less is moreとは?基本的な考え方や注目される背景、デザインの例などを解説

less is moreとは

less is moreは、「少ない方がより豊かである」ことを意味する。20世紀に活躍したドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエから広がった言葉で、主に建築の場で使われていたものだ。現在ではプロダクトやグラフィックなどの各デザイン分野や、物を極力減らすミニマルなライフスタイルにおける美学を表す言葉としても知られている。

20世紀前半、このとき主流だったのは華美な装飾を施したヨーロピアンデザインだった。しかしローエは、それとは正反対のシンプルで機能美を重要視したデザインを発表。モダニズム建築における巨匠となり、装飾を極限まで省いたデザインはその後の建築業界に大きな影響を与えた。

less is moreという言葉は、「シンプルなデザインを極めていくことで、より美しく豊かな空間が生まれる」という、ローエの信念を表すものだ。その信念は、彼が遺したもう一つの言葉、“God is in the details”(神は細部に宿る)からも感じとることができるだろう。

ミニマルとの違い

less is moreは、先述のとおりミニマルなライフスタイルを表す言葉としても使用される。ミニマルには「最小限の」という意味があり、日本でも近年できるだけ物を減らして少ない持ち物で暮らすミニマリストがブームとなった。

しかしless is moreは本来、減らすことを重要視したのではなく、一つのものに対して「極限までシンプルにすることで、最大の美しさを得ること」を目的としているため、その点で「単純に物がない生活」を目的とするミニマルの考え方とは異なっている。

less is moreが生まれた背景

less is moreが生まれた背景

less is moreが「単に何もなければいい」という考えではないことは、ローエが活躍した時代の背景を知ることで理解しやすくなる。

20世紀初頭の建築は、古代ギリシア・ローマ建築に起源をもち、ルネサンス建築で復興された豪華絢爛な美しさの流れを汲んでいた。一方で、華美な装飾には実用性や機能性はない。そのような建築を「歴史主義建築である」といって否定し、脱却するために機能的かつ合理的なものを造形しようとする動きの中で、モダニズム建築が成立した。

そんな時代に活躍したローエは、石工職人であった父の影響で幼いころから建築に興味を持っていたという。その後、モダニズム建築の先駆者であるペーター・ベーレンスの事務所に在籍しながら建築を学び、すでに素材と構造を理解していたローエは、装飾ではなく構造そのものが持つ美しさに注目するようになったのである。

less is moreが注目される理由

20世紀初めに建築分野からはじまった、less is moreという考え方。時代や分野が異なるにも関わらず、なぜ今様々な場面で注目されるようになったのだろうか。そこには、地球環境を取り巻く大きな問題が関係している。

産業革命以降、生産量の大幅な増加や輸送技術の向上によって多くのモノが作られ、売られはじめた。そして世界は、大量生産・大量消費の時代に突入する。

さらに時代が進み、現代では使い捨て製品が当たり前になったり、壊れても直さずに買い替えるという人も多い。中には、作られてから一度も使われずに捨てられるものもある。また、丁寧なラッピングや梱包は、おもてなしの精神から生まれたものではあるが、過剰となっているものも多い。その結果、大量生産・大量消費に加え、「大量廃棄」という問題が浮上したのだ。

これらの問題が地球環境や人、動物の健康に与える悪影響ははかり知れず、国連はSDDsの目標の12個目に「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」ことを組み込んだ。これは、少ない資源で最大の豊かさを得ることを目標としており、less is moreの考え方を改めて理解するきっかけにもなっている。こうした潮流の中で、エシカル消費を取り入れる人々も層化しているが、この消費スタイルの中でもless is moreの考えは根幹をなしている。

less is moreが生かされているデザイン

less is moreが生かされているデザイン

less is moreの考えが反映されたデザインは、身近なところで目にすることができる。先述のように、世界は今、できるだけ無駄を省いたライフスタイルを目指す傾向にあるため、このニーズにあった製品が様々な企業から生み出されている。

海外

海外ではless is moreとエコロジーが掛け合わされたデザインが主流となって久しい。特に、誰にでも身近なデジタルデバイスの分野では、Appleがまさしくless is moreを体現しているといえるだろう。無機質な素材に、アップルのマークが一つ。今では見慣れたそのデザインは、発売当時から世界に大きな衝撃を与え、瞬く間に世界中へ広がった。

また、日本でも大人気の家具ブランドIKEAも、装飾を最小限までそぎ落としたシンプルなデザインの代表格である。

さらにその傾向は、商品以外にも多くみられている。例えばマクドナルドやナイキなどのロゴは非常に単純な構造であるし、X(旧Twitter)やFacebook、InstagramなどのSNSも無駄の手順のないシンプルな仕組みで作られている。

日本

日本には古来、質素なものの中に奥深さや豊かさなどの趣を感じる「侘び寂び」という概念が根付いており、そもそも日本人はless is moreの考え方とは相性がいい民族ともいえそうだ。一説によると、ローエがless is moreの概念を思いついた背景には、日本庭園が関わっているともいわれている。特に枯山水は、less is moreが体現されたものといってもいいだろう。

またファッションや生活用品・インテリアの面ではユニクロ、無印良品など、シンプルで良質な商品を生み出す企業は大きな評価を得ており、世界中に多くのファンがいるとされる。

文房具、食器、寝具、化粧品や生活用品のパッケージなど、日本の製品はこれまで様々な装飾やイラストがついているものが多かった。しかし昨今は海外製品にみられるような、色や素材の数を抑えた癖のないもの、ワンポイントだけのデザインが増えてきている。

less is moreが難しい理由

less is moreの考え方は各分野で称賛される一方、シンプルであるがゆえにless is moreの概念を正確に表現することは難しいともされる。なぜなら簡素なものは、ともすれば「味気のない、つまらないもの」になり兼ねないからだ。less is moreは、ただシンプルであればいいわけではない。そこに豊かさや美しさが見出せなければ、本来意味するものとは異なってしまうのだ。

単純に装飾を取っただけのものや、色味をなくしたデザインでは、何となく物足りない印象を与え、商品としての魅力はなくなってしまう。

また、先述のようにミニマリストがブームになっているが、極限までモノを減らした結果、生活が不便になったのであれば、豊かさとは無縁になってしまう。

less is moreを実現するには、必ずそこに美しさや豊かさが見出せるか、丁寧に向き合いながら、選び取るセンスを身につけなければならないのだ。

まとめ

少ないことは、豊かなことであるというless is moreの考え方。そこには、近代の物質的な豊かさを求める暮らしに対する、ある種のアンチテーゼのような信念も見受けられる。

人の手によって森が切り拓かれ、都市が発展していくと、権力者はその威厳を示すために華美なものを好むようになった。そのようにして経済的にも物質的にも豊かさを手に入れた一方、人間は精神的な豊かさを手放していったようにも思えてならない。

現代はそういった風潮を見直す段階に入っていることに、昨今多くの人が気づきはじめている。less is moreは、本当の美しさを見抜く力を身につけさせ、「豊かさとは何か」という問いを、私たちに投げかけているのかもしれない。

【参考サイト】
モダニズム建築|Wikipedia
Mies van der Rohe, the Modernist Maestro of Less is More|ELLE DECOR
12.つくる責任、つかう責任 | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)

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