マイクロプラスチックとは?環境や人体への影響、世界と日本の対策・取り組みを紹介

マイクロプラスチックとは

マイクロプラスチックとは、私たちの生活から出たプラスチックごみが、生活排水として流れ出たり、風や雨によって川や海に流出して小さな破片となったもののことを指す。

人工化合物であるプラスチックは容易に分解されないため、自然界に還ることなく海流に乗って世界の海を侵食することから、近年世界中で最も解決が急務となっている問題の一つだ。

サイズの違いで、5mm以下のプラスチックの破片を「マイクロプラスチック」、細かい砂粒のように0.001mm〜0.1mmの肉眼では見えない粒子を「マイクロビーズ」と分類することができる。またマイクロプラスチックになる工程の違いで、下記2種類に分けられる。

1次的マイクロプラスチック

微小な粒子サイズに製造されたプラスチックを「1次的マイクロプラスチック」といい、化粧品や洗剤、歯磨き粉等のスクラブ剤に利用されているマイクロビーズがこれにあたる。マイクロビーズは、私たちが気付かないうちに生活排水として大量に海に流出している。

2016年に日本化粧品工業連合会は、会員企業の1,100社にマイクロビーズの使用の自粛を呼びかけ、日本国内においては現在製造で使用されていない。しかし、洗濯や洗い物の際にも、プラスチック製の合成繊維を使用した衣類やスポンジから流れ出てしまうため、家庭からマイクロビーズの流出をなくすことは難しい。これらは、下水処理場でろ過装置やフィルターをすり抜けてしまうため回収することも困難である。

2次的マイクロプラスチック

大きなサイズに製造されたプラスチックが、紫外線や風雨によって劣化し細かく破砕されたものを「2次的マイクロプラスチック」という。レジ袋や発泡スチロール、ペットボトル等のプラスチック製品が、ポイ捨てや不法投棄によって風に飛ばされ海に流れ込むことで発生する。他にもタイヤの摩耗や海で利用する漁具等から意図せず流れ出てしまうものもある。

マイクロプラスチックの危険性

プラスチックの危険性

マイクロプラスチックは、海の環境や人体へ多大な影響を与えることが、多くの調査や研究から明らかになっている。

海の環境への影響

小さくて軽いマイクロプラスチックは、海の広範囲に広がり、海の生物多様性や海洋生物の健康に甚大な影響を及ぼしている。

海洋プラスチックごみによって魚類、海鳥、アザラシなどの海洋哺乳動物、ウミガメを含む約700種以上もの生物が被害に遭っているとされており、海の生物がエサと誤認してマイクロプラスチックを食べてしまうことで、摂食障害や機能障害などを起こして死に至るケースも報告されている。

2019年フィリピン沿岸に打ち上げられたクジラの死骸からは40kgものビニール袋が発見された。海中で漂うビニール袋はクジラのエサとなるイカ、タコ、クラゲによく似ているため、誤食してしまうことが原因とされる。さらに体内に取り込んだプラスチックを消化できず空腹を感じないため、エサを食べずに飢餓状態に陥ることで命を落としてしまう。

またプラスチックの鋭利な部分が体内を傷つけ消化不良や内臓機能の低下を引き起こし、誤食により繁殖率の低下を引き起こす可能性も報告されている。マイクロプラスチックを摂取したプランクトンを小魚が食べ、中型の魚、大型の魚へと食物連鎖を通じて、有害化学物質が上位の生物の体内に蓄積し、生物濃縮を起こす可能性も考えられる。

他にも、マイクロプラスチックは、PCB、ダイオキシン、DDTなど、残留性有機汚染物質(POPs)と呼ばれる海中の有害化学物質を取り込みやすいだけでなく、プラスチック自体にもPBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)といった添加剤が含まれており、添加剤が流出することで海洋汚染にもつながる。

人体への影響

環境の問題だけではなく、人体にもマイクロプラスチックの危険性は関係する。人間がマイクロプラスチックを体内に取り入れてしまったとしても、プラスチック自体は排泄されるが、有害化学物質(POPs)は体内に蓄積される可能性があり、ガンの発生や免疫力低下を引き起こすと考えられている。またプラスチックの環境ホルモン作用がある物質が人体の生殖能力の低下等に作用する可能性も懸念されている。

現状、人間にマイクロプラスチックを原因とする疾病が発生したことは証明されていない。しかし、2019年にオーストラリアで行われた研究によると、人間が1週間にクレジットカード1枚分に相当するマイクロプラスチック粒子を摂取している可能性が明らかにされた。また、オランダで行われた研究では、22人の血液を調べたところ、17人の血液からマイクロプラスチックが検出されたとの報告がされていることから、今後長期的にみて人体の健康へのリスクは否定できない。

マイクロプラスチック問題の現状

2016年にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムにて、2050年には海洋プラスチックごみは魚の量を上回るという予測が発表された。

WWFジャパンによると、世界の海洋プラスチックごみは、合計で1億5,000万トンとも言われ、さらに年間で800万トンにも及ぶ大量のプラスチックごみが新たに発生し続けている。

2019年、COVID-19(新型コロナウイルス)感染症拡大の影響により、パーティションやフィルター、マスクといった個人防護具、食品の個別包装などに使い捨てのプラスチックが大量に生産され廃棄されることになったことで、世界中でプラスチック使用量がさらに増大した。

出典:環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」

環境省が公開した「海洋プラスチックの密度分布地図」を見ると、海洋プラスチックによる海洋汚染は地球規模で広がっていることが一目瞭然だ。また北極や南極でもマイクロプラスチックが観測されたとの報告もあり、確実に世界中の海がマイクロプラスチックに浸食されている現状を読み取ることができる。

プラスチックごみによる経済損失も深刻だ。アジア太平洋地域のプラスチックごみによる経済損失は、漁業・養殖業で年間3.6億ドル、観光業では年間6.2億ドルほどにものぼる。この原因として、水産物に付着した海洋プラスチックごみの検品・除去作業のコスト増加、水産物の生育状態への悪影響による漁獲量の減少、景観を損なうことによる観光客の減少などが挙げられる。

国内外のプラスチックごみ対策

出典:環境金融研究機構

深刻化するプラスチックごみ問題に対して、国内外においてさまざまな動きがでてきている。

国際的な動き

G7「海洋プラスチック憲章」の採択

2018年のG7シャルルボワ・サミットにおいて、2030年までの数値目標と共に使い捨てプラスチックの削減を推進するという内容の「海洋プラスチック憲章」を採択し、日本と米国を除くカナダ・フランス・ドイツ・イタリア・英国の5ヵ国が署名した。

日本が署名しなかった理由として、政府はプラスチックごみの削減には賛成するものの、「国内法が整備されておらず、社会に影響を与える程度が不透明なため署名できなかった」と説明している。

G20「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を採択

2019年G20大阪サミットにて、海洋プラスチック問題が議論され、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにする目標を導入するという内容の「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が採択された。

この中で、廃棄物の管理、海洋ごみの回収および改革を推進するために、途上国における能力強化を支援していく行動計画を発表。日本は国内の先進的取り組みや技術を、海外に展開することを約束した。

具体的には、プラスチック製品の使用抑制と環境への流出の削減、海洋生分解性プラスチックや紙等の開発や代替素材への転換などの技術革新、世界的に海洋プラスチック対策を進めていくための実態把握や科学的知見を充実させることなどが盛り込まれている。

各国の対策

世界では使い捨てプラスチックへの規制が進み、有料化、課税だけでなく使用禁止や罰則など厳しい措置が取られている国もある。

EU諸国では、プラスチック製の容器包装をスムーズにリサイクルできるための基準やガイドラインを設定。オランダ、フランス、デンマーク、アイルランド、イタリア、スウェーデンなどの国においては、マイクロプラスチックを含む化粧品等の販売を禁止している。

また、アフリカ大陸諸国の半数以上がすでにプラスチックに関する規制を導入。不法投棄によるゴミの山から製品や素材をリサイクルする技術ではなく、リデュースに重きを置いた法整備が進んだことで、世界的に見ても脱プラスチック先進地域となっている。

日本の対策

環境省|「プラスチック資源循環戦略」を策定

2019年に、環境省がプラスチック資源循環戦略を策定し、2030年までに使い捨てプラスチックを累積25%排出規制することや、2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクルすること、2030年までに再生利用を倍増するなどの指針が示された。

また、2022年には「プラスチック新法」が施行され、設計から再利用までの全てのプロセスで資源を循環させるサーキュラーエコノミーの考えをベースとした施策が示された。具体的には、製造業者の環境配慮設計の策定と認定制度の設置、使い捨てプラスチックの抑制及びストローやスプーン類などの有料化、市町村の分別回収について再商品化を促す仕組みの構築、製造・販売業者等による自主回収の制度化などが盛り込まれた。

日本のプラスチックリサイクル事情

2013年の日本のプラスチックリサイクルの現状は、マテリアル・ケミカルリサイクルが25%、サーマルサイクルが57%、未利用が18%となっている。現状、最も大きな割合を占めるサーマルリサイクルは国際的な視点に立つと、リサイクルとは認識されておらず、ペットボトルから再度ペットボトルを生産する「ボトルtoボトル」などのマテリアルリサイクルや高度な技術を要するケミカルリサイクルなどを推進しようとする動きも出てきている。

個人でできる取り組み

地球規模の問題であるマイクロプラスチック問題に対して、政府などの大きな組織だけでなく、個人が取り組むべきことも多い。

マイクロプラスチックを知る

まずは、書籍や映画などからマイクロプラスチックについて学ぶことが重要だ。2021年に公開された映画「マイクロプラスチック・ストーリー ぼくらが作る2050年」は、プラスチックごみによる環境汚染問題を学んだ、ニューヨークの小学5年生たちを追ったドキュメンタリーである。彼らの視点で問題の根幹から考え、行動するまでの2年間を追う。子供も大人も関係なくこの問題に取り組めることを知り、自分には何ができるのか考えるきっかけになるだろう。

またマイクロプラスチックを目に見える形でアート作品にして啓発活動したり、マイクロプラスチックで作られたアクセサリーを販売することで、当事者意識を持たせる取り組みもある。

マイクロプラスチックを減らす

生活の中にあるプラスチックを減らす手段は無限に考えられる。シンプルに自分の手元に来る前にシャットアウトするのも有効だ。例えば、マイバッグやマイボトルを持参することでレジ袋や使い捨て包装容器の使用を見直す、包材の少ない商品を選ぶ、また衣類や雑貨品にもプラスチックが使われていることが多いため、多少コストがかかっても環境に配慮した商品を選ぶなど、あらゆる行動が検討できる。

マイクロプラスチックを流出させない

廃棄されたプラスチックを資源として再利用できるループに戻すことで、プラスチックの海への流出を防ぎ、新たなマイクロプラスチックの発生を抑えることができる。つまり、自治体のルールに従って、プラスチックごみを正しく分別するだけでもマイクロプラスチック問題に貢献できるということだ。

まとめ

マイクロプラスチックは地球規模の問題であり、世界中の政府が「脱プラスチック」を政策に取り入れ、法整備を整えているが、最善の効果を発揮するためには、一人ひとりができる”小さな”取り組みも同時に行うことが大切だ。

身近にあるプラスチック製品を意識的に見て、どうしたら減らせるのか、持続可能なものに置き換えることはできるか暮らしを見つめ直すことからはじめてみてはいかがだろうか。

【参考記事】
プラスチックを取り巻く国内外の状況|環境省
世界で一番「エコ」な大陸か?(アフリカ)|独立行政法人日本貿易振興機構
体内へのプラスチック摂取、1週間にクレジットカード1枚分 研究結果|AFP BBnews
プラスチック資源循環戦略|環境省
欧州プラスチック戦略について|経済産業省
海洋プラスチックごみに関する状況|環境省
海洋プラスチック問題について|WWFジャパン
Discovery and quantification of plastic particle pollution in human blood|Vrije Universiteit Amsterdam
「マイクロプラスチック・ストーリー ぼくらが作る2050年」

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