食品廃棄の街NY市で、生ごみのリサイクルが義務化へ。悪臭とねずみの対策にも注目が集まる

ニューヨーク市で生ごみの分別が義務化へ

ニューヨーク市では、2024年10月までに市内全域でコンポストを義務化する法案が可決された。この法案では、悪臭やねずみ対策のために生ごみの出し方・出す時間が定められている。また市内に設置されている無料のごみ捨て場もネット上で確認でき、利便性の高いシステムとなっている。

コンポストとは、生ごみや落ち葉などの有機物を土にうめ、微生物に分解させて作られた堆肥のこと。また、コンポストの際に排出されたメタンガスは電力燃料として活用できる。

現在、欧米国で生ごみのコンポストが促進されているが、その背景にあるのがメタンガスだ。日本では燃えるごみとして認識されている生ごみだが、他国では埋め立て処理をされることが多い。この際にメタンガスが排出されるが、メタンガスの地球温暖化への影響は、二酸化炭素の25倍以上に及ぶ。

2021年に開かれた国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では「グローバル・メタン・プレッジ」が提案され、2030年までにメタンガスの排出量を30%減らす目標がたてられ、111の国と地域がこれに合意している。

ニューヨーク市の食品廃棄率は40%

ニューヨーク市の食品廃棄率は40%

ニューヨーク市では、これまで食品廃棄率の高さが問題視されてきた。そのうえ、同州の温室効果ガスのうち、約20%は食品廃棄物から出た二酸化炭素が占めている。

生ごみによる温暖化への影響をふまえ、2023年6月にニューヨーク市全域でコンポストの義務化が決定された。クイーンズでに続き、2023年10月にはブルックリン、2024年3月にはブロンクスとスタテンアイランドで開始。そして同年10月にはマンハッタンで義務化がはじまる。

ニューヨーク市衛生管理局が2017年に発表した内容によると、家庭ごみのうちコンポスト可能な生ごみや植物ごみは34%にのぼるとのことだ。

リサイクルされた生ごみの用途

ニューヨーク市で集められた生ごみは、堆肥かメタンガスに生まれ変わり、地域の施設や住民に還元される。

現在、リサイクルされた堆肥のうち60%は造園業者に販売。残りの40%は住民や公園、コミュニティーグループなどに寄付されている。メタンガスは前述の通り温暖化につながることで知られているが、バイオエネルギーとして活用できるため、ニューヨーク市では電力もしくは天然ガスとして、下水処理施設や一部地域に供給されている。

ニューヨーク市での生ごみリサイクルの方法

NYCの生ごみリサイクルの方法

ニューヨーク市でコンポスト用に集められるのは、食品ごみと植物(落ち葉や枝、ガーデニングで出た雑草など)だ。使用するごみ箱・捨て方・時間帯にルールが設けられており、違反した場合は罰金が科せられる。

①食品ごみの捨て方
・ラベル付きのごみ箱を使用する
・ごみ箱は蓋付き・55ガロン以下
・もしくは衛生局指定の茶色いごみ箱を使用する
・ごみ箱には必ず袋を入れて清潔を保つ

②落ち葉や枝の捨て方
・草木用の紙袋もしくは透明の袋にいれる
・ラベル付きのごみ箱か指定の茶色いごみ箱にいれる
・枝などはひもで束ねて、指定日までに家の前に出しておく
・生ごみと一緒に捨てる場合は、必ずごみ箱にいれ蓋を密閉する

リサイクル用生ごみは、週に1回ほかのリサイクルごみと同じ日に回収される。住民はその前日の夕方6時以降、袋のみで出す場合は夜8時以降に道路わきに出しておかなくてはいけない。

しかし住民が最初からルールをすべて認識するのは難しい。そのため罰金には警告期間がもうけられており、落ち葉や枝などの庭ごみは各地域義務化開始から3ヵ月目以降に、生ごみは市内全域で2025年春以降に罰金徴収がはじまる。

リサイクルボックスはデジタル化で便利に

リサイクルボックスはデジタル化で便利に

ニューヨーク市内では、指定の時間に道路わきに生ごみを出すだけではなく、回収スポットに持っていく方法もある。まだ義務化が実施されていない地区の住民も、下記のサービスを無料で利用できる。

Smart Composting Bin

このボックスは毎日24時間稼働しており、住民はコンポスト可能なごみを無料で捨てられる。5区全域に設置されているため、義務化がはじまっていないマンハッタンの住民も任意で利用できる。ボックスの側面には回収可能な品目が写真とともに紹介されているため、分かりやすい。

ボックスにはごみの量を自動ではかるシステムがついているため、満タンになればごみを入れられなくなる。ボックスの場所・空き状況の確認・解錠はいずれも専用の無料アプリで行える。

Food Scrap Drop-Off Sites

こちらも5区全域に設置されており、その数は200を超えるという。空いている時間はスポットごとに異なるが、ニューヨーク市衛生局のホームページから確認できる。また、スタッフがいるため、分別について分からないことがあれば教えてもらえる。先に説明したSmart Comosting Binと異なり、肉・乳製品・骨類は捨てられない点は要注意だ。

生ごみリサイクルの懸念点

生ごみリサイクルの懸念点

悪臭問題

生ごみといえば心配なのが悪臭問題だ。その予防策として、蓋つきのごみ箱の利用を義務づけてはいるが、開けたときの臭いまではなかなか防げない。

そのため対策のためには、市民の努力や工夫が求められる。例えば、1週間後の回収日が待てない場合は、前述のSmart Composting BinやFood Scrap Drop-Off Sitesを活用するのも良いだろう。市民のなかには、比較的臭いの漏れにくいステンレス製の容器にごみをため、上記の回収スポットに持っていく人もいる。家庭内で生ごみを処理する場合は、しっかりと水分を切ってから処分する、生ごみを回収日まで冷凍しておくなどの工夫も可能だ。

ねずみ問題

ニューヨーク市内では、頻繁にねずみが目撃され、衛生面や感染症の可能性が心配されてきた。その一因となっているのが市内にあふれる食品廃棄物が多さだ。その様子は、「ねずみのビュッフェ」とさえ呼ばれている。

今回のコンポスト義務化において、蓋つきごみ箱の利用やごみ出しをする時間の制限を課したのはねずみや害虫の対策もかねてだろう。さらに市は2023年の4月、げっし類対策専門のポストを用意し、高給で人材を雇用した。今回の義務化に定められているルールに加え、ニューヨーク市全体でねずみ問題に対してどのような対策が練られていくかに注目だ。

処理施設の問題

生ごみを処理する際、近隣に悪臭がただよったり、衛生面が悪化しないよう工夫をする必要がある。また、義務化となれば、処理のための十分なスペースも確保しなければならない。

ニューヨーク市の生ごみは、かつてスタテン島のウィンドローと呼ばれる土が山のように積まれた場所に埋められていた。現在の新たな施設では温度と湿度が管理されているとともに、堆肥に分解されるまでの期間も以前の半分になった。また、年間の生ごみ処理量は300万ポンドから6,240万ポンドに向上したという。

日本における生ごみ問題

日本における生ごみ問題

日本では、生ごみは燃えるごみとして捨てられており、リサイクルできるという認識は低い。

そのうえ生ごみは水分保有量が高く焼却効率が悪い。焼却炉内の温度を一定にするために、化石燃料を追加したり、石油を原料とする廃プラスチックと一緒に燃やしたりしている。これでは、化石燃料の枯渇や余分な二酸化炭素の排出につながってしまう。

天ぷら油や廃棄用油をリサイクルしてバスの燃料にする取り組みは、各地・各社で行われているが、生ごみそのものをリサイクルする取り組みはあまりみられない。また、コンポストという言葉も徐々に知られつつあるが、まだ広く普及しているとは言えない状況だ。

もし個人で対策をとるなら、水分をしぼってから捨てる・無駄な食材は買わない・家庭用コンポストを購入する、などが挙げられる。

しかし地球温暖化への影響を考えると、個人の取り組みだけでは一歩足りない。国・自治体が体制を整え、住民をリードしていく必要があるだろう。

【参考記事】
IPCC第4次評価報告書について|環境省
The Global Methane Pledge|International Enery Ageny
Food waste and the complexity of New York City’s garbage|Science X
2017 NYC Residential, School, and NYCHA Waste Characterization Study|New York Ciy Department of Sanitation
From Trash to Treasure: Ahead of Citywide Curbside Composting, Adams Administration Expands Staten Island Compost Facility|City of New York
Curbside Composting|City of New York

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