ドーナツ化現象とは?原因や対策、日本や世界の取り組み事例をご紹介

ドーナツ化現象とは

ドーナツ化現象とは、都市中心部の人口や機能が減少し、周辺部に移動することで、中心部が空洞化する現象を指す。この現象は主に大都市圏で見られ、中心部の住宅価格の高騰や生活環境の悪化が原因で、居住者が郊外へ移住することで起こる。

特にアメリカのデトロイトやクリーブランドなどの都市では、かつてドーナツ化現象が深刻となっていた。中心部の衰退は「インナーシティー問題」としても知られ、犯罪の増加や経済的な停滞を引き起こす。

ドーナツ化現象の特徴は、単に中心部が衰退するだけでなく、その周辺部が発展するという点にある。つまり、中心部の機能が周辺部に移転し、新たな住宅地や商業施設が形成されることで、都市の構造自体が変化するのだ。これにより、都市の外観がドーナツのように中心が空洞で周囲が充実した形状を呈するため、この名が付けられている。

一方で、21世紀に入り都心回帰の動きも見られる。これは、住環境の改善や交通の利便性を求める若者や高齢者が再び都心へと戻り始めたことに起因する。しかし、この都心回帰がドーナツ化現象を完全に解消するには至っておらず、多くの都市でこの問題は依然として続いているのが現状だ。

空洞化現象との違い

ドーナツ化現象とは、都市中心部の人口や機能が郊外へ移動し、中心部が衰退することを指す。これに対し「空洞化現象」は、特定の産業が衰退または海外移転することで、地域経済が全体として疲弊する現象を表す。

ドーナツ化は地理的な人口分布の変化に注目するのに対し、空洞化は産業の構造変化に焦点を当てる点で異なる。産業の空洞化は、ドーナツ化現象を加速させる要因の一つともなり得る。

ストロー化現象との違い

ストロー化現象は、中心部と郊外を結ぶ交通網の発達により、人や資本が都市の一部に集中し、他が衰退することを指す。ドーナツ化は「空洞化」に焦点を当て、ストロー化は「偏在化」に注目した概念であると言える。

両者は都市の変化を示す現象でありながら、その形成過程と結果の形態において明確な違いがある。

逆ドーナツ化現象とは

逆ドーナツ化現象とは、都市の中心部に人口や機能が再集約する動きを指す。これは、かつてのドーナツ化現象がもたらした郊外への人口流出とは対照的な現象である。

都市中心部の再開発や住環境の改善、交通アクセスの向上などが背景にあり、活気ある都市生活を求める人々が中心部へと戻り始めている。しかし、この現象には問題点も存在する。中心部の地価上昇による住宅コストの増加、過密化に伴う生活環境の悪化、地域コミュニティの希薄化など、新たな課題が浮かび上がっているのである。

逆ドーナツ化が進む中で、これらの問題にどう対処していくかが、今後の都市計画における重要なポイントとなるだろう。

原因|ドーナツ化現象はなぜ進むのか

ドーナツ化現象の原因

ドーナツ化現象が進む原因は以下のように多岐にわたる。

●都市中心部の土地や住居費の高騰
経済活動が集中する都市の中心部では、オフィスや商業施設の拡大に伴い、住宅スペースが限られ、それが住居費の上昇を招いている。この結果、中間層以下の住民が郊外へと住まいを求める傾向が強まる。

都市部の住環境の悪化
排出ガスや騒音問題は、都市中心部の生活の質を低下させる。特に子育て世代にとっては、安全で快適な環境を求める傾向が強く、これが郊外への移住を後押ししている。

自動車社会の進展
郊外に住むことで、広い敷地に建つ自宅と車を所有するライフスタイルが実現しやすくなる。通勤や買い物などの日常生活においても、自動車の利便性が高まることで、都心から離れた地域への居住が現実的な選択肢となる。

郊外での設備の充実
ショッピングモールやレジャー施設、教育機関などが郊外に整備されることで、都心に住む必要性が薄れる。生活の利便性が向上し、かつ広い空間を享受できる郊外は、多くの人々にとって魅力的な選択肢となっている。

これらの要因が複合的に作用し、都市中心部の人口が減少し、周辺部に人口が集中するドーナツ化現象が進行しているのである。

ドーナツ化現象が引き起こす問題

ドーナツ化現象が引き起こす問題

都市の外側への人口流出が進むドーナツ化現象。その背後には、都市機能の変化や住環境の選好の変動がある。しかし、この現象は一見すると単なる人口の移動に過ぎないように思えるが、実は多くの問題を引き起こしているのだ。

スプロール現象

ドーナツ化現象の直接的な結果として、「スプロール現象」が挙げられる。これは、都市機能が無秩序に郊外へ拡散することで、広大な土地が低密度で利用される状態を指す。

この結果、農地や自然環境が犠牲になり、生態系のバランスが崩れることが懸念される。また。公共交通の利便性が低下し、車に依存した生活が強いられるようになるのだ。さらに、広範囲にわたるインフラ整備が必要となり、都市の持続可能性にも影響を及ぼす。

スプロール現象は、環境への負荷増大や、生活の質の低下を招く可能性があり、都市計画上の大きな課題となっている。

ゴーストタウン化

人口が郊外へ移動することで、中心部の住宅や商業施設が空き家や空き店舗となり、かつて賑わいを見せていた地域がゴーストタウン化する問題が生じる。

これにより、地域経済が衰退し、治安の悪化や地価の下落を招く。商業施設や住宅が空き、街の活気が失われることで、地域経済が衰退し、治安の悪化にも繋がりかねない。

また、不動産価値の低下は、地域住民の資産価値にも影響を与える。都市の魅力が失われることで、新たな人材や投資が遠のくという負のスパイラルに陥る恐れもあるのだ。ゴーストタウン化は、都市の活力を維持するためにも、早急に対策を講じる必要がある。

通勤・通学電車や道路の混雑

ドーナツ化現象により、都心への通勤・通学者が郊外から集中することで、電車や道路の混雑が悪化する。特に朝夕のラッシュアワーの混雑は、事故のリスクを高めるだけでなく、ストレスの増大や生産性の低下を引き起こし、社会全体の効率性に影響を及ぼす。

また、交通渋滞による環境負荷の増大も問題であり、交通インフラの整備や公共交通の利便性向上が求められる。

地方自治体のコスト増加

人口が郊外に流出することで、地方自治体は新たな住宅地の開発や公共サービスの提供に追われる。これにより、自治体の財政負担が増大し、経済的な圧迫を受けることになる。

新たな住宅地の開発に伴い、道路や下水道などのインフラ整備が必要となり、その維持管理にも多大な費用がかかるのだ。

さらに、人口密度が低下することで、一人当たりのインフラ維持コストが増加し、地方自治体の財政状況を一層厳しくする。公共サービスの提供範囲が拡大することで、効率的なサービス提供が困難になることもあるだろう。

都心部での老年人口比率増加

若年層や子育て世代が郊外へ移住することで、都心部には高齢者が残りやすくなる。これにより、都心部の老年人口比率が増加し、医療や介護などの社会福祉サービスへの需要が高まる。

高齢化が進むことは、地域コミュニティの活力低下や世代間のバランスの崩れを招き、都市の持続可能性に影響を与える。高齢者の孤立化や地域コミュニティの衰退も懸念されるところだ。

ドーナツ化現象への対策

ドーナツ化現象の問題に立ち向かうための対策は多岐にわたる。ここでは、その具体的な手法を探る。

コンパクトシティ・スマートシティ

コンパクトシティとは、都市機能を集約し、効率的な都市運営を目指す都市計画の概念である。住宅・職場・商業施設が近接し、公共交通の利便性が高い環境を作ることで、自動車依存を減らし、環境負荷を低減する。

またスマートシティは、ICT(情報通信技術)を活用して都市機能を最適化し、住民の生活の質を向上させる試みだ。エネルギー管理や交通システムの効率化などが含まれる。

こうしたコンパクトシティやスマートシティへの取り組みは、世界各地で実施されており、中心市街地の活性化とドーナツ化現象の緩和が期待されている。

自治体による中心市街地への移住促進

自治体は、中心市街地への移住を促進するために、さまざまな施策を展開している。住宅の補助金制度・起業支援・子育て支援など、移住者が生活しやすい環境を整えることで、人口流出を食い止める努力をしているのだ。

また、地域の特色を活かしたイベントの開催や、地域資源を生かした産業の振興も、移住促進には欠かせない要素である。

都心・郊外で増える空き家の有効活用

空き家問題は、ドーナツ化現象の一因でもあり、その結果でもある。これらの空き家を有効活用することで、都心部の再活性化を図ることが期待される。

例えば、空き家をリノベーションして住宅やオフィス、カフェなどの商業施設として再利用することで、地域に新たな魅力をもたらす。また、コミュニティスペースとして活用し、地域住民の交流の場を提供することも、コミュニティの活性化に貢献する。

空き家の問題には、自治体や地域住民、企業が協力して取り組むことが重要である。

日本の取り組み事例

日本においても、コンパクトシティやスマートシティの構想を掲げる都市が増えてきている。ここでは、代表的な3つの事例を紹介する。

東京都多摩市

東京都多摩市では、ドーナツ化現象に対する独自の取り組みが行われている。多摩市はスマートシティ構想を推進し、ICTを活用したまちづくりを行っているのだ。

具体的には、公共交通の利便性向上や、住民の健康管理をサポートするシステムの導入が挙げられる。また、多摩ニュータウンを中心に、住宅地と商業施設が一体となったコンパクトな都市開発を進めており、居住者が生活圏内で必要なサービスを受けられる環境を整備している。

富山県富山市

富山県富山市は、コンパクトシティモデルの先進例として知られている。富山市は中心市街地の活性化を目指し、公共交通機関の充実に力を入れている。

例えば、富山ライトレールや路面電車の整備により、市民の移動手段を多様化し、利便性を高めている。さらに、市中心部に住宅や商業施設、公共施設を集約することで、歩いて生活できる範囲を拡大し、ドーナツ化現象の逆流を促している。

この取り組みは、持続可能な都市開発のモデルとしても注目されている。

大分県大分市

大分県大分市では、ドーナツ化現象に対応するため、スマートシティ構想を掲げている。この構想の中で、市はエネルギーの効率化やICTを利用した都市機能の最適化を目指している。

例えば、再生可能エネルギーの導入拡大や、スマートグリッドの構築により、エネルギーの自給自足を図っている。また、市民の生活利便性を高めるために、公共交通の整備や、生活必需施設へのアクセス向上に取り組んでおり、コンパクトな都市構造の実現を目指している。

世界の取り組み事例

コペンハーゲン

ドーナツ化現象に対する取り組みは、世界各地でさまざまな広がりを見せている。ここでは、アメリカ、ドイツ、デンマークの3つの事例を通じて、その戦略を探る。

アメリカ・ポートランド

アメリカ合衆国オレゴン州のポートランドは、ドーナツ化現象への対策として、都市のコンパクト化を推進している。都市計画において、公共交通機関の利便性を高め、自転車や徒歩での移動を容易にすることで、市民が中心部に留まるよう促しているのだ。また、都市の緑化を進めることで、住環境の質を向上させ、郊外への移住を抑制している。

ポートランドは、1979年に都市部と農地・森林などの郊外を区切る「都市成長境界線」を導入した。都市の境界線を設けることで、無秩序な郊外の拡大を防ぎ、中心部の活性化に成功している。

このような取り組みは、持続可能な都市開発のモデルとして、他の都市にも影響を与えている。

ドイツ・フライブルク

ドイツのフライブルクは、エコロジカルな都市開発によってドーナツ化現象に対応している。

特に、ヴォーバン地区は持続可能な住宅開発の先進例として知られ、自動車の利用を制限し、公共交通と自転車の利用を奨励している。また、住宅は高いエネルギー効率を持ち、再生可能エネルギーの利用が推進されている。

フライブルク市は、緑豊かな公園や共有スペースを設けることで、コミュニティの結束を強化し、市民が中心部で生活する魅力を高めている。この取り組みにより、フライブルクは環境に優しい都市モデルとして国際的な評価を受けている。

デンマーク・コペンハーゲン

デンマークの首都コペンハーゲンでは、ドーナツ化現象に対する対策として、「自転車都市」としての地位を確立することに注力している。

市内には広範囲にわたる自転車専用道路が整備されており、市民の自転車利用を促進している。また、公共交通の充実や、市中心部の歩行者優先区域の拡大により、都市の利便性と住みやすさを向上させている。

さらに、海岸線の再開発を通じて、住宅・オフィス・レクリエーション施設を組み合わせた複合的な都市空間を創出し、都市の魅力を高めている。コペンハーゲンのこれらの取り組みは、持続可能な都市生活の実現に向けた模範とされている。

まとめ

ドーナツ化現象は、都市中心部の人口が減少し、周辺部に人が移動することで生じる社会現象である。この背景には、住宅価格の高騰や生活環境の変化、そして交通網の発達などが挙げられる。

世界各国では、ドーナツ化現象への対策として、都心の再活性化や公共交通の充実、地方の魅力向上など多岐にわたる取り組みが行われている。日本においても、地域ごとの特性を活かした施策が模索されており、これからの展開が期待される。

コロナ禍を経て、テレワークの普及が加速し、都心から郊外への移住が一層進んだことは注目に値する。今後、この流れはさらに強まる可能性が高く、都市計画や地方創生においても新たな動きが求められている。

これからは持続可能な社会構造への転換が重要であり、都市と郊外が相互に支え合うバランスの取れた発展が理想的だ。

参考記事
ドーナツ化現象とは?引き起こす問題と対策方法|ジチタイムズ

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