ヤングケアラーとは?日本における現状や原因、支援体制の事例などを解説

ヤングケアラーとは

ヤングケアラーとは、本来は大人が行う家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものこと。一般社団法人「日本ケアラー連盟」ではヤングケアラーを以下のように定義している。

「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子どものこと」

また、具体的な家事内容としては、次のようなことを挙げている。

家事:料理、掃除、洗濯など
●家庭の管理:買い物、お金の管理など
イレギュラーな雑務:請求書の支払い、病院への付き合いや通訳など
看護的な世話:服薬管理、たんの吸引など
感情面の支援:精神状態の見守り、うつ時の励ましなど
身体介助:入浴やトイレの介助、清拭など
●子どもの世話:幼いきょうだいの世話、送迎

これらを長時間または継続的に行い、さらに他者からの支援がない場合、子どもの心身の健康や発達に悪影響を及ぼすことが懸念される。そのため、昨今ヤングケアラーが社会的に問題視されるようになってきている。

ケアする者が18歳~30歳代までの場合、「若者ケアラー」と呼ばれる。ケアの内容はほぼ同じだが、ケアに対する責任がより重くなるケースもあると考えられる。

日本のヤングケアラーの現状

日本国内のヤングケアラーの現状について、2020年度(対象:中学2年生と高校2年生)と2021年度(対象:小学6年生と大学3年生)に厚生労働省が調査を行っている。「世話をしている家族がいる」という回答の割合は、小学6年生で6.5%、中学2年生で5.7%、高校2年生で4.1%、大学3年生で6.2%となった。中学2年生の5.7%は約17人に1人という計算になり、34人のクラスに2人のヤングケアラーがいるということになる。

また、世話の対象となる家族の内訳は、「父母」が中学2年生で23.5%、高校2年生で29.6%、「祖父母」が中学2年生で14.7%、高校2年生で22.5%、「きょうだい」が中学2年生で61.8%、高校2年生で44.3%となっており、約半数が「きょうだい」の面倒を見ているという結果だ。

その「きょうだい」について「世話の頻度」を見ると、「ほぼ毎日」が中学2年生で57.4%、高校2年生で59.6%、「週に1〜2日」が中学2年生で12.7%、高校2年生で11.0%。「世話に費やす時間」は、「3時間未満」が中学2年生で43.1%、高校2年生で34.6%、「3〜7時間」が中学2年生で30.5%、高校2年生で33.8%。「7時間以上」は中学2年生で11.7%、高校2年生で16.2%おり、1割以上が長い時間世話にあたることが多いということがわかる。

上記の調査結果が示すように、ヤングケアラーの問題はごく一部の家庭の個別の問題ではなく、社会全体に蔓延している課題として捉えるべきだと言えそうだ。

ヤングケアラーが受ける影響

ヤングケアラーが受ける影響

通常、子どもも様々な悩みを抱え、何らかの問題に直面しながら育つものだが、ヤングケアラーが直面している問題は一般的な家庭で育つ子どもが抱える悩みや困難とは多少異なる。ヤングケアラーにはどのような影響が及ぶのか、代表的な5つについて紹介する。

生活への影響

多くのヤングケアラーは、自分のために使える時間が制限されている。そのため、勉強する時間や友人と遊ぶ時間のほか、習い事をする時間、部活動をする時間、さらに十分な睡眠ができないことなどが問題となる。

こうした生活環境の悪化によって、宿題や忘れ物が多くなるほか、保護者の承認が必要な書類などの提出物が提出できない、アルバイトができない、十分な食事ができない、テレビを見ることができない、など子どもらしい生活ができなくなってしまう。

学業への影響

ヤングケアラーは、家事や家族の世話などをするため、家庭での勉強の時間が限られてしまう。また、通学できない日があったり、睡眠不足によって学校に来ても授業に集中できない、授業中に居眠りをしてしまう、遅刻が多くなってしまう、保健室で過ごす時間が長くなる、ということもある。その結果、授業についていけず、勉強がおろそかになったり、成績不振に陥ってしまうといったように学業に悪影響が及んでしまう。

友人関係への影響

友人と交流する時間が限られているのもヤングケアラーの特徴だ。友人との接触は学校にいる時間だけに制限されてしまい、周囲の友達とのコミュニケーションが不足することも考えられる。そのためクラスに馴染めず、次第にクラスの中で孤立感を強めてしまい、「付き合いが悪い」などとクラスで浮いた存在になってしまう懸念もある。

心と体の健康への影響

ヤングケアラーの負担は、肉体的な疲労に加えて精神的なストレスにもつながる。友人とは異なる生活環境などへの不満が蓄積し、他人に相談ができないなど孤立感を高めることで、うつ病などの心の病につながることが心配される。

また成績不振が将来への不安をさらに増幅させてしまい、あきらめや投げやり、モチベーションの低下につながる可能性もある。

将来への影響

ヤングケアラーは、学業がおろそかになる傾向があるため、進学先の高校や大学の選択肢が限られてしまう。また義務教育を卒業する際に、就職を選択するといったケースもある。このような状況では、大人になりヤングケアラーではなくなった後も、思ったような収入を得られない可能性があるなど、長期的に生活へ影響を及ぼすことになる。

ヤングケアラーの原因

子どもがヤングケアラーになってしまう原因は、家事やケアを担える大人が家庭内に少ないことが挙げられる。また、ヤングケアラーに対する社会的な認知度が低いのも原因の一つとされる。

家族構成

ヤングケアラーが生まれる背景には、現代の家族のあり方が原因の一つとしてあげられる。都市部を中心に核家族化が進んでいるほか、ひとり親家庭の増加や離婚率の上昇、未婚シングルマザーの増加などによって家事やケアを担える大人が家庭内に少ないケースが増えている。

高齢化が進んだことも要因の一つで、家庭内において高齢者や障がい者の世話が必要なことも多くなっている。ひとり親家庭など経済的な余裕がないケースでは、施設への入居や入院などが敬遠されやすく、子どもの負担が高くなってしまう。

社会的認知度

社会全体の認知度の低さも、ヤングケアラーを生み出す要因となっている。家庭内のことなので教師や友人などに話しにくかったり、仮に話したとしても、相談された側にその状況が「ヤングケアラー」であるという認識が乏しいことが考えられる。こうした場合、個人的な問題として捉えてしまいサポートが遅れることにつながる。

また、親も子どももヤングケアラーの当事者という自覚がなく、行政からの支援が受けられることを把握していないケースも多い。中には支援を受けることに対する嫌悪感があり、調査などに虚偽の報告をすることもある。

ヤングケアラーに対する世界での取り組み

ヤングケアラー対策が進むイギリス

ヤングケアラーとは、もともと1990年代前半からイギリス国内で使われ始めた言葉とされる。イギリスでは、1980年代後半からヤングケアラーを社会問題として認識しいち早く向き合い、現在でも支援体制が世界で最も進んでいるとされる。日本を含め、イギリスを参考にヤングケアラーの支援体制を整えるケースも多い。

2014年に「2014年家族と子どもに関わる法律」と「2014年ケア法」を制定するなど、法制定にも先行して取り組んでいる。この法律内では、ヤングケアラーに対する法的保護が定められたほか、地方自治体にはヤングケアラーの発見、評価などを行うことを盛り込んだ。

実際の現場では公的機関と民間の両輪で支援を行っているのが特徴だ。教育機関では教職員とソーシャルワーカーの連携で生徒への聞き取りを実施するなど、ヤングケアラー自身が第三者に相談しやすい環境を整えている。

一方、民間支援の代表的な仕組みは、イギリス国内に300あるとされる「ヤングケアラーズ・プロジェクト」という支援団体が主導。ゲームや遠足などの企画を通してヤングケアラーが集まれる場を設けたり、各家庭の訪問などを行っている。

ヤングケアラーに対する日本の対策

日本で、ヤングケアラーの存在が社会問題化したのはおよそ10年ほど前の2015年ごろだ。それまでは、プライバシーへの観点から教師なども生徒個人の問題として踏み込めないといった背景があり、表に出づらい問題として取り扱われていた。

法的な取り決めがない状況も続いていため、一般社団法人「ヤングケアラー協会」や日本精神保健福祉協会などの支援団体がオンラインサロンや電話相談窓口、ピアサポートなどの開設ほか、医療や学校などが連携してヤングケアラーに対する支援が行われてきた。

日本政府の動きが本格化したのは2022年度に入ってからだ。ヤングケアラーを早期に発見し、適切な支援を行うため、2022年4月1日から「ヤングケアラー支援体制強化事業」をスタートさせた。地方自治体における関係機関と民間支援団体等とのパイプ役となる「ヤングケアラー・コーディネーター」の育成・配置、福祉サービス・就労支援サービスなどの機能強化、ヤングケアラー同士が悩みを共有し合うオンラインサロンの設置・運営などに対する財政支援を行っている。

ヤングケアラーに対する日本の法整備

こうした流れを受けて2023年に「こども基本法」が施行。「子どもの権利の保障」や「子どもの意思の尊重」などを明記した。また、2024年6月5日には「子ども・若者育成支援推進法」の改正案が参議院本会議で可決・成立。ヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と初めて明記し、国や自治体が支援を行う対象として定めた。

2023年に全国1,788の自治体にヤングケアラーに関する調査を実施したところ、「ヤングケアラー関連の取り組みは特にない」とした自治体は、都道府県で2%、一般市町村で35%となっており、都道府県単位ではほとんどの自治体が支援のベースを築いていることがうかがえる。法整備が整えられたことで、各自治体の取り組みが今後拡大していくと期待されている。

各自治体の対策

国によるヤングケアラー対策に加えて、各自治体では独自の支援体制を整えている。以下、代表的な例を紹介する。

北海道

北海道では、2021年に行った実態調査をもとに2022年4月1日に「北海道ケアラー支援条例」を制定。ケアラー(ヤングケアラー含む)支援に関する施策を総合的に推進する目的で、2023年4月から3年間にわたる「北海道支援推進計画」を策定している。

事業としては、相談窓口を明記した小学生向けと中学生向けのヤングケアラーハンドブックを作成して配布。道内8箇所にヤングケアラーコーディネーターを配置して、学校などと連携して相談・支援ができる体制を整えている。

千葉県

千葉県では、相談窓口一覧を記載した児童生徒向けの啓発資料を作成したほか、ヤングケアラーを発見するために児童・生徒の様子について記載した教育機関向けの「ヤングケアラーの発見・把握に向けたチェックリスト」と「学校におけるヤングケアラーの発見・把握から、支援に向けた対応例」を作成している。

また船橋市では、ヤングケアラーの負担軽減のため、希望する家庭に無料で食料を届ける支援も行っている。

兵庫県

兵庫県では、2022年3月策定の「兵庫県ケアラー・ヤングケアラー支援推進方策」に基づき、シンポジウムやフォーラム、研修などを行っている。また、ピアサポートなどの活動に取り組む団体を支援するため、補助金事業も実施している。

「兵庫県ヤングケアラー等支援事業」として「ふるさとひょうご寄附金」を活用しているのも特徴で、ヤングケアラーと若者ケアラーを対象に無料で弁当を届ける事業も実施している。

ヤングケアラーのために私たちができること

ヤングケアラー問題に対して私たちができること

ヤングケアラーの支援には、発見・把握、共有、連携が重要とされる。ただし、ヤングケアラーは当事者である親と子どもの両方が自覚していないケースがあることや、家庭内の問題で外から見えにくいなどの事情があり、発見しにくい問題だ。

しかし、きょうだいの保育所・幼稚園の送り迎えをしていたり、子どもがスーパーで買い物をしていたりするなど、一般的な子どもの行動内容や行動範囲と比べて違和感を感じるようであれば、学校などに情報を提供することが望ましいだろう。

直接的な支援には、ボランティアへの参加、お金やモノの寄付といった方法もある。支援を受け付けている支援団体に相談するほか、自治体に対してふるさと納税を行ったり、クラウドファンディングを通して支援を行うのも一つの方法と考えられる。

まとめ

家事や家族の世話を日常的に行う必要がある子どもの数は、中学2年生のクラスに平均2人もいるという。ヤングケアラーである子どもたちは、学業や友人との交流がおろそかになってしまうため、子どもの権利条約に記されている「教育を受ける権利」「休み・遊ぶ権利」など、子どもの最低限の権利を保障されていないことになる。

だが、当事者自身も周囲の教師や大人も「ヤングケアラー」という存在を認識していないため、置かれている状況がどのような問題を引き起こすのかといった理解につながらないことが多い。そのため、まずはヤングケアラーの認知度を高めることで、必要な場所に支援が行きわたるようにしなくてはいけない。

家庭の事情にも絡むためデリケートな問題ではあるが、周辺にいる子どもに違和感を感じることがあれば、情報を共有するなど一人ひとりが積極的に行動することも、時には必要となるだろう。子どもが子どもらしく学び、遊び、健全に育つことができる社会づくりのためには、ヤングケアラー問題は解決が急がれるべき問題だ。

【参考記事】
ヤングケアラー連盟
政府広報オンライン
ヤングケアラー情報サイト|北海道
千葉県教育委員会
ヤングケアラー・若者ケアラー支援について|兵庫県

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