある人物だった場合は子どもと関わることのない仕事あるいは職場への配置転換が求められる。
対象となる犯罪歴
日本版DBSを活用して照会できる犯罪は、強制わいせつ罪などの刑法犯罪に加え、痴漢や盗撮といった自治体の条例違反も含まれる。
また、刑の重さによって確認できる期間は、以下の表のように異なる。
| 性犯罪の種類 | 対象期間 |
|---|---|
| 拘禁刑(刑務所に収容される刑罰)で実刑の場合 | 刑の執行終了から20年間 |
| 執行猶予の場合 | 裁判の確定日から10年間 |
| 罰金刑の場合 | 刑の執行終了から10年間 |
なお、犯罪が行われたことが明らかでも、不起訴処分となっていたり、示談が成立している場合などは照会の対象外となり、性犯罪歴のデータベースには載らないことになっている。
事業主の対応
採用を予定している人物について照会を申請し、過去に性犯罪の加害者であったことを確認した場合、採用は見送られることになる。また、すでに働いている人に性犯罪歴があった場合は、子どもに関わることのない仕事や職場に配置転換を行うなどの対応が求められる。場合によっては、解雇することも可能となる。
また、子どもや保護者からの相談を受け、従事している人物に「性加害の恐れがある」と判断した場合、配置転換を行ったり、解雇などの措置をとることも求められる。
日本版DBSに期待される効果
子どもへの性犯罪が増加している中、日本版DBSは性被害から子どもを遠ざける仕組みとして期待を集めている。過去に性加害を行った人物が子どもに関わる仕事に就くことが制限されることで、子どもが被害者となる性犯罪が起きにくくなることに加えて、対象の施設に保護者が安心して子どもを通わせることができるほか、性犯罪歴がないことを事業主が確認することで安心して働ける職場づくりにもつながる。
日本版DBSの問題点

日本版DBSが稼働することで子どもに対する性加害がなくなることが期待されるが、現時点で公表されている仕組みには問題点も指摘されている。
初犯を防ぐシステムではない
日本版DBSが稼働すると、過去に性犯罪を犯した人物は子どもと関わる職場では働きにくくなるため、再犯を未然に防ぐことはできる仕組みになっている。しかし、犯罪歴がない人物が、性犯罪を犯さないという保証はない。つまり日本版DBSが稼働しても、初犯は防ぐことはできないという指摘がある。
義務化されていない施設が抜け道になる
子どもと接する施設には、従事する人物の犯罪歴照会が義務付けされている施設と任意となっている施設がある。つまり、認定を受けず、照会が義務化されていない施設では、対象人物に性犯罪歴があるかどうか確認することができない。そのため、対象外の施設では過去に性犯罪を犯した人物が従事する可能性もある。
示談や不起訴は対象外となっている
性犯罪歴の有無を確認できるのは刑が確定した犯罪で、不起訴となったケースや相手と示談となったケースは報告書には載らないことになっている。そのため前科はないが、過去に性加害をした人物が子どもと関わる仕事に就いている可能性もある。
データ管理の難易度が高い
対象となる施設で働く人は、学校関係約230万人、学習塾約40万人、認可外保育施設約10万人、放課後児童クラブ約20万人と言われている。つまり、性犯罪歴の有無を確認する対象となるのは、約300万人と推測されている。
このデータベースをどのように構築していくのか、どう管理していくのかの詳細が公表されていない。外部業者に委託されたケースでは、犯罪歴を取り扱うだけに情報管理の難易度も高いとされる。
性犯罪歴が確認できるまでに時間がかかる
対象人物の性犯罪歴について、申請してから確認書の交付までの時間がかかる可能性がある。例えば、事故や病気の教員の代役が必要になった場合、確認までに時間がかかるとすぐに代役教員に働いてもらうことができないといった事態になる。
放課後児童クラブでも同様で、スタッフに欠員が出た場合、新しいスタッフが働き始めるまでに適切な人数によるサービスが提供できなくなる可能性もある。
職種の対象はどこまでになるのか
学校の場合、教員のほか事務員や用務員なども働いている。そのため、「子どもと関わる職種」がどこで線引きされるのかも難しい。
保護者にしてみると、学校の用務員や事務員は子どもとの接点はあると考えられるが、対象の範囲を広げるとプライバシーや職業選択の自由への侵害を受ける人物が増える可能性もある。
人権が侵害される恐れがある
加害者の人権を守ることは、再犯を防ぐためにも必要とされる。しかし、事業者が職場に従事する人材の犯罪歴を把握することで、不当な差別につながる懸念がある。
知り得た犯罪に関する情報は厳格に管理するよう事業者に求められ、情報漏洩があった場合は罰則が科せられるが、事業者が情報を正しく取り扱うという保証がないのも注意すべき点だ。また情報漏洩がなくても、現職者が配属転換された場合は保護者の間で不必要な憶測が広がる危険もあり、対象人物の人権が侵害される恐れもある。
まとめ
性被害に遭った子どもは精神的かつ身体的に大きなダメージを受け、その傷は一生涯消えることはないとされる。こうした中、子どもが性被害に遭うリスクが低くなるシステムができたことは、子どもたちや保護者、また子どもと関わりのある事業者や社会全体にとってもよろこばしいことだ。
こども家庭庁は、日本版DBSの施行後3年をめどに制度内容の見直しを行うとしており、制度が実施されてからも常に最善の形になるように手を加えていくようだ。時間はかかるかもしれないが、子どもたちが性被害に遭わないようなシステムになるよう期待したい。
ただし、初犯を防げる仕組みになっていなかったり、示談が成立している場合は照会の対象にならない、義務化されていない施設では過去に性加害を犯した人物が働けるなど、問題点も数多く指摘されている。2026年度の制度スタートまでにガイドラインが策定される方針で、こうした問題点がクリアになっているか、子どもを持つ保護者は特に情報を確認しておきたい。
もちろん制度に頼るのではなく、安全に関する指導や教育を子どもや保護者、事業者に徹底しておくべきなのは変わらない。「知らない人について行かない」「SNSで気軽にやり取りをしない」といったことを伝えるほか、保護者として子どもを守るために最善な方法はなにか常に考えるようこれからも努めることも重要だ。
参考記事
こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議|子ども家庭庁
”子どもを守る”「日本版DBS」法案決定|NHK政治マガジン
「日本版DBS」法がついに成立!さらに乗り越えるべき3つの課題|Florence
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