パリ協定とは?2050年までにカーボンニュートラルを目指すための目標や内容、実際の取り組みなどを詳しく紹介

パリ協定とは

パリ協定とは、気候変動問題に関する全世界共通目標を示した枠組みのことである。2015年、フランス・パリにおいて開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択、2016年に発効された。パリ協定では温室効果ガスの排出削減において、国連気候変動枠組条約(以下、UNFCCC)に加盟しているすべての国に対して取り組み義務を課している。

また、パリ協定と同じ2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の13番目の目標である「気候変動に具体的な対策を」はパリ協定と密接に関わっている。目標13は、このパリ協定を基盤として具体的な対策をとることを求めている。

京都議定書との違い

パリ協定と混同されるものとして「京都議定書」がある。これは1997年のCOP3において採択された条約で、気候変動対策への取り組みを先進国のみに課していた。しかし、加盟各国の同意を得られず目標達成に至らなかったことに加えて、その後途上国の経済発展によって先進国以外の温室効果ガスの排出量が高まったため、代替する枠組みが求められていた。そこで、京都議定書を継承するものとしてパリ協定が採択・発効されるに至ったのだ。

パリ協定採択の背景

1992年に初めてUNFCCCが採択され、国際社会は深刻化する気候変動問題への対策に取り組んできた。UNFCCCは現在の温暖化対策の基盤となっているもので、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」を究極の目的として掲げている。ただし、これは法的拘束力を持つものではなかった。

1997年に法的拘束力を持つ「京都議定書」が発効されたが、先進国のみを対象としたため、その内容に対して不公平性を訴える声が挙がった。その結果、最大排出国であるアメリカの不合意をはじめ、カナダの脱退、日本、ロシア、ニュージーランドの不参加など様々な問題を抱えてしまったのである。

その後のCOP(気候変動会議)において、何度も国際的な気候危機対策の枠組みをつくるための議論されてきたがなかなか各国の同意を得ることができないでいた。しかし、京都議定書の採択から18年後にあたる2015年、ついに歴史上はじめて公平な気候危機対策の枠組みとされる「パリ協定」が採択されるに至った。

パリ協定の内容

パリ協定の内容

様々な議論を重ね、ようやく採択されたパリ協定。先進国だけではなく、すべての締約国に課される国際条約の内容を具体的に見ていこう。

2度目標と1.5度目標

まず、パリ協定の長期的な目標は「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度以内に抑える努力をする」というものである。そのための目標として「できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と吸収量のバランスをとること」を掲げている。

5年ごとに削減目標を提出・更新する

パリ協定のすべての参加国は、温室効果ガスの排出削減に関する目標を作成し、実施状況を国連に提出する義務が課せられている。これはトップダウン型であった京都議定書に対し、各国が自主的に取り組むために採られたボトムアップ型の方策である。また、法的拘束力はあるが罰則はないため、定期的な目標更新を義務付けることで、各国が対策を怠ることのないよう留意している。

この目標達成度は第三者によって評価され、削減目標は5年ごとに提出・更新することが義務付けられている。

市場メカニズムの活用

パリ協定には、各国が提出した目標達成のために市場メカニズムを活用することが規定されている。例えば、日本が提案した「二国間クレジット制度」がその一つ。これは、パートナー国へ脱炭素技術や製品、システム、サービス等を提供したり、インフラを普及させることで、相手国の温室効果ガス排出削減に貢献するというものである。つまり、自国と相手国との間で温室効果ガス排出量を相殺し、二国間で成果を分け合うという仕組みである。

CO2吸収源の保全

パリ協定が目標として掲げる2度目標と1.5度目標に係るものとして、温室効果ガスの吸収源である森林や海洋などの保全が規定され、それらの対策がすでに適当である場合は、さらに強化する行動をとるよう定められている。また途上国において森林が減少もしくは劣化し、その対策に取り組んでいる場合、その国に対して支援を行うこと(REDD+:レッドプラス)が推奨されている。

イノベーション革新

化石燃料に依存したエネルギー問題、大量生産・大量廃棄問題、都市開発に伴う森林破壊など、温室効果ガスの排出には様々な問題が複雑に絡みあっている。これら一つひとつに対策していくために、従来の方法や考え方に変わる新しい技術の開発が非常に重要となる。パリ協定においてもイノベーションの重要性を訴求しており、技術メカニズムの業務のための指針を与える技術枠組を設置。また必要に応じて、気候変動に関する教育や啓発、情報の公開のための措置をとることにおいて、締約国の中で協力することを規定している。

途上国への支援

先進国からのみ途上国の気候変動対策に係る資金支援を規定していた京都議定書と異なり、パリ協定では、先進国のみならず、新興国など支払い能力のある途上国に対しても、他の途上国へ資金提供を自主的に行うことを奨励している。しかしこれに対しては、途上国は経済発展の段階にあり、温室効果ガスの排出削減を第一に掲げてしまうと、技術や経済の発展が止まりかねないという批判もある。このように、自国の経済発展を鈍化させるという理由から、パリ協定の内容に関して懐疑的な見方も一定数ある。

パリ協定の課題点

パリ協定の一番の懸念点は、「1.5度目標」のハードルの高さだ。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、2011~2020年の世界の平均気温は、1850~1900年に比べて1.09度(0.95〜1.20度)上昇している。また今後、温室効果ガス排出量を最も少なく見積もっても、2021〜2040年のあいだに1.5度(1.2〜1.7度)に達すると推定されているのだ。

パリ協定は2015年に採択されたものの、詳しい取り決めについてはその後の交渉次第であることから、各国の状況や能力等を鑑みながら慎重に議論を重ねていくことが重要視されている。しかしこの結果を見ると、目標である「1.5度」を早々に超えてしまうと予想される。そのため各国が実効力のある取り組みを実施し、早期に革新的な技術を開発することが望まれるが、国によっては不利益を被ったり、事業者に対して経済的に大きな負担がかかる場合も考えられる。

世界各国の目標と取り組み事例

パリ協定に沿った各国の取組

地球温暖化の進行が止まらず、気候変動による大災害が年々増加傾向にあるなか、各国はカーボンニュートラルを目指してそれぞれ目標を定め、取り組みを進めている。日本を含む3か国の目標および取り組みを見ていく。

アメリカ

アメリカは、自国の大きな負担になることを理由に2020年にパリ協定を脱退し、国際社会から賛否両論を受けた。しかし2021年には正式に復帰し、その後は気候変動サミットを主催するなど、温暖化対策に積極的な取り組みを見せている。2022年にはクリーンエネルギーへの投資やクリーンエネルギー分野での雇用創出、森林など天然資源の保護を盛り込んだアメリカ史上最大の気候変動対策法が成立し、2030年までに温室効果ガス排出量を10億トン削減することを目指している。

イギリス

イギリスは2030年までに68%、2035年には78%の温室効果ガス削減(1990年比)を目標としている。その目標値と同水準で削減を続けており、気候変動の分野において世界をリードする国となっている。グリーン産業革命を起こすための10項目の計画を発表し、洋上風力発電の推進、2030年までにガソリン車・ディーゼル車の新車販売を禁止、グリーン公共交通機関やウォーキング、サイクリングを推進するための整備などの政策をとっている。

日本

日本は2030年度までに26%の温室効果ガス削減(2013年度比)、2050年までに80%削減を目標としており、イギリスと同じく順調に削減を続けている。エネルギーの分野では、太陽光や風力など再生可能エネルギー資源の活用、建築物、輸送などにおける省エネ技術の開発などが進められている。また自国だけでなく、製造業関連の企業が海外へ進出し、先進的な技術を途上国に提供するなど、二国間クレジット制度を提案した日本独自の国際規模での取り組みを行っている。

まとめ

パリ協定が採択されたことで地球温暖化に対する具体的な方法が示され、国際社会の意識は大きく変化することとなった。「気候変動対策」と聞くと、国や企業の政策、計画など一見大きな社会活動のように思われるが、実は私たちの行動にかかっている面もある。いくら国や企業が大きな目標を掲げたからと言って、国民一人ひとりが意識を向け、行動を変化させなければ、状況がこれまでと変わることはないからである。まずは日常における自らの行動がどのように地球環境に影響しているのか、振り返ってみることから始めてみてはいかがだろうか。

参考サイト】
地球温暖化に係る新たな国際的枠組み
パリ協定の発効と今後の温暖化対策|国際法学会
COP21の成果と今後|環境省
IPCC第6次評価報告書
グリーン産業革命のための10項目の計画|研究開発戦略センター
気候変動交渉と日本の取組

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