児童労働とは?日本や世界各国の現状や実態、解決に向けた取り組みを解説

児童労働とは

児童労働とは、法律で定められた就業最低年齢を下回る15歳未満の児童による労働のことで、英語では、Child Labour(チャイルド・レイバー)と言われる。子どもがアルバイトや家の手伝いなどをすることを意味するChild Work(チャイルド・ワーク)とは区別されるのが一般的だ。

国際労働機関(ILO)では、1919年の設立当初から産業部門別に就業最低年齢を定めた国際基準を設定。基本的には、就業最低年齢を15歳と定めた上、健康や安全、道徳を損なう恐れのある危険有害労働については原則18歳以上としている。日本でもこの国際基準に則って、就業できる最低年齢を定めている。

児童労働が問題なのは、子どもの成長にとって必要な教育の機会が損なわれるだけではなく、身体的、精神的、社会的または道徳的な悪影響を受けることが懸念される。これによって、子どもたちのあらゆる権利を奪ってしまうため、児童労働は子どもの健やかな成長にとって有害だと考えられる。

児童労働の現状

児童労働の現状

児童労働の現状を把握するために、児童労働の人数、児童労働が多い地域、児童労働に多い仕事の3つについて紹介する。

児童労働の人数

2021年6月10日に発表されたILOの報告書「児童労働:2020年の世界推計、動向、前途」では、児童労働を行っている子どもの数は世界で1億6,000万人と報告している。男女の比率は、男子が60%(約9,700万人)、女子が39%(約6,300万人)で、児童労働を行う男子は女子の1.5倍となった。年齢別では、「5歳〜11歳」が最も多く55%、「12歳〜14歳」が22%、「15歳〜17歳」が21%となっている。

ILOの報告書は4年に1度発表しており、2000年からの2016年の間は児童労働の数は減少していた。しかし2020年の報告書では、2016年よりも840万人増えている。原因の一つとして、新型コロナウイルスの影響で貧困家庭が増えたことが挙げられており、報告書の発表時点では2022年末までに児童労働はさらに900万人増えるリスクがあるとしていた。

児童労働の多い地域

児童労働には貧困、差別、慣習、武力紛争や自然災害、教育機会の欠如など様々な要因があり、発展途上国に多いという特徴がある。地域別に最も多いのがアフリカで、全体の45%を占める約7,200万人の子どもが児童労働に携わっている。特にサハラより南エリアで増加傾向が強く、2016年から2020年までの4年間で1,660万人増加しており、2030年には9,000万人に増えると推測される。ちなみに7,200万人という数字は、アフリカ全体の子どもの約20%に相当する。

次に多いのがアジア太平洋地域の6,200万人で、アフリカとアジア太平洋を合わせると世界全体の9割を占めている。特に児童労働が多いのは、ネパールやバングラデッシュなどの南アジアだ。以降は、南北アメリカの1,000万人、ヨーロッパ・中央アジアの553万人、アラブ諸国の116万人と続いている。

児童労働に多い仕事

児童労働を産業ごとに分けると、全体の70%を占めるおよそ1億1,200万人が農園などの農林水産業に従事している。特に、先進国向けのコーヒー、カカオ、バナナ、パーム油、コットン、タバコなどを栽培している大規模なプランテーションで働いているケースが多い。

続いて、飲食店や家事使用人、物売りなどのサービス業が19.7%(約3,140万人)を占め、縫製工場などの製造工場や鉱山労働などの工業系の仕事が10.3%(約1,650人)となっている。

なおILOの報告によると、約7,900万人の子どもが、「奴隷的な労働や強制労働」「人身取引」「子ども兵士」「児童売春や児童ポルノ」「麻薬の売買」といった「危険有害労働(最悪の形態の児童労働)」に従事しているとのことだ。

世界各国の児童労働の実態

世界の児童労働

特に児童労働が多いとされる西アフリカに位置するガーナ、南アジアのインド、そして日本を含めた3カ国の児童労働について実態を紹介する。

ガーナ

日本ではチョコレートの商品名にも使用されるなど、チョコレートの原料であるカカオの生産地として名をはせるガーナ。児童労働の最も多いエリアであるサハラ以南のアフリカに位置しており、同国でも児童労働が多いと報告されている。カカオ生産に関わる人の数はガーナ全体の約55%に当たる77万人で、そのうち80%が有害危険労働に従事するなど、危険な作業が常態化しているのが現状だ。

カカオの生産は家族単位の小さな農家がほとんどを占めていることに加え、カカオの取引価格が安いことも児童労働が拡大している要因とされる。隣国から移住してきた家族が子どもだけ働かせているケースもあり、このことは国際条約はもちろんガーナの国内法にも触れていると指摘されている。

インド

インドは、中国に次いで世界第2位のコットン生産量を誇る。しかし膨大な生産量を下支えしているのは、およそ40万人にものぼるコットン生産に従事する子どもたちだ。

世界第1位の人口を背景に、IT産業などが興隆し経済発展の著しいインドだが、農村地域を中心に貧困層も多い。学校に通っていない非就学児童も多く、児童労働に従事する子どもはインド全体で1,100万人から1億人という推計もある。

非就学児童は識字率が低くなる傾向があり、貧困から抜け出せないケースが続く。また、親が作った借金のために子どもが働く債務労働が横行するなど、貧困が世代間でも引き継がれてしまうことも多い。

日本の現状

日本では、国際基準に基づき、労働基準法によって15歳未満の労働、18歳未満の危険有害労働が禁止されている。16歳以上の場合、危険有害労働以外のアルバイトはできるという解釈になる。

発展途上国に多いとされる児童労働だが、日本国内でも児童労働に当たる事例が報告されている。2019年に特定非営利活動法人ACEが公表した「日本にも存在する児童労働〜その形態と事例〜」によると、2015年に労働基準監督署が子どもに関する労働基準法関係法令違反としたの事例は297件あったと報告している。

2022年6月公表の「労働基準関係法令違反に係る公表事案」では、「満18歳未満の年少者に対し、高さ約9メートルの足場上で、足場の解体作業を行わせたもの」として対象企業関係者が送検された。この事案は危険有害労働に当たると推測されている。

また児童福祉法や児童買春・児童ポルノ禁止法、風俗営業適正化法などが適用されるケースが多いのも日本の特徴だ。児童買春、児童ポルノ、JKビジネス、援助交際、近年ではパパ活などのように、子どもを性的対象とした商業的性搾取が多く見られる。

児童労働の原因

資本主義の世界においては、社会的に弱い立場の人ほど搾取されるという構造に陥りやすく、世界のどこかで誰かが豊かな暮らしをしている裏には児童労働を含む弱者の労働力があるとも言われる。このような社会的な構造は産業革命以前と変わっておらず、そのため児童労働は「古くて新しい労働問題」とされる。ここでは児童労働が行われる代表的な原因として以下の3つを解説する。

貧困

児童労働の原因として圧倒的に多いのが貧困だ。親世代の収入だけでは生きていけないという家庭事情から、子どもが働かざるを得ない状況に置かれてしまう。アフリカやアジアなどの貧困層に児童労働が多いのはこうした原因がある。

ただし、このような家庭における貧困には社会的な貧困も背景にある。紛争などで政情が安定しないなどで国自体が貧しく、保険や教育などの社会的なサービスが整っていないことで多くの貧困家庭を生み出しているという事情もある。

教育の軽視

貧困と強い関係性を持つのが教育機会の損失だ。十分な教育を受けないで育った貧困層の子どもは、大人になっても高収入を得られる仕事に就くことが難しい場合が多い。また家庭を持った後も、満足な収入を得られないため、子どもが働いて家庭を支えていく。こうした悪循環が繰り返されてしまうのだ。

このような負の連鎖の背景には、「教育を受けてもお金にならない」「学校に行ってもいい仕事にはつけない」という保護者の考え方も関連している。保護者自身が十分に教育を受けてこなかったため、教育の価値を軽視してしまう傾向があるのだ。

企業の利益主義

児童労働を生み出す要因は、子どもを雇い入れる企業の利益至上主義的な思考にも関係がある。人権侵害に対する意識やモラル遵守の意識の低さが根底にあり、子ども=安い労働力として雇用する企業が児童労働を生み出しているのだ。

ただし、企業が生産コストを削減し、利益を生み出すために安い労働力を必要とするのは、消費者が安い商品を求めることにも原因がある。

児童労働の解決に向けた取り組み

児童労働に関する世界の取り組み

児童労働の解決に向けて、国際的な取り組みや、世界各国の政府による規制などが積極的に行われている。以下、その一例を見ていこう。

国際労働機関(ILO)の取り組み

ILOでは、条約設定と技術協力プログラムの2つの観点から児童労働の禁止・撤廃に取り組んでいる。1973年に「就業が認められるための最低年齢に関する条約」(第138号)、1999年には「最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃のための即時の行動に関する条約」(第182号)を採択した。2022年6月時点の批准国は、第138号が日本を含む174カ国、第182号がILO全参加国の187カ国となっている。

また、1992年に「児童労働撤廃国際計画(IPEC)」を開始し、最終的にすべての児童労働をなくすことを目標としている。2002年には、児童労働問題の認知度向上に向けて6月12日を「児童労働反対世界デー」に設定。児童労働の撲滅を世界に訴えている。また2015年からは、国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標8「働きがいも 経済成長も」の中のターゲット8.7に則り、2025年までに児童労働を、2030年までに強制労働を根絶させることを掲げている。

世界各国の取り組み

世界各国で行われている児童労働に対する取り組みを紹介する。

アメリカ

アメリカでは1938年に公正労働基準法(FLSA)が制定され、子どもが正式に就職できる年齢を15歳以上に制限している。一方、先進国側の立場として、1930年には児童労働を含む強制労働によって作られた商品の輸入を規制する関税法も制定している。

ただし2024年1月には、労働省の調査で児童労働法違反が8州で見つかり、アメリカ国内で児童労働が急増していると報道された。これには労働力不足が背景にあるとされ、今後の対応も注目されている。

イギリス

児童労働問題が取り上げられたのは、イギリスで起きた産業革命がきっかけとされる。未熟練労働者として、子どもたちが劣悪な環境下の工場で長時間労働をさせられていたのだ。

これに対して、1833年という早い段階で工場法が制定され、子供の労働が制限されているが、就労年齢は9歳以上・労働時間は1日12時間以下など、今よりもはるかに緩い規制だった。その後、1870年に小学教育令が施行され、13歳以下の子どもには義務教育が行われることになり、児童労働の数が減り始めたとされる。

近年の大きな動きとしては、2016年に現代奴隷法を制定。企業に対して、奴隷労働や人身取引などに関与していないことを証明および報告することを義務付けており、児童労働の根絶に大きく貢献するとみられている。

ガーナ

ガーナ政府では国家計画として児童労働問題に取り組んでいる。代表的なのが「児童労働フリーゾーン制度(チャイルドレイバー・フリー・ゾーン、CLFZ)」で、2020年3月に発行したガイドラインに基づき、児童労働をなくす仕組みを構築した自治体やコミュニティを認定している。

認定される主な要件は、児童労働モニタリングなどで現状を把握しているほか、適正な学習環境が整えられていること、自治体で適切に支援していること、児童労働の割合が10%以下となっていること、などとなっている。

フィリピン

ILOの調査では、2011年の時点で210万人の子どもが違法な労働を行っていたとされるフィリピン。スラム街で育つ子どもも多く、ストリートチルドレンが社会問題化しているのも特徴だ。未成年者による売春などの犯罪行為も多く、これらの取り締まりを強化して被害者である子どもの保護にも注力している。

2017年には、児童労働の削減に向けて2022年までの5カ年計画を策定。児童労働の根幹は貧困家庭にあるとして、無料で医療が受けられるヘルスセンターの開設、無償で大学に通える制度なども設けている。また義務教育期間中に、働くことに関する実践的な教育も行っている。

日本の取り組み

日本では江戸時代から丁稚(でっち)制度という仕組みがあり、早ければ10歳になる前に商家などで住み込みで働く子どもが数多く見られた。その後、明治時代には工業化が進み、安い労働力として子どもが働かされるようになる。

本格的な法整備は昭和時代に入ってから進み、1933年に児童虐待防止法と少年救護法、1947年に児童福祉法などが制定された。現在は、日本国憲法、労働基準法、教育基本法、児童買春・児童ポルノ禁止法などで児童労働を禁止している。また、児童労働を未然に防ぐための貧困対策として、2014年には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行された。子どもの将来が生まれ育った環境に左右されないよう、貧困の解消に向けた取り組みが行われている。

児童労働のために私たちができること

世界中で行われている児童労働根絶に向けて、私たちが日常の中で始めやすいのはフェアトレード商品を選ぶことだ。フェアトレード商品とは「公平な貿易」で生産されたもののこと。児童労働などの安い労働力を前提に生産されたものではなく、企業と生産者の合意のもと労働に見合った賃金によって生産された商品、つまり適正な過程のもとで生産された商品と言える。このほか、児童労働問題に取り組んでいる関連団体や活動などへの寄付、ボランティアへの参加などもある。

また日本国内では稀なケースだが、例えば勤務先の工場で年齢を偽って働いている子どもがいることもある。こうしたケースを見たり聞いたりした場合は、児童労働に関わっている相談窓口への情報提供も有効だ。各自治体の労働相談窓口のほか、こども家庭庁、厚生労働省の窓口(総合労働相談コーナー)、児童労働問題を取り扱っている活動団体などが各地に設けられていることを頭の片隅に入れておくだけで、いざという際に適切に対応できるだろう。

まとめ

法整備が進んでいる日本など先進国内では、児童労働の事例を見聞きすることは稀かもしれない。しかし、世界に目を向けると、児童労働に従事する子どもは日本の総人口よりも多い1億6,000万人以上いると推計されている。特にアフリカのサハラ以南地域においては、多くの子どもたちが労働を余儀なくされているのだ。

私たちにとっては、遠い国の問題と感じてしまうだろうが、教育を充分に受けることなく働いている子どもたちが作った商品を日常的に使用している可能性は十分にある、例えば、コーヒーやカカオ、果物やコットン製品の生産過程では、児童労働が横行している。先進国の住民が何の悪気もなく購入するものの裏に、遠い国の子どもたちの理不尽な労働が隠されていることがあるのだ。そういった事実や可能性を透視できる力を養うことは、私たちができるせめてものアクションなのではないだろうか。

【参考記事】
厚生労働省「東南アジア地域にみる厚生労働施策の概要と最近の動向(フィリピン共和国)」
認定NPO法人ACE「企業とNGOの連携 カカオ産業の児童労働撤廃に向けた取り組み事例から学ぶ」

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