マイクロツーリズムとは?注目される理由や魅力・楽しみ方、星野リゾートなどの成功事例を紹介

マイクロツーリズムとは 

マイクロツーリズムとは「家から1〜2時間圏内で行ける地元や近場での観光」を意味する言葉である。海外や国内の遠方への旅行と比べると小規模であり「小さな旅」を表すことから、マイクロツーリズムと呼ばれる。この言葉はコロナウイルスが流行した2020年に、高級宿泊施設「星野リゾート」の社長である星野佳路氏により提唱された。

元々マイクロツーリズムは、コロナウイルスの感染拡大時に三密を避けて安全に旅行し、観光産業を盛り上げるための一時的な措置のような観光スタイルであった。それがアフターコロナの時代にも、言葉や考え方は継承され「近場の観光」は旅行の一つの形態として認知されるようになった。

マイクロツーリズムは「自宅から1〜2時間圏内の範囲を観光」「地域の魅力を再発見」「観光産業の雇用維持」をポイントとしている。気軽に旅行できつつ、地域経済にも貢献できるとして人気を博している。これは、サステナブルツーリズムの一形態ともいえる。

マイクロツーリズムが注目される理由 

マイクロツーリズムが注目を集める理由としては、アフターコロナにおける旅行ニーズの変化にある。2021年6月に観光庁が発表した「令和3年版観光白書」によると、マイクロツーリズムの人気が上がっている。2019年と2020年を比較すると、旅行先の県内宿泊者の割合が2019年7~12月は24.8%だったのに対し、2020年7~12月には31.8%に増加している。

また「令和4年版観光白書」においても、マイクロツーリズムのトレンドは続いており、2019年と2021年の「居住エリア別地域ブロック内の域内旅行者割合」では、すべての地域において、2021年の方が居住するエリア内で旅行する人の割合が増加している。

コロナ禍を通じて、公共交通機関を使わないドライブでの旅行や、キャンプやグランピングの需要が高まるなどの旅行スタイルの変化が生まれた。このように、従来の旅行のイメージがアップデートされたことから、マイクロツーリズムという新しい旅行スタイルへの注目も高まっているのだ。

マイクロツーリズムの魅力

マイクロツーリズムの魅力

マイクロツーリズムには以下3点のような魅力がある。

自由度の高い旅ができる 

マイクロツーリズムでは、移動に時間がかからず荷物も多くないため、自由度の高い旅ができる。遠方や海外への旅行の場合、移動だけで半日~数日かかってしまうため、時間に制限がある人にとっては大きな負担となったり、滞在先での時間が少なくなってしまう。しかし、マイクロツーリズムであれば移動時間が少ないことから、渋滞や遅れのリスクも減り、現地での自由時間が増える。さらに、荷物も少ないことから身軽に旅ができるのも魅力的だ。

地域の新たな魅力を発見できる 

これまでは近すぎて行かなかった場所へあえて訪れることで、地域の新たな魅力を発見できる。実際に足を運んでみると、歴史ある公園や、地元ならではの郷土料理を提供するレストランなど、その地域ならではの魅力を持つスポットは多い。このように、近場観光を通じて地域の新たな魅力を発見することは、将来的なリピートを生み出すきっかけにもなるのだ。

地域交流ができる 

マイクロツーリズムであれば、何度も足を運ぶことで地域交流ができる魅力もある。旅行先が遠い場合、再訪問するには入念な計画を立てて行く必要がある。しかし、近場であれば、気に入ったお店や宿に何回でも気軽に足を運べる。お気に入りの場所を見つけて常連になることで、地域の人々との交流が生まれるのだ。さらに、地域の人々から地元ならではの情報やおすすめスポットを教えてもらえることもあるため、旅行をより充実させられるメリットもある。

地域の観光産業に貢献できる

マイクロツーリズムにて地域の店や宿を利用することで、観光産業に貢献できる。有名な観光地ではない場合、旅行客が減少し、観光産業が衰退している場合もある。マイクロツーリズムにより、地域の特産品を購入したり旅館に泊まったりすることで、地域産業に直接貢献できるのだ。また、地域の魅力を知人やSNSに共有することで、交流人口(地域に訪れる人々)を増やすことも可能だ。

マイクロツーリズムの楽しみ方 

ここでは、マイクロツーリズムにてどのように過ごせばよいか悩んでいる方へおすすめの楽しみ方を紹介する。

地元の店で買い物をする 

普段は立ち寄らないような地元の店に行き、その土地ならではのお土産を買うのはどうだろうか。たとえば、地域の商店街や市場に行くと、ご当地食材が売られている場合も多い。ほかでは手に入らないような魅力的なお土産を見つけられるため、購入することで特別な旅の思い出となる。また、地域の特産品を買うことは、その地域の経済の活性化にもつなげられる。

ご当地グルメを味わう 

旅行の醍醐味の一つが食事であると考える人もいるだろう。マイクロツーリズムでは、あえて食べたことのない郷土料理を食べたり、地元の名店を訪れたりするのがおすすめだ。最近はSNSや口コミサイトにて、地域ごとのおすすめ店が紹介されていることが多い。しかし、あえて自分たちで選んだ穴場の店に入ることで、新たな発見ができる可能性もある。

宿泊施設でゆったりと過ごす 

マイクロツーリズムでは、宿泊施設にてゆったり過ごすのもおすすめだ。旅行といえば観光というイメージもあるが、近場で何度も足を運べる距離だからこそあえて観光をしない選択もある。施設によっては貸切温泉や部屋食などプライベートを重視した過ごし方もできる。自宅の近くであっても宿泊施設を利用すれば、非日常的な時間を作りだせるだろう。

車や自転車、バイクで移動する 

旅行の際は公共交通機関を利用するのではなく、車や自転車、バイクなどで移動するのも良いだろう。そうすることでほかの人との接触が減り、プライベート空間を楽しめるのだ。また、普段公共交通機関を使っている人であれば、自動車や自転車を利用することで、新鮮な景色を楽しみながら旅行できるメリットもある。

マイクロツーリズムの成功事例 

出典:星野リゾート

ここからは、マイクロツーリズムの成功事例を3つ紹介する。この概念の提唱元である星野リゾートだけでなく、多くの自治体や事業者がマイクロツーリズムに関する取り組みに注目し実践している。

星野リゾート 

マイクロツーリズムの発端である星野リゾートでは、2020年5月の新型コロナによる緊急事態宣言の終了後にマイクロツーリズムの展開を開始した。コロナ感染拡大阻止のため、従来のサービス内容を変更し、地元の人々に向けた滞在プランを立てた。京都府にある「星のや京都」では、京文化に触れるプランの展開を進めたところ、これまでは1割以下であった近畿エリアの利用客が3割に増えた。また、静岡県の「界 遠州」では、静岡ならではのお茶ぶろや茶畑を滞在シーンに組み入れるプランを提案した結果、約6割が中部地方の顧客となった。これは地方ごとの魅力を基にしたプラン作成にて成功した事例である。

#WeLove鳥取キャンペーン 

鳥取県では地元の観光を盛り上げるために、県民を対象に県内のホテルや観光地を利用する費用が一部割引になる「#WeLove鳥取キャンペーン」を開催した。割引だけでなく、キャンペーンの利用者がSNSで「#WeLove鳥取」をつけて投稿すると、抽選で豪華賞品が当たる仕組みも導入した。この仕組みにより、SNS上で県民同士が観光スポットを紹介しあうようになったという。

キャンペーンでは、鳥取県内237か所の観光スポットが登録事業者となり、県民の15%が利用する結果となった。これは県内の観光業界における需要回復に大きな効果を生み出した、マイクロツーリズムの成功事例である。

焼津さかなセンター 

静岡県にある海の幸の卸売市場「焼津さかなセンター」では、さかなセンターを「焼津の魅力を感じられる場所」として観光ハブ化することを目指し、焼津さかなセンター発着の新しいコンテンツをつくりだした。地域の住民を対象に水陸両用バスや漁船乗船イベントなどを立案し、新聞折り込み広告やWeb広告にて宣伝した結果、幅広い年代の参加者が集まり、そのうちの7割が市内在住者となった。コロナで県外に出られないからこそ地元の魅力を再発見してもらおうと始まった企画は、狙い通り地元の人々にとって満足度のあるイベントとして成功を収めた。

まとめ 

これまで旅行に対するイメージといえば、「大荷物」「遠方」「大きな出費」などがメジャーだったかもしれない。そして、有名観光地を訪ることこそが、旅行の王道として多くの人に認識されていたはずだ。

しかし、コロナ対策の一環として提唱されたマイクロツーリズムという新しい概念は、近場のまちを訪れることやホテルに滞在することだけでも、充実した旅行になるということを示してくれた。マイクロツーリズムは、旅をより身近にしただけでなく、地域経済や観光業界の繁栄にも大きく貢献している。

そして、「旅」とはなにか、ということを改めて考えるきっかけにもなるかもしれない。どこに行くか、何を見るかだけでなく、非日常を感じること自体が「旅をすること」だと、マイクロツーリズムの実践によって感じることができそうだ。

【参考記事】
星野リゾートの「マイクロツーリズム」|星野リゾート
~Withコロナ期の新たな旅の提案、取り組み実績を報告します~|星野リゾート
with/afterコロナ期における滞在コンテンツ造成のためのナレッジ集|観光庁
ポスト・コロナ時代における新たな観光形態模索の展開|大阪公立大学
旅行者から見たマイクロツーリズムによる有効性の検討|高知工科大学
アフターコロナを見据えた観光地・観光産業の再生に向けて|観光庁
令和4年版観光白書について|観光庁
新型コロナウイルス感染症を踏まえた観光の新たな展開|観光庁

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